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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
8/23

賢者がポーター 1

 本来ならここで一人でうろうろしたいところだが、何故か依頼者であるリーダーのお兄さんが一緒なのだ。

 何でもお勧めのお店でご飯を奢ってくれるらしい。


 別にお金に困ってないし、その気になれば王城で食わせてもらえるんだが、ま、いいか。

 だって「界隈で1,2を争う旨い店」と言われちゃったんだもん。

 やっぱ気になるじゃないですかぁぁ~。

 基本引きこもりでニートですが、やはり旨い物には目がないと言いますか。やっぱおいしいは正義!ですよね。

 

 と、云うわけで、リーダーのお兄さんと一緒に道を歩いていたら、前方から物凄い勢いで走ってくる人物がいる。

 あのキンキラキンの鎧を付け、派手すぎる真っ赤なマントをバタバタさせて。

 ゲ・・・・騎士のおっさんだ!


 思わず、回れ右!


「待てぇ!逃げるな!貴様ぁぁぁ!!!」


 ひぃーーヤバイヤバイヤバイヤバイ・・

 凄い形相だ。めちゃくちゃ怒ってる!怖い、怖すぎる!

 

 夕方の大通りでリーダーのお兄さんと逃避行。

 待てと言われて待つバカ、いないぞっと!

 意味がわからんがどうせ勇者の件に決まっている。

 あ・・・・そう言えば・・・昼過ぎ出立とか、なんとか・・・

 失念してたわぁぁぁ!

 リーダーのお兄さんも急いで!



「何か、やったのか?ユーリ!?」

「い、いや・・。やってない、から、逃げるんだよ!」

「やってない???でも、相手は王軍の騎士だぞ?!」

「立ち止まったら、だめだ!お兄さん!」

「おにい・・・いや、いいけど?!」

「じゃぁ、リーダー!」

「お、おぅ!」


 僕は、お兄さん改めリーダーの腕を引っ張って、とにかく逃げる!

 

 ちょっと道開けてーーー

 邪魔だよ!そこのおばさん!


「待たんかぁぁぁぁ!!!」

「うわぁっぁぁ」


 不覚だ!

 後ろ襟を掴まれて、僕は捕まってしまった。


「ううう・・・」

 

 思わず宙に浮く足をじたばたさせて、足掻いてみる。

 離せ!離してくれーー。


「この小僧は!いや、違った。大魔導師様は!!」


 下に降ろされて、上から覆いかぶさるように僕を睨みつける。しかも、丸太のような両腕で羽交い絞めされて。

 うおぉぉ・・騎士のおっさん、お前臭いよ!暑苦しいよ!

 全身から蒸気が立ってて、ちょー汗臭い。

 おい、加齢臭の騎士のおっさん!お前臭いわ、鼻が曲がる!既に凶器だ、その悪臭!


「昼過ぎからずーーーーーっと!貴様を探して俺たちは王都内を走り回っていたんだぞ!いや、お探ししておりましたぞ!」

「一々言い直さなくてもいいのに・・」

「そうですか!では遠慮なく!今の今までどこ行ってやがったぁ!えええ?!朝方出かけたっていうから、待ってたんだが、一向に戻ってくる気配ないし!俺たちは1000人体制でずっと!探しまわってたんだぞ!」

「どこっていろいろとですね~」

「神妙な顔しても俺は騙されんぞ!クソ賢者め!年寄りのくせしてちょろちょろしやがって!!」

「・・ひど・・・」


 思わず涙ぐんでしまう、僕。

 何もそこまで罵倒しなくていいじゃないか。

 あ・・それにしても臭いよ。しかも痛いよ、少し腕を緩めろって!

 僕を殺す気かぁぁ

 死なないけどね、残念なことに死なないけどね!

 でも苦しいものは苦しんだよ!


「あ・・あの・・・」

「何だ貴様は!」

「え・・あ・・冒険者でケリー・サイラントと言います。貴方は黄竜将軍フォレッカ閣下でいらっしゃいますよね?」

「ああ、そうだとも!王の勅命により、今はこいつのお目付け役で護衛を任されている!本当にとんでもない大魔導師だよ!んで貴様は、こいつの知り合いなのか?!」

「えっと・・・」

 

 リーダーが僕を見てきた。僕は必死に首を縦に振る。

 そうだと言えぇ!


「そ・・そうです」

「ほぉ!こんな引きこもりのこいつに知り合いねぇ」

「煩い、僕だって友の一人や二人・・」

「で、今まで何やってたんだ?釈明とやらがあれば聞こうか?!」

「う・・。だから紋章師と冒険者の証明証をもらいにだね~・・」

「貴様にそんなものが必要だとは知らなかったな!」

「いるに決まってるじゃん。僕だってある程度お金は必要だし!おいしいもの食べたいじゃん!」

「それでーー?今日の昼過ぎにメレシア聖国への出立が、ライアット国王陛下より言い渡されていたはずだが?!それを知らなかったとは言わせんぞ!」

「いやぁ~、ほら。別に大挙して馬車で行くこともないと思ってね」

「ああん?」


 怖いよ、何その眼、何でそんなに睨むんだよ。


「だからね。僕なら一瞬で行けちゃうから、馬車なんていらないし」

「・・・・・・何故それは早く言わん!!!」

「えっとぉ~・・あれ?言ってなかったっけ?」


 ボケてみる。ポケポッポ~~

 あ。リーダーも少し目を離したすきに、呆けていた。

 僕よりうまいじゃないか・・・。


「では早速、メレシア聖国の大神殿まで飛んで頂きましょうかね!」

 

『何なら俺が投げてやってもいいぞ』と三白眼が脅迫してきている。

 まだ、星になりたくないです。


「すでに、向こうではかなり混乱しているようですし、何度も何度も早く来てくれと要請が入っております!」

「いやぁ~でも馬車なら急いでも10日かかるんだよ?」

「・・・・・・それで?」

「だから、後9日遊んでても平気かなぁ~・・・とか」

「腐れ外道がぁぁぁ!!!」


 ぎゃぁぁぁ~~~!!!!

 ギブギブ!!

 ほねがぎしぎしいってるってばぁぁぁ

 血流が止まってる!うわぁ~~~~~~~~~・・


「あの・・」


 お。何とか立ち直ったんだね、リーダー。さすがリーダー。


「なんだ」

「その、実はユーリ君と明日から3日間、依頼でダンジョンに入る予定を入れてありまして・・」

「おい、本当か!?」

「はい、仕事入れちゃいましたぁぁ。だから痛いって、離してよぉ」

「・・キャンセルしろ!」

「そ、それは・・」


 うん、確かに出来ないことはない。契約不履行になるだけで・・。

 でもリーダー、そこは踏ん張るんだ。僕を締め付け地獄から救い出してくれ!

 って、僕を見るわけ?なんで?今の僕に何とか出来ることなんてないと思うぞ。

 くっそぉーーー


「騎士のおっさん!」

「なんだ?」


 はい、怖いです・・。


「僕は請け負った仕事は必ずやる!だから、今回のギルドの仕事もやる」

「ふざけたことを言うな!大体、メレシアの依頼すら逃げ回っている癖に!」

「別に行かないと言ってないだろうが!行くよ、行きますよ!まだ時間があるって言ってるだけじゃないかぁぁ」

「よし、絶対にその仕事が終わったら、行ってもらうからな!」

「分ってるって・・」


 やれやれ。何とか解放された。

 それにしてもとんでもない馬鹿力のおっさんだ。いい年こいて・・。

 絶対痣になってるよ、これ。自分でなおしとこ。

{ヒール)

 げ、ほんわり光ってしまった。ばれた?!


「あ・・あの・・」

 

 うわ。リーダーが完全に委縮してしまっているじゃないか。

 しかも僕を見る目つきが一気に変わってるし。

 

「美味しいご飯、まだ?」

「え?あ、い、行きますよ」


 さて。気を取り直してご飯を食べに行こう。・・おっさん、付いてくるなよ。目立つし、うざいよ。


「目を離すと、どこへ行くか分らんのでな」

「・・・なんか色々酷いこと言ってませんか?」

「信用に値しないから、貴様は」

「でも、騎士のおっさん。汗臭いっていうか。加齢臭酷いから」


 僕が言うと、さすがに顔を真っ赤にして騎士のおっさんは自分を嗅ぎだした。


「酷く臭うか?」

「ええ・・まぁ・・」


 困ったように相槌打つリーダーの顔も笑顔が引きつっている。

 ほらみろ!僕だけじゃなかったんだよ、その臭い!


「・・・・・・いいか。食い終えたら城に戻ってくるんだぞ!いいな!」

「了解~」


 はい、焦って立ち去る騎士のおっさん。ようやくここで退場だ。

 しかし相変わらず存在感半端じゃないね。暑苦しいわ、本当。


「はぁ~、なんか御免なさい」

「い、いえいえ」


 旨いお店まで、微妙な沈黙が続いた。





 リーダーに連れて来てもらった店内は夕食時間と言うこともあってか、混雑していた。

 ただ、程よい喧騒。楽しげな雰囲気。

 うん。お勧めなだけあって、いい感じのお店だ。

 しかもテーブルに並ぶ料理もなかなか美味である。

 特に、僕はこのリゾットが気に入ったぞ!


「あの。いい・・ですか?」

「何です?」


 僕の前で、リーダーが借りて来て猫みたいになってて、食もあまり進んでいないようだ。折角おいしそうな唐揚げなのに。冷めたら旨さ半減するぞ?

 まァ・・あれだ。

 さっき、暴走した騎士のおっさんのせいで僕の身元がばれちゃってるしなぁ。本当、いらん事してくれたよ。


「ユーリ、様は、その。大魔導師って・・あれですか?英雄の・・」

「まぁ、そんな感じですかね」

「・・」

「あ。あまり気にしなくていいですよ。冒険者ニューピーなのは事実ですから」

「ですが、そのような大魔導師様が初心者扱いで荷物持ちなど・・」

「逆逆!僕だからこのポーチがあって、僕だから荷物をいっぱい持ち運べるんだよ」

「・・」


 目が信じてないわ。

 面倒だなぁ~・・。


「僕は皆の荷物は持つけど、攻撃参加はしないからね」

「・・・」

「君たちのレベルにあったダンジョン依頼ですよね?僕が手を出していいわけがないし。そんなのつまらないじゃないですか」

「そうですが・・」


 今でこそ冒険者としては新人だが。

 昔のランクは確か最後の記憶ではSS+だったからね。うん・・魔王と同格・・・・。

 実は『俺(勇者)いらないんじゃねぇの?』って言われたし。

 誰とは言わないが・・。

 でもそこは防御紙な魔導師だし。


 く・・苦い思い出だ・・・。

 

 ほら。

 しっかり食えよ!手が止まってますよ?

 僕もだった!テヘ


「それと僕の素性は皆さんには内緒にしてくださいね」

「・・はい」

「要らぬ混乱と騒ぎは僕の望まないことですから」

「助かります」

「後!これ大事!さっきまでの態度と言葉使いに戻してください」

「あ・・ああ。そ、そだね」

「うんうん。せっかく内緒にしてても、リーダーがそんなんじゃばれちゃうじゃないですかぁ」

「ああ~まったくだ」


 苦笑い浮かべてるけど、これだけ念を押したら大丈夫だろう。


「ご馳走様でしたぁ~」


 僕は両手を合わせて軽くお辞儀をして、食後のお茶を飲んだ。


「そろそろ戻りますね。あんまりゆっくりしてると、あのおっさんがまた血相変えて乱入してくるかもしれないし~。それも風呂上がりでコロン振りまくった、別の意味で臭い人が!」

「あはははは・・・」


 僕はまだ食べ切っていないリーダーを残して、城に戻ることにした。

 明日は朝一で、5000年振りのPT狩りだ。頑張らなくっちゃだな。

 

 ところで、騎士のおっさんと王宮の廊下で出会った。風呂入って着替えて、想像通りコロンでぷんぷんしていたよ。






 翌朝。

 怠惰な自分がこんなに朝早く起きれるとは思わなかったが、なんとかなった。

 しかし夕べ城に戻ったら、何故か無理やり王様の前に連れて行かれてしまい、更に王様に一応事情を話すことに。勿論、王様は納得いかない顔を浮かべていたが、それでも承諾は得たので大丈夫だろう。

 本当、やれやれである。

 きっとあの裏には騎士のおっさんの陰謀があったに違いない。

 取りあえず、お仕事終えたら、メレシア聖国に飛ぶ。そこは決定だ。



 で、なぜこんな風に無理でも冒険者ギルドの依頼を優先したのか。

 実はPTと言う雰囲気の中で、思考の整理をしたかったからだ。

 

 朝ごはんをもらいながら、僕は今までの一連の出来事から、ある仮説について考察しよう。


「いただきま~す」


 もぐもぐ。

 ・・・・さすがに旨いな・・。

 僕、クロワッサン風のパンの方が好きだな!


 やっぱ、ここでいっぱいお弁当用意してもらって正解だな。

 うん。だって3日分だし!

 みんなの分の、ちょっとしたおやつ系も作ってもらったし。お茶もポットごと入れたし!ついでにシチュー鍋も突っ込んだし!

 さすが王宮お抱え料理人。食材の良さもシェフの腕も超一流!

 ブル(牛に似た)の香味焼きは絶品だしな!

・・・あれ?3食支給だったっけ?!

「ま。いいか~・・」

 細かいことは気にしない。

 あ・・タルトもお願いしたかったなぁ~・・・。



 少し時間あるな。

 お茶しながら・・・。

 いい加減、頭を切り替えろ、自分!



 風が静かに流れている。

 葉擦れの音、鳥のさえずり。

 僕は思考の中に、漂い始める。



「この世界の人の歴史は、既に二万年以上・・・」


 そしてその間も魔素による被害があった。

 当然、魔獣やそれ以上の存在である魔王の出現などもあったはずだ。


 ところがそれによって文明が大きく損なわれたのは7400年前の一度きり。そう、古文書や遺跡を探しまくって調べたが、その時だけだ。魔王が暴れて村や町、多数の国が消滅して大地の半分近くが焦土化したのは。

 これに比べたら、他はあっても小さなものだしな。

 ただ、この記憶が皆さんには強く残っているわけで・・・。


  これは僕が生まれる約700年前の話だ。

 しかも、そんな凶悪な魔王を誰かが倒したわけでもないのに、いきなり歴史上から姿を消しているのである。

 大体、国すら消すような化け物相手に、人が倒せるわけがなく。

 だから、あれだ。

 魔核の暴走。魔王の消滅。

 放っておけば勝手に自爆するんだ。

 だが、残念なことに・・・・・。

 それを僕が知ったのは、1000年前の4番目の勇者エミリーによってだ。

 本当に自分が情けない・・。




それなのに。

 今からおよそ5000年前。女神が人類に『究極・召喚魔法紋章陣』を与えた。

 では何故、異世界から勇者を呼び寄せなければならなかったのか・・。

 魔王なんて、放っておいても勝手に消える存在なのに・・。


 ならば。女神の意図はどこにある?

 

 一回目の勇者リョウヤは僕たちと共に闘って・・・僕だけが生き残った。

ああ。そうさ。

 僕が魔王の在り様をその時知っていれば、彼は死ななくてもよかったのだ。

 それがあるから、僕の疑念は晴れない。



 表の理由づけではない、もっと別の意図があるだろうと。


 何より加護が・・・僕に教えてくる。


「女神の加護は『探究者』」


 僕は探究者の加護を持って、考える。

 考える。考える。

 あらゆる事象を見、自身の体感を信じ、思考し、熟考を重ねる。




 そして僕にはもう一つの加護がある。

 普通には絶対にないことだ。

 加護は女神が与える、唯一無二の存在だから。

 しかも必ず一人に一つだけの不文律がある。


ではこれは何だ?!何故、僕にだけ・・・・こんなものがあるのだ?


   誰とも知らぬ神からの加護。


     ~『監視者』~


 僕がその存在に気付いた時、加護が僕に与えたのが「不死不老」なのだ。

 しかもそれだけだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を、監視しろと?

 意味がわからん。なんだこの加護!



 そう、あの日までは。

 訳のわからない加護でしかなったのに。

 リョウヤが残したモノを手に取った瞬間、追加事項が現れたのだ。


     『女神を監視する者』


 ただの召喚じゃない。裏がある。だから追加が現れたのだ。きっとそうだ。


 見落としはないか? まだどこかに穴はないか?

 だからもっと考えろ。

 答えは、もう手に届くところにある。




「ふぅ~ご馳走様でしたぁ」


 さて、行くか。



 

 7時の鐘が鳴る前に、僕は指定されてた西門の前にいた。

 そして僕の傍にはリーダーがいて、目の前に7人の男たちが思うままの姿勢で立ってたり座ってたりしている。


「今回のポーター役のユーリ君だ」

「よろしくお願いします」

 

 みんなの視線を一身に浴び、すごく緊張してしまう。お辞儀もなんだかぎこちなくなってしまった。

 さすが今まで引きこもりしていただけのことはあるなぁ。


「おい、大丈夫か?こんなひ弱そうなやつで?」

 そばかす凄いな。そばかす決定。

「ケリーが選んできたんだから大丈夫じゃね?あ、俺ビニー」

 アゴヒゲ君か・・。

「タイラーだ。よろしくぅ~、チビっこ」

 うわ。すごいでかっ鼻。

「初々しいね、君、初心者?俺はクロゥだ、よろしくな」

 ひよこみたいな頭だな。触ってみたい。

「セバスだ」

 うん、君いくつなんだよ?おっさんにしか見えないよ。

「ローインっていう。頼むよ」

 凄い頭してんなぁ~・・パンク系?!鶏冠だな!

「ん・・。キース」

 モミアゲ立派。


 こうして見ると。

 今からダンジョンに行くというのに、なんかピリっとしない連中だな。

 しかも僕を胡乱気に見てくる。そこはわからないでもないな。


「個性豊かだろ?」

「そうですね。あっと、皆さん、荷物あったら僕が引き受けますので」


 もう一度頭を下げると凄い音と共に、足元にはバックやら装備やらが山のように置かれた。


「おい」


 僕の肩を叩きながら、にやにや笑う背の高いソバカス面が迫ってくる。


「持てんのか、この量」

「ジント。やめろ」


 リーダーが止めに入ったが、ここは僕が乗り出すべきだろう。

 それにしてもすごいそばかす。顔中そばかす。


「平気ですよ。ではしまっておきますね」


 ポーチの中にどんどん入れて行く。

 さぁどんどん入れちゃえ!


「はぁ?」

「何だそれ!?」

「・・・おいおい・・」

「どうなってんだ?」


 その驚いた顔が見たかった。


「これですか?レジェンド級魔法具マジックバックですよ」

「「「「なにーー?!」」」」」

「これ、中の時間が止まっているので、いつでも暖かい物は温かいまま食べれますし、食品の鮮度も保ったままになるんです。便利でしょ?」

「どこで買った?俺もほしいわ!」

「こらぁ~皆、待ってって。ユーリ君が困ってるだろ」

「リーダー、大丈夫です。それと。これはどこにも売ってませんよ」


 僕の目の前もやっとすっきりした。全部ポーチに突っ込んじゃったからね。さすが僕作。自画自賛。


「えええ?」

「持ち主を限定する『特殊魔法』で作られてますから」

「・・・何だってお前がそんなの持っているんだ?」


 当然な疑問ですよね。


「内緒です」


 ふふふ。悩め悩め、若人たちよ。


「はいはいはい!皆俺の方向いてくれ!」


 何とかリーダーが皆の視線を僕からはがしてくれた。この人、マジいい人だ。


「ユーリ君が言ってくれたように、食い物の鮮度が全く変化しないという話なので、皆3日分の好きな食べ物、買ってきてもいいよ。もう早い露店は出ているころだから。8時にはここに集合!時間厳守で!」

「よっしゃーーー!俺、肉揚げサンド買ってくらぁぁ!」

「俺は何にしようかなぁ~」


 いきなり皆の態度が変わり、早々に露店を探しに歩き出した。

 食い物からむと気分が一新しちゃうんだね。

 現金なものだ。


「おい、小僧。汁物でも平気か?」

「器に入っていれば平気ですよ」

「わかった」


 汁物ね~。何持ってくることやら。

 僕が呆れたように見送っていると、リーダーが苦笑いを浮かべていた。


「ダンジョン入るとずっと旨くもない保存食しか食えないからね。だから今回はユーリ君のおかげで食改善されるからうれしいんだろうね」

「分りますよ、前もそうだったし」

「前?」

「勇者PTです」

「・・・・・・・・・生きた歴史だぁ・・」


 変に感動しているよ、リーダー。そして耳打ちをしてくる。


「初代勇者リョウヤ様って、何が好きだった?」

「そりゃ~ミュース!」

「・・・食い物じゃないし・・」


 微妙な表情浮かべているリーダーに僕は思わず笑ってしまった。


「俺も買い出ししてくる。あっと、好き嫌いあるか?」

「ないです。ではいってらっしゃ~い」


 どうやらリーダーが僕も分まで用意してくれるらしい・・。

 参ったなぁ~ダブるじゃないかぁぁ~・・。

「ま。いいか」

 腐るもんじゃないしな。

 さて、ポーチの中から王城の食堂でもらってきたパウンドケーキとお茶にして寛いでいよう。

 



 そして8時前。

 皆それぞれ自分の好きなものを買い込んで来て、それらをポーチにしまう僕をじっと観察している。

 そうやってきちんと並ぶ様は案外可愛い。


「これ俺のだからな」

「はいはい」

「俺の、間違えないでくれよ」

「はいはい」

「これとこれとこれもお願い!」

「はいはい・・」


 凄い量だな、おい!僕じゃなかったら絶対不可能じゃないのか?


「では出発する!目指すは北西27キロ地点にある『F-103ダンジョンD1』通称『夜啼鳥の洞窟』。目的は第6層ボスの素材『ドリューシの背皮』!」

「おおー!」


 僕は皆の後をついていく。

 一応僕の獲物の杖を手にしている。何せ手ぶらだと格好つかないというか。そんな感じ?

 でも、大層な魔核が目立つので、新人にしては怪しすぎるかもね。

 特にあごひげとひよこがぎょっとしてた。腰に挿してある短杖からして二人は魔法使いだ。

 ばれたかな?まぁ今更感あるよな・・。ポーチで。

 リーダーがチラリと僕に視線を送ってよこした。

 大丈夫。問題ない。


 西門を出た辺りで、僕は皆のじゃれあう後姿を見ながら、こっそり、口の中で詠唱を始めた。

 トンと杖で地面を叩き転移紋章を展開させ、その淡い紫光が一瞬僕の足元を照らす。

 

 さて。ここに記憶を作った。

 これで帰りはテレポ移動で、君たちを楽させてあげよう。

 僕から、PTに入れてもらったお礼でもあるから、ね。リーダー君。





 そろそろ昼過ぎ。

 馬車の手配やら何やらで朝からごった返していたが、一応腹ごなしも済ませて、グレイルはイライラしながら待っていた。


「大丈夫ですよ、きっと」

「だといいがな!城門の門番には『小汚い小僧が来たら俺に知らせろ』とは伝えてあるし、な!」

「・・・敬意すら、捨てたんですね」

「あんな奴に必要あるのか?!」


 グレイルは傍で佇むエルナンドを睨みつける。とんだとばっちりだ。


「まぁ、ほら。久方ぶりにおいでになられたんですから、街の中を見て回りたいのは仕方がないことでしょう?」

「そう言って外出したと聞いている。しかもすぐ戻ると」

「だったらすぐ戻ってきますよ」

「・・・・・・・・」


 もうすでにユーリ大魔導師に対する信用度が限りなく底辺を這いずってるグレイルにしてみたら、エルナンドの言い分は甘いのだろう。

 それも貴族の婦女子が好む砂糖菓子のような甘さだ。


「14時までは大目に見てやるつもりでいる。俺も鬼じゃない」

「そ、そうですか」


 思わずエルナンドの頬が引きつる。そのつもりなら何故、貧乏ゆすりをしているんだ?などと、火に油を注ぐようなことは言えない。

 怖すぎる。


 はぁ・・。

 エルナンドは見えないようにこっそり溜め息をついた。


(それにしても、会見の間で我が王に言われたこと、覚えているんだろうか?あの大魔導師さまは)


 見た目に反して、ボケが入ったかのようなあの御仁。

  

 出立の支度が一段落した周りは、いきなり呑気なムードを漂わせる。

 肝心要な大魔導師がいないんじゃ・・。


「良い天気ですね」

「・・・ああ!」


 この空気。どうすればいいんだ・・。





「一向に!帰ってこんではないかぁぁぁ!!!!」


 ついにグレイルが切れた。

 一応、14時まではきっちり待ったし、ずっと貧乏揺すりはしていたが必死に耐えていたと思われる。


 だが14時の鐘が鳴りだすと、開口一番、雄叫びを張り上げた。

 呑気にお茶している場合ではない。さすがにエルナンドも腰を上げた。


「まだ帰ってきませんね」

「だから信用ならんと言ったではないか!あの小僧!!!いったいどこで何してやがるんだぁぁ!」

「まぁまぁ・・」


 肩で息するグレイルを宥めるものの、これは収まらないだろうとエルナンドの笑みが深まる。


「おい!全員ここに整列!」

 

 豪奢な馬車が乗せるべき主をひたすら待つその大広場で、グレイル・フォン・フォレッカ上級大将の声が響き渡る。

 その眼下には王軍黄竜騎士師団の面々が並び立つ。


「貴様らに伝える!いいか!かの『小汚いガキ』大魔導師様を何としてでも探し出せ!発見したら捕り押さえろ!逃げ出そうものなら無理にでも踏ん縛って、簀巻きにして連れて来い!!!絶対に逃がすんじゃないぞ!!」

「「「「はは」」」」

「散開!」


 こうして、大魔導師ユーリの大捜索が始まった。その扱いはすでに犯罪者であるかのようである。

 確か国王の賓客ではなかっただろうか?

 更に言えば、世界の英雄。国救の先駆者。最強の大魔導師。

 ・・・我儘気ままな、お子様。

 はたまた、記憶障害を持つボケかましの、御老体・・・・。



「俺も出る!貴様はここで番をしていろ!もし、あの小僧が勝手に戻ってきたら首根っこ押えておけよ!そして絶対に離すな!」

「・・はいはい・・」

「返事は一回だ!」

「はい!」


 物凄い勢いで走り去る後姿を見送りながら、エルナンドは深いふか~い溜め息をついた。



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