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オニになる  作者: 明神啓太
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怪文書

「もうやだ! 何なの!」

 最初に見つけたのは、妹だった。宛先も送り主の名前もない、安っぽい茶封筒。中にはノートの切れっ端が入っていて、汚い字でこう書かれていた。


『一 、 夜になると、音楽室に飾られたベートーベンの肖像画の目が光る』


 この前教えたから覚えてるよな? そう、この学校の七不思議のひとつさ。


 意味が分からなかったよ。この行為に何か意味があるんだろうか? アイツは一体何をしたいんだ? 俺たちを怖がらせて楽しもうとしているのか? 乱れた文字から底知れない闇を感じて、兄妹は背筋が寒くなった。


 怪文書は、その翌日からも兄妹の家のポストに投函された。


『二 、誰もいない音楽室からピアノの音がする。弾いているのは以前自殺した女生徒』


 ーーーふざけるな。


『三 、旧校舎の東階段は、下るときは十二段なのに、上るときは十三段になる。上りながら数えてしまった場合、見えない手に押されて階段から落ちる』


 ーーーやめろ。


『四、生物室の人体模型は、夜になると踊り出す』


 ーーーやめろ!


『五、午前2時にトイレの鏡を見ると、自分が死ぬときの顔が映る』


 ーーーーやめてくれ!


『六、職員玄関にある公衆電話で4444にかけると死ぬ』


 ーーー俺たちが何をしたっていうんだ!


 6日間に渡る攻撃は、兄妹の正気を削るに十分だった。

 妹は貧血で倒れ、運ばれた病院での言動があまりにも支離滅裂だったため、そのまま入院することになった。


 ーーー殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 ーーーアイツを殺してやる。


 兄はもう、それしか考えられなくなっていた。



 妹が入院した翌日、ひとりで学校から帰ってきた兄は、家の中の様子に違和感を覚えた。

 神経質な性格ではない。どちらかといえば、大雑把。服を脱ぎっぱなしにしたりして「お兄ちゃん、だらしない!」と妹に怒られることが多いくらいだ。

 でも、見慣れた自分たちの家だから分かるんだ。ーーー朝出かける前に見たのと、物の位置が微妙に違っている。


 恐怖より、怒りより、「いいかげんにしてくれ!」という思いが先に立つ。鬱屈した気持ちを叩きつけるように握りしめた拳をテーブルに叩きつけると、ヒラヒラと何かが落ちた。この6日間で見慣れてしまった、あの茶封筒だった。


 七不思議の七つ目を知ると、不幸になる。怪異が起きる。そんな伝承を思い出す。が、俺はどうしても開けなければならない。見なければならない。なぜかそんな気がする。よく分からない義務感のようなものに突き動かされ、兄は茶封筒から便箋を取り出した。


 便箋は三枚あった。


 一枚目には七不思議の最後のひとつが書かれていたが、兄は思わす眉をひそめてしまう。これが七不思議? これはただのルールだ《・・・・・・・・・》。間違いなく、小学生でも知っているような。いや、幼稚園児でも知っているだろう。

 しかし、もはやそんなものはどうでもよかった。二枚目に『これで終わりだ。午前二時、○○高校の校庭で待つ。鬼より』という文面があったからだ。


 興奮を抑えることが出来なかった。身体の奥から溢れてくるどす黒い熱情で、手足に力が入りすぎて、逆にうまく動かせない。歓喜に震える、とはこういう状態を指すのだろう。


 ーーー殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる。

 ーーーアイツを殺せる!


 そんな精神状態だったから、兄は気づかなかった。三枚目に書かれていた『俺がオニだ。次はお前だ』という意味に。もう少し兄が冷静で、この文書と七不思議の最後のひとつとを照らし合わせて考えていればーーーきっと、大事なものをなくさずに済んだのだろう。


 だが、兄は気づかなかった。冷静ではなかった。アイツは自分で鬼だと名乗ったが、兄もまた、鬼になっていたのだ。



 午前一時半。フーッと息を整え、兄は金属バットを握る。野球部OBの従兄弟からのお下がりだが、殺傷能力は申し分ない。途中で警察に職質をかけられてもかまわない。邪魔する奴は、全員殺してやるつもりだった。

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 態度が急変した恋人に、突然別れを告げられたことはありませんか?  信じていた友だちに、あり得ない裏切りをされたことはないですか?  あなたの隣にいる人は、本当に昨日と同一人物なのでしょうか?  ひょっとすると、もしかして……。 夏のホラー2015参加作品です。暑過ぎる夏、少しでも涼しくなってもらえたら。
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