賢者とギルド
ましまろ節炸裂!(自分的に@@w
笑ってGOGO!
「あ・・。考えたら、何も今日明日メレシアに向かわなくたっていいんじゃなかった?ですよね~」
国家間通信魔石で位置確定、テレポで一瞬!
しかも、馬車なら最長2週間、最短で10日かかるわけだし。
だったら10日までギリで遊んでられる。
そう言う前提で街に繰り出して来たの忘れてたよ!
駄目だなぁ~最近の僕は。時々必要なことすら、ポッと欠落しちゃうんだから・・。
うん、そうだね。
のんびり出来るな。
さて~。夕方までまだまだ時間ありそうだし~。
今度はどの辺見て回ろうか。
げ、またゴミが足元に絡みついた。
もぅ!邪魔だなぁ・・。
「お花いかがですかぁ?窓辺や食卓に綺麗なお花を飾りませんかぁ~」
花はいらんよ、お嬢さん。
家の中はきれいに飾っても、外はこれだから!
また何か踏んだし・・・。
あ・・。
君の背後に、何故か冒険者ギルドの、風にたなびく巨大な旗が見えてしまった。
なんだよ・・あの無駄にゴージャスなでかい旗は!?
そうだ!ギルドカード!
これは作り直しでいいのか?いや・・更新なんてシステムなかったよなぁ。
これは・・・もしかしなくても最初からになってしまうのかな?
「おお・・。もしかして初心者君になっちゃったり?」
それはそれで面白いかも!
どうせ頻繁に使うわけじゃないし、ただの「身分証明」みたいな運転免許証と同じ意味で持ってるだけだし。
あれ?
昔のクラスはどうだったっけ?
一応取り出して確認。
うん!劣化が酷過ぎて何の情報も分らん!
つい最近も確かめた記憶が・・。
さて、行くか!
「・・・・・・・」
思わず、立ち止って、ギルド会館を見上げてしまった。
王都にあるからにはここが国内の中心ギルドだろう。
まぁ、本当の冒険者ギルド「総本部」は確か、ビスティール王国のはずだ。今でもその王国があれば・・。
しかしまぁ~・・何というか。
無駄にでかいし~。建物立派だしぃ~。しかも新しいし!
大体、石造りの3階建てって。そこまで大きくする意味あるの?
それに彫刻やらなんやら施した白亜の、どこかの博物館みたいなこの建物って、本当に冒険者ギルドなの?!
うん、そだね。
キンキラキンの刺繍施したでっかい旗が「ギルド紋章」だよね。
・・・・・・・趣味悪い・・・・。
誰だよ!冒険者ギルドをこんな風にした奴は!
前のどこかの町のギルドは普通だったじゃないかぁぁ!!
入って右側に受付と買い取りのカウンターがあって、左側に、ああ、片付けられてたけど、休憩所があって。その壁には依頼の掲示板が張り出してあった、あれだよ!
程よく痛んだ床や壁、古いけど趣のある作り。
いかにも年季の入ったギルドらしい風格さえ漂っていた、あれだよ。
なのに、ここは何?!
「ま・・いいか・・」
めちゃくちゃ広い石段登って、無駄に大きく開かれたドアを通り過ぎて中に足を踏み入れた。気分はすっかり大英博物館だな。
そして中は・・・・。
ここ、市役所ですかぁぁ?
いやぁ~なにこれ。ありんわぁぁ~・・。
思わず脱力してしまう。こう言うのを「開いた口が塞がらない」と言うべきか。
呆然と立ち尽くしてる僕は、前後の人の流れにどうやら逆らってしまったらしい。
「おっと」
「こんなところで立ち止まらないで」
「・・何こいつ~」
「チ・・田舎もんが」
赦して。
だって本気で「何だここ!?」と思っちゃったんだもん。
大きな窓がいくつも並び、明るい館内。
きちんと清掃されてる清潔感。
左側の休憩所がサロンのような喫茶室になってるし。その仕切りが掲示板ね。なるほど~・・・。
右側にはずっと奥まで真っ直ぐカウンターが続いてて、頭上には「総合案内所」「新規受け付け①」「依頼発行手続き②」「依頼受け付③」・・・・と、延々と番号付き看板がぶら下がってらっしゃる。
まぁ右手奥は「買い取り窓口」なんだけど。文字の色も違うし。
L字型巨大カウンターと言うべきだろうか。
そのカウンターの奥には、大勢の職員が帳簿付けやら何やらで忙しそうにお仕事してる。
・・・・・・・・市役所?!
で。カウンター前には柱を挟んで長椅子がきちんと並べられており、みんな大人しく座って待っている。年季の入った軽鎧を纏い、わざと怪我の後を残した強面なむさくて厳つい兄ちゃん達がずらぁぁ~~~っと。
通路には、その腰に剣下げてたり、肩で槍担いでたりとがちゃがちゃ言わせてるし。全身鎧やら魔石やらでギンギンキラッキラ。
目の前の、近代的カウンター内制服組と凶悪犯的な強面お兄さんズの対比。
あ、この絵面知ってる!・・・警察署?!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
確かに見やすくっていいよね・・。
「受付番号203番の方~。4番窓口までお越しください」
「あ、俺です~」
「番号札を」
「はい、これでお願いします!」
「受付番号331番の方。2番窓口までおいでください~」
「お、俺だ!うぃ~っす」
「受付番号299番!3番窓口に至急おいでください!受付番号299番の方!」
賑やかだ。
だからぁぁぁ!ここはどこ!?市役所?警察署?!それとも総合病院??!
いったい何なんだよ!
「・・はぁぁ~・・」
突っ込みどころ満載で、疲れたわ・・。
ま、あれだ。王都大きすぎるから、人員整理にこうするしかなかったんだね・・。
僕は大人しく「新規受け付け①」へと向かった。
「あの、ギルドカード、作りたいんですが」
とてもにこやかとは言い難い、なかなかの美人さんが受付嬢だ。
眼福眼福。
「はい。こちらの用紙に必要事項をあちらの机で記入して、この番号札を持ってお待ちください。それと手数料に1000ファルかかりますので用意しておいてください。では順番が来ましたらお呼び出しいたします」
但し、とっても事務的。
ついでに少し、目つきが悪いよ?
「手数料は1000ファルですよ?」
「はい、大丈夫です」
て!僕ってお金持ってないように思われた?!
・・・・・・念を押されたってことはそういうこと?
~デスヨネェ~・・・。
木札の番号は524番。
まあね。こんなに人数いるんじゃ、一人一人に合わせた対応とかできるわけないもんなぁ。
そりゃ事務的にもなるよな。
このでかいテーブルで書けばいいのか。ペンもインクもある。しかも記入の仕方の見本まで置いてあるよ。・・・市役所ですね。
「・・・はぁ~・・・・」
向こうでお茶でもしてくるかなぁ~・・。
書き終えて、しばらく長椅子に座る。クッション性皆無の木製椅子だ。
ここの喧騒・・微妙に懐かしい・・。
「受付番号524番の方!窓口1番までお越しください」
あ・・524。僕だ。
電光掲示板でポーンと出たら、もっとよかったのに。
いそいそと書類を持って窓口に向かう。
「番号札を」
「これです」
「では。ご記入漏れがないか確かめさせていただきますね」
「はい」
いやぁ~あまりに久々過ぎて、なんか緊張するよ、こういう場面!
僕は浦島太郎さんなのか?太郎さんだったのか?!
「それでは手続きさせていただきますので、髪の毛1本ほど、ご提示ください」
「はい」
ん?髪のないハゲなおっさんだったらどうするよ?という疑問が浮かび、つい。
「あの、髪の毛ない人はどうするんですか?」
は?という表情を浮かべてる。
「その場合は爪を切っていただきます」
「なるほど・・」
そのためのカウンター上の爪切り、なのね。
何で置いてあるのか分らんかったわ。
「爪でもいいですよ?」
「大丈夫です」
プチっとな。
引き抜いたのを手渡すと小さな紙にきちんと挟んで、書類と共に持って奥へと立ち去った。
う~~ん・・・向こうに戻って待ってればいいのか?
いや、何も言われてなかったし・・。
どうしたらいいんだ・・。なんか変な汗出てきたぞ。
そうして悩んでいるうちに受付嬢が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらが新規のポイント制ギルドカードになります」
真っ白なカードが手渡された。と同時につぅっと小冊子が差し出される。
何なに?
『初心者冒険者の心得』?!
サブタイトル『読めば判る 君も今日から冒険者』
更に下には『☆初心者に贈るお得な情報満載!☆』・・・。
「こちらの心得に、ポイント制ギルドカードの仕様や利用方法、ギルドの規約など、必要な説明が記載されておりますのでしっかりお読みください。それにお得な情報もありますからね。それと、今回作成時に10ポイントが既に加算されております。
では貴方様のご活躍をお祈りします」
口頭説明と言うのが、効率重視でお亡くなりになったらしい。チーーン・・・ナムナム
まぁそれだけ字識率が高いということなんだろうね。
しかし、カード作ったらポイントまで付いてくるのか。
僕は手数料を支払って、喫茶室の方に移動した。
ここでも、上部にセットと価格がずらっと並んでる。
「何になさいますかぁ?」
(スマイルください)・・と、言いたくなった。
「紅茶とクッキーのセットで、Bを」
「畏まりましたぁ。注文入りまぁす、紅茶Bでぇす~」
「・・・」
「130ファルになります。ポイント使われますかぁ?」
スマイル0円だぞ? スマイルは?
「お金で」
「ありがとうございます~」
元気なお嬢さんだ。でもなぜ語尾が伸びる?
でもって、もう少し笑顔の方がいいよ。
まぁ、嫌そうな顔してないだけましか。こっちの人は気分が顔に出るからな。何せ「無愛想」なのが標準仕様だしね。
お金を支払うとセットが目の前に出された。そして出されたトレーを受け取って、空いてる席を探した。
何だろう。
なんかこう言うの記憶にあるよ。マクドとかケンタとかいろいろ・・ほら・・。
よくわからんけど目頭が熱くなってしまったじゃないか。
空いてた席に座り、奇妙なデジャブー感じる中で己が注文したセットをぼんやり眺める。カップに入ったお茶に、皿に盛られたクッキー各種。
普通だな・・。
あ。僕を見て笑ってらっしゃるね、君達。
左斜め前方の・・・。女性達?!
へぇ~~~女性だけの冒険者集団だ。一応。うん、一応と付けたくなるくらい、実に男らしいマッチョな体格のおねぇさん達だ。
そりゃ。この世界で冒険者をやろうというくらい気概のある女性たちだから、、当然鍛え方が違うよね。
装備もかなりいいのを使っているみたいだし、もうベテランの域に入ってるんじゃなかろうか。
そう言えば昔もちょくちょく見かけたなぁ。女性達だけのクラン。
規模も人数も決して大きくないけどやる気だけは男勝り。っていうか、男越えちゃってる戦乙女達。
いつの時代にも居るもんなんだね~。
あはは・・。
彼女らの目からしたら、僕は完全にオノボリさんの初心者君だろうな。
紅茶で口を潤し、ちょっと気を落ちつけよう。
さてと。徐に小冊子を読み進める。
カード式になって、いろいろ変更されてるなぁ。
初心者は真っ白で、依頼毎のポイントを貯めて、ランクUPに必要なポイントに達したら、上がるんだね。そしたらカードにランク対応のカラーラインが入るんだね~。しかも注意書きに『貯まったポイントを買い物等で使いすぎるとなかなかランクが上がらなくなりますので、使いすぎにご注意ください』。
なるほど。ご利用は計画的に、か。
ふ~~ん。ポイント制なんだ・・・。
「・・・なんだかなぁ~・・。ん、このクッキーなかなかいける」
ポイント使ってアイテムや提携宿の宿泊、提携武具屋で装備まで買ったりできるんだぁ~。更に逆もあって、お金で購入するとポイントもらえるんだ?!
小冊子の最後に王都内での提携先がずら~~~っと記載されてる。
その裏側は割引券になってるわ!おお、ここの防具屋すげ!『今なら初心者セット最大20%OFF!』
ヘッドギア+皮の軽鎧+小手+ショートブーツで何と800ファル!
「これで『貴方も今すぐ活躍できる!』・・ねぇ~。安い・・?」
・・安いよな、うん。多分。
この本、すごい!なにこれ・・。
しかも一定のポイント貯めるとギルドからプレゼントもあるってさ。
へぇ~~~・・・。
へぇ~・・。
でもこう言うの記憶にあるよ。うん・・。
お茶飲みながら、眉がハの字になっちゃうよ。
まぁ字識率高いのは、ほら、地球に比べても人の歴史長いからね。
地球では猿よりましな生活してるときにはこっちは文明国家だしなぁ。
文化的生活して既に2万年だし。ただそこからそんなに変化が・・・あるね~・・。ポイント式ギルドカード・・・。
まぁでも!2万年だし!
地球のような、3千年とか4千年とかじゃないし!
それでも地球に比べたら、今がすごく遅れてるけど・・。ああ~なんか僕、意味のわからない負け気分が・・。
どっち側向いてる感情なんだよ!?
・・・・要するに、僕の引きこもりが原因なだけだな。
ん?この巨大単語帳みたいなやつ、おお、メニューだ。
「なになに・・」
ここ喫茶店じゃなくってレストランだったみたいだ。というかホテルのラウンジみたいだよね~。しかも某マクド的な?
でもって向こう側の階段は「簡易宿泊所」
ここにもあるんだ・・。
あ。説明にあるな。この本にも書いてあったわ。
「ご利用は一泊300ファル ポイントなら3ポイント。一階食堂のご利用も併用出来ます・・か」
ほほぉ・・。カード作ってもらったポイントで3日は泊れる。いい制度だ。
あ・・。そうだ。掲示板見てこなくっちゃ!
どんな依頼でどれだけポイントがもらえるか、気になる。
いそいそと席を立ち「返却口」までトレーを持っていき、仕切りになってる掲示板の方に回ってみる。
大きな掲示板の上部と右側にクラスがでかでかと書かれてあった。
僕は真っ白カードなのでF₋だ。
だからFのコーナーに張り出された依頼しか受けられないんだな。
ふむふむ。
依頼NO102)どこかの屋敷の草むしり・・・。全部終えたら1000ファル。ポイント10。レベル制限なし。根性ある人ならどなたでも。3名。昼食、休憩1時間あり。日程2日。9時から5時まで。募集期間)後2日。契約不履行時罰金2割。-10ポイント。
こっちは、依頼NO93)愛玩動物の散歩。1時間250ファル。ポイント3。朝11時からお昼まで。1名。交通費50ファル支給。随時。期間なし。契約不履行時罰金2割。-5ポイント。※1週間可能な方優遇。初心者可
そうか。金額100ファルに対してポイント1ってわけか。
『契約不履行』・・この単語で全て謎が解けた!
前回の、勇者が残した遺産が、これだよ!
募集期間日時。仕事の日程。いろいろな条件設定がやたらと細かい。だからなんだか依頼書が『ハローワーク』っぽいじゃないかぁぁ。
失敗または遅刻でも罰金とか・・。しかもポイントまで引かれる!
すごいなぁ~・・何このシステム。
ほとんど「契約式依頼書」なのねぇ。
いろんな意味で厳しいなぁ~このポイント制。あ、でもあれか?所謂経験値的なものだと思えばいいのか。
何より、特典付きは誰でもありがたいし。
ギルドからのプレゼントって・・何もらえるんだろ?
そう考えると面白いな。
「おお~これなんかいいんじゃね?」
何とダンジョンPTの荷物持ち。てかポーターだ。
僕のポーチの活躍場所じゃないかぁー!
何なに。依頼NO94)ダンジョンレベルD1。PTM8名の荷物持ち。資格)特になし初心者可 経験者優遇 日程に余裕を持てる方。1名。期間3日間。出立14日早朝7時西門前(集合時間厳守)帰還予定16日夕方。1日1200ファル ポイント12。3食食事支給。睡眠時間交代制。契約不履行時罰金5割。-15ポイント※場合によっては延長あり。時給200ファル ポイント2(加算型に変更)
うお!張り出し時間が差し迫ってるし、締め切り間近ってか?!
3日で3600ファルか。これにしよう。
絶対お使い系より面白そうだもんね。
依頼書を外して、「依頼受け付③」にダッシュだ。
「これお願いします」
「はい・・あ、これ人気でして。既に12名の方が申し込んでいるのですが」
「え?」
思わず、なんでで張り出してあるんだよ、と思ったのは僕だけか?
「面接は今日の16時からですので、まだ受け付けてはいるんですよ、どうしますか?」
「面接?!」
「はい。面接会場は右手奥の階段上がって、小会議室①で行われます」
「・・・受けます」
「ではこちらで手続き完了させておきますので、会議室でお待ちになられてもかまいませんよ?」
「・・はい」
「ではギルドカードの提示を」
「これです」
「後、依頼書は掲示板から外さず、ここで依頼ナンバーを言っていただくだけでいいので。これから気を付けてくださいね」
「・・・はぃ・・・」
なんとももはや、だな。
・・・初っ端から怒られちゃったし・・。
僕・・。ギルドに来てるんだよね????
ハロワじゃないよね????
すごい違和感、バリバリだよ・・。
さて。行ってみようか。
そんなに時間はないし、待っているだけなら僕は得意だしね。
広い階段を上がっていく。
うん。ここはデパートの階段ですか?むやみに広いな踊り場も。
下の喧騒がまるで嘘のように、ここか静まり返っている。
僕の足音だけが響く。
どうやら表面に大理石が張ってあるようだ。無駄に金かけてるな~。そんなに儲かっているの?ギルドって。
目の前に広い通路が現れる。
その両脇にはずらっと扉が並んでいた。
上がってすぐの左側の扉のプレートに『小会議室①』と掲げられている。
「ここか・・」
僕が扉を開けて入るといくつも並んだ椅子の前には、既に4人が座って待っていた。遅刻厳禁、か。
なるほど、皆さん几帳面だね・・顔の割に。
てか。4人も僕を睨むように撫で見る。
ああ。そうだった。仕事の内容は荷物持ちなわけで、どいつもこいつも体力には自信がありますって体格だわ。
そんな中で、僕は絶対「場違いな奴が来た」と思われたんだろう。
「こんにちは」
はい、ガン無視ですね。
適当に腰を下ろすか。
・・・・キチンなんで、奥の端っこに座りました。
あの後、何人か、ぞろぞろ入ってきた。
言うまでもないが、皆さんプロレスラーですか?
僕の貧相さが悪目立ちしてます。
すると前の扉から、なかなかに精悍な青年が入ってきた。この人が多分今回の依頼主で、パーティのリーダーだろう。
「時間内に集まってくれてありがとう」
軽くお辞儀をしたので、つい釣られて僕も頭を下げる。
「今回の募集は荷物持ちです。一応申請書には目を通しておきましたが、この場で自己プレゼンお願いします」
・・・・・どんだけ世界が進化したのだ・・?なんだこれは。
「では俺から~ギゼ・カレスイン19歳」
前列右端にいた男が立ち上がって、どんだけ自分は力持ちで耐久力があるかを自慢げに語っている。
仕事を取りたければ、過剰なまでの自己アピールは必要だ。
自分はPTの中でこんなにも役に立ちますよーーー!
俺がいたら効率UP間違いなし!
これ、日本人だったら絶対引くわ・・。無理だ。
自分を入れないことがPTの損失だとか、普通言えないよね?
どんだけ自分アピール。どんだけスーパーマンだよ!
・・ここ、アメリカ? 絶対アメリカだよね???
うわぁ~次。最後は僕の番かぁぁぁ
体格差では圧倒的に不利だが、僕をなめるなよ!
なんてったって、僕も生粋のこちら世界の住人なんだから!
・・・・ぷるぷる・・・
む・・武者震いさ!
日本人気質、悪霊退散!!!!!
引きこもり6000年のガラスのチキンハートよ、踏ん張るんだぁぁ!
イケル!今の僕ならきっといける!
「僕はユーリ・オリジンと言います」
年はあえて避けたが、名前だけで数人の笑いを誘った。
・・きっと親が付けたんだろうが、偉大な伝説の英雄にあやかり過ぎて、とても残念な子だと思われたんだろう。
本人だ。悪いか。
ああ・・・背中に嫌な脂汗がダラダラ~・・・・。
「職は魔法使いです。特に治癒魔法に長けてて主にヒール、ハイ・ヒール、キュア、オールキュアなどが使えます。更に各種強化系そして抵抗魔法も使えます」
おお・・と軽い賛辞の声が上がった。壇上の男も軽く目を見張っている。
そりゃそうだろう。僕がいればPTでは回復系アイテムの必要性がほとんどなくなるんだから。
だが、残念なことに今回の募集はポーターだ。
僕の価値がないわけでもないので、依頼主の頭の中では別途に連れて行ってもいいかも、ぐらいの算段はしているに違いない。
もし、そう思っていてくれてたら目論見通りともいえる。
さぁ!ここから僕の無双タイムの幕開けだぁぁ!!
おもむろにポーチの中をごそごそと探り出し、そして中からにゅーーっと杖を出した。
僕の身長よりも長いがっしりした杖は、見た目もさることながらそこに嵌めこまれている魔石の質だ。
SS級魔獣の最上位魔核。
核の大きさはピンポン玉ほどだが、色は闇色を纏った濃い紫。
それが僕の額ほどの高さのところで渦巻き状に囲まれ、さらに30センチほど長く先端に向かうほど太くなっている。天辺はすっぱり切り取られたように平らな長杖だ。
まぁ、杖の性能は置いといて。
そう。
わざと目の前で見せるようにポーチから取り出したのだよ。
こんなでかい杖、何でそんなちっこいポーチから出るんだ?ってね。
そこで、トンと床を杖で叩く。
「そして僕には究極魔法による、このレジェンド級魔法具のポーチがあります。通称マジックバッグ。中の広さは無限大。入れられないものは生きている物だけです。なお、中の時間は停滞しているため、食品は一切腐らず、温かい物も、いつでもどこでも自由自在に出せます」
どうだぁ~。はははは。
皆絶句してるね!ザマーミロ
うん。ポーチと言う他力本願・・。そこは気にしちゃダメだ!
だって僕が造ったものなんだから。
「君に決定だ」
「即決ありがとうございます」
「この後、詳しい説明をするので、ユーリ君は残ってくれ」
「はい」
してやったり感で、下げた顔に笑みが止まらんかったわ。
で。僕以外の皆さんは肩を落として「ありえねぇ~・・」の連発をしながら御帰りになり、僕は依頼者と二人っきりになった。
「俺はケリー・サイラント。クラン『オードガイランズ』の一員で、今回8人PTのリーダーを務める。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「ところで君、クランに加入している?」
「いいえ。ソロが好きなもので」
「そっか・・。うちに入ってくれると凄くありがたいんだけどなぁ」
「申し訳ありません」
「でもまぁ、今回はよろしく頼むよ」
「勿論です」
その後詳しい説明を受けて、明日早朝出発ということでお開きになった。
賑々しい内部を通し抜け、僕は外に出た。
、
今一度、振り返ってギルド会館を見上げる。
その眼に映るのは、夕焼けに染まり紅色の光を弾く、昔の面影なんてどこにもない、真新しいギルドだ。
「・・・・変わったな・・・」
これが時代だというものか。
停滞しきっているこの世界でも、少しずつ、変化はしていく。
っていうか!変化あり過ぎだろぉぉぉぉ!!!おい!
なぁ・・・リョウヤ。
お前にも見えているだろ?
お前が言いだしっぺで、僕が悪乗りして・・。
二人で考えて作った冒険者ギルドがいつの間にか、こんな風に進化ちゃったぞ。
凄いだろ?
面白いだろ?
まるで地球のようだよ、ギルドが・・・。
お前がいたら絶対『ここはハンバーガーセットだろ!』って言うな。
「紅茶セットだぁぁ?!なんだよそれ!ふざけんな!」ってさ。
ん・・・
怒ってる?
それとも喜んでる?
僕の薄れた記憶の中で、リョウヤの笑顔だけが浮かんでいる。
初めての召喚勇者 リョウヤ・クレバヤシ
僕の一番楽しかった、決して色あせない思い出。
勇者リョウヤ。二十歳だって言うのにガキっぽさが抜けていなかった奴。
紅一点、魔法使いのミュース。気がつけば彼女にしていたし。手早っ!
槍のレオン。イケメンでいつも「爆発しろ!」と背中を蹴ってたよなぁ。
大剣使いのショーン。温和で「お父さん」と呼んでた。僕もだけど。
そして僕。リョウヤが「親友」って言ってくれた。
でもまるで兄弟みたいと言われてたよね。
初めて僕が勇者PTに入って、魔王討伐に参加した。その時のメンバーの名前だけは忘れない。
長くて、短かった旅・・。
皆で苦難を乗り越えて。
皆で笑い合った。
僕が唯一仲間と呼べた、パーティ。
あの時お前が倒した四天王の魔核が、今の僕の杖に嵌められてる。
そしてずっと愛用している。ありがとな。
『記念だからお前にやるよ』
そしてあれが僕にとって、最後のPTになった。
もう。五千年かぁ・・・。
ねぇ見てよ、リョウヤ。
僕はあの時からずっと大魔導師の称号を冠したままだよ。
ああ・・分ってるさ。
お前が残した謎は僕がつきとめてやるから。絶対に、だ。
なんたって僕は『監視者』だから。
ああ・・。くそ!
思い出すとまた、引きこもりたくなる・・・。
でも、もう平気さ。
明日、ちょっと遊んでくるわ。
この僕がポーターだぜ?
お前もそう言うネタスキル好きだったじゃないか。
『悪乗り上等!』
OKOK! 楽しんでくるさ!
「ところで、美味しいお店知ってるんだけど、一緒に飯でも食わないかぃ?」
「え?」
「俺が奢るよ」
「ええええ?!」
リーダーのお兄さん。マジであんたいい人っぽい?!
5日ぶりのギルドだ。
マイラ筆頭に5人の女冒険者たちは久しぶりの帰還、依頼完了の報告しに訪れていた。
いくら広い玄関先とはいえ、茫然と立ちすくんでいるお子様に「あ~邪魔な奴」とアンジェリカはわざと肩をぶつける。
「おっと」
アンジェリカの行動に呆れながらもローリエが「こんなところで立ち止まらないで」と注意を促すが、どうやら心ここにあらずの様。
何人もの先輩冒険者から手荒い歓迎を受けているのに、その少年は一向に気にも留めていない。
放心状態のまま固まっている。
「田舎からポッと出のおのぼりさんね」
「あのマヌケ面が笑えるわぁ~」
メリアレスとアンジェリカが笑っている。
だが、5年前に建てなおされたギルド会館の変貌振りに、彼女たちもおろおろしたものだ。そういう過去はすでに忘れて、今は傍観者として楽しめるから不思議だ。
「可愛いじゃない、見た目もかなりいけてたよ?10年後が楽しみな少年だったわ」
「あら?ローリエってああいうお子様が趣味だったの?第一すっごいぼろ着てたわよ?!」
「そんなんじゃないわよ。それにボロでもいいじゃない、男は中身よ!」
「さっき、外見で決めたくせに、よ~言うわ!あははは」
「おい。私は先に報告済ませてくるから『三頭馬車』で待ってな」
「「「了解~マイラ姉御」」」
「姉御言うな!」
人混みを縫って、マイラは奥の方のカウンターに向かっていくのを4人で見送りながら、件の少年を眼で追っていた。
何しろ目立つのだ。いろんな意味で。
「あの呆気にとられた顔、おもしろすぎ!」
けらけら笑ってるメリアレスの前に紅茶セットが並んでいく。
「あーー。なんでAセットなの?!私Bが良かった」
「煩い煩い、文句あるなら自分で取ってくりゃいいのに」
「あの子マジで初心者なんだ~。新規のカウンターにいるよ!」
「いやいや~私らも昔は可愛かったじゃない。今でこそスレちゃったけどさ」
「なんかいじめたくなるね~。はははは」
「そう言うの知ってる?おばさんって言うんだよ」
「うるせぇ!」
やっとマイラがPTのところに戻ってきた。
「何だAセットかよ」
「ほらみろぉ、同じこと言われたぁ~」
「煩いよ、メリアレス」
「今日のチョイスはアンジェリカだよ」
「ヘイヘイ、悪うございました!」
5人が席に座り、今回の報酬と素材の買い取り金額の報告で「飲み会やろうぜ」と話が盛り上がる。
その時、横を少年が通り過ぎた。
「お。初心者坊ちゃん来た~」
「まだその話題かよ」
マイラが紅茶をすする。
そんな些細な動きでも、鍛えぬいた上腕ニ頭筋がぐぐっと盛り上がる。
「そうだ。クラン『白金双翼の戦乙女』の創立2000年という、大々的な記念パーティやるそうだが、勿論全員参加するよな?」
「何時だって~、それ」
「来月」
「まぁ、マイラが日程調節してくれるだろうし、私らは構わんよ、ね?」
ローリエが言うと、シュザンヌもメリアレス、アンジェリカも頷く。
「あ、見てみて~あの子、また茫然としてる!」
「ほんとだ、おもしろすぎだねぇ~」
「お前らあんまり見て笑うんじゃないよ」
おかげで、少年の方もこっちを気まずそうに見ている。
それとも、冒険者で女性が珍しいだけだろうか?
昔から散々奇異な目で見られてきたので、少年の置かれた立場もよくわかる。
「ほらみろ」
「だってサァ~」
「私らだって最初は皆、何も分からずにうろうろして笑われたじゃないか。初心者は誰だって通る道なんだ。そんなもの、笑い物にするべきことじゃない」
「・・・頭硬いんだから、マイラは」
「ほっとけ!」
だが、マイラの瞳は少年を見続けた。
まるでおのぼりさんで、あちこち見廻しては一々驚いてる子供に何故か目が離せない。
「マイラさぁ~ん」
呼ばれる声に意識を戻し、見る。
制服から受付嬢の一人だとわかり、全員の顔に「?」が浮かんだ。
「す、すみません、こちらの手違いで先ほど渡すべき封書を渡し損ねまして」
「封書?」
走ってきた受付嬢からメレシア聖国の封緘がされた封筒を受け取る。
「なにそれ?」
「なんかさ、それ正式親書、みたいな?」
「開けてみるか」
マイラは自分の手元に視線が集まるのを、苦笑しながら封を切る。
「なんて書いてあるの?」
「待て待て~。今読んでいるんだから焦っちゃだめよ~」
「気になるじゃん」
「そうそう、なんだろね?」
「・・メレシア聖国大神殿より、正式出頭命令が来た・・」
「はぁい???」
「今すぐ来い!だってさ」
「えええ~~?戻ってきたばっかりじゃん」
「最悪・・」
「行くぞ。このままじゃ2000年記念パーティに間に合わなくなる」
「はぁ~い」
全員は仕方なくトレーを返却して、早々にギルドを後にする。
件の少年は人混みにまぎれながら、掲示板を見ているところであった。
カード作って早々仕事を探しているんだろう。
「頑張れよ、少年」
マイラはその背中に小さく呟いた。