賢者のボランティア
うちの前の桜並木がきれいだにゃぁぁ~・・・。
梅酒もってペランダでお花見すっぺ♡
さほど規模があるわけじゃない町の大きさだが、障害物がやたらと転がっている道を走りまわるには、広過ぎた。
そして町長不在の中、ギルドマスターが陣頭指揮をとり、少しずつだが救援活動が潤滑に行われていく。
僕は取りあえず、怪我人を集めているという場所、要はギルドにお邪魔してまず手当てから始める。
「サーチ。ふむふむ。ではっと、ハイヒーリング」
次。あ、こっちの人は軽症か。ならあいつに任せよう。
「おい。そこの魔法使い、この人頼む」
「・・・分りました」
名前?聞いたけど、忘れた。
大体、覚えて何になるんだ。どうせ数十年後には墓の中の人物だ。
「ん~これは酷い」
横たわった女性は骨折だけじゃなく、圧迫が解放されたことによるショック状態で、死期が近い。
「サーチ。キュア。ハイヒーリング」
うん。呼吸が安定してきた。これで大丈夫だ。
ふふふ。
普通これだけの治癒は高聖職者でも使い手が少ない。だから治療の料金(寄付)も半端なく高いはずだ。
しかも僕の治癒魔法の上限はほとんどないに等しい。
これがどういうことかって言ったら、例え手足がもげていようが胴体が分離していようが「死んでさえいなければ完治が一瞬だ!」ということだよ。
それを惜しみなく大判振る舞い。
何せ僕だからね。
ある意味みなさんは運が良かった。
だって僕は自慢じゃないが、引きこもり歴6000年のコアなニート賢者だから。
働くことは好きじゃないが、ボランティアなら許容範囲・・。
面倒くさいけどね。うん。
さて、怪我人の手当てはあらかた片付いた。やれやれである。
後は失血による体力不足だけは適度に栄養とって、寝てればOK。
魔法はそこまで万能じゃないからね。っと。
少し傾いでしまった宿にでも戻って、そろそろ寝るとするかな。
ギルド内の床に横たわっている元怪我人を見降ろし、一旦背中を伸ばす。
いや~我ながらよく働いた。働くのは嫌いだが、働いてしまった。しかも残念なことに労働による疲労感というものが一切ないけど・・。
そこは気分だ!
「ふぅ~・・・」
出てもいない額の汗を拭う。(振りだけだがな!)
よし!これで心地よい睡眠が確保できる。
すると駆け込んできた若い男が血相変えて、奥のマスターに報告している内容に、つい耳が。
「た、大変です!中央広場の噴水近くに、断層が・・」
この。しょぼい町でも一応広場に噴水などというものがあるようだ。唯一の観光資源ってか?
ああ~問題はそこじゃない。
断層の亀裂ね。
「それでどうした?」
「奥から、高濃度の魔素が噴き出ています!」
「それは本当か?」
つい、僕がその話に割り込んでしまった。
「「ああん?」」
二人の怪訝そうな目つきが怖いな。
「新たなダンジョンが発生したかもしれない。僕が見に行こう」
「おい、小僧!確かに治癒魔法の腕は認めるが、これはギルドの問題だ。ガキはすっこんでろ!」
ギルドマスターが怒りをあらわしている。まぁ・・そうだろうな。
見た目お子様、しかも他人が口出すな!だろうな~うん。
あ。でも。一応ギルドカードは持ってるよ。有効期限はとっくに切れてるかもしれないけどな。ははは・・。
「一介のギルドマスターが、大魔導師ユーリ様に向かって何と言う口のきき方だ!」
いや。あんたも大概だけどね。しかもいきなり割り込んできて。騎士のおっさん。何で剣を抜く!?
「我は王軍近衛騎士黄竜師団グレイル・フォン・フォレッカ上級大将!不敬罪でこの場で成敗してやる!」
「な・・?!」
驚愕のギルドマスター(どう見ても爺)に剣先を突きつける騎士のおっさん。ああ~グレイル何とかさんだ。偉そうにしている騎士とは思っていたが実際偉い奴だったようだ。
でも今はそんなこと言ってる場合じゃない!
この騎士のおっさんを止めねば!
「待て待て待て待て!待てってば!」
誰もそんなこと頼んじゃいないだろ!
「閣下?!・・た、大変ご無礼をいたし・・」
「大賢者様に暴言を吐くことは国王への冒涜である!」
「だからぁぁ!待てってば!」
取り合えず、みんな一回冷静になろうぜ!
結局何とか話し合いの上で、僕が現場を見に行くことに決まった。
まァこういう事態だから手が空いてる人が少ないし、それに何より、僕より強い奴なんていないだろうしね。
亀裂が新生ダンジョンなら、なおのこと。
さて~。やってまいりました、中央広場・・。
うん。期待はしていなかった。
何しろ僕の参考は王都の中央広場。そこと比較するのもおこがましい、しょっぼい広場だ。ついでに噴水も壊れまくって水じゃぶじゃぶ。
まぁ。この町の規模ですから~。広場も噴水も町にあったサイズだよな。
問題は・・。
「おお~これはすごいな」
約20メートルはあろうかという断層の亀裂。
当然その上に乗っかっていた家屋敷は半壊、全壊状態。
断層の差が1メートル弱・・ね。
亀裂幅に至っては、最大で50センチあるかないかだけど。
ただ。そこから噴き出てくる魔素の量がすごい。
「この四方に、中和街燈設置、よろしく!」
中和街燈と呼ばれるものが、どこのギルドでも1セットは保管されている。いつどこでいきなりダンジョンが出来るか分らないからだ。
要するに、ほぼ魔素がつきかけた紋章魔石を埋め込んだ「街燈」である。
中和と言ってるけど、このガス欠状態の魔石に魔素を吸い込んでもらい、さらに紋章効果で勝手に消費し続けるという物。
その紋章がライトの上位に当たる中位紋章魔法ハイ・ライトなのは昼夜問わず「ここにダンジョンあるから気を付けて」と危険を促す効果もある。
何とか急ピッチで設置が完了すると、早速魔石が吸収し始め、辺りが真夏の昼間以上に明るくなってきた。っていうか。眩しすぎるわ・・・。
だが。これで中を覗くにしても、見やすさ抜群だ。
「ふむ。どうやら、縦に近い穴だな」
騎士のおっさんが困った顔で背後に立っていたが「付いてくるな」の一言でお留守番だ。
おお、やっと『待て!』を覚えたね。
さて。お初物は、この僕が頂く!
僕は入口を広げる。土魔法のお出ましだ。
そのまま広げた分の瓦礫が下に落ちて行くが、廃棄利用で階段も作っていく。だって足場が悪すぎるんだもん。
さてと。
ライトの魔法で目の前に光の球体を浮かばせ、そのまま自作の階段を下りて行くことにした。
魔素の濃度がさらに上がっていく。
「・・これは・・」
普通の人では耐えられない濃度だ。
放射能も致死量というものがあるように、魔素にも致死量がある。
特に人は魔素の耐性は低い。魔核さえ体内に持っていないくらいだから、当然だろうけど。
ところで、僕の知る放射能と魔素の比較だが。
放射能は遺伝子や細胞の異変を引き起こし癌や奇形を生みだすが、魔素もよく似ている。要するに浴び過ぎれば「魔獣化」するし、容量オーバーなら即死だ。
そして「魔素」のタチが悪いのは、死体すらも魔獣化する点だ。
ほら。ゾンビとかスケルトンとか・・。
うん。その程度に、魔素が濃い。
これは。
今回の地震で亀裂が出来たわけだが、この奥はやはり洞窟だった。それもかなり古いと思える。
下に向かって降りて行くので、まだまだ先は長そうだが。
「うお!」
魔獣のお出ましか。
入ってまだ10メートル進んだかどうかで、まさかの対峙。
でもって、どうやらミミズが元らしいが・・・。
体長凡そ3メートル。太さ・・トラックのタイヤ並み・・。ミミズというより肥えた芋虫のような感じだよ。残念すぎる魔獣だ。
しかし、その攻撃は酸性溶解液の噴出。土魔法による移動阻害。
その間僕は相手の様子を見るために防御を展開させて見ているが、体当たり攻撃に巻き付きもあるのか。
「入口付近でこのレベルかよ!」
僕的な区分けだがクレイワームの上位種。レベル的にC+~B₋級。
「サーチ」
この魔獣の概要を知るのが手っとり早い。
「うむ。分ったので、もういい」
やられっぱなしは好きじゃないので、早々にエアカッターで切り刻む。
しかもこいつ、耐性持ちらしい。
「土と火に耐性ありか」
殺るんなら、風魔法だな。えっと物理には耐性はないが「身体強化」の魔法も使って来ていた。
「これはちょっと・・」
芋虫から手に入れた魔核。僕の拳ほどの大きさで赤黒く光っている。大きさもさることながら、色の濃さが問題だ。
「半端ないね・・・。しかも純度も高いときたか」
奥の方は多分とんでもないことになるだろうな。
洞窟の幅は今のところ3,4人が並んで歩けるほどに広いが、所々狭くなったり広くなったりするのが普通で、地底湖にぶち当たると「水棲魔獣」も出てくるだろう。
あれは本当に面倒なんだよね・・。
水中で倒すと魔核が存在しない、ていうか。陸に上げてからとどめ刺さないと、魔核溶けちゃうからな~・・。
また別の魔獣がお出ましになられた。
「3種類、計7匹か!」
サーチ入れながら対戦する。
まァ、僕だったから良かったものの、これ普通に偵察隊入れてたら阿鼻叫喚だろう。
入口付近で出るレベルでも数でもない。
だってこの町のギルドの規模見りゃ素人でもわかるわ。
よくて、トップがBクラス、最悪Cクラスの冒険者しかいなさそうじゃないか!
僕のポーチの中に拾い集めた魔核がごろごろしているだろう。
これで杖作ったらえらく性能いいかもしれないな。
魔核の質の良さに純度の高さ。特にこのダンジョンでは魔素が濃いから上位魔法打ち放題だ。しかも魔素の自動吸収で常に満杯可能!
所謂、MP切れがない状態・・。
ついでに魔素吸収が、魔素酔いを軽度にしてくれるし?
このダンジョン、魔法使いには最適かも知れん!
「おおお!魔法無双ができるじゃないか!」
・・・まぁ、本人が魔獣の直攻で死ななければの話だが・・・。
いや待てよ。装備にものすごく金かければ・・もしかして可能???
「一応戻るか」
倒し終えて回れ右。
だって奥まで進んだら、過剰労働だろ?!
確かに暇だったけどさ。
もう十分暇は潰せたし、ボランティアで重労働はしたくない・・。
外に出た僕はそのままの足でギルドに向かう。
これは報告しないといけない。
「それでどうだった?」
新生ダンジョンはギルドや町にとって重要な問題だ。
「まぁ中はどの程度広がっているかは分らないが」
一応入口付近で徘徊している魔獣の情報を挙げておくことにする。
「C+以上だぁぁ?!」
「ああ。奥はもっと上位種がうじゃうじゃいるね。このダンジョンは上級者むけのダンジョンレベルA3(限りなくS級)だ」
僕が差し出した魔石の大きさと色を見て絶句している。
まぁそうだろうね。あまりお目にかかれるサイズじゃないし。
そして見せるだけ見せたら僕のポーチの中にしまう。
当然だな。これらが今回僕の報酬となるわけだ。取ってきたものは僕の物。ギルドの不可侵規約だ。
そしてこれらを換金するかは本人の判断できまる。で、僕?
売らないよ!
結構な良質魔核だしね。それに前々からやってみたかった紋章があるんだ。奇しくも材料手に入ったし。
そう。
これは天が僕に「実験してもいいよ」と言っている!
・・・・た・・楽しみだ!!!
ギルドマスター他、話を聞いていたほとんどの奴が難しい顔をした後、一瞬にして輝いた。
ふ・・。どうせ儲けの算段でもしているんだろう。
何しろ街中に出現した高レベルダンジョンほど、旨い餌はない。
世界中から上級者PTがこぞってこの街に訪れ、攻略のために長期滞在をするはずだから。
しかも彼らが落す金額も馬鹿にならないが、それ以上に彼らに付いてくる上級紋章師やら、武器屋防具屋装飾屋鍛冶屋アイテム屋など、わらわらと住み着く。
何せ、上級者なのだ。
生みだす金額が圧倒的に違う。
ついでに落とす金額も半端ない。
さて、特筆すべきは、武器屋防具屋+鍛冶屋+紋章師の関係図だな。
彼らは三位一体となって商売する。
良い武器に付ける良質な魔石。そこに刻む上位の紋章。そして手直しをしながらはめ込む鍛冶屋。
いい腕の者たちが勝手に同盟関係を築き、良質の製品を提供するのだ。
その分料金も半端なく上がるが、その程度でおたつくような貧乏人は上級者にはいない。
こんなしょぼい町に腕のいい職人が多く居座り、ギルドも町も潤う。
良い事ずくめに思うかもだけど、街中のダンジョン故に「魔獣が溢れ出る」現象にだけは注意が必要だろう。
「それは良いことを聞いた」
「僕が直々に認定証を出しといてあげよう」
どうせ国王に会うのだ。手間ならほとんどかからない。
更に、これで箔もつくわけだ。
『国家認定 新上級ダンジョン レベルA3』
地震で町があっちこっちやばいことになっているというのに、連中の顔はやけに明るかった。
まあ、どうせ建てなおすなら上級者向けの高級宿に変えればいいわけだし?
終わりよければすべてよし。
「多分世界中に見ても稀なくらい、最高難易度を誇るダンジョンだろうなぁ~・・」
良かったね。僕はもう寝るわ。
宿に向かってる最中、余震が襲ってきた。
「うわ~・・・ちょ・・」
結構でかいぞ・・。
はたして僕に安眠は訪れるのか?
非常に鬱とおしい主人公です。
やたら講釈垂れ流しします。
でも、これが私の賢者(偏見に満ちた)スタイル~。