第一話 姫騎士ライカ捕縛
オリジナル小説です。
書き溜めなし。
連続更新の癖をつけるための作品でもあるのでその辺しっかりやってみたいです。
何か至らぬ点ありましたら気軽にご指摘お願いします。
「くっ、殺せ!」
泥と屈辱にまみれながら、姫騎士ライカは地に片膝をついた。
身体を護っていた煌銀色の鎧は所々剥がれ落ち、聖剣の歯は欠けていた。彼女を取り囲むようにして、オーク達は無言でライカを見下ろしている。
獣のような瞳からは、その思考を読むことはできない。彼らの豚のような鼻と、そこから洩れる鼻息が耳障りだった。
元々、無謀な作戦だった。
わずか三人で、仇敵である青の王国の、さらに魔物の支配する要塞を訪れたのだから、敗北は当然であると言えた。
もはや姿の見えない二人の仲間、ベルモンドとレイハことを思う。
彼女らは迷宮の中層に来るまでに置いてきた。二人の実力なら、きっと上手く逃げてくれているはずだ。
──悔いはない。もはや赤の王国に我々の居場所はないのだから。せめて武人らしく死のう。
これから自分はどうなるのだろう。魔物に敗れた騎士を待つ未来は決まっている。死か、それとも死よりも惨めな生か。
オーク達は何やらひそひそと話をしたかと思うと、一体のオークが歩み出た
「お前、殺さない。オデ達、お前連れて行く」
「私を辱めるつもりか……!」
「いいから、こっち来る」
オークの一人が、ライカを抱え上げた。もはやそれに抗うだけの力はライカには残されていない。
「どんな目に遭わせられようと、私は決してお前たちに屈したりしない……!」
彼女は心に誓う。
これから何が起きようと、自分の矜持だけは失わないと。
「ここは一体……」
ライカが連れてこられたのは、どこかの地下室のようだった。しかし、妙だ。
──これから拷問されるものと思っていたが……
部屋にあるのは、木製の横に長い机と椅子が一脚、そして対面には椅子が三脚。あとは松明が部屋を照らしているだけで、何もない。
一体この部屋で何が行われるのか、ライカには想像もつかなかった。
「お前、そこの椅子座る。待ってろ」
「何をする気だ……」
ライカは言われるがままに、椅子に腰かけようとするが、オークは不機嫌そうにそれを止めた。
「違う。真ん中じゃなくて、端の椅子に座る。お前常識ない」
「なっ……何ぃ?」
まさかオークに常識を説かれるとは思わなかった。
だが、ライカはグッと堪え、右端の椅子に腰かける。武器は取り上げられ、手錠がつけられている。反抗に意味はない。
それに、これから与えられる屈辱はきっとこんなものではないはずだ。
その時、背後の鉄扉が開かれ、ライカは思わず立ち上がった。
「ベルモンド! レイハ!」
その姿は、紛れもなく彼女の仲間、ベルモンドとレイハだった。
「お前達……どうしてここに!」
「へへっ。水臭いぜライカ。お前を一人にはさせねえよ」
褐色の肌に赤い髪の少女、男勝りのベルモンドはニヤリと笑った。その様子を見て、青い髪の小柄な少女、レイハは呆れたようにため息をついた。
「ごめんなさいね。貴方を助けるつもりで追いかけてきたんだけど、捕まってしまったわ。ここの守りは堅いわねー」
二人の手にも、魔術封じの鉄の手錠がはめられている。その姿に、ライカは心を痛めずにはいられなかった。
負け戦だった。
政争に負け、半ば死に場所を求めて挑んだ迷宮だった。
それなのに、彼女達は共に来てくれた。
今も、こうして自分の目の前にいてくれている。
「何故、私なんかのために……」
オークに促され、ライカの隣の椅子に着席した二人は、笑みを浮かべた。
「俺達、仲間だろ?」
「そういうことよー」
「馬鹿者達め……」
ライカもまた、自分の頬が緩むのを感じた。オークに捕えられたことへの不安や絶望といった、氷にも近い感情が融解し、心の中に暖かいモノがあふれていく。
──もう、恐れるものなど何もない。
その時、一体のオークが部屋に入ってきた。
その出で立ちは先ほどまでのオークとは違う。首の煌びやかな装飾品は、そのオークの序列を表している。
依頼にあった、オークの首領に違いない。その視線はライカ達を品定めするように動いていた。
だが、それがどうしたというのだ。
拷問も、陵辱も、死すらも。信頼できる仲間と共にある限り、自分は決して折れない。
ライカは確信と誇りを胸に、毅然とその男を睨みつけた。
──さあ、汚らわしい罵りの言葉を吐き出すがいい! 嘲笑え! しかし我が赤き誇りはそれに屈することはない!
自分ら姫騎士は、魔物に、悪になど、決して負けたりはしないのだ。
だが、その怪物の口から出でた言葉は、彼女達には、あまりにも予想できないものであった。
「えー、これより採用面接を始めます」