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魔王の娘  作者: 瑞希
家族
13/16

[怒りも殺意も狂気も]

胸騒ぎがして、私は目を開けた。


………何故だか、不安で不安で堪らなかった…

今、何かをしないと…大切なものが永遠に消えてしまうような……。


私は慌てて立ち上がり、真綾さんと遙華さんが眠っている部屋へ走った。


「真綾さん!!!!」


襖を開けて見た景色に、私は絶望感を覚えた。


つい先程までずっと眠っていたはずの真綾が…既に居なくなっていたのだ。

いつから…?

いつ目を覚ましたの……?

どこへ……何故、遙華さんを置いて……………?


……………………ああ、そんな答えは、ひとつしかなかった。


私は生まれて初めて全力で能力レジを使った。

全身の血管がはち切れてしまうんじゃないかと言うほど、脈を打っていた。

そんなこと気にする余裕もなしに、私は…ただ、愛する人の気配を求めた。








目が覚めると、私は…………図書館にいた。


いや、図書館というには広すぎるな。

それなら此処は………?


「もし、もし其方そなた


そう言いながら、私に手招きをする幼い子供がいた。

とりあえず、示された通りに近寄ってみた。


「其方、名はなんと言うのじゃ?

 妾はセーラ…聖羅せいらじゃ!」

幼い子供は、手に持った本の漢字…聖と羅を指差して言った。

亀みたいな名前だなと思った。

………ああ、それは甲羅か。


「私は真綾だ。

 …………………真、………綾。」

私も聖羅に倣って、聖羅の持つ本から、私の字を探して言った。


「真綾!マーヤ!!!!

 良い名じゃの!!」

聖羅は無邪気にはしゃいだ。

そんなにはしゃがれるほど良い名前だな…と思ったことはないけど…。

でも、そう言われれば悪い来はしない。


「…して、其方はかぐやを殺したいんじゃったな。」

そうだ。

遙華を傷付けた、かぐやという魔王を私は殺したいのだ。

殺したくて、殺したくて…堪らない。


私は頷いた。

「その為に速く魔界へ行きたい。

 ここから出る方法を知らないか?」

右を見ても左を見ても、ずっと似たような空間が広がっているだけのように見える。

それどころか、窓もないし、上を見ても階が広がっているだけ…。


異常な空間であることは間違いない。


「真綾は冷静じゃのぉ…」

微笑んでそういう聖羅に、私は首を振った。


「これでも焦っている方だ。」

速く出たい。

だから、聖羅に聞い手いるんだ。

こんなに焦っているときでなければ、しばらく聖羅とも喋った。


「…その様じゃの。

 じゃがそれなら心配は要らん。

 ここで何日、何年、何十年、何百年居ようとも

 …現実世界ではほんの一瞬じゃからの」

それは驚いた。

空間だけでなく、時間も異常だったとは。


「………そうか。」

どうせ殺すことには変わりないのだし、この殺意が鎮まることはないのだし、急かしてもさして良いことはないだろう。


「真綾は、何故かぐやを殺したいのじゃ?」

私は即座に答えた。

「私の愛しい人…愛する人達を傷付けたからだ。」


「その愛しい人、愛する人達とは?」


……


「遙華…それに絢斗や、綱紀…仲間達だ。」

私は、仲間達のことも愛していた。大切に想っていた。

彼らと過ごした日々…。

過去、現在、そして未来…。

出来ることならば永久に、側に居たかった。

だが…、無理なんだ。

私にとっては、やはり遙華が特別で…唯一で、何ものにも代えがたい存在なんだ。

世界で唯一の大切な人…愛しい人なんだ…!


そんなの…そんなの解ってた。

仲間が…遙華達が大事なことくらい…。

だから他を排してでも、心から大切に思って…、それ相応の行動をして来た…。

なのに…、なのに……。


もう

「愛しい人が傷つけられた以上

 私は何を棄てでもそれらを殺す。

 そして、愛しい人すら守れなかった私は、既に不必要だ。」

こんなドロドロとした黒く重く恐ろしく、そして愉快な…今も腹の奥底から沸き上がってきそうな、こんな感情を抱いた私は、もう遙華を守ることなんて出来はしない。

側に居ることは愚か、愛することも出来はしない。

遙華を愛することも出来ないのなら…もう心も必要ないし、私も必要ない。

生きていても、何にも良いことがない。

意味がなく、必要ないのなら、もう死んでしまいたい。


「……………真綾…、どうか、死にたいなんて思わんでくれ。

 その怒りも殺意も狂気も、誰もが、抱く可能性を秘めた感情なんじゃよ。

 大切な…大切な、思いじゃ。

 だから、お前は、人なんじゃ。誰が何とほざこうと。

 その思いがある以上…人はきっと人でしかないんじゃ。

 天使でも悪魔でも、王でも神でも魔王でもない…

 この世にたった一つの、人なんじゃよ。」


「…それなら、感情が無くなったら、人じゃなくなるのか?

 このドロドロした想いも、

 持ち続けなくちゃいけないって言うのか…?!?!!!」

ずっとずっと、苦しんで藻掻いて喘いで…。

そんな…そんな人生に、人に……一体、何の意味があるって言うんだ!!!


「だが…それでも、妾はお前に生きていて欲しい。

 どれだけ苦しくとも悲しくとも狂っていようとも…

 死んだ様にだけは…生きていて欲しくない…!!!!

 これはきっと、妾の勝手な願いじゃ!希望じゃ!我儘じゃ…!

 それでも…それでも…っ」

生きていて欲しい…。

活きていて、欲しい………?

………そうか。…そうか。

例え、その結果が苦しくとも、悲しくとも、…狂っていようとも。

私が…、私が望んでやったことなら。

望んで活きたことなら…、聖羅はそれで良いと言うのか…………。


私はそっと息を吐いた。

息を吐けば、腹の奥底に抑えていたドロドロとした狂気が浮かび上がってきた。


私は“それ”を感じて、ニヤリと笑った。

「聖羅、魔界へ行く方法…知ってるか?」


「…ああ。

 知っておるよ、真綾。」











「退け…、志保…」

悲痛、苦しみ、狂気に歪む真綾さんが、私をキツく睨んだ。

それすらも愛おしく感じてしまう私こそ、はたから見れば狂っているだろう。


けれど、それ以上に真綾さんに傷ついて欲しくないと思える心は、十分に持ち合わせている。

「退けません!」

私は確固たる決意のもと、真綾さんの前に立ちはだかった。

きっと真綾さんは魔界へ行く気だ。

行ってしまったら最後…きっと帰ってこない!

悪魔とは言え、魔王とは言え、自らの愛するものを傷つけたものとは言え。

人を、親を殺した罪深き自分は、もう立派な悪魔…。そう、思うことだろう。

別に悪魔だって良いのに……………


「退け

 さもなくば殺す。」

…真綾さんは本気だ。

この世の何よりも、遙華さんを寵愛している真綾さん。

その敵討ちを、何でもない私に邪魔されているのだ。

殺意以外、なにが沸き上がるというのだろう?

それでも…、私は退けない。

例え真綾さんに殺されようとも魔界へは行かせられない…!

行かせたくない…!


「………―闇よ―」

真綾さんが小さくそう呟くと、闇の弓が現れた。

いつもは朧気に形を作っているだけの、その弓は真綾さんの感情が昂っているせいなのか

それとも、いつもはセーブしていただけなのか、完全なる形を持ち艶めいてすら見える。


私はハッと息を飲んで、目をギュッと閉じた。

「―破滅させよ―」

真綾が放った矢は、私の頬に鋭い風を当てて通りすぎていった…


“バカだな”

その風と共に真綾さんが、そう微笑んで私の頭を撫でてくれた気がした。


私はパッと目を見開いて振り返った。

「真綾さん!?」

真綾さんの前に立ちはだかっていたはずが、気づけば抜かれていた。

放たれた矢は、私ではなく空間そのものを破壊させていたのだ。


暗く深い深淵の常闇。


空間の歪みを擬似的に作り出したんだ…。

満月の光によく照らされた…、引力の強い、この場所で。


私は、真綾さんが何の躊躇いもなく闇へ飛び込んでしまったのを見て、届くはずもないのに、懸命に手を伸ばした。

「まっ―」

伸ばした手の先へ、再び何かが通りすぎた。


「絢斗さん―?!」

闇は、絢斗さんを呑み込むと、消えてしまった…。

私、一人を…置き去りにして………


私は、ここから一歩も進むことができなかった。

咄嗟とっさに頭に浮かんだのは、家のこと………。

私は、私は志保…こころざし持つ柊が当主……。

愛している、何てほざきながら…思いながら、家を棄てることすら出来ない…!

愛しい人をも棄てた貴方に対して…私は…何も棄てることが……出来なかった…


私は、何もない場所に永い間 囚われていた…

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