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大賢者が往く。  作者: ましまろ
大賢者 謎を解く
10/23

賢者と召喚勇者

一気にドシリアス突入・・・。多分

「今日こそは行ってもらえるのだな?」


 朝食済ませた僕のところに騎士のおっさんと魔法使いの人が現れた。


「行くと言ったじゃん・・」

「・・・・・・では行きましょうか」

「分ってるって。引っ張らないでよ~」


 どうやら僕は騎士のおっさんにとことん信用されてないということなんだろう。

 左腕を掴まれ、ずるずる引きずられていく。

 そして一つの扉の前に来た。

 その部屋は「国家間通信魔石の間」だ。


 部屋の中央に丸いテーブルと豪華なイスがあり、その周りを高さ1メートルほどの石柱が均等に並んでいる。その上には小玉スイカ程の上質魔石が鎮座していた。

 これを使って同時通信も可能なのだ。

 ええ、そうですとも。

 これを造ったのは僕です。第3回目勇者召喚の際に「あったら便利だね」と、考案したのです。

 褒めてよ!


「で。ユーリ大魔導師。どうやる気だ?」

「まず、メレシアに通信しますので、いいですか?」

「どうぞ。陛下より許可は頂いております。では起動させますね」

「お願い」


 魔法使いの人。あんたは優しいね~


「もしもし~。繋がってますかぁ?」

『ザザー・・・こちらメレシア大神殿です・・繋がっております、導きの大賢者様・・』

「では少しそこから離れてもらえますか?」

『・・ザ・・分りました・・ザザ・・』


 僕は二人に目をやる。


「今から向こうの位置を測定するので、君たちも下がってて」

「分りました。閣下も」

「ああ・・」


 十分に距離を取ったと思われる二人に、僕は改めで頭を下げた。


「今まで感謝です」

「いえ、とんでもない」

「十分感謝してくれ」

「・・グレイル!」


 魔法使いは騎士のおっさんを小突いている。


「ああ、そうそう、魔法使いの人」

「はい、何でしょうか?」

「君は十分優秀な魔導師ですよ」

「え?!」


 いきなり僕が褒めたので、耳まで真っ赤にしてうろたえている。

 魔法使いのおっさんのなかなか性格可愛いね。


「まァ精進してね」

「は、はい!」


 騎士のおっさんは僕と魔法使いを見比べて、自棄に不満げな顔だ。

 こいつは放っておく。


「あ~もしかしたら勇者をこっちに連れてくるかもしれないから、その時はよろしく!では行ってきます」


 僕は早々に移動系魔法陣を展開させた。






 国家間通信魔石の位置が分ったところで、そこから1メートルほどの地点に位置限定をして、僕はメレシア聖国、大神殿へと飛んだ。

 

「おっと・・」

 

 出現した位置が悪かったみたいだ。

 左腕の肘が高価そうな花瓶にあたって、転げそうになるそれを慌てて両手で押さえた。

 あ、焦ったぁぁ~・・

 それを、茫然と見ていた数人の神官たち。


 真っ白な長衣に金糸の刺繍の縁取り。

 何か少し見ないうちに、そのデザインも微妙に変化してる。

 髪は丁寧に後ろに撫でつけられた、いかにも神官でございます的なお兄さん方が数人。そのうちの一人が静かに近づいて来て、頭を垂れた。


「どもども~」


 格好悪い所を目撃された以上、ここは笑って誤魔化す。日本人的に?


「お・・お待ちしておりました、ユーリ・オリジン大賢者さま」

「ああ~遅くなってすまなかったね~」

「いえ。早いくらいでございます」


 先導され、廊下に出る。

 相変わらず無駄に広い。王宮のそれとは別質の美しさと静謐さを持つ。さすが神殿と言うべきかな。



 少し前を行くお兄さんは、あからさまにほっとした表情を浮かべている。よほど、今回の勇者に手を焼いているのかもしれない。


「で、勇者君は?」

「ご案内いたします」


 僕はお兄さんの後について、神殿の中をゆっくりと付いて行った。


「で。どんな感じなの?」

「その。あれです、なんというか・・」

「ああ~神官に美少女いなくて拗ねたとか?」

「・・・はぁ・・」


 やっぱりか。


「まぁ。僕に任せておいてくれ」

「お願いします」


 そしてようやく、召喚された勇者が引きこもっているという部屋に辿り着いた。

 さて。

 ここからが僕の正念場だ。

 なんてたって、僕は『導きの大賢者』らしいからね。神殿では。

 無駄に呼び名を変えるんじゃないよ。

 僕の方が混乱するじゃないか!

 


「失礼するよ~」


 中に入ると、男はペランダの隅で三角座りをしたままふさぎこんでいた。

 僕はゆっくりとその男の横に腰をおろし、同じように三角座りをする。


「僕はね。大魔導師で大賢者と言われているユーリっていうんだ」


 相手を見ないで、独り言のように話す。

 ここから見える空は晴れ渡っていて、ぽっかり浮かぶ白い雲も飛び回る小鳥のさえずりも、のどかでいい気分だ。


「どこから来たの?日本人かな?」

「ああ・・そだよ」

「こっちの世界にようこそ。勇者君」

「おめぇに君付けされる覚えないし!」

「僕はね。転生者なんだ。前世は日本人」

「えええ?何それ!マジ?」

「マジ」


 これを言うと大概のってくる。そりゃそうだ。誰一人知り合いのいない異世界で、同郷がいると言うだけで安心できるものさ。


「俺千葉から来たんだ、近藤祭マツル

「前世では大阪なんだ~。もう関西弁はほとんど使わないけど」


 大体この世界で方言を使って言い変えることは難しい。それに日本語も随分怪しくなってしまったし。こちらの世界になじみ過ぎてしまっているからね。


「もうこっちの世界の事、聞いた?」

「・・・ああ。すっげぇムカツク。何だよ、それ、全然違うし」

「だね。全然ファンタジーしてないだろ?」

「ほんとだよ!」

「だって、現実なんだもん。しょうがないじゃん」

「・・はぁ?」

「だから、日本人が思い描いてるアニメや漫画じゃないんだから。ここは本当に現実だからね」

「何だよ、それ!意味分んないし!」

「ところでもっと君のこと聞いていい?」


 父も母も正社員での共働き。家のローンの為らしいが、実際はかなり余裕があるらしい。

 そして彼は一人っ子。

 それもかなり甘やかされて育ったようで、ほしいものは何でも買ってもらっていたらしい。その延長でゲームにはまったのが小5の時。

 朝方までゲームをして起きた時には遅刻どころか、もう学校が終えていたという。それを繰り返しているうちに不登校。

 ある意味年季が入っているよな・・。

 両親も先生も心配したらしいが、彼にはどうでもよかったみたいで。

 たまに学校に顔出せば、クラスのみんなから「お前誰?」と白い目で見られ、授業はわからず、テストはゼロ行進。

 それで中学も入学式以外行ったことはないという、まさに引きこもりの達人級だ。

 しかも毎月の小遣いは5万とか。

・・・・親も悪いわ。

 ゲームの課金モノ、ジャンクフード、お菓子。ノベラやアニメ。そう言ったものに消えて行ったそうな。

 なるほど、なぁ~・・。


「ええ?27歳なの?」

「ああ・・なんだよ、悪いかよ」


 しかも、ここに来るまでずっと引きこもりだそうな。

 今まで来た勇者の中でも今回の勇者は、最強かも知れんな。

 何しろ、精神年齢は10歳から育っていなさそうで・・・。言葉使いも態度も、大人のそれじゃないし。

 参ったなぁ~・・。

 こいつに僕の説明が耐えられるだろうか?


「で。神官の件は今の説明でわかっただろ?」

「・・チ。女神なんてクソだな!」

「まぁね・・・」

 

 確かにクソだな・・。


「じゃぁさぁ~。俺のPTは巨乳の可愛い子や美女で揃えてよ!けも耳ないしエルフいねぇし!そのくらいいいだろ!?」


 ほら、キタァァ。

 よし、相手は精神的お子様だ。

 ここは反論の余地を与えない、マシンガントークで押し切るのみ。



「ふぅ・・。巨乳ねぇ~。では巨乳について考察」

「・・は?」

「巨乳になる条件は豊富な食べ物。成長ホルモンを促す添加物。栄養過多。それらが脂肪を増やし、胸を大きくする。なんせおっぱいは脂肪の塊だからね。飽食時代で添加物満載の世界だから可能なんだよ。日本どころか今の世界中どこでもほとんどそうなんだろ、向こうは。それに難民キャンプとかだと、巨乳いないだろうし、実際。

 さらぁに!人工的に盛っちゃう技術もあるしな!

 まぁ僕も詳しいわけじゃないよ?何せ向こうで死んだの高校生だったし」

「・・・はぁ??」

「昔はそんなに言うほど胸の大きい人はいなかったんだよ、向こうでもさ。食べる物がそこまで豊富じゃなかったし、栄養面でも偏ったりしていたから。太っているのは金持ちの証!って言うくらい貧相で痩せてたからね。

 ところでこっちでは、今から200年ほど前から魔素が増え続けて、動植物の成長が著しく悪化してきていて。おかげでどこもかしこも食糧難。

 栄養不足で、ホルモン分泌もよろしくない。市民の健康状態も良くないだろう。こんな環境ではただの脂肪すら付きにくいんだよね。

 だから巨乳はいません。てかほとんど見かけません。

 見かけるのは必死に寄せては上げて~している努力の女性ぐらいです。まぁ稀にはいますけどね。マジで特盛りなの。貴族の女性なら」

「・・なにそれ・・・?」

「現実、です」


 勇者は子供みたいに頬を膨らませて、僕を睨んでくる。


「ちなみに無計画なダイエットしたら真っ先に減るのがおっぱいの脂肪だって、知ってた?」

「・・知らんわ!」

「大体さ~。見たらわかるでしょ?こっちは向こうとは全然違って、文化文明がか~な~り、遅れてるんだぞ。

 この世界が、船や飛行機で世界中の肉や野菜果物が手に入る日本と同じだと思うなよ。その日本だってな。食べ物の大半は輸入に頼ってるんだぞ。

 自国生産のだけで賄ってたら昭和初期に逆戻りだ。そのくらい知ってるだろ?

 当然。ここじゃ周辺地域でとれる物しか手に入らないし。

 大体ね!産地直送って言ったって、荷馬車で1週間とかかかったりするんだぞ?わかるぅ?店頭並ぶ時にはすっかり萎びてて栄養飛んでるんじゃないかって思うような物ばっかなんだぞ!この間食べたサラダなんか!サラダなんか・・・!ああ~悲しすぎるわぁ!

 しかも魔王が出現しちゃってるくらい魔素が増えてるんだから。もう限界に近いんだって。でなきゃ勇者を召喚するわけないだろ?」

「・・・何だよ、それ、なんだよ!?」

「巨乳の妄想は捨ててくれ・・」

「・・・・・・」


 立て膝に顔を埋める勇者。もしかして泣いちゃったか?

 てかさぁ~・・。ほんと、こいつ。ボキャブラ少ないわぁ。

 コピーして貼り付けたくなる気分だね。


「それと女性騎士はいません」

「何だよそれ!」

「だってさぁ~向こうの世界でも女性の戦士や騎士なんて、昔はほとんどいなかったじゃないか。歴史に登場するのは珍しかったから載ってるようなものだぞ?」

「・・・そなの?」

「そうなんです。そういった女性の武将とか騎士とかって、言わば旗印の代わり?象徴的に担ぎあげられた偶像に近いんだよね。

 歴史なんて改竄してなんぼだから。事実と異なるかも知れないし。本当に戦っていたかどうかも怪しいと僕は思ってるから。

 それになんというか。武士や騎士って負けたり死なないように訓練はするけど。僅差の相手の場合、あと一歩の勝ちを拾いたい時って、大概ゲンを担いだりするだろ?

 そういう感覚と同じでね。死や負けを連想させるものを非常に嫌う節があるんだよね。それが、血を流す女性の性だよ。

 そう言う一説もあるっていうことらしいんだけどね~」

「・・・」

「まぁホルモンの関係で好不調がはっきり体調に出やすいって言うのもあるだろうね。だから戦場に向かない女性は入れてないので、こっちの世界では女騎士とかいません。

 向こうの現代社会で男女平等とか言えるのは、それが可能な環境が整ってるからにすぎなくって。それもつい最近の兆候であって、江戸時代とか明治とかで『男女平等!』って普通にないじゃないですか?そう言う環境も整ってなかったし~。

 あ。ただね、女性の強さは根性というか、内面的な地味に肝が据わってる『精神的強さ』はありますね。男はそっちが脆いですから。

 取りあえず、こんな中世とあまり変わらないこっちでは無理なんですよ。そこんとこ、理解してもらえたかな?」

「・よ・・・・よくわかんないけど・・わかったよ」


 多分。僕の予測では『引きこもり』は女性より男性に多いとみている。

 間違ってても謝らんぞ? だって知らないんだもん・・。


「あ。でも、全くいないわけじゃないですよ。

 それが冒険者ギルドに登録された女性だけのクラン『双翼の戦乙女』。

ああ・・今でもこの名称かは知りませんが、既に2000年近い歴史あるクランが存在してます。超老舗です!安定の優良企業みたいなものです。

 何しろ男の作るクランはすぐくっついたり空中分解したりするけど、女性という枠のクランは世界にたった一つだけですから。常にそこに集中するみたいです。

 なお今回勇者の希望に沿えるよう、彼女たちを呼んであるそうですよ?」

「お・・おう!」


 少し前向きになったみたいだな。よしよし。

 相手に考える時間すら与えない、僕の思惑にしっかりはまってるな。


「但し。本当、期待しないでくださいね?」

「なんで?」

「見ての通り、こちらの世界の住人は、言わばアメリカ人に近いです。体格も性格も。ついでに筋肉の付き方も。

 そして、彼女達は生粋の冒険者であり鍛え方が半端じゃありません。男勝り通り越して下手な男より男前です。ケツアゴな女性もいたりします。

 しかも命がかかってますからね。

 向こうの世界だって全身を使うアスリートは、脂肪少ない筋肉質でしょ?

こっちも同じですから」

「・・・・・・」


 うわぁ~へこんでる。

 僕も実際見てきたからなぁ~・・。ギルドで。

 はぁ・・この先もっと重い話になるのに。て言うか、そっちの展開に行きそうで怖いんだが。

 ・・僕もこのまま、空を見て現実逃避したくなってきたよ。


 でも、本当に、これを話してもいいものだろうか?

 なかなか決心がつかない。

 どうやって踏み込もうか・・。


「俺。もう嫌だ!!こんなの、俺の望んだ世界じゃない!!!」


 ああ。そうだろうとも。ファンタジーを持ちこまれたってこっちも困るわ。それにやっぱりな展開だ。

 これ。

 今までの勇者には話してなかったんだよね。

 この1000年ほどで解析がやっとできたんだから・・・。


「帰らせろよ!!こんなんだったら、まだ家で引きこもってゲームしてた方がましだよ!何だよ、こんな世界!魔王にやられちまったらいいんだよ!!俺関係ねぇっし!誰がこんなクソみたいなところで勇者しなきゃいけないんだよ!死ね、クソが!」

「酷い言われようだ・・」

「勝手に召喚しておいてさ!なんだよ!おい!クソ野郎、俺を元に戻せよ!!!」


 ちょっと!いたたたた・・。

 首しめんなよ!

 てか・・『勝手に召喚』か。


「結論から、云うわ。お前は、帰れない」

「なんだとぉ!!」

「ギブギブ・・。殺す気か・・!」


 くそ。こんなときに勇者補正かよ!チート野郎め。

 押し倒された揚句、首絞められてるって、最悪じゃないか!

 このぉ!僕をなめんなよ!


「離せよ!」


 ガラ空きの腹に膝蹴り一発ぶち込む。

 なんとか離せた。

 ぜぇぜぇ。

 マジでしんどいわ・・。


「ウソだろ?なぁ・・嘘なんだろ?」


 今度は泣き落とし?

 って、迫ってくるなぁ!キモイわ!


「嘘なら『帰れるから魔王倒してこい』とか言うね、僕なら」

「冗談じゃぁねぇーよぉ!何だよ、くそがぁ!」


 いきなり突き飛ばされて尻もちをつく。ったく・・。

 仕方がないな。

 これだからお子様は・・。って。こいつ27じゃん!

 床に頭を叩きつけて泣き出す勇者の肩を叩く。


「その前に一つ聞きたい」

「ああ・・?」


 酷い泣き顔だ。・・いい年したおっさんのくせに。

 それでも顔を挙げてきたから、話すか・・。

 ああ・・実はこの先、僕もあまり知りたくないんだよね。


「召喚されたときに、一瞬でもいいんだが、奇妙な空間みたいなところを通ってこなかったか?」

「え?ああ。何か真っ暗で何にもないようなところを通った気がする」

「そうか・・。やっぱりそうか・・」

「何?なんだよ?意味わかんねーよ!」

「そこが。向こうの世界とこちらの世界を分かつ、不可侵の『異空間の狭間』なんだよ」

「・・・狭間?」


 肉体という器は、紋章によって持ち出せる。強化と保護さえあれば。

 魂だけはその世界に属しているために、互いの宇宙を隔てるこの狭間を通り抜けられない。それはこちらの世界が干渉してはいけない、不文律があるからだ。

 異世界行きを臨む、魂の強い思念だけが狭間と通り抜ける保護膜となる。


「んあだよ!俺が望んだから通れたっていうのかよ!?俺のせいかよ!?」

「でもね、望めば通れるようなものでもないんだよ、本来は。

 君の魂は地球のある宇宙側の存在の物だ。死ねばその流れに戻り、長い年月の末、また再び生まれ変わる。それは確固たるもの。

 こっちの宇宙にも向こうの宇宙にも其々同じように魂の循環があって、当然互いは交わることも出来ないし、混じり合ってはならないんだよ。

 その壁となっているのが異空間の狭間だ。もし、どちらの世界でもいいが、何かしらの干渉をしようと働きかけたとしても、この狭間で遮断される。そのための存在だからだ。そこまではわかるか?」

「・・・な、なんとか」

「君は異世界に行きたいと願った。欲望むき出しで強くそれを切望した。

でもね、そんな人はたくさんいる。じゃ何で君なんだ?」

「俺が知るかよ!」

「それだけじゃ足りないからさ。

 狭間はAからBに行きたくても、Aの属する魂はAの中でしか存在を許していないから、狭間を通ろうとすれば遮断される。だが、属さない魂は通過できるんだ・・」

「???」


「君は、向こうの世界を恨み、呪ったね?」


 僕は確信を持って言いきった。

 それを聞いて彼は絶句している。

・・・そうだ。この条件しかないんだ・・・。


「の・・呪った・・って?」

「自分がこうなったのは社会が悪い、親が悪い、学校が悪い。自分を取り巻く全てが悪い!そうやって、世界に呪詛を吐き続けただろ?!」

「・・・・」

「そして自分はこんな世界にいるのはおかしい、自分の居場所は異世界で、猫耳いてエルフがいて可愛い子達とハーレムするんだ!」

「・・・・」


 僕は、彼でも理解できるように、あえてゆっくりと、言葉を切って話す。

 これが、一番肝心要な要素だから。

 しっかり、理解してくれ。


「君は、世界を拒絶した。

 ここは自分のいる世界じゃないと、君が先に拒絶したんだ。

 だから世界も君と言う魂を見捨てた。

 本来、属する世界宇宙から君は『追放』されたんだ。

 だからこそ。狭間は抵触したが、所属を失い、『望む意思』の保護に守られた、君の魂の、通過を許した」

「・・・・」

「言っただろう?

 女神召喚紋章は肉体にしか影響を与えないと。セットで来る魂があってはじめて召喚が成功できる。

 そして魂は、本来属する宇宙から、決して『出ることが出来ない存在』なんだ」


 僕は自分で行っていて、口の中が苦くなる思いがする。

 まるで、死刑宣告のようだ・・。


「戻れないというのはね。

 向こうに送り出す送還紋章が造れないことじゃない。

 そんなもの、僕が何時でも作りだせるんだ、女神じゃなくてもね。

 ・・・ただ。

 紋章があっても送り出せないんだよ!

 君を、君の魂を・・・。

 

 ・・・・・地球のある世界が、宇宙が、君の魂の受け入れを拒絶しているからだ!!!


 そして君が今ここにいるという現実が、こちらの世界が君の魂を受け入れた証なんだよ・・・」



 目の前の勇者は、茫然自失となっている。

 ああ・・そうだろうね。

 地球がある世界宇宙は君の魂を追放した。

 こちらの世界宇宙は、君の魂を受け入れた。

 だからもう、向こう側に戻る手立ては・・・ない。

 例え、神様でも・・。

 そう。

 こちら側の神では、向こうの宇宙には干渉できないからだ。絶対に。

 


「僕は何百年も、召喚魔法の解析に費やして来た。そしてわかったことは。

  究極、召喚紋章は、5層の紋章で構成されている。

 その紋章の、2番3番は狭間を抜ける際の肉体への強化と保護を与える。

 4番の紋章は言語の互換性。5番目は魔素という未知の物に耐性を与える物。

・・・そう。肝心の、1番目の魔法陣こそ・・。

 『ある条件を満たす、魂を持つものを探し出す』こと。

 向こうの世界宇宙から『拒絶された魂を持つ者』を探すための探査機能の魔法陣だ!」


 絶望、していいよ・・。

 それでもこれが現実なんだから。

 そう、現実であり真実だ。

 見たわけじゃない。

 でもこれが限りなく正解なのだと、僕の加護が教える。


「だから・・君がどれだけ懇願しても。もう、戻れないんだよ。

 地球には・・。

 だって君の魂は、既にこちらの世界に帰属してしまったのだから・・」


「う・・嘘・・だろぉ・・そんあ・・・。うぅわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああ・----・・・」


 僕はその部屋を静かに立ち去ることにした。

 今、勇者にはどんな言葉も届かないだろう。

 閉じた扉に物がいくつも当たる音がした。


「うそだぁぁぁぁぁ・・・!うそだっぁぁぁ・・・」


 部屋の奥から、泣き叫ぶ声が辺りに響く。


 急ぎ足で逃げるように立ち去る、その僕の背中に追いすがってくるような気がした。

 耳を塞ぐ。

 瞼をきつく閉じた目に、止めどなく涙があふれる。


 ごめんよ・・。

 ごめんよぉ・・・・・。


 ずっと言うべきかどうか悩んだ。

 言わなくても済むんじゃないかと、いつも考えていた。

 でも・・。

 それでも、彼は知らなくてはいけない。

 

 そこから、立ち上がって自分の道を自分で見つけ、決めなくてはいけないんだよ・・。

 

 現実から目を逸らし、今までずっと逃げてきたから、だから君に現実は手厳しいカードを突きつけたのだ。




 自業自得。


 たった4文字なのに、その中身はあまりに重すぎる。

 

 誰だって、まさかこんなことになるとは思っていなくて、いろんなことを口にし考えているだろうから。

 彼みたいな人間は決して少なくはない。きっと・・。

 でも、そこは『選ばれた』のだ。

 女神が造った召喚魔法に。


昔の人はうまく言ったものだ。「天に唾する」・・・本当だな。 




 廊下の隅に置かれた長椅子に、力なく倒れ込む。

 きっと、彼に話している時の僕の顔は、酷く醜く引き攣っていたに違いない。

 彼じゃないけど、僕も頭を抱え込んだ。

 涙が止まらない・・・。



 ああ。そうだよ。きっと僕も・・・僕の魂も同じだ。

 

 向こうの世界に拒絶され、こちら側に流れついたんだ。

 僕が何かやったのか、何を強く思ったのか・・・・知らない。


 記憶がないんだよ・・・。


 あの女神の召喚魔法を知ることは、僕の存在の謎に近づくことでもあることは分っていたんだ。

 でも実際、なんでこんなに苦しい。

 今頃、彼を苦しめている棘は、そのまま僕にも突き刺さっている。



 もう僕は向こう側には戻れない。それはもういい。

でも! なら何故! 前世の記憶など、持って生まれたんだ!

 そんなものなかったら、少なくとも僕はこの事実に苦しめられなくて済んだはずだ。


「クソ・・」


 もう頭を切り替えろ。

 何時までも立ち止まるな。




 僕は何とか立ち上がると、袖で涙を拭う。


「そうだな・・。第2ラウンドの始まりだな・・」




 まだ、本当の意味で勇者を導いていない。


「さて・・。もう昼だしな。ご馳走でも用意してやるか、あの勇者に」


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