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第二話 朝起きるとオークだった

プロローグみたいなものです。

 

 

 人生って怖い。


 人生は一歩踏み外すと、大変な目に遭う。

 俺の場合がいい例だ。



 ものすごく端的に俺の状況を説明しよう。




 1、救世主と共に世界を救った。

 2、救世主に告白された。

 3、翌日起きたら俺はオークだった。




 わかってもらえるだろうか。


 人生とはかくも予想し難く、世知辛いものなのだ。

 というかもう俺の場合人生じゃない。人じゃないし。


 オーク生。


 オークとなってしまった俺が送るのはそう、オーク生だ。

 滅茶苦茶語呂が悪い……死にたい。


 

 まあいい。かいつまんで説明したが、とにかく俺は『オーク』になった。

 あれだ。豚と人が混じったような、緑色の化け物だ。

 腰に布きれを巻いて、棍棒を振り回しているデカブツの姿を思い浮かべて欲しい。

 

 それが、オーク、つまり、俺だ。


 

 とても死にたい。


 

 ……ああ、そう。『あの日』は、それはもう大変だった。俺は人語を話すことができず、宿でかつての仲間達に殺されそうになった。笑えねえ。

 神話級の装備を振り回す姫騎士やら神霊級の魔法を繰り出すエルフやら天使達の攻撃を躱して、命からがら、逃げた。



 今でこそわかるが、俺をオークに変えたのはおそらく、あいつらのうちの誰かに違いない。

 何故かって?

 いや、救世主様はモテにモテまくってたからな。



 伝説の剣は抜くわ、歴史を塗り替えるレベルのカラクリや戦術を考案するわ……料理界にも激震をもたらすわ……。

 

 いがみ合う国々の姫騎士達をまとめ上げ、魔王と激闘の末に和解し、人類の歴史の修正がどうのこうの言ってた神々と天使達をも従えてしまったのだからただ者じゃないだろう。


 すごいやつだった。そんなすごいやつなのに、とにかく種族だの、階級だの、そういうのにこだわらなかった。

 だからモテた。全種族全階級が、ヤツに惚れた。そして、アイツの旅を支える仲間になっていった。

 


 そんなやつが俺に告白するんだもんね。

 ありえないよね。


 

 ……いやね、俺もね、長年アイツと旅はしたよ?

 風呂で背中も流したし、アイツが救世主と呼ばれるようになるまでのしょっぱい日々も一緒に過ごしたよ?

 まあ、俺もちょっと悩みを解決してもらったりして、そんなアイツのことを能力だけじゃなくて、人格面でも頼もしい親友だと思ってたよ?

 悲しい時も、嬉しい時も、悩める時も横にいたよ?


 

 だからってさあ……



 ……うん、アイツは悪くないよ。酒の席とはいえ、救世主を慕う人達の前で、俺に告白したのも、アイツらしいといえばらしいのかもしれない。正直ときめいたし。

 ちょっと鈍感なところがあったからな。自分のためなら国でも命でも捨てる者達がいるってことを、アイツはちょっとわかってなかったんだ。



 

 だからってさあ………………同性に告るなよ!! 



 あの女性達もさ、そもそも救世主なんだから側室でもハーレムでもよくない?ってノリだったんだのよ。傍から見てる俺もさ、ちょっと羨ましいとは思ってたけど、アイツならその器だろうと納得してたのよ。

 実際、協定らしきものもあったらしいし。



「それでも、それでも誰か一人をアイツが選んだのなら、私達はその二人を祝福しよう」



 こういう健気なのが。

 もしも、その『一人』に自分が選ばれたなら。一緒に生きようと言ってくれたなら、なんて胸中にはあったんだろうけどね。

 そういうね、甘酸っぱくて、平和な空間だったんですよ。人徳ですね。すごいですね。


 

 その結果があれですよ。まさかの俺。

 ダークホースにもほどがあるわ。

 あの時は背筋が絶対零度で凍りつくのがわかったし、殺気だけで死にそうになったわ。



 ……結局、その女たちの誰かによって、俺はオークにされた、と。

 女の嫉妬は怖いと言うか、アイツの人たらしの魅力は怖いと言うか。



 総じて、人生は怖いってことでいいだろう。





 とにかく、そういう結末を、俺は迎えてしまった。

 それで救世主の親友としての、俺の物語は終わった。きっとアイツの英雄譚にも、「旅の仲間の一人はいつの間にか姿を消した」と綴られることだろう。



 だが、俺の新たな物語が始まったとも言える。

 

 だって、オークにされただけで、俺は死んでないからだ。

 アイツの作っていく世界の行く末を見ていきたいしな。


 

 アイツの元でなら所謂『魔物』に属するオークにも結構優しい世界になっていくはずだ。



 とりあえず、働き口を見つけよう。……あるのかなオークに……やっぱり死にたくなってきた。






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