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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
4/23

賢者と勇者

 取りあえず翌日、小さな町を出た。


 クーンロズルという町だったらしい。

 知らんな。

 

 まァ街の歴史は比較的浅いらしいし、僕にはどうでもいいことだ。

 だってさ。国だって消えてなくなることもあるんだぞ?小規模の町なんて殊更興味も沸かないわ。


 その後王都までの道中はなんだかんだあっても、特筆すべきことはない。


 街道に沸いて出てくる魔獣は優秀な騎士達のおかげで(多少は僕も手伝ったぞ)撃退してくれたし。

 まァ暇だったけどね。



 何度か。

 どこかのそこそこ大きな街にも泊ったが、夜はちょうどいい暇つぶしが僕のポーチの中に眠っていたので、早速実験を開始する。

 そう。

 僕がやってみたかったのは刻む「単一紋章」を、何とかして2種混合に出来ないかってこと。

 もし成功すれば最大3つの魔法が使えることになる。

 これは画期的なことなんだぞ!

 

ふふふふ・・・楽しみだ!



 まず、紋章の設計図作り・・。


「ここはこうして・・・」

 

 いや、もう少し・・。


 出来る効果のイメージを大切に。

カリカリコリコリ・・・。


「この。設計図さえ出来てしまえば・・」


 この作業がとにかく面倒なのだが、出来あがってしまえば、僕の記憶に完全な形のまま色あせずに、残る。

 勿論何度でも上書き保存が可能!

 そしてほしい時にいつでも記憶から呼び出せる。



 よし!出来た、完成だ。


「後は刻むだけ」


 僕は魔法で紋章を展開させ、それを圧縮して魔核に刻み込んだ。



 問題はその性能を確かめるすべがないことだな。

と、云うわけで。僕は寝る。・・う~~んさすがに疲れたな。


 よし。移動中魔獣が出たら僕に任せろとだけ、連中に伝えておこう!





 馬車が順調に王都に近づいて来たらしいが、まだまだ魔獣の姿はある。


「お・・出ましたな!」

 

 騎士のおっさんが窓から身を乗り出すように、街道から少し離れた林の中を覗いている。


「さぁ!僕の出番だ!」


 意気揚々と馬車から飛び出す。




 ・・・おい。なんだよ。最低な魔獣ゴブかよ!


「ま、いいか・・」


 その分数いてるし。いけるやろ!(つい関西弁


 一発目!火炎!


「ほほぉ~面白いようにぶっ飛んで燃えてる!」


 2発目!竜巻!


「ふむふむ。かなりいいね!では最後!複合魔術!巻き上がる爆炎!」


 ・・・・・オーバーキル・・・。


 すみません。林がきれいさっぱり燃えカスになってしまいました・・。


「大・・魔導師様・・・」

  

 ううう・・。皆の目が怖いです。視線、痛いです。


 調子に乗って色々ぶち込んじゃったからなぁ~・・・

あ、あれだ。大成功しすぎて逆に失敗しちゃった!みたいな~?

 うん。まずいわ!

 そうだな。・・・出力絞って範囲を狭くしよう。そうすれば使えるようになるよな?!うん!なるよ!

 このままだと街一つ、綺麗に消滅出来ちゃうもんな。

 嫌だよ。この僕が「災厄級」扱いされるのは。いろいろもめちゃうし~~。

 しかも僕自身が使った魔法じゃなくって、ただの紋章魔石っていうのも問題あるしな。

 手直しは、王都に着いてからでいいか・・。



 さて。反省した僕は、その後、取りあえず大人しくしている。

 そしてぼんやりと周りの景色を見ながら、僕は暇つぶしを始める。

 そうだな~・・。

 この春という時期に合わせて、各地の旬の野菜を使った料理の数々を考察でもしよう・・・。

 涎が垂れてきそうだが。






気がつけば・・・。

 何だ、もう、ついたのか。


 そのまま馬車は王城に乗り込んでいく。

 そして促されるまま王との対面。


 うん・・。こいつの顔知らん。てか。確か生まれてすぐに祝辞を与えた、あの赤ん坊だよね?

 見れば威厳はあるけど、今は爺じゃん。

 はぁ~時の流れって早いわぁぁ・・。



 儀礼的挨拶。それに僕から新規ダンジョンの報告と申告書。一応それで終わる。


 別室にて王様以下数人と対面。

 ここからが本題だろう。


「さて、魔王誕生の報告から既に10日あまり。かのメレシア聖国にて『勇者召喚の儀式』が行われたとのこと。ぜひともかの国に向かってほしいのだ」

「それは、僕にまた勇者を導けというのですね?」

「また、かどうかは余の預かり知らぬこと。大賢者の貴方様でしか分らぬであろう」

「うぬ・・。仕方がない、向かおう。で。もう召喚はしたんだね?」

「そう聞いておる。

 急ぎ過ぎても、今日までの疲れもあろう。

 そうじゃな。明日の昼過ぎあたりにでも出立して頂きたい。なお。馬車の手配と護衛の手はずはこちらで準備させよう」

「早いな・・。了解だ」


 前回、前々回の勇者召喚には立ち会っている。

 まぁ、内容は特に変わっていないだろうよ。



 僕は気分がすこぶる悪かった。



 勇者召喚。


 あんな裏技を何故女神アルテミネアが聖国に教えたのか。

 あの慈悲深い笑顔の裏側は、真っ黒だ。

 だから僕は好きになれない。


「人間第一主義の神って胡散臭いわ・・」




 僕は王都の貴賓館で一泊することになった。


 めしうま!

 さすが王都だ。さすが賓客扱いだ。うまいわ~~




 腹いっぱい旨いものを堪能した後、とある一室を当てがわられた。

 なんといっても王宮内の貴賓室、あまりの豪華さで眼が眩む。

 無駄に広い! 

 無駄にキンキラキン!

 ベットもフカフカだ!


「・・・なんか床の上で寝たくなるな・・。何か触って壊しても嫌だしなぁぁ~~・・・」


 基本貧乏性だから。こう言うのは慣れないし、落ち着かないしぃ~・・。


「あ・・あれだ・・。有難迷惑?」


 言ってて空しい。





 さて。

 あの腹黒女神が与えたという召喚紋章術について。


 その前に何故そんなものが必要なのか、そこが問題になるわけで。

 

 居もしない、もう一人の自分に語りかけるよう頭の中を纏めて行く。

 これが実は効率がいいからだ。



 僕が生前いた地球を含む広大な宇宙。

 最大限拡大されれば、その姿は所謂、砂時計の形に似ている。


 まァそこまでなら僕でもなんとか知っているんだが、実はその宇宙はもう一つ存在していて、言わばどちらが幻とか現実とか、分らない表裏一体。

 上手く言えないが反面した形で隣に存在しているのである。


 で、地球と同列な星がこっち側だ。

 但しその境目は薄い膜のようなもので境界線を描いていた。

 別に視認できるわけじゃないがね。

 これを僕は便宜上『異空間の狭間』とか言ってます。

 

 要するにここを抜けてこなければこちら側に地球人を連れてこれないわけで、それがかなり難しいのだ。


 そのまま人が狭間に入れば、その瞬間に幽体(魂)と肉体が強制分離し、まぁなんだ。早い話が死ぬ。

 しかも永遠にそのままで、魂は自然のリサイクル転生の輪からも外れてしまうわけだから、完全なる消滅にも似た感じだね。

 

 ではどうするか。


 それが召喚魔法陣による、強化だ。


 異空間の狭間という境界線を越えてくるのに耐えられるだけの肉体強化を紋章によって刻み込ませて、こちらに引っ張りだしてくるんだよ。

 

 肉体強化=チートなステータス

 肉体の保護=女神の加護


 こう言えば、実に分りやすいと思う。

 

 ただ。じゃぁ魂の強化はないのか?と言えば、実は召喚魔法には魂そのものに働き掛ける事が出来ない。


 地球が存在する世界、宇宙とこちらの宇宙では神(便宜上に言うだけ)がまず違うのだ。


 しかも魂そのものは自身が存在する宇宙に帰属しているから、他からちょっかい掛けられない存在で、女神といえども手出しできない別次元の問題でもある。


 ではどうするのか?


 話はいたって簡単。


 魂そのものがこちら側に来ることを『強く願う』。ただそれだけが魂のプロテクターになるのだ。

 

 要するに「異世界に行きたい。勇者になりたい、ハーレムしたい!猫耳こい!萌えさせろ!」と欲望むき出しで夢想している奴ほど魂を防御し、あの狭間の干渉さえ押しやる原動力となるわけだよ。


 しかし。異世界とか勇者とかまぁハーレムとかは理解するが「けも耳」とか「猫耳」とか・・・。ないわぁ~・・何それ・・。

  もえ???

 


 いやね。

 僕も最初見たとき、どうかと思ったんだよ。

 まさか、そういうからくりがあるのかって、後で気がついて愕然としたね・・。



 だってそうだろ?


 どうせなら、イケメンで人格者でっていう方が断然「勇者」らしいじゃないか。

 それが何が悲しくってオタクほど通過しやすいとか・・。ありえんだろ?!


 それでもまァ1回目は途中から正義感に目覚めた青年が頑張り、取りあえず3回まで勇者達は魔王に立ち向かい、共倒れという結果を残して行った。


 それで忘れてたが召喚魔法。

 これが究極の紋章術式で、5重の紋章を組み合わせて一つしないと発動しないという、実に厄介なものなのだ。


 実際数回見ていたからね、その現場を。

 

 そして一つの紋章に「組み立てる」者と「それを維持する」者の二人で一組。5重紋章なので10名必要。


 うん。体内に魔石を持つ極めて貴重な人材を10人揃えて、紋章構築に文字通り命を奉げなくてはならない。

 全てが組み合わさり一つに変化した時召喚は成功し、その代償に10名の命は奪われる。これが勇者召喚の真実であり、僕は10名の命を生贄と呼んでいる。



 彼らの命と引き換えにやってくる勇者は、はっきり言って彼らの望むような勇者然とした高貴な存在なんかじゃない。

 ただのキモオタだ。

 


 まぁそんなのばっかりじゃないけど。


 

 



それと言うのも、前回の勇者の例がある!

 そうだ、4回目の勇者だよ・・。

 これ持ち出すと、前記の推測が怪しくなっちゃうんだけどね~。

 まぁ、失恋で現実逃避したいという強い願望はあったみたいなんだが。



 そう。僕は彼女が勇者として神殿に現れた瞬間を今でも覚えている。





 彼女の名はエミリー。エミリー・ハウ・・なんだっけ?。16歳。

 アメリカのサンフランシスコからやってきたファンタジーが大好きな少女だったんだ。

 ただ日本人と違うのはエミリーのファンタジー感は指輪物語とかハリポタらしい。

 そしてハイスクールに通い、チアガールをやっていたらしい。


 そう!

 珍しくオタク要素が薄い、勇者だった!

 そうだよ!こういう例もあるんだよ!




「勇者よ、魔王を倒して我らの世界を救ってください、お願いします」

「嫌よ!何でそんなこと私がしなくちゃいけないの?自分たちの問題は自分たちで片付けて!」


 まさに彼女はNOといえるアメリカ人であった。


 もうね~。いろいろ目からうろこなんですよ、あのときは。

 そしてつくづく思った。日本人はお人好しで周りの目を気にして空気読んじゃうわ、愛想笑いで問題流すわ~ってするけど、アメリカ人は一切しない。

 自分の感情に大変素直で気に入らなければ顔に出る、文句垂れる、ヒステリックにわめき散らす、物は投げる、暴力振るう。

 でも基本は元気で明るくていい子なのだ。

 ただ感情がストレートに出るだけ。

 何より・・。


 日本人の同い年の少女と比較すると。


 体格というか育ち方が全然違う。

 

 16歳と聞く前までは「女子大生?」と思うほど発育がよく、この世界の住人と大差ないのだ。


 身長183センチ。生前の僕より高い・・。

 長い手足、高い腰位置。うん・・限りなく8等身?

 そしてチアガールで鍛えた肉体美。

 そうさ・・。割れてる腹筋とか、日本人の少女じゃありえんわな・・。


 要するに何もかもがアメリカサイズで、それはこちらの世界でも同じなのだ。

 日本人はそれに比べ何もかもがコンパクトで、しょうゆ顔だし。しかも手足よりも胴が長い。筋肉のつき方も全然違う。

 まぁね。今更そんなこと言ってもしょうがないし、第一今の僕はこちら側の人間なんだから。

 しかしエミリーの金髪碧眼はこちらでも違和感なく、まるで元からこの世界の住人のようだった。


 最初は「え~?エルフいないの?ホビットいないの~?つまんなぁい!」と連発していた彼女だったが、いやだいやだと言いつつ剣を振りながら「結構楽しい!」と笑顔を振りまいていた。


 エミリーにはチートがあるが、そんなものなくても十分強いんじゃないのだろうか。欧米人と東洋人の体格差って凄いものがあるよな実際。

 

 いつしか周りの騎士達もエミリーには一目置くようになり、そしていつの間にか輪の中心にいた。


 そう。気がつけば「魔王退治、してやってもいいよ」とまで言えるようになっていたのだ。

 これに便乗しない手はないと、各国の王様以下重鎮たちが頭突き合わせて、いかにしてエミリーをもっとその気にさせるかを考えた。実に下世話な答えだったけどね。


 そうしてエミリーは選び抜かれた騎士10名を連れて、旅立つ。


 うん。いろんな意味で選ばれたPT面子。

 どこぞの第二王子だの、大公爵の嫡男だの、どこぞの・・。ああ。忘れた。要するに、地位+権力+膨大な財産+力などなど。普通に4高5高が標準装備な激イケメンばかり。これが答えだって言うから笑える。

 

 あれですね。所謂逆ハーレム。略して逆ハー。


 当然というか、エミリーも大喜びで、奇しくも計画は大成功っていうわけさ。


 ただね。

 凄いのはさすがアメリカ「契約社会」と言うべきか。

 エミリーの細かい、本当に細かすぎる契約書に各王がサインさせられたということだな。あれも凄く笑えた。


「だって私にはマネージャーがいないんだもん!自分で自分のマネージメントするしかないでしょ?それともユーリが私のマネージャー兼弁護士やってくれるの?」


 マネージメント!?うへ~・・。

 そういう世界を前世は知ってるだけに、手伝わされましたよ。

 あれも結構思いで深いね。

 だってあれだよ?

 睡眠時間8時間絶対に取らせること。から始まって、22時までには就寝とか。食事は3回決まった時間、肉と野菜のバランス云々。パンは柔らかいのでないとだめとか、ブレイクタイムのスィーツの品名とか。ベットでないといやとか、シャワータイムは毎日2回。毎日着替えの衣服の調達。更に紋章魔石の維持、装備の無期限借用、怪我したときの対応、かかる費用のうんたら・・・。しかもスケジュールは分刻み・・・。

 自分の労働時間以外の魔獣退治は一切しない。

 


「残業手当が一切出ないんだから別にいいじゃない!そのためのボディガード10人なんでしょ?勇者として拉致されたんだから、当然の権利よ!文句ある?」


てな具合で。ボディガードときたもんだ。

 ・・・・日本人にはない感覚・・・。


 しかも「契約不履行時における違約金並びに・・」とか、もう既に世界が違うじゃん!?ここどこ?

 賠償責任における各王の割合で全員が頭を抱えていたのも、新鮮だったな・・・。



 そして彼女はイケメンズに囲まれて(しかも契約によってものすごく万全な体制で)魔王退治に元気よく飛び出して行った。しかも馬車10台で・・。


 中でも気にった数名には自分からモーション掛けまくっていたな。まぁ、自分に素直なアメリカ人だしね。


 それでどうなったか。




 魔王の手前でエミリーは、一人の男の手によって斬首されました マル




曰く「魔王を倒せばずっと続けてきたPTが終えてしまう。そうしたら彼女は自分から離れてしまうに違いない」

 

 男はエミリーに惚れてた。

 そして「自分だけの物にしたい」という強い欲望の末、彼女をその手にかけ、永遠に自分のモノとしたわけだ。


 何故知ってるかって?


 僕は飛行魔法を使って上空から様子を伺っていたからね。


 まぁ僕の生前の時も、ニュースで何かと騒がれた事件にストーカーの末、女を殺す。ストーカーの末、女と家族を殺す。別れ話の復縁迫り女を殺す。などなど。挙げ連ねたらキリがない。

 要するにだ。

 男は自分の女だと所有権を振りかざし、自分のモノにするために、最愛だろうがなんだろうが「殺す」手段に出やすい、ということなんだろう。

 特に、周りにライバル多いと妄想に歯止めがかからなくなったに違いない。


 ではその後どうなったか・・。



 勇者エミリーは魔王の手前で男に殺された。

 勇者のいないPTでは魔王どころか雑魚すら倒せず、立ち往生。

 そして魔王は・・・


 ・・・・・自爆した。


「はぃ~???」

 

 てなもんですよ。




 そう。魔王は魔素をため込み過ぎて、暴走し始めた魔核に肉体が耐えきれず、爆散したのだ。


 結局そのおかげで勇者のいない勇者PTは国に帰り、世界を救った英雄の称号を得、歴史にその名を刻む栄誉を賜わったわけです。


 何せ元から地位も財産も領土も何でも持ってるイケメンズでしたから。


 歴史ではエミリーはその身を持って魔王を討ち滅ぼし、その亡骸(てか、頭だけだよ・・)を持ちて王都に凱旋した英雄たち~と記されてるだろう。


 そしてエミリーを殺した男は王城の北塔にて幽閉された。

 完全に狂っていたからね。大人しい静かで、とても深い闇の狂気だったが。

 両腕にエミリーの頭蓋骨を抱きしめて、不思議なほどやさしい笑みを浮かべながら、亡くなっていたそうである。

 そこまで見に行っちゃ~いないけど。

 でも。



うおぉぉーーー!

 男の執念、怖いわぁぁ~

 僕も男だけど、怖いわぁぁ~~~・・

うん・・。だってね。もう枯れてますから、いろいろと・・。



 では魔王の魔核はどうしたか。


 そんなもの世界に出回ったら戦争始めちゃうでしょ?!

 地球の核兵器全部集めてコンパクトにしたようなものだからね!

 しかも持ち運びに便利なソラマメサイズ!


 魔王の爆散を目撃した僕がまず行ったのは、実験だ。

 元から仮説はあったんだ。


 だから、これ幸いにと実行した。


 魔法で雷雲を呼び、大雨を降らせた。

その結果・・。

 肉体と言う保護膜を失った魔核は雨によって流れ去った。


 うん。


 魔石は紋章刻む前に保護膜を張る。紋章を刻まない魔石にも加工前に必ず保護膜を張る。

 それは雨に弱いからだ。

 というか・・雨によって「液化」するんだ・・。



 魔石(固形)⇒加熱(マントルで溶ける)⇒魔素(気体化)⇒魔核(固形化)⇒水で変化(液体化)⇒大地に吸い込まれてマントルに戻る


 一部、こう言ったサイクルが出来上がる。


 魔素自体も雨で多少液体化現象を起こし地底に流れることも判明している。

 だって、冒険者の間では「雨降った後は魔素が薄くなるから、狩りもしやすい」って、定説だよ!


 そしてエミリーのおかげで魔王は「放っておいても勝手に消える」という事実も分った。


 ただ、その真実を知るものは僕の他にはいない。

 第一真実を訴えたところで、それは皆が望む結果じゃないからね。


 歴史とは必ずしも真実を映し出す鏡じゃないんだよ。そういうこと・・。




 では何故召喚するんだよ!? 

 うんうん。全くもってその通りだ。

 だがな・・。


 そんなことは腹黒女神にでも聞きやがれって言うんだ!



 て、寝る前のいらいらはよろしくない。

 因って。紋章の再構築でもやるか~~。

 手直し、手直し♪




 今日の宿泊先はエゼル・ガルズという、それなりに歴史のある街だ。

 

 クーンロズルのように宿の空きがない、ということなく平穏無事。

 

 翌朝。

 只相変わらず、かの大魔導師にして大賢者は我が道を行っている。

 どんな食事も上手いんだかまずいんだか判別しにくい表情で、もそもそ食べているのでつい周りも合わせてしまい、まるで葬式のよう。

 食器が奏でる音。咀嚼音だけが辺りを支配している。これでは、咳の一つも憚れる。


「・・なんかつらいです」


 エルナンドが寂しそうに呟くがそこは気にしては駄目だと、グレイルが肘で小突いた。

 確かに朝っぱらから不景気面しているユーリには全員、何やら気にしているし。

 

「あ・・。騎士のおっさん」


 何かを思い立ったように、ユーリが顔を上げる。

 本気で人の名前を覚えようとはしないんだな、とグレイルは「何ですか?」と尋ねた。


「今日ね、ちょっとばかし試したいことがあって、魔獣出てきたら僕が片付けるからね」

「ほぉ・・」


 ユーリが珍しく嬉しそうに笑う。


「何を試されるので?」

「いや~夕べ遅くまで頑張って紋章魔石作ったんだよ!それの試し打ち」

「なるほど。こちらは一向にかまいませんよ」

「ありがと!魔獣出るといいなぁぁ~」


 魔獣出現は、多分そこまで期待しなくても出るのでは?と不謹慎なことは口にしなかった。


「ユーリ様が造られた紋章魔石、ですか・・。興味わきますね」


 散々歴史上英雄の偉大さにへこみまくっていたエルナンドも、浮上したらしい。

 そして食後、早々にエゼル・ガルズを後にした。




「魔獣発見!」

 

 馬車の周りで護衛に勤しむ兵の一人が声高に叫ぶ。


「どれどれ・・」


 馬車の中のユーリ、グレイル、エルナンドは車窓から辺りを伺った。


「あ・・いた!あそこ、あそこだよ」

「ああ~いますね。結構数が多そうですが」

「だが、雑魚っぽいな」

「ですよね・・」

 

 どう見ても雑魚だ。

 まぁどんどん王都に近づいているせいもあって、魔素はそんなに濃くはないのだから仕方がないだろう。

 さてどうしたものかとユーリを見ると、もう体を乗り出している。


 グレイルはすぐさま馬車の足を止めさせた。


「ではちょっと行ってきます!」


 意気揚々と馬車から下りて、ユーリは魔獣が沸き出す林の方に歩いて行った。


「どんな魔法を刻んだのかな?」

「さぁ? というか、紋章師でもあったんですね」

「うらやましいってか」

「私でも出来ますから!資格持ってないだけで!」

「何ムキになってるんだ?」

「・・何でもないです」


 二人も馬車近くに降り立ち、様子を見ながら小突き合っている。

 お互い今まであまり接点がなかった関係だが、意外にウマが合うことを発見していた。


「お。始める様だな」

「ええ」


 二人の目の前で、少し遠くなった小さな影が高々と手を挙げたのを見て、少しだけ真剣に見つめる。その瞬間。

 辺りが一瞬で赤く染まり、爆音が轟き、地が揺れる。


「な・・?!」

「はぁ?!」


 あれはなんだ?魔法なのか?

 熱風に顔を撫でられて、思わず身を屈める。


「お、おい!あれを説明しろ!」

「た、多分、火炎系魔法かと・・」


 話している間に次が爆発する。

 林の木々が千切れて舞いあがっている。


「お・・おい。あれは?」

「た、竜巻系かと・・」

 

 だいぶ離れているはずなのに、ここまで枝葉が飛んできて全身に当たっていく。

 思わず、その場にいた全員が馬と身を隠して避難する。


 そのわずかな時間に、次の魔法が発動したらしい。


「うう・・わぁぁ!」

「ひぃーー・・」

「ああ・・!?」


 大地が赤く燃え上がり炎を纏った旋風が荒れ狂う。

 焼けた石や燃え盛る木片が離れているはずの一行にまで襲いかかり、恐怖で慄く馬たちが狂ったように暴れ、兵士たちもまた必死に身をかばっていた。

 激しい熱風で馬車は傾ぎギシギシと揺れる。

 その陰に隠れていたグレイルとエルナンドは、ただひたすら身を縮ませていた。

 肌が、髪がちりちりと音を立てている。

 呼吸すらまともに出来ない。。

 何かが身体に当たり、何かが燃えている。

 ほんの僅かな時間が恐ろしく長く感じた。


「い・・今のは、なんだ?!」

「分りませんって!」


 二人が恐る恐る馬車の影から、ユーリの方を覗き見る。

 その先に、あったはずのものがきれいさっぱり消えているのを唖然としたまま、眺めていた。


「おい・・。この、目の前に広がる光景を、説明してくれ」

「・・・・焼け爛れた・・荒野、ですかね」


 皆の下に歩いてやってくるユーリは、全然すまなさそうではない態度で「やってしまいました~~」とへらへら笑っていた。

 それを見て、さすがのグレイルも、感情を抑えきれなかったらしい。


「おい!そこの破壊兵器!やってしまいましたぁぁ~じゃないだろが!」

「ま、待て。グレイル!落ち着くんだ!」


 埃まみれの煤まみれになった騎士たち全員が茫然としたまま、激怒している上官を止めるのも忘れている。

 唯一エルナンドだけであった。


「貴様ぁ!あれだけ広い林がなくなっるって、有り得んことしやがってぇ!こっちまで巻き添え食ってるんだぞ!殺す気か!」

「落ち着いて・・!」


 ユーリに向かっていこうとするグレイルの体にしがみつき、エルナンドは悲鳴に似た声を挙げる。


「いやぁ~悪かったって。まぁほら、焼畑やったと思えばぁ~」

「笑ってるなぁぁ!」

「悪かったよ、もうやらないって」

「ほんとに本当だな!?絶対その凶悪なもん使うなよ!次やったらお前の命はないと思え!!」

「はいはい。まいったねこりゃ」

「お前ぇ!全然反省してないだろ!!」

「え?そんなことないですよ?」

 

 そこ。何故、疑問符・・。


「大・・魔導師様・・・」


 誠意のない言葉に、さすがのエルナンドも涙目になってしまった。


「と、ところでユーリ様。魔石に刻んだ紋章っていったい何ですか?」

「ああ~上位火炎と上位竜巻。んで混合魔法舞い上がる爆炎!」

「・・・はぁぁ???」


 こんな化け物じみた人と自分を見比べるなんてそもそも間違っている!と改めて気付いたエルナンドは、なんだか心の荷が下りたような気がした。

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