[髪は生まれを意味し、瞳は運命を意味する]
「私の両親は冒険家でした。
世界各地を巡って宝を見つけて…
冒険する両親はいつも楽しそうで
私はそんな両親が大好きで
いつかは、私も一緒に旅をしたいと思っていました
しかし数年前。
両親は嫉妬が国と憤怒が国の間、その向こう。
そこから我が家へ帰ってくる途中で、母は死にました。
殺されたのです。
並外れた魔力と力、そして精神の…白き翼を持った“天使”に。
六枚羽根…神への怒りにその身を燃やす、熾天使によって。
今度は父が天使への怒りに、その身を燃やしてしまいました。
冒険家から天使討伐のギルドへ。
母はきっとそんなことは望んでいなかったと思います。
けれど、その身を燃やしている父は何も考えられなかった。
家族の言葉も届かなかった。
父も…それに母も強かったから、熾天使の一つ下…智天使なら仲間と一緒に倒せるようになっていました。
けれど、その熾天使にだけは勝てなかった。
父が亡くなったのは…一ヶ月ほど前のことです。
だから今は神経質になってるんです。
ここに来られる人なんて余程強い方か、高貴な方。
そして天使だけですから」
これは確かに、客人へ話すような内容じゃなかったな。
天使…か。
老人が止めた理由も解るな。
「…そうか。
そんなときに来て申し訳なかった。
すぐ出るよ」
俺は聞こえないように深く息を吐いて、真綾を再び背負おうとした。
「ままっ、待ってください!
食料は?足は!
我れらが国は比較的安全とはいえ、常識的に考えて無茶です!
せめて妹さんが起きて、十分に休んで、食料を持ってからにしてください!」
お…怒られた。
絶対年下のやつに怒られた…。
綱憲か芹那かお前は。
…まあ言うことはもっともだ。
「だが、赤の他人にそんな…」
神経質になってるんだろ?
他人を泊めるなんてもっての他だろ。
それに食料だって無限に湧き出る訳じゃない。
「あら、良いじゃないですか。
ね?」
「ああ。泊まって貰うのはさっきの謝罪。
食料は…そうだなぁ…泊まっている間の用心棒の報酬ということで」
お前らに用心棒何て必要なのか…?
「ふぉふぉ…私らの魔法は自己防衛の為。
相手が強いと撃退もできん」
ああ……、そうなのか。
じゃあさっきユーリンが俺を庇ったのは実害的なものじゃなくて、ただ失礼だから…ということか?
もっとも…悪いやつなんてそんな……
「とにかく、妹さんを休ませてあげなさい。
それに…」
老人はまた左目だけを開いた。
「絢斗さんのその目と、妹さんの髪色はかなり目立つ…。」
黒い目と金髪が?
別に普通だろ…?
むしろ、俺の真っ黒の髪の方が珍しがられる。
黒髪は居るんだが、ここまで真っ黒なのは珍しい。
……けど、老人もユーリンも真っ黒だな。髪。
目は真綾と同じ藍色だが…。
「そういう文化なんだ。
“髪は生まれを意味し、瞳は運命を意味する”。
昔からある言葉だ…。」
俺らの世界じゃ…肌の方が重要視されるが…。
まあ、最近は血が混ざりに混ざって訳が解らなくなって…
差別も何も、親子で容姿が違うなんてざらだからなぁ。
容姿に関しては何も関係無いな。
「出るときは、ワシの服を貸してやろう。
魔法を掛けてやるのが一番良いんだが…ずっとは無理だからな。
自分で隠す癖をつけなさい。」
お…おおお……、何から何まで申し訳ないな…。
何でこんなお節介ないんだ?
この人たち。
「そう言えば聞いておらんかった。
絢斗さんと妹さんは何処へ向かうのかな」
ああ…老人には何も言っていなかったな。
「俺たち――」
「ん―」
後ろから聞こえた呻き声に、俺はサッと振り返った。
また眠らせるべきか……、いや、さすがに一週間の道のりを背負って歩くのは不可能だ。
そもそも、本当に魔王を倒すのなら、真綾は目を覚ましてなければならない。
敵の本拠地近くで目を覚ますより、ここの方が安全なのは間違いない。
虚ろな目は焦点が合わず、しばらく辺りをさ迷い…老人とユーリンを捉えた。
「……誰」
と、体を持ち上げたと共に、その体から闇が溢れるのを感じた。
………これは
「―~~~♪―」
直ぐ様歌うと、真綾は再び眠りに落ちた。
支えをなくした体を受け止めて、俺は溜め息を吐いた。
これは…、どうしたものか。
全く冷静じゃない。
目についたもの全てに攻撃しそうな勢いだ。
真綾は“視える目”じゃないんだから、悪魔かどうか判りもしないだろうに…。
俺も変装したら襲われそうだ。
「妹さん…また眠ってしまいましたね……。」
ユーリンの言葉にハタと我に返った。
「……ああ。
申し訳ないが、好意に甘えさせてもらえるか。
少し…休ませたい」
今の状況で、冷静さを欠いているのはむしろ俺の方だった。
冷静になろうとすると、真っ先に思い浮かぶのは遙華のことだ。
遙華………、遙華。
柊に預けてきたんだ。絶対に大丈夫だ。
此処に来たのは当然のことだ。
きっと、心配だからと真綾を見棄てたら、多分、遙華は俺を恨む。
俺を殴るだろうし、軽蔑するだろう。
俺も逆の立場なら、遙華を見損なう。
…けど、そんな俺たちじゃないから将来を誓い合った。
俺であっても、遙華であっても、絶対に片方を置いてでも真綾を追い掛けた。
偶々それが俺だっただけだし…、俺で良かったと思う。
危ないからな…。
でもそれとは全然別のことで、遙華が心配だ。
いや、嘘だな。
遙華に会いたい。
一目…いいや、これも嘘だ。
触れたいし側に居たいし話したい。
あの赤く染まる頬も、泣き笑う顔も、珍しく怒る顔も
声も、肌の柔さも、遙華のすべて。
…泣いてないか心配だ。
そのすべても、真綾も居てこそだ。
だからこそ俺は真綾をちゃんと連れ戻さなくちゃならない。
…ならないんだ。
「絢斗さんもお疲れのようですね。
どうぞ。布団は余り余ってるんです」
そう、ユーリンは優しく微笑んだ。