現れたアイツ
ある街に、高校生の兄妹が住んでいたんだ。両親は早くに亡くなって、二人暮らし。裕福とは言えなかったが持ち家が残っていたし、そこそこの遺産もあったから、生活はそれなりにやっていけてた。
兄貴は学校でも評判のイケメンで、妹は隣町の学校でも噂になるくらいの美少女だった。兄のほうは何人かと付き合ったりしていたが、妹はいろんな男から告白されても、一度もOKすることはなかったそうだ。「身近にあんなイケメンがいるから、理想が高くなってるんじゃない?」なんて、周りの女子はやっかみ半分にささやき合ってたらしい。
そんな兄妹の平和な日常に、突然割り込んできたのがアイツだ。
妹をちゃんと大学まで行かせてやりたいと思っていた兄は、毎日のようにバイトをしていた。両親が残してくれた分だけじゃ、足りなかったんだな。
その日、バイトから帰って玄関を開けると、いきなり妹が抱きついてきたので兄は驚いた。
「お兄ちゃん、家の前に変な男いなかった!?」
「いや、気づかなったな」
「もういないのかな。それならいいんだけど……」
一応窓から確認してみてよ、というので、兄は2階に上がってカーテンをそっと開け、外をうかがった。思った通り誰もいない。……いや、電柱の陰に醜く太った男が見えた。
見たことのない顔だ。ボサボサの髪に銀縁眼鏡。この辺りでは見かけない制服は、遠目から見ても薄汚れている。誰だ、アイツは?
「知り合いか?」
「知らないよ、あんな気持ち悪い人! 」
そいつは不潔そうな頭をボリボリかきながら、目を細めてこちらを見ていた。視線の先は間違いなく、後ろにいる妹だろう。
「ちょっと行ってくる」
これまでにも、妹に振られてストーカーじみた行動に出た男はいた。あの時みたいに、ちょっと痛い目に合わせてやれば付きまとうこともなくなるだろう。兄は、腕力には自信があった。
ーーーいない?
兄が道路に出ると、男の姿はどこにもなかった。玄関を開けて、ここまで十秒もかからない。いくらなんでも逃げ足早すぎだろ。
逃げ帰ったのならそれでいいが……。何か釈然としない。
何故だろう。これだけでは終わらない気がする。
そんな嫌な予感を覚えながら、兄は家に戻ったんだ。