遥かなる記憶
《遙かなる記憶》
あの子に出逢ったのは寒い冬の夜明けだった
そのとき幼稚園にあがったばかりの私
カゴのなかに無造作に入れられた
自分より少し小さな女の子と出逢った
寝顔がとても愛らしくてそのカゴに手を伸ばすと
赤ん坊の端に紙が折ってあった
その紙を開くと文字が書いてあった
覚えたばかりの言葉でほとんど読めなかったが
“拾ってあげてください
名前は真綾“
とだけ急いだのだろうか走り書きで書いてあった
「てあ…てくさい?……………」
やっと読めた字を声に出して読んでみると
赤ん坊が目を覚まし花のような笑顔で笑った
「わ…笑ったぁ…!お母さん!笑ったよ!」
はしゃぐ私をみて両親が微笑むと
父が私の目の前に座り落ち着いた声で話した
「ハルカこの子は今日から
お前の妹だ可愛がってやれ」
父の大きな手が私の頭にのびてそっと優しく撫でてくれた
「妹?やったぁ~!」
ずっと妹が欲しかった私は
とても嬉しくて何度も何度も赤ん坊の名前を呼んだ
小さな赤ん坊が私の“私たち“の運命を大きく変える鍵とは知らずに
高校一年生になった私はあの紙も
お父さんとお母さんの言った意味もわかるようになった
そして私より少し小さかったはずのマアヤが
私と同い年くらいになると今度は私と成長速度が同じになった
「マーヤー!アヤトー!はーやーくー!」
桜並木の下後ろを振り返り
大好きな妹と大切な幼なじみを急かした
黒色の髪に黒い瞳の音澤 絢斗同じく同級生の男子だ
「そんな急がなくったって良いだろ?なぁ、マーヤ」
面倒くさそうにカバンを持った手を後ろで組み
隣に居る、金色の髪に藍色の瞳の少女に同意を求めた
「ハルカが早くって言うなら速くする」
マーヤはアヤトに素っ気なく答え
足早に茶色の髪に水色の瞳の少女の元に行ってしまった
「姉ラブ娘めぇ…」
楽しそうな2人を忌々しそうに見つめ
アヤトも2人の元に走っていった
「…にしても2人はホント仲良しだな
俺、ヤキモチやいちゃうわ~」
アヤトが2人を追い抜きにやにやしながら言うと
ハルカはたちまち真っ赤になった
「な、なに言ってるの?!馬鹿アヤト!」
ハルカは真っ赤になったままアヤトを小走りに追い抜いた
「?ハルカ真っ赤だよ?」
そんな様子を見てマーヤ頭の上に
ハテナマークを沢山浮かべてハルカの隣を歩いた
「なー不思議だなぁ?マーヤ」
「不思議、もしかして風邪?!」
アヤトもハルカに追いつき横を歩き
ハルカを真ん中にして三人で並んでいつも通り学校に入った