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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
9/23

賢者がポーター 2

長いよ・・。ながいよぉ~~~@@;

 舗装もされていない道を歩き出すこと、2時間。


「はぁ~・・・」


 たるい。気分的に疲れる。面倒くせぇ~~・・。


「大丈夫か?」


 リーダー、君心配性だね。体力的には問題ないよ。

 ただこんなにのんびりじゃ、目的の洞窟に着くの夕方になってしまわないかね?

 洞窟の前でキャンプする予定?

 そうなると、中1日で6層まで攻略するの?どんな強行軍・・・一種罰ゲームに近くないか、それって。

 てか、いくら大したことはない洞窟でも舐め過ぎてない?大丈夫?

・・・・・・はぁ~・・。


「あのさ、いいかなぁ」

「休憩入れたいとか?」

「いや、違う。移動速度上げる魔法を全員にかけたいんだけど・・」


 僕の提案にリーダーは驚きを隠さない。

 まぁそりゃそうか。移動系呪文は一応中級だしなぁ。


「あればあったで嬉しいが・・。その・・皆にばれますよ?」


 気のきくリーダーはこそりと耳打ちする。

 前を行く皆はさほどこちらを気にしていないんだから、そこまで気を使わなくてもいいのに、なぁ。


「もうね~。ポーチの時点でやっぱおかしいじゃないですか」

「・・・まぁね・・」


 あの時驚異の連携で誤魔化したには違いないが、どう見ても怪しすぎるし。それにこの杖で、魔法使いの二人には「バレタ」と思われるわけで。

 今更な気がしてきたんだよね。


「ではお願いしてもいいかな?」

「じゃぁ皆に声かけて来てくれるかな?」

「分った」


 リーダーが前方にいる仲間に声をかけ、僕の提案を説明し始めた。

 全員の顔に少しだけ驚きの表情が見て取れたが、「早くなるなら」ということで了承を得、僕は早速実行に移した。


 さて、おかげで7時間近くかかるところを、2時間ちょっとで行きつけたのだから、余裕だね。



「なんかさ~~~。本当に初心者?有り得ないンだけど」


 弓使いのモミアゲに尋ねられる。

 周りも僕の方を向いていた。

 

 着いた洞窟は入口は狭いが中に入ると広い。

 ひよことアゴヒゲが早速ライトを展開させていた。


「パーティの経験は1回しかないし。登録も昨日だし。だからと言って能力イコールにはならないと思うけど?」

「まぁ・・そうだけど。普通は大体イコールなんじゃね?」

「だよなぁ~」

「うんうん。やっぱ経験則ってあんじゃん?」

 

 納得してもらえんか・・。


「でも、新人でもいきなり凄い奴も、いるよ。俺は見たことあるし」

「ああ!いたいた!他のクランにいったよなぁ、パーキンだっけ?」

「チョイ違うよタイラー。パーキンスだよ」

「稀にいるのか、やっぱ」

「ないわけじゃないね」


 ・・・・いるのか。


「おい!もう中に入ったんだから少しは警戒しろよ!」

「1層なんてザコいじゃぇ~か・・」

「それで怪我したらバカ決定!」

「しねえーよ!」


 賑やかだ。

 背後から見ているだけの僕は暇だが、本当に仲がいいのな。


 そうこうしているうちに魔獣が現れ出した。クレイワーム、ビジーラット。たまにシビルバッド。

 ダンジョンD級だけあって弱そうな魔獣達ではあるが、数は5匹前後とそこそこの集団だ。

 一気に緊張感が漂う。

 だが、彼らはなかなか連携も取れてて、手なれた感じが見受けられた。

 仲もいいしね。意外とこう言うのが大事なんだよね、パーティって。

 阿吽の呼吸っていうの?


「そっち!」

「了!」

「こっち逃げたぞ」

「俺が倒す」

「魔を退ける力となりてその身を包み盾となれ・・イーディング・プロテクト」

「明かり弱い!ライトもっとくれ!」

「飛んでる奴頼む!」

「焼き尽くす炎の刃・ファイアボール!」



 さすがに洞窟な事だけあって足場は相当に悪い。道があるわけでもないし、ごろごろした岩場に足を取られる。

 それでも1層はさすがに雑魚かった。


 洞窟ダンジョンでは1層2層と呼ぶ。何しろ階段とか部屋とかあるわけじゃないからね。

 ある一定の奥に進んでから『極端に狭くなった場所』で層を区切る、そういうやり方だ。

 ここは洞窟の地図もあるし、進んではいけない場所には入口に大きく×と派手な色の塗料で書かれてあるし、地図にも記載されてる。

 何度も攻略されまくった比較的古い洞窟なのだ。

 たまに矢印のペイントまであるのは御愛嬌だ。



「さぁ順当に4層までこれたし、今日はここでキャンプする」

「「「「了解!」」」」


 キャンプに適した、横枝のそれなりに広い洞窟がある。奥行きもあまりない。地図上でも休憩ポイントとして記載されているところだ。

 そこに入って、みんなが思い思い腰を落ろし始めた。

 その間僕はリーダーと共にポーチから出したランプを、天井に打ちつけられてあるJ型の楔にぶら下げて行く。そしてライトの紋章を稼働させる。

 休憩所の中はすっかり明るくなって、皆の少し疲れた薄汚ない顔が見えた。


「水くれ」

「俺、お茶」

「あ~俺も」


 僕はポーチから必要なものを取り出しながらみんなに配って回った。


「思ったより奥に進められたなぁ。余裕じゃないか?」

「ほんとほんと。やっぱあれだ。洞窟までの短縮のおかげじゃね?」

「だよなぁ~」


 それはよかったよ。

 僕も腰をおろしながら、ポーチからいろんな物を取り出しお店を広げた。並べたのは、湯気が立ち出来たて感そのままの料理の山。

 狭い洞窟に、一瞬でうまそうな匂いが充満する。


「夕飯、自分の取ってってくださ~い」

「「「「ほ~い」」」

「ほら、順番に。もめるなよ!」

「それ俺のだって!」

「おお~マジで出来たて状態だよ!」

「ほら、ローインとキース、いつまでも前で止まらない。ジント、横から手を伸ばすな」

「俺のはどれだぁ?」

「こっちだろ?それ、俺のだ」


 僕の声に全員がわらわらと集まり、大騒ぎとなった。それを横目でリーダーが苦笑浮かべてみている。

 なんか本当にリーダー、お父さんみたいだなぁ~。・・若いのに。


「うめぇ~。いやすげーーなんつーの、最高」

「うんうん」


「あ。ところでひよこさん、防壁魔法持ってます?」

「え?ひよこって・・・俺?・・そんなのないよ」


 僕はひよこに声をかけたが、彼は隣にいたアゴヒゲに視線を配りながら首を振った。当然のようにアゴヒゲも首を横に振る。

 その口の中は食い物でいっぱいだ。

 魔法が使えなければ紋章魔石でもあればいいのだが・・。

 防壁刻印紋章の魔石は勿論あるが、価格はかなりお高め。

 まぁね~。旅のお供にダンジョン攻略にって、お役立ちスキルだしね。一家に一台、いや、1パーティに1個。あったら超嬉しい!て奴だし。

 効果範囲も5メートル四方から中には直径30メートルという使用に応じた言わば範囲魔法。一定率なので範囲によって価格が変わる。

 まぁ~僕が造った紋章魔石なら、その3倍は広げられるけどね!

 ただ、このパーティのレベルでは買うことさえおぼつかないだろう。

 大体現在の装備で紋章魔石、ほとんど身につけてないもんなぁ。

 まだまだ若いし、これからなんだろうけど。

 この前紋章屋で見かけた時、防壁が価格が8000万とか。それも15メートルぐらいの効果範囲の奴だったが、まぁ無理だろうね。

 需要はあり過ぎるが作り手も少ない紋章魔石に、魔法を使える魔術師も少ない・・。

 それだけあの紋章はややこしいし難しい。

 


「あれって、難易度中級上位だし。覚えるの難しすぎで、無理だよ。な?」


 隣でやっぱりアゴヒゲが頷いている。

 まぁ。紋章で刻印するのとはわけが違うし、覚えるのは難しいだろうなぁ、確かに。


「そっか~。じゃぁ僕が掛けとくわ」


 僕はリーダーに「ここの入口、防御壁魔法展開させておくから交代とかいらないよ」と言うと、頷いている。

 リーダーは食事を中座して立ち上がると、軽く叫んだ。


「おい、全員。食べたら見張りなしで寝れるから。今夜はゆっくり回復しておけよ!」

「まじかよ!」

「やりぃ!」


 まぁ喜ぶよな普通。僕は入口まで移動をすると詠唱し、さくっと紋章で魔法展開させて、自分の場所にと戻るとご飯にし始めた。

 入口の外側に、少し大きめの防護壁。これで魔獣を完全にシャットアウトだ。

 効果範囲がとっても狭い分強度を上げておいたので、魔王が来ても入れないぞっと。


「・・なぁ・・。ユーリってさぁ」


 鶏冠が擦り寄ってくる。でかい図体がうっとおしい。


「・・あれか?その、英雄の・・?」

「まぁ。そんなとこだね」

「マジで?」


 いただきますと小さく呟いてから、おもむろに食べ始める。

 頷きながらサンドイッチを頬張った。

 旨いわ~やっぱ旨いわ~~。

 材料新鮮だし、お味も確かだし~~~。

 さすが宮廷料理人!


「やっぱ、そうなのかぁ!?」

「何が?」

「どうした?」

「ユーリって、あの英雄の、ユーリ大魔導師様なんだってさ!」

「「「ええーー?てか、やっぱり!?」」」

「ほらみろー、やっぱそうだったじゃん!」

「おかしいと思ったぜ!」


 こうなる展開はわかってたけど、騒がしいわ・・。

 僕はサンドイッチを加えながら両耳をふさぐ。


「はいはいはい!みんなよく聞いてくれ!」


 狭い洞窟なのに声が大き過ぎて、わんわんと響く。


「確かにユーリ君は英雄ユーリ・オリジン大魔導師さまだ。皆に内緒にしていたのは、こうやって騒ぐのが目に見えてたからだよ。

 但し!今回は、新人冒険者としてポーター役で参加してくれているユーリ君であって、大魔導師としてじゃないから。そこ間違えるなよ。

 彼はあくまでもポーターであって、当然攻撃参加はなしだ。俺達が依頼を決行し、クエスト攻略をする。今まで通りに!

 まぁ、多少のサポートはこうしてやっていただけると思う」


 リーダーが僕をちらっと見てくる。

 了解了解。後方支援ぐらいはやってやるよ、と頷き返す。


「なので、かの大魔導師様に俺たちの働きぶりを見ていただこうではないか!みんな気を引き締めて頑張ろう!」

「「「「「おおお!」」」」


 えっと・・。僕が見てたからって何か良い事なんか起こらないけどなぁ~。なんだよ。期待に満ちた目で・・・・。

 こっち見んなよ・・。


「で、何でポーターしてんの?もっと割のいい仕事いくらでもあっただろうに!」

「だよだよ」

「しっかしさ。云われてみたらそうかと言えるけどよ、絶対大魔導師には見えんよな?」

「うんうん、見えね~わ!」


 何故?何故言い切れるんだ?


「だってその格好。いくらなんでもぼろ過ぎだろう」

「しかもその頭!ぐちゃぐちゃだしなぁぁ」

 

 皆が大笑いしてる。・・そうか?

 つい自分の服をつかんで、眉間にしわを寄せた。


「ああ!わかった!服を買い直す為にポーターしてんのか!?」

「なるほど!」


 むっと来たが、まぁいいか。

 しかし、そこまで言われるほど酷いのか・・これは。また服をまた50着ぐらい仕立ててもらった方がいいかもなぁ。

 ・・・髪もたまには梳くか・・・。


「しっかし、やっぱ、ユーリはただものじゃ~なかったわけかぁ~」

「だよなぁ、普通いくら低級でもあんなに幅広く扱えるもんじゃないし。でもって使ってるのはほとんど中級とかばっかだし・・」

「そそ。さりげなく中級上位とかも使ってるしさ・・。でも本来、魔法は全く万能じゃないもんなぁ」


 特にひよことアゴヒゲは溜め息付いていた。

 魔法使いコンビが肩を落としている。


ご馳走様でしたぁぁ!

 というわけでお茶タイム。


 僕が見ている限りでは


ひよこが火炎系初級3種中級下位1種。身体強化初級1種。治癒初級1種。

アゴヒゲが雷系初級2種中級下位1種。物防初級1種。異常解除初級1種。移動阻害系初級1種。


 二人の年齢、推測だけど。20歳前後でこれだけ出来ればかなりいい腕を持っていると言っていいかもしれない。更に二人のバランスもいいし。

 どっちかが後。魔防を覚えたらもっといいかもしれない。

 しかし二人とも、顔に似合わず『世界認定Ⅰ種』持ってるし~。首から下げているペンダントが、それだ。嵌めこまれた色でⅠⅡⅢ種の違いがわかる。


 要するにこんなひよこ頭しててもモミアゲしちゃってても、実はエリート君達なのだ。8歳から18歳までの10年間王立魔法学校でバリバリお勉強してきて、国家試験ならぬ世界認定試験を合格してきちゃった人だ。

 でも上にはさらに大学院まであるけどね。Ⅱ種以上目指す人はそこに進む。

 ひよこ頭のくせに・・。

 アゴヒゲのくせに・・。


 それかせめて、紋章魔石を作れれば。


 ここで、紋章師と魔法使いの違いについてだけど。


紋章師)魔法紋章を紙面に書き取り作図、それを魔法展開させて圧縮。

    魔石に焼き付ける(刻印)


魔法使い)魔法紋章そのものを空中展開させて、使う。


 なので、魔法使いは魔法陣と言う紋章を『記憶』で頭に叩き込んでおく必要がある。それは少しのミスも記憶違いも許されず完全なる形で覚えるわけで、紋章師のように紙で構成作図を行うのとはわけが違う。

 呪文は言わば「キーワード」でしかない。

 魔法陣の特徴構成を言葉に表した『言霊』で、記憶した紋章を引きだす役目を担っている。その記憶したほうが不完全だと、歪んだ魔法陣が出現して霧散するだけなのだ。

 更に初級より中級、中級より上級と紋章の難易度は一気に跳ね上がっていく。緻密で複雑で精密なそれらを微細に渡るまで記憶し、内部の構成に精通して初めて、言霊である呪文詠唱で発動できるわけだ。

 しかも魔法の効果も、紋章師なら刻印によっての違いなだけで常に「一定」のものでしかない。それに比べ、魔法使いは本人の意思によって魔法陣の大きさや威力を展開時で変えられるのだ。

 似ているが、違う。

 この2者の違いが、最も顕著なのが。


 魔法使いは紋章師の資格も取れる。(サイドビジネスに紋章師とか多い)

 紋章師は魔法使いの資格は取れない。


 魔法使いは国家試験ならぬ『魔導世界基準認定試験』認定証

 紋章師は紋章ギルドまたは学校卒業?の認定証


 要するに魔法使い>>>紋章師。そこには乗り越えられない壁がある。

 勿論紋章師でも上位最上位クラスの優れた人もいるが、しょせん自分で難解で複雑怪奇な紋章を記憶して刻印しているわけではないのだから。

 当然。初級中級上級のあらゆる魔法を複合、多重展開、連続詠唱で更に強弱付けて自由自在に操れる魔法使いの方が、断然かっこいい!

 取りあえず魔法使いは無理だけど~と言うのが、次に目指すのが紋章師である。


 ・・それ考えると。

 あの『魔法使いの人』って上級5種、だっけ?

 それだけ上級が揃ってるということは、混合最上位も打てるだろうし。

 認定、Ⅲ種持ちか!?

・・・・結構凄いんじゃないか・・・

 上級2種類でも覚えるの難しいはずだ、普通なら。


 う。今度会ったら、頭下げておこう。



 まぁ~それでも紋章魔石の良さは『展開の速さ』と言う利点もあるし。詠唱いらないし頭使わなくてもいいしぃ~?

 しかも一定の効果、所謂火力にブレがないというところもあるわけで。

 但し魔石1個に付き1種類だけ、だけど。

「オレ頭悪いけどセレブだしぃ~~。金なんて腐るほどあるしぃ~~~!」

 そう言う人には紋章魔石だね。

 何十億でも使って、全身くまなく紋章魔石ぶら下げてください!

・・・重そうだけど・・・・


 さて。そろそろ準備しよう。


「桶に水張ったから、洗顔とかする人はどうぞ~~」


 僕は中央付近に桶を出した。後は水を魔法で呼び込み、コップをいくつか用意する。


「俺行きまーす!」

「おれも!」

「待てって、押しやるなよ」

「歯磨き棒、俺の出して~~」

「はいはいはい」

「あ。俺のは高級な方ね!」

「ばぁ~か!1ファルと2ファルにどれだけの違いあんだよ?!」

「えーー?そりゃ見た目?」

「・・バカだ!」

「うん、ローイン馬鹿決定!」

「煩い!俺のも2ファルの奴だ、くれ」

「セバス。おまえもか・・」


 この世界は歯ブラシがない。

 言わば歯磨き棒が歯ブラシ代わり。

 先端をナイフで刻んで~ゴシゴシ~・・。少しミントっぽい味と匂いがする。露店でいろいろ売ってるけどね~取りあえず安い!

 だって使い捨てだもん。

 

 この後、何やらわけのわからん自慢大会が始まった。

 みんな元気だね~・・。


さて。僕は寝るか。

 本当はお風呂入りたいところだけど、そこまで甘やかしたらきっとこいつらだめになるしね。

 あ~あ。早く寝ないと思考がまた、ダラダラ流れちゃう・・。

 歯ブラシ誰か作成してくれないかなぁ~。

 クジラいないんじゃ、やっぱ駄目かなぁ~・・・。

 クジラの竜田揚げも・・・・・食いたいなぁ~・・。

 むにゃむにゃ・・。


 気付かないうちに横になって、寝ていた。



「おっはぁ~」

「お~っす・・。ふあぁぁ~」

「おはよ~っす」


 洞窟の中だと時間がわかりにくいが・・多分5時過ぎぐらいか。

 僕は全員が顔を洗うための桶をを出して、水を呼ぶ。

 コップも歯磨き棒もセットした。


「はやくしろよ~」

「まだ・・・」

「ふぅ、目が覚めた!」


 取りあえずさっさと朝食を出して並べて行く。

 僕のポーチの中では「朝、昼、夜」でしか分けて入れてないので、あとは自由にとっていただくしかない。


「自分の分を持ってってください」

「これ、俺の!」

「おっしゃー!キタキタキタ!俺のご飯ちゃん♡」


 相も変わらず大騒ぎ。


「さて、今日こそは、ボスを倒す!みんな分ってるな?!」

「「「「「・・おおぉー!」」」」

 

 僕は好きなクロワッサン風のサンドイッチに壺入りキノコシチューを美味しくいただく。萎びてないミニサラダ付きだ。

 

「あ~ちょっとトイレ!」

「いってらぁ」

「おい!誰か付いてこいよ!」

「んじゃ俺も行くわ」

「あ。俺も」


 トイレはない。ので、当然ここから出てどこかで用をたす。

 しかも魔獣の心配もあるので必ず2名以上でお出かけになる。

 こう言うところが不便なんだよねぇ~・・。まぁ、排泄行為中魔獣に出会う事ほど情けないものはないから。待った!はしてくれんだろうしね・・。

 

そぅそぅ。

 昔の勇者パーティの紅一点、ミュースは偉大であった。

 彼女は僕に「ここでいいわ。私込みで防壁紋章展開して」と出入りに人も禁止事項させて、更に自身に不透過(光学迷彩)+消音+消臭と言う特殊隠匿魔法までかけて、平気で用を足していた兵であった・・・。

「見えなきゃいいのよ!見えなきゃ!」

 あの間の野郎どもの所在なさは、言うに言えない微妙な空気が漂ったものだよ。

 まぁあれは別格。

 ミュースは例外として!

 やっぱ女性冒険者は入れにくい。男どもの肉壁に囲まれて用は足したくないだろうし、我慢すれば便秘になるだろう。本当大変だよ。

 ちなみに。

 僕が今回かけた防壁紋章は『人の出入りの許可』してあるので、こっちに逃げてくれば、まず大丈夫だ。


「やべーー!」「うおぉおお」「ひぃ~まずいって」

 叫びながら駆けこんでくる3人のうち、ジントはズボンを下ろしたままの姿で転がり込んできた。

 どうやら徘徊している魔獣が臭い?に誘われて出てきたらしい。


「ちくしょー!何で出てくるんだよ!」

「ははは・・おまぁ~タイミングわりぃー!」

「ケツ拭いてこいよ!臭いって!」

「うっせぇよ!」


 それはそれは御愁傷さま。って笑っていいよな?


 こちらの世界ではティッシュペーパーはない。トイレットペーパーもない。水洗トイレでもない!

 前世の祖父が言ってた。

『昔はなぁ~ちり紙がなかった時は新聞紙を揉んでケツふいてとんったじゃぞぉ~』あれに近いな・・。

 まぁ硬くてごわごわした紙を丁寧に揉んでから拭く。痔になったら最悪だと思っていい。まさに凶器だ。

 出来れば早急にティッシュペーパーカムヒァァ!と叫びたいよ。あれは便利だよ。

 でもあんなに流行っているのは日本ぐらいだと、アメリカ人のエミリーが言っていたので確かな情報かな?

 日本にいたらわからない世界基準!でもティッシュほしいぃ!


「さて!そろそろ皆出立するぞ!」


 色々騒ぎはあったけど、取りあえず今日の行程を進めよう!




 パーティは最後の6層に入った辺りから、雲行きが怪しくなってきた。

 その原因は、濃い魔素と明らかに別質の、魔獣出現によるものだ。


「お、おい!?これはどういうことだよ?」

「ちょ・・・やばくね?」

「これは・・・」


 リーダーの顔色が悪い。

 

「もしかして、王都でも地震とかあった?」


 僕の問いにリーダーは頷いた。


「3日前の朝方に、あった。でも大した揺れじゃなかったから・・」

「僕が来る前か・・」


 地震の規模はわからない。

 王都では何も問題なくてもこの辺の地下深くが震源地だった場合、大量の魔素が漏れ出す可能性はある。

 

「お、おれ・・気持ち悪く・・」


 ヒヨコが吐き出す。釣られて何人かがその場で吐き出した。

 魔素酔い。

 皆の顔色もよくない。

 だが、そんなときにまたも魔獣が現れた。こ、これは・・。

 僕の嫌いなゴッキーもどき巨大版!

しかもここに出るレベルじゃない!明らかに2段階上の魔獣だ。C+級。数の多さでB₋とさえ言われている。


「ひぃーーーー」

「ユーリ!逃げるな!手伝ってくれ!」

 

 リーダーに袖をひっぱられ、涙目になる。無理無理無理!

 魔素の影響じゃないけど、吐く!

 全身サボイボがぁぁっぁ!!


「倒すぞ!」

「無理だよ!向こうが見えないほどいるんだぞ?!」

「クロゥ、ビニー!魔法で・・」

「うげぇ~・・ダメ・・無理」

「お、俺も・・・」

「クソ!ユーリも加勢で、ここは突破する!」


 8名中、魔素酔いで倒れそうなのが3名。辛うじて立ってはいるが戦えるかどうかも怪しい2名。残りは必死で向かい合う。って!3名+僕?!

 僕も数に入れられてる?!リーダーそれは聞いてないぞ!

 

 キチキチキチキチ・・・・

 ギチギチギチギチギチギチ・・

 シャカシャカシャカシャカ・・・・・


 嫌な音を立ててる真っ黒な奴が洞窟の中にあふれている。数?

 数えるのも馬鹿らしいわ!て数えたくもないわぁぁぁ!!

 僕の背中の方がざわざわしてるよぉ!

いや、だから、こいつだけは無理!本っ気で無理!全力で無理!

 昔っから、こいつだけは駄目なんだよ!日本にいた頃から1匹見かけただけでも逃げ回っていたのに。なのに・・・。

 でかい!数多い!しかもアップが怖すぎます!!!!

 リーダー酷いよ!?なんで僕を押しだすの?!

 ・・・・・・やめてよぉぉ!!

 来んなぁぁ!こっち来るなぁぁぁ!!!!


「こ、こうなったら一気に燃やしてやるぅ」


 泣きながら火炎系風系複合「ファイアストーム!」いってまえ!ウラッァァ!

 詠唱?いらんわ!却下だ!そんな心の余裕あるわけないだろ?!

 遊びじゃないんだよ!!!!


 どわぁぁん!ゴワァァァーーーーー


「わわわわ」

「アッチャァァ!?」


 狭い洞窟内に 頭が割れそうな爆音と共に炎の渦が洞窟をなめ尽くす。

 ぜぇぜぇぜぇ・・・・。

 ザマーミロ!

但し・・。やり過ぎ感満載。


「こ・・呼吸がぁ~・・・」

「・・くるしい・・・」

「・・・・ユ~リィ~・・・」

「ごめんよぉ」


 皆一応に黒こげ!?いや。服や装備が煤だらけで顔も真っ黒。多少の火傷もあるし・・・うん。酸素もかなり消費しちゃったね・・てへ。

 悪かったよ。手加減っていうのを忘れてたよ!・・ゴッキーだったし。

 ここは僕のせいでもあるし、全員にハイヒールを配る。

 だが、僕のぶっ放した魔法のおかげで多少は魔素も薄まったらしい。酸素と共に。

 

「さて・・。拾いますね」

「俺も手伝うよ」


 くたばってる奴らをそのままにして、リーダー含めて全員で魔石を拾い集める。

 それにしてもすごい量だ・・。本当、いったい何匹居たんだよ!


「大きさも結構あるし質もよさそうだ。これはかなり金になるな・・」


 それはよかった。うんうん。だから帳消しと言うことで!


 このまま引き返すのもありだと思うのにリーダーはその選択をしなかった。

 魔素酔いで動けなくなった者を担いだり、背負ったりして、とにかく前へと進めて行った。


「6層からいきなり変わった。魔素の濃度も魔獣の質も。・・今ここはもうD1ダンジョンじゃない。どう見てもC1か・・・その上だ」

「分っているのならいいんだけど・・。リーダー達のレベルじゃきつすぎるよ。死ぬ気か?」


 あえて言わせてもらおう。無理だ。普通なら引き返す。


「ああ・・申し訳ないがユーリを当てにさせてもらってる。でも、こうなった以上調べなければいけない。ボスが何であるかを。第一、元からいたボスの素材の依頼が失敗かもしれないんだ」

「・・・分るけど」

「全く別物になった場合俺達の依頼は達成不可能な事案になるし。だからか。失敗するにしても理由が要るだろ?

 そこは調べておきたいし、それにダンジョンの変質はギルドに知らせる義務がある。D1じゃなくなるわけだから」

「はぁ~・・まぁ。確かにそうなんだけど、ね~・・」

「今だって力不足なのはわかっているし、こうして魔素酔いと言う犠牲も出ていて、実際動けるのは半数だしな」

「僕は攻撃参加しない約束だったのに」

「すまないな・・・頼りにしてるよ。その分色は付けとくからさ」


 僕はライトを浮かべながら皆の足元を照らす。

 ひよことアゴヒゲがリタイヤしてて、魔職は僕一人だし、今元気なのはリーダーとそばかす、もみあげ、おっさん、鶏冠と僕だけ。

 その内もみあげと鶏冠も大分酔っていてふらふらしていた。


「もうすぐだ・・」

「ああ・・」


 ライトで照らされた奥。

 そこにいたのは、本来居るべき大トカゲの更にでかいバージョンのドリューシィではなく、真っ白なオオサンショウウオの巨大版だった。


「なんだ・・あれは・・」


 すぐさま動けない5人を岩陰に降ろすと、僕達は茫然とそいつを見ていた。


うぉおおおおぉぉぉおおお・・・ん


「これは・・分るか?!」

「多分・・。ビオス・エチュピス・・」


 紙のように真っ白な顔色のおっさんが、噴き出る汗を撫でながら、呟く。

 ああ、僕も名ぐらい知ってる。出会ったことはないけど。

 魔獣の中でも異質な半水棲魔獣の代表格だ。

 しかぁも!全身ぬめぬめ~。目も真っ白で見えてないっぽい。半透明な白さが気持ち悪い!

 ああ、さっきのゴッキーとは別の意味で僕が苦手なものだ!

 ぬめぬめ~~ぬらぬら~~~・・・。

 しかも全身にまとっているオーラが濃い紫。

てか。こいつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ユニークじゃん!


「ユーリ、頼む!」

「えええええ?」


 何その眼、何で皆で僕を見るの?!

 またなの?また僕が倒すのかぁぁ?!・・いや、まぁそうなるだろうけど・・・。泣いてもいいですか。


「うう・・・キモイよぉ~・・」

「手伝うし!おい、俺達も行くぞ!」

「うっし!」

「・・おう」


 ある意味壮絶な戦いになった。

 僕はあいつの見た目が気持ち悪くて本領発揮できず、リーダー他は「剣が通らない!?」「矢が弾かれる!?」などなど攻撃が無効にされて、僕の魔法しかダメージが通らない。


「ちょ・・!」

「やばいぞその液!」

「フィルガード!」


 前衛に補助を入れておく。効果時間は10分!

 口から飛ばしてくる強酸性の粘液で辺りが焼け溶けて行く。

 


「サーチ。え?こいつ!4属性無効か!?」

「ユーリ!」

「分ってるって!」

「防御補助くれ!」

「でかっぱな、フィルガード!・・そばかす、ヒール!」

「でかっ鼻って、俺のことかよ!?」

「感謝!」

「コンセクレイション!サンダーエンチャント!」


 場が狭い故に大技は繰り出せない。ついでに火力はかなり控えめ。

 というか、最低ラインの出力維持・・。

 だってさ!とにかく狭い洞窟の中なんだよ、こんなところで落盤事故で死にたくないだろ?!

 ダンジョンでは高火力は命取りになるんだよね・・。

 ほんと。僕には鬼門。

 こう言うチマチマした攻撃は僕の方がストレスたまるって~。

 というか、一人で攻撃、防御補助、攻撃補助、回復って!?

 別の意味で僕が死ぬわ!!!!


「サンダーボルト!」

「次、当てる!」

「フィルガード!」

「うわぁ」

「・・ぐわっ」


 巨大な尻尾がぶんと勢いよく襲い、おっさんとそばかすが吹き飛んだ。

 変な液飛んできたぞぉ!ぬるぬる、きも!キモイわぁぁ!

 あ。マント溶けた!?


「待て。ヒール」

「回復より先に攻撃頼む!」

「わーってるって!チェーンライトニング!」


 ちょっとぉ~。リーダー持ちこたえてよ!盾持ちあんただけだろぉがぁぁ

 僕は即時攻撃の為に全て無詠唱!イメージだけで魔法陣展開!

 火力は最低に落としても速度では負けないぞっと!


「風だめ火だめ土だめ水だめ!クソ!ライトニングボルト!!」


 こいつ、マジうざい!なんだよぉ!これB₋?

 否。ユニークだ。見た目のレベルじゃ語れない!

 

「きた!ソニックウェーブだ!伏せろ!」

「うぎゃぁぁ」

「・・って・・・」

「ローイン一旦引け!ジント大丈夫か?!」

「回復!グランドホーリークロス!」


 ここで範囲全回復!

 こんだけ魔素が濃いから、杖の魔素は常にMAX。消費を気にせず魔法使えるから良いけど。しかし頭の方が疲れるわぁぁ。

 常に記憶から引っ張り出して直接使ってるからなぁ・・。

 頭の芯が痺れてきそう。


「助かる・・」

「ついでにサンダーボルト!」

「セバス、行くぞ!」

「・・連斬巌落し!」

「フィルガード!サンダーボルト!ライトニングアロー!」


 リーダー達はレベル差以上に「物理無効」でダメージすら与えられていないし。相手は上位範囲魔法まで撃ってくるし!


「速度落とさせる!ダークロード!」

「分った!おい!セバス、右から!」

「了!」

「サンダーボルト!エレクトリック・ディネーション!」

 

 ついでにもっと阻害系魔法でも掛けまくるか!

 天井への保護膜も張らないと。やることいっぱいで死ぬ~~

 

「リフトレイク!ダークリアネイド!」

「こっち向け!お前の相手は俺だ!」

「タゲ剥がし、ありがとー!ライトニングボルト!」

「おらおらおらぁぁ!」

「サンダーシャワー!」


 剣や斧、矢は当たってはいるのに・・。

 それでも、レベル差があるリーダー達も頑張ってる。

 粘って粘って。

 だから僕も腐らず、頑張ろう。


「サンダーボルト!サンダーチェイサー!」

「来るぞ!ソニック!」

「でやぁ~・・」

「ぐわ・・」

「グランドホーリークロス!しっかりして!」

「・・悪い」

「範囲内からすぐ引けるように動けよ!」


 さすがリーダーだ。動きながら周りにも気を配ってる。

だが。

 もうすでに1時間は経過してる。

 皆の息も切れ始めた。動きも悪くなってきてる。そろそろ限界だな。

 さて、畳みかけて終わりにしないと・・。

 それに相手も弱ってきている。

 

 まるで打ち合わせたかのように、全員が一斉に攻撃態勢に入った。


「くっそぉ!クライ!乱斬り!」

「速連射!ビーンアロー!」

「いくぞぉ岩斬り!石割!」


 突っ込んだリーダーの援護射撃に入る。

 出せるだけ出すぞ雷系多重魔法、行きます!


「サンダーボルト、ライトニング、サンダーシャワー!ライトニング!サンダーボルト!ライトニングアロー!サンダーウェーブ!サンダーチェイサー!チェーンライトニング!エレクトリック・ディネーション!!!」


 中級初級中級初級中級中級中級上位・・・・重ね技最大連射!!いっけー!




 派手な爆音と光の洪水によって、あの気味の悪い巨大オオサンショウウオもどきを倒した。

 元々ぬらぬらのぬるぬるが、べちょべちょのぐちゃぐちゃだ・・。

 と・・取りあえず。・・・・・・落盤注意だな・・。


「はぁはぁ・・・痛っ・。これってやばくね?・・はぁ、はぁ・・」

「ぜぇぜぇ・・」

「はぁ・・はぅ・・はぁはぁ。崩れそう・・てか?」」

「ぜぇ・・はぁ・・ぜぇ・・ぜぇ・・・石降って・・来るんだけど・・」

「・・た・・・倒せたぁぞぉぉぉ!」


 いや、もう・・何と言うか。

 こんなの嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



 こいつの魔核はGETした。僕のにしていいってさ。

 そして立ち上がることさえできないへたばった全員と共に、僕は記憶してあった転送魔法で王都西門前に飛んだ。

 

「助かったよ、転送までしてくれて」

「保険みたいなものです」


 そのままリーダーはダンジョンの変質の報告と今回請け負った依頼の不履行の報告にギルドに向かうことに。

 うむ。リーダーって本当、他の連中に比べて体力あるなぁ。

 僕はかき集めて持ってきてあった魔石の全てをリーダーに渡し、足腰すら立たなくなってる全員を宿まで送り届けることになった。

 それに比べてこいつら・・。僕より体力ないってどういうことですかぁ?


「ユーリが居て、本当に助かったよ」

「いえいえ~」

「あっと。1日早く終えてしまったが、3日分で依頼報酬はギルドに提出しておくから。後で受け取ってくれ」

「了解」

「魔石の儲けも人数割りするから。それも一緒に報酬に加算しておくよ」

「それはいいけど・・結構儲けたなら安い奴でいいからさ。余裕があるうちに『防壁紋章魔石』買っておいた方がいいですよ」

「うん。考慮しておくよ」


 まぁ、もらわない手もないか。疲れた体を引きずるように去っていくリーダーが、ふとこちらに振り返った。


「端数出たらクランに流れるけど・・いいか?」

「構わないです」

「感謝」


 今回は本気で疲れたわ。

 やっぱ、真面目に働くもんじゃないねぇ~・・・。

 引きこもりのニートには辛いもんがあるわぁぁ。

あ・・。確かパーティ中に考えたいことがあったんじゃなかったか?

 くわ!そんな暇なかったわ!!!!


「ほら、みんな!立って!立って歩く!目の前は王都だ!もうすぐ宿だ!」

「え~・・・無理・・」

「・・動けない」

「俺。このまま地べたで寝ていたい・・・」

「・・頼む、運んで。大魔導師様ぁぁ・・・」

「門兵がこっち見てるだろうが!甘えたことぬかすんじゃないよ!」

「・・宿まで、転送よろしこ・・」

「おまえらぁぁ!」


 こいつらの上に上級ライトニングシャワーEXぶち込んでいいですかぁぁ!?


 僕だって早くお城で休みたいわ!

 

 明日はメレシア行かなきゃなんだぞ。

 だってほら!怖い騎士のおっさんが・・・・。

 ・・・おっさんが・・。


 何故か西門横に騎士のおっさんが立っていた。

 これはやっぱり・・僕の監視とか?

 しかもにやにや笑って見てるし。


「大変ですなぁ大魔導師さまも。~子守りですかね?」



おい!!!騎士のおっさん。

 そこで笑って見てるんなら、手伝ってよ!

 





「はぁ~・・・体中痛ぇ~・・」


 とってあった宿の部屋で4人がぐったりと倒れ込んでいる。隣の部屋も多分同じだだろう。


「ジント。おまえさぁ~、ユーリにそばかすって言われてたよなぁ?」

「なんだよ!タイラーお前なんかでかっ鼻って言われてたじゃねぇかよ」

「あれは、なんか、自分でも笑えた」

「あはははは」

「・・・誰も名前で呼ばれたことないんかぃ!」

「だな・・」


 そのときドアが開き、やっと戻ってきたケリーが、皆の前で呆れたように笑う。


「お前らぁ~・・いつまでそうしてるんだよ?俺は一仕事してきたっていうのに・・」

「だって~しんどいんだよ・・なぁ?」

「そそ。まだ魔素酔いも残っちゃってるしさ・・」

「もしかして全員ユーリが運んでくれたのか?」

「・・・・・・・・・・・・・いや・・・王軍騎士団に・・」

「はぁ?!」

「だってユーリが『おっさん!頼む!』って。俺らが頼んだわけじゃないぞ?」

「うんうん。王軍に頼めるなんて普通できるわけないじゃん・・・」

「・・・・・・・・・・・」


 ケリーは少し頭を抱えた。

 あの大魔導師様ならやりかねない。きっとあの時西門で立っていた王軍黄竜フォレッカ閣下に「手伝って!」とか、云ったのだろう。

 自分がユーリに頼んだのがいけなかったのだ・・。


「まぁ仕方がないか。あっと、それで今回の依頼だけど中の様子が変わってしまってて不履行になった」

「マジかよ・・・」

「うへぇ~・・・。ポイント引かれる」


 皆一応に嫌そうな顔を浮かべているが、そこは仕方がないことだ。


「今回はこっちの不手際じゃないので、違約の件は今んところ保留になってる。ギルドの方で、調査隊が入ることになったから、その結果次第になるそうだ」

「・・・はぁ・・よかった」

「なるほど~・・」

「それと、魔石を売っぱらってきたぞ。全部で何と3240万ファルになった!」

「おおお!マジ?!」

「すっげ~~!」


 疲れた顔ながら、3人の表情が明るい。


「それで、ユーリの忠告通りに『防壁紋章魔石』購入したんで、残金40万ファルで9人で分けるから・・・」

「・・・・・え?」

「えええ?」

「マジ?!」


 ケリーは3人の顔をゆっくり見廻しながら、頷いた。


「すまんね~・・。一人4万ファルね!」


 全員がっくりベットに顔を伏せていた。


「まぁその分!更に残る4万で飲み明かし大いに食べようじゃないか!!!!」

「・・・・うん、そだね~」

「ああ・・・でも俺装備買い直さないとだめだから・・」

「おれも・・」

「お前らノリ悪いなぁ~・・」

 

 ケリーも空いてるベットに座り込んだ。そうして自分がどれだけ疲れているのか思い知る。一回座ってしまうと、もう立ち上がることさえ億劫になりそうだった。


「あ、そだ!まだ食い物残ってたよな?3日分だったし」

「ああ!俺もそれでいいよ。下まで行く元気もないわぁ~・・」

「腹は減ったがだるすぎ~・・」

「・・・・・あ。ユーリが持ってる、よな?」

「ケリー、お前リーダー何だし、連れてこいよ。飯、俺らのもんだしさぁ~・・」

「ああ・・そうか。うん。行ってくる」


 重くなった腰をケリーは何とかベットからひきはがすと、ずるずると歩き出す。積りに積もった疲れのせいで、全身泥のようだ。


「もぉ、俺。リーダーなんてやりたかねぇ~・・・・」


 ところでユーリはどこにいるのだろうか?

 えっと。どこに・・・。


「ああああああああああああ!王城じゃないかっぁぁぁ!」





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