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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
5/23

賢者と紋章魔石

笑ってよぉし!

行け行けGOGO!ドンドンパフパフゥ♪

 私は脇役の中年オヤジが好きだぁぁ!

その『社会に揉まれ上司に甚振られ這いずり廻ってでもしがみ付くその根性』が好きだぁぁ!ついでに『加齢臭塗れの臭さ』が好きだぁぁ!

・・・・・・いじめがいがあって・・・・・(コラマテ

 お茶なんか飲んでると、しらねぇ~からなぁぁ!

「ふあぁ~・・・」


 ベットフカフカ・・。


 昨晩はつい紋章魔石の手直しで、遅くまで起きてしまった。

 少し寝不足気味でもあるなぁ~・・。

 

 伸びをしながら背骨を鳴らし。そのまま首を回してコキコキ言わす。

 柔らかいベットのせいだろうか。全身の骨が何やら軋んでる。


 どうやら僕の体には、多少硬いぐらいがちょうどいい!

 

 大体贅沢とか高級とかなんて、僕には似合わないんだよ。




 ほら。僕の自宅を見れば謎がすべて解ける。


所有者 ユーリ・オリジン

 場所 シエルデ王国南西部(端の端っこ)

    ユーリ・オリジン永久直轄地(凡そ3000坪)

    別名 幻影緑和のイリュージョン・グリーンサークル

 

 木造平屋 一戸建て(建坪14,2坪)

 間取り  1SDK(洋6、K4、S、UB、ロフト、地下室有り)

 築年数  古代遺跡クラス

 駐車場  無

 上下水道 完備(魔法で・・)


 広がる森に開けた場所。日当り良好。

 アクセントに屋根びっしり繊毛苔。壁にもびっしり繊毛苔。たまにシダ系植物が繁殖。

 木造であることは軒下の裏側と壁の一部から推察できるが、遠目から見れば「何?緑色の巨大キノコ?!」的な家なんです、はい。

 しかもセキュリティ完備!

 何せ、森にはA級魔獣がわらわらいます、僕以外の人はそうたやすく通れません!

 僕が見回りで、たまに間引くぐらいですけど、ね。

 おかげで僕の姿見かけるだけで逃げ出す小心者も多くて嫌になる。魔獣のくせに。

 

 そんな我が家にあるベットは僕のお手製。

 そもそも家だってお手製。中の家具もお手製。

 安普請なんて言ったらだめだからね!

 

 で。木造なのに数千年も耐えてるのは強化魔法掛けてますから。


 大体ね~。引きこもりには、両手を広げた範囲が生活圏なんだよ!凄く安心できるプライベート空間なんだよ!

 ベットだって、椅子になったりテーブルになったり、いろいろ活用するのが僕の楽しみなんだよ!柔らかさなんてお呼びじゃないんだよ!

 

 ぜぇぜぇ・・。


とにかくだ。無駄に広い部屋っていうのは落ち着かないんだよ。

 

ああ~・・もうすでにあそこに帰りたい気分だ。




「眠れたけど。安眠には程遠かったなぁ・・・」


 もそもそと起き出して、一張羅に見える服を着込む。

 言っとくけど、これでも一応着替えは持ってるし、実際着替えてもいるんだからね。

 ただ、全てが同じデザインで同系色なだけだよ。

 そうさ。

 作る時に同じものを50着お願いしたんだ、150年ぐらい前に!・・・悪いか?

 大体、着替えるのに一々「今日は何着ようかなぁ~?」って考えるの、面倒くね?

 僕は面倒なんですよ!

 それに僻地の森の中の一軒家でおしゃれする意味あると思う?

 ・・ほら。全くないでしょ?



 あ。そろそろ飯が来る時間だ。ここは大人しく椅子に座って待っていよう。

 ほら、ドアがノックされて、ゆっくりと開いた。



「朝食をお持ちいたしました」

「ありがと」


 テーブルの上に並ばれた朝ごはんを見る。


 スコーンか。嫌いじゃないけどね。


「さてと。いただきま~す」

 

 両手を合わせて軽くお祈りする。これ日本人の常識。

うむ。やっぱりいいもの使ってるなぁ~。ウマイわ!



 さて。腹こしらえが済み「ご馳走様でした!」と元気よくお礼をした後、やっぱり伸びをする。

 そしてでかい窓から、新緑で輝く庭をぼ~~っと眺めた。


 予定は・・。

 メレシア聖国の大神殿に向かうこと。・・だよね~。


「面倒くせ・・」


 ここからまた馬車に揺られて10日とか、絶対いやだしな。何かショートカットできる手立てがないものだろうか。


「あ・・国家間通信魔石あるじゃん!」

 

 それだ!それを伝って位置把握で一気にテレポ出来るじゃないかぁぁ!


「僕ってば天才!さすが賢者!」

 

 思わず自画自賛。


 簡単で確実な方法見つけてしまったので、今日はのんびり寛ぐ事にしよう。

 そうだなぁ~・・。

 たまには王都見学でもするかな。

 それにギルドカード。新しいのに更新しておきたいかもなぁ~・・。


 そうと決まれば腹ごなしに、繰り出すか。・・否。食後のすぐの運動は消化に悪いし、しばらくぼうっとしていよう。






 数時間後。

 重い腰を持ち上げて、王都に出てみた。半分寝てたけど・・。

 2度寝3度寝は、いいよなぁ~。特にちょっと片頭痛するくらいが好きだ!

 勝手にいろいろ考えだす、脳が沈黙してくれるから・・・。

さて!

 お金?そんなものは持ち合わせていないよ。ああ。そうか、先に金を用意しなくては。

 取りあえず、紋章魔石の店でも回るか。


「いらっしゃいませ」

「ああっと。買い取りできますかね?」

「はい。商品をお見せくだされば鑑定いたします」


 僕はポーチからいくつかの紋章を刻んだ魔石を取り出し、店主の前に並べた。


「ほぉ・・。これは随分良質な魔石ですね」


 まぁそうだろうな。僕の家の周りにはそこそこ凶悪な魔獣が出現してるから。それに旅先で手に入れた奴もあるからね~。


「しかもこの紋章・・。これ、誰が刻み込んだのかね?」

「僕だけど」

「えええ?まさか、盗品では?!・・銘がかのユーリ・オリジンですよ!」

「バカ言うな。僕がそのユーリだぞ!」


 仕方がないので出かける前に渡された王印付身分証を提示してやる。これでどうだ!


「・・・これは。失礼しました」

「ああ。構わないので買い取りをお願いする」


 ちぇ。気分悪いなぁ。

 こんなもの見せなきゃ信用されない身の上って、ほんと嫌だな。


「こちらとこちらで、3000万ファルになりまして。こちらは・・その。当店では扱いきれませんので・・」


 自信作が返品された・・・。

 まぁそれでも3000万にはなったか。昔に比べても遜色ない金額だ。十分すぎるかもしれないなぁ。


 突っ返されたのは、あれだ。試験的に作った2種紋章魔石だ。

 このサイズでこの色合いだから出来たのであって、普通では無理だ。しかも分離紋章ではなく多重で刻んだものだ。

 そう。上位紋章火炎に上位紋章竜巻。勿論単独でも使えるが、それが合わさって最上位混合魔法「巻き上がる爆炎」ファイアーストームの完成だ。

 でもだめか・・。う~~ん。売れなかったのは酷くつまらないな。

 かなり手を入れて修正までした、結構自信作だったのに。


 渋々ポーチにしまい、お金も受け取る。

 閃貨で30枚。どうやって使えというんだ、閃貨なんて。


「あの。1枚、細かくしてもらえませんかね?」

 

 このままでは使えない。あまりに額が大きいからだ。


「では金貨80枚、残り銀貨で」

「お願いします」


 はい。さっきの100倍ぐらいに増えました!枚数と重さが。

 まぁポーチに突っ込めば、関係ないから平気だけど・・。


「また何かございましたら、買い取らせていただきます」

「ではまたよろしく」


 さて。懐にはお金があって、街には露店がいっぱい。

 僕はホクホク顔で露店巡りにいそしんだ。


「うわ・・・なんだ、ここ」


 ある通りに入ったところで、軒先に並んでいる露店を見て絶句した。

 見事に「紋章師」だらけ・・。

 それも下位紋章師。中には紋章師の認定証を持たずに露店している者もいた。


「おいおい・・なんだよここ。紋章師ばっかりじゃん・・」

「うん、そうだよ」


 いきなり背後から返事が来てびっくりした。

 見れば16,7歳ぐらいの少年が立っている。濃い茶色の詰襟風の服装に黒のマントを身に着けていた。

 そう言えばこの辺そんな服の奴多いな。あそこの露店もあっちの露店も。


「王都に紋章学校あるからね。そこの卒業生が露店しているし、学生も中には出してるからね」

「ははん。なるほど。初級紋章だったら学生でも出来るか」

「結構稼げるから苦学生には人気なんだよ」


 初級紋章。所謂、生活紋章と呼ばれるもので、安くてしょぼい魔石に使い捨て用の簡易紋章を刻む。


 例えばライトに絞れば、一家庭で大体使用個所を絞っても5,6個は使う。10日で消耗してしまえば1カ月で15~18個ぐらい、毎月必要になるのだ。

 で、この簡易初級紋章。簡易なだけに刻む時間が熟練者なら10秒で足りてしまう。

 不慣れな学生でも30秒もあれば出来るだろうな。

 一回刻む事に50ファル。パン一個と料金は同じだが、何しろ数がこなせる。その気になればかなりの金額が手に入るだろう。

 ああ、これはクズ魔石持ち込みの料金で、魔石+保護+紋章なら倍の価格だ。


 う~む。こういうバイトもありか!


「俺もそろそろ友達と交代なんだ」

「君も学生?」

「ああ。3人で露店出しているんだよ~。ほら、あそこ」


 彼が指で店を示す。


「簡単な紋章必要だったら、店に来てくれよな」

「ああ」


 走り去っていく彼を見送りながら「なるほどなぁ~」と感心する。


 露店を開くということは商業ギルドに登録しているということだ。露店場所確保のために学生は持ち回りでやってるに違いない。


 だが。

 王都で紋章露店とか・・。

 昔はそんな露店なかったぞ。

 

 まぁ・・。紋章学校とかあるくらいだし?その辺の危険性は教えてるだろうし??

 何より商業ギルドが認可しているくらいなんだから国の政策の一環だろうし、僕が口出す義理も義務もないしなぁ・・・。


 魔石に刻む紋章とは、すなわち魔石を「降す(くだす)」のである。

 ただひたすら魔素を吸収しようとする魔石を「力押し」で「降し」て、魔素を引き出して使用する、そのための強制手段であるのだ。

 そこに「使用したい魔法の術式」を重ねて刻み込む。


 でだな~・・。クズ魔石の抵抗はほとんどないし、紋章自体も簡易化出来るほど簡単なものだからおいそれとは失敗しないだろうし、例え失敗して「降し」損ねて壊れ散っても、さほど気に病む魔素が放出されるわけじゃないが。

 それでもこの数の露店である。


 ほらな・・。あそこの学生っぽい奴、連続で魔石破壊してるし・・。

 しかも笑ってる。バカだな。


 魔素をある程度吸収したら気分悪くなるだろう?体調も崩れて病気にもなり易くなる。最悪凶暴化するぞ?プチ魔獣化。まぁ、いいけどさ。


 一応辺りも見渡して確認する。

 ん?なんだ・・。一応対策はされてるみたいだな。一定間隔で中和街燈設置してあるか。

 間隔広すぎ。

 ほんと、お情け程度のシロモノだけど。

 大丈夫か、これ。


「さすがに中位上位紋章師は露店していないか」


 あったら、怖いか・・。


 普通自分の店を持って、奥に完全隔離した仕事場を持ってるだろうね。でないと失敗した魔石が暴発し、辺りに高濃度の魔素がふきあふれて、即死かはたまた魔獣化するから。

 普通その危険性を鑑みて、部屋の端を囲むように中和街燈の小型版をずらっと設置しているはずだ。

 それでも、危険であるには違いない。

 魔石爆発のあおりを食らって死んだ奴、結構いたからね。


え?僕?

 僕は平気だよ。

 だって・・。魔素の影響は一切受け付けないんだもん。


・・・加護と言う名の呪いがあるから。


 しかも、元日本人だからね。

 職人気質と手先の器用さ、更に設計へのこだわり、イメージ力にかけては自信があるんだよ!失敗?んなものするわけないでしょーー!

 特に良質の魔核なんて貴重なもの壊すとか、絶対ありえんもんね!

 匠と呼んでくれ!



 しかし、やれやれである。

 こんなにいっぱい紋章師やらその卵やらがいては紋章魔石の価値が・・。


「なぁぁ?!もしかして買い叩かれたかもしれない!」


 気づかなければよかった・・。


「でもって・・。僕今また気づいてしまったんだが・・」


 多分きっと、僕の持ってる紋章師の認定証も、とっくに有効期間切れだったり・・・してるよね。

 うん。してるな。多分ギルドカードと同じくらい・・失効してるよな。



よし!ここは気分転換に食い漁るぞ!


 

 さて。腹も膨れた。

 それにしても。

 食い物の露店の品揃えが芳しくないし、何より品質もよくない。

 食材となる野菜や果物、肉に魚と、それらが不足し始めている影響だろうな。

 恐るべし天変地異。魔王の出現はその前段階で地殻変動が頻発しているという事実だ。


 日本にだって歴史を見れば、大地震と言われるものがある一定期間で発生しているのがわかる。

 それと同じ現象がこの世界にもあって、凡そ千年周期で群発地震やら火山爆発やらが起こる。

 何故こんなに広い周期なのか?

 簡単だよ。

 月と言う衛星がないから。外に引っ張る引力がない分、マントルはほぼ惑星の自転と言う自力だけで、ゆっくりと移動しているからだ。

 ま、そこは置いといて。

 地殻変動の発生から平均二百年ぐらいしたら、十分な魔素に因って魔獣活性化に魔王出現となるわけなんだが・・。

 大気中の魔素もこの時期だけ少し濃くなる。


 それらが農作物に与える影響は、この通り。かなり深刻になっていく。


 魔王が出るからこんなにひどい生活になる。と、みんなは思っているが、そこは逆なんだよね~・・・。


 それでも。露店の中には創意工夫で結構うまいものもある。それを見つけ出しては、取りあえず買い占めてやった!

 なんてったって、ポーチの中に入れておけば1000年だって『出来立てほやほや』なんだからね。

 うへへへへ。

 やっぱこの万能感半端ないなぁぁ~!自信作だもんな。


 取りあえず、次、どこ行こうかなぁ。



 と。通り過ぎそうになった建物の看板を見て思い出した。


「そうだよ!・・・紋章師認定証・・・」

  

 これがあるのとないのとでは、買い取り時にいろいろもめなくて済むわけで。当然あった方がいいんだよなぁ~・・。

 たまに金策せねば。

 だって、引きこもってニートしたくても先立つものがないとね~。




 一応入って、作ってもらいますか。

「試験ってあったっけっか?」




「資格認定に来られた?」

 受付のお姉さまの眉間にしわが。

 そんなに深く刻んでると、数年後に後悔しますよ?


「ええ」

「では初級認定証の提示をお願いします」

「持ってないから作りに来たんだが・・」

「はぁぁ?」


 じろじろ僕を観察してるよ。何でだ? そんなに怪しく思えるようなところあったか? 

 思わず僕の眉はハの字になってしまう。


「紋章学校卒業生ならその時点で初級認定証もらってますでしょ?何故提示できないんですか?」


 何だ、そのシステムは!初めて聞いたぞ。野良はいてはいけないのか?!


「個人じゃいけないんですか?」

「・・はぁぁ?!」


 うわ!なんかすごい怪訝そうな目つきが刺さってくる。痛い・・。

 でも負けないぞ!


「・・・・・」

「・・・・・・」


 何故か睨みあいに発展してしまった。

 思いっきりやばくないですか・・。この状況。

 まさかこの時代「紋章学校卒業」していないと紋章師になれないとか、そんなシステムになっちゃった、とか?


「少々お待ちください」


 そう言ってお姉さまは奥に引っ込んでしまった。

 結構美人だったけど、笑顔は最初だけでずっと不審者見る目つきだったし、残念だ。

 奥から、今度は男が現れた。


「君が認定受けたい子?」

「・・・ええ」


 子供扱いか。まぁ外見じゃそうだよな。しかしこのおっさんもかなり上から目線だな。


「どなたか高名な紋章師の下で修行でもしていたのかね?」

「前に持っていた認定証の有効期限が切れたと思うので、新たに発行していただきたく思いまして」

 

 結局僕は受け直す方向性を諦めて、再発行に軌道修正してみた。


「有効期限?死ぬまで有効なはずだぞ」

「・・まぁ。一応見てもらえたら」

「では見せてくれ」


 言われるままにポーチの中を探る。


「確かこの辺、とか・・」


 まさに発掘だな。多分ギルドカードの近くにあるはずだ。

 あったあった。


「これです」


 だいぶ変色してしまっているが、破けてもいないし文字も読める。


「・・・・はぁぁ?!」


 僕と差し出した認定証を何度も見比べている。


「えっと・・。なんだ。君って・・・この。本人???」

「そうですよ。ユーリ・オリジンです」

「・・・・・」


 そんなに困った表情で固まらなくたっていいじゃないか。


「身元を保証できる・・・他に何かないですか?」


 またここでも「王印付き身分証」を出すのか。マジで面倒なんだが、仕方がない。


「これあります」

「・・・・・・・・・・。再発行の手続きをいたします。手数料は1万ファルかかります」

「ありがとう」

 

 今更だが、王様ナイス!本当にこれは感謝だな。そして僕は活用させていただく。

 さっさと金貨1枚差し出した。

 なんだか、えらく高いな、手数料・・。

 てか。おいおっさん。全部持って、どこに行く!


 それにしても奥がまた一段と騒がしくなったな。


「ウソだろ?」

「・・本物?!」

「伝説の大魔導師ってまだ生きてるんだ?!何千年前の話だよ!」

「てか・・こんな認定証見たことないよ!羊紙だよ!すっげ~~」

「よくこの時代までこんなの残ってるな。歴史資料館でも見たことないよ」


 悪かったな・・・過去の遺物で。

 そしてまたおっさんが戻ってきた。手には僕が差し出した2種類持って。


「あの、すみませんが、何かお造りになられた中位以上の紋章魔石とかございましたら、それを参考に新規認定証を作成いたしたく存じますが。もしお手持ちになければ、紋章の試験をお受けになっていただくことになります」


 いきなり改まった言葉で言うな。結構引くだろ・・。

 


「これ、新作なんですが」


 ちょうどいい、売れ残った自信作があった。

 自信作なのに買い取り拒否された・・・。

 うん。この辺微妙なんだけどね。うう~・・・結構ショック。

ま、いいさ。ただの審査だし。

 ポーチから2種混合紋章魔石を取り出し、カウンターに置いた。


「・・・・こ、これは・・」

「二つの紋章を重ねて刻んでみたんだ。一種類ずつの発動でも使えるが、何と言っても真髄は混合最上位魔法も打ち出せることだね。ああ~でもあまりに強力になったので少し手直ししてね。狭範囲にした分火力の底上げしてみたんだ、イカスだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「出来が悪いとか・・いうのか?」

「い・・いえ・・」


 やたら激しく首を振る。大丈夫かおっさん。しかも汗びっしょりじゃないですか。顔色も悪いよ?


「こ・・こ、こ、これ少し預からせていただき・・認定書作ってきます」


 鶏かよ。コ、コ、コって・・。


「お願いね」

「は、はい!」


 ダッシュして奥に下がったよ。

 また奥が騒がしくなった。事務所は相当暇なのかねぇ~。


「うわぁ~~銘がやっぱユーリ・オリジンになってる!本物?!本物?!」

「な、なんでこんなこと出来るの?!」

「ちょ・・2種紋章?!しかも上位じゃん!ありえんだろうーー!」

「誰がこれの試し打ちすんの?」

「俺がするに決まってるじゃないか!その仕事専門の試験官なんだし!いやぁまさかこんな日が訪れようとは!」

「待て待て!こう言う極級の新作は、所長である私の役得じゃないか!」

「あ!役得って言った!言いきった!?許せん!いいですか所長!俺は陽の当らん試験官をず~~と我慢してやってきたんですよ!こう言う時ぐらいしか・・」

「うるせ!私がやるってんだよ!黙れ平め!」

「平っていったなぁ!」

「あ~だったら自分がやりますよ!」

「何横から手を出してくるんだ?!お前関係ないだろーー!」


 ・・・・賑々しい職場だな。


 だいぶ待たされてる。

 いつまで待たせる気なんだ。

 しかも奥がめっちゃ静かだ。何やってんだよ!


「あ・・・地震?」


 今揺れたよ?何で誰も飛び出してこないんだ?!

 ん~。この程度の揺れは王都じゃ普通なのかもしれないな。でなきゃ今頃大騒ぎなわけだし・・・。

 それにしても、暇だ・・。





「お、お待たせしました!こちらが新規の認定証になります」


 顔真っ赤にして目がきらきらしているおっさんが、息を切らせてやってきた。


「ほむ。最上級じゃなく『極A上級』認定証?こんなクラス知らないんだけど?」

「は、はい!8百年ほど前に新設されたクラスでございまして!」

「へぇ~。自慢じゃないけど、僕僻地に引っ込んじゃっているからね。そうか、ありがとう」

「いえ!とんでもございません!」


 認定証と一緒に魔石も返還してもらった。


「あ、あの・・」


 帰ろうかとしたらおずおずと呼びとめられて「?」となった。

あ、まさか、この紋章魔石ほしいとか?

 なんか言いだしそうな勢いだなぁ~。「研究資料の為」とかなんとか理由付けて。


「・・・」

「・・・・握手、お願いします!」

「・・え?」


 どこのアイドルだよ?


「だ、だ、だめですか?!」

「いや、いいけど・・」


 差し出された手を握る。

うわ~~・・汗でぐっしょり。しかも体温高っ!気持ち悪ぅ~~


「ありがとうございましたぁぁ!」

「・・・・いいよ、別に」


 泣くほどのものか?!おっさん泣いても気味悪いだけだよ?



 こうして何とか紋章認定証GET!

てか。ほぉ~今じゃカード式なんだ。意外に文明進んでる?

 しかもこのカード、無駄に魔鉱石で出来てるじゃないか。

 キンキラキンに光ってるぞ~~。

 これは1万ファルでも安いんじゃないか???


 掌の上でくるくるを回しながら、紋章露店通りを歩く。

 

「極A上級って。うん、意味分らんわ」




・・・・・何故か後ろには少し離れて、さっき握手した涙目のおっさんがついて来ている。


 おい、お前。仕事はどうしたよ?!

 思わず振り返ると、おっさんは顔を赤らめて笑顔でこっちを見てくる。

 ・・キモイ。


 そっとしておこう。今のところ害なさそうだし・・。





「いいな、いいな~・・ウェドウィックばっかり~・・・」

「フ。試験官に生れてよかったぜ!」

「・・所長の権限を行使したいんだが」

「「「「だめ!!!!」」」

「・・・チ」


 結局この未知とも言える2種紋章の試し打ちは試験官たる自分の役目になった!快挙である!


 何故か全員が地下の試験場までついてくる。

 まぁ気持ちはわからんでもないな。

 なんてったって「一種」しか刻めないと思われてた紋章魔石に奇跡が訪れたんだから。

 本当に起動するかは置いといて、だ。

 

 

「さて、上位火炎から」


 皆の居並ぶ前で意気揚々と打ち出す。

 てか、何これ!?


 目の前に広がった魔法の凄さも然り、魔素の魔法変換がめっちゃくちゃスムーズじゃないか!


「「「「おおおおおおお」」」」


「次、上位竜巻!」


「「「「おおおおおおおおおお」」」」


 うがぁ~~すげぇ~~!恐ろしく高性能!なんつ~破壊力!

 もう、どっちも上位と言うより限りなく最上位じゃないか!

 それに、それにだ!魔素の使用量が少ない!

 普通に考えて「中級下」程度の魔素量しか使ってないぞ?!

 何これ!?どんだけ性能いいんだよ!!!!

 どうやったらこんな紋章つくれるんだよぉ~~~~~

 皆さ。目の前の魔法の威力に感嘆してるけど、使ってみた俺が言う。

 この紋章の凄さはそこじゃない!



「さて、次は・・・」


 混合魔法。ドキドキしてきたぞ。やばい、魔石持つ手が震える。

 本当に混合最上位魔法が出るのだろうか?


「巻き上がる爆炎!」



 どぉーーーんと言う爆風と高温が襲ってくる。

 この威力、この狭い施設では無理だったんだぁぁ!

 凄い!すばらしい!

 この複合紋章、怖いくらいすげ~~~!!!!!

 魔素の魔法変換、気持ち悪いほど簡単!ど素人でも使えるよ、これ。

 しかも魔素消費、逆に減ってる。

 さっきの上位魔法の半分で、威力10倍?!ありえんだろぉぉぉぉ



「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」


 全員尻もちついて目が泳いでる。俺も涙目。

 凄まじ過ぎて、もう何が何だか・・。

ああああ・・・もう。こんな紋章魔石使ったら、ほかの使えんわ!

 だって、すげ~楽なんだもん!するっと出てくる魔力。何の抵抗すらないんだから!

 しかも、魔法構築が恐ろしく速くて正確。何でこんなに効率いいの!?

 これは本当に紋章魔石なのか?この性能が・・。

 しかし。これは・・。使うとわかるが。

 快感・・!

 やばい~・・・ゾクゾク来る!

 感動で涙が止まらん。



「地下施設が・・半壊してる・・」


 完璧と言われていた魔法防御が剥がされ、あっちこっちが壊れて、もうもうと砂塵が舞いあがっている。

 これはもう作り直さねばならないほど。どんだけ金がかかるか、頭の痛い問題だろうが。

 そんなことどうでもいい。そう思えるほどの成果だった。

 全員、ひきつったように笑っている。


「神だ・・・こんなの作れるなんて、神だっぁ!」


・・・俺もそう思う。有り得んわ。

 さすが太古より綿々と語り継がれてきた「大魔導師」さまだ。

 今の時代ですらその能力に追いつけない。

 というか、足元にも及ばない!


「もしかして・・。世界初の極A、認定・・ですかね」

「あったり前だろぉが!それより上がないんだから!」


 試験官たる俺が叫ぶ。どれだけこれが素晴らしいか、お前らなんかに分ってたまるか!

 只の2種じゃない!混合魔法じゃない!・・いやそれも凄すぎるけど。

 でも、そこじゃない!その裏に秘められた性能にこそ、真価があるのだ!!

 その辺の上位紋章師なんか、ガキのお遊びだ!


「しかし・・・すごいわ・・」

「この刻まれた紋章。模写出来ないかなぁ~・・」

「俺、見ただけでもさっぱりなくらい緻密ですよ・・?」

「模写は不可能か・・」

「誰か勇者いませんかね?!これ研究用に下さいって言える人!」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」


 所長、あんたどんだけ厚かましいんだよ。


「ウェドウィック!君なら出来るね?!」

「御断りです所長!」


ということで、俺は握手させてもらってくるわ!

 だって、ね!

 ほれちゃいましたよぉ~~~~!

一生ついていきたいです!


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