赤-アカ-
夕日に照されて空が赤く染まっている。
愛は人もまばらになった校門の横で愛は座り込んでいた。
「あの時の感覚……何だったんだろう」
少年との会話の中で感じた違和感は彼の事を考えるだけで増加していく。
「愛!」
少年の声が聞こえる。
愛が立ち上がり、振り替えるとテニスラケットを持った少年が走ってくるのが見えた。。
「ごめんね、愛。試合が近くて……」
少年は申し訳なさそうに頭を掻きながら愛の側まで歩いて来る。
愛は少年が追い付くのを待ってから持っていたラクロスのスティックを担ぎ直して無言で歩き出した。
第二話 赤-アカ-
「愛、あの……今朝はごめん……」
愛はまっすぐ前を向いたまま一言も喋らずに歩き続ける。
二メートルほど後ろを歩く少年がその背中に向かって話しかける。
「その……愛を怒らせるつもりは無かったんだ……」
記憶の奥底から沸き上がる違和感に苛まれながら歩く愛は徐々に歩調をあげていった。
「本当は愛のファッションセンスを誉めるつもりだったんだけど……」
少年の謝罪を無視しながら愛は考え事を続ける。
愛は少年の事を考えたとき、思い出せない事が多く有ることに気がついた。
丁度朝に待ち合わせていた場所、つまり二人の帰り道が分かれる場所に着いた愛は少年の方に向き直る。
「ねぇ……そーた君」
そして覚えていなかったことの一つを口にする。
「わたし達、どうして朝に待ち合わせしてるんだっけ?」
その問を聞いた少年は困惑したように答えた。
「どうしてって……愛が待ち合わせしようって言ったんじゃないか……」
その答えを聞いた愛は訝しげな表情をする。
「ごめん……今日は僕、帰った方がいいよね。じゃあね、愛。また明日」
これ以上話すべきでないと思ったのか、少年は一方的に挨拶をすると十字路を右に曲がり、走り去っていった。
「わたしが……誘った?ならどうして覚えて無いの?」
少年の答えを深く考えようとする。しかしそれは後ろからかけられた声によって中断させられる。
「その答え、教えてやろうか?」
愛が声の方向へ振り向く。
『赤い』
愛が彼女を見たときの感じた印象は『赤い』だった。
彼女の担ぐ竹刀袋が、愛のもととは対称的な黒地のセーラー服で揺れるスカーフが、その上の襟が、加勢になびくスカートが。
そして彼女の復讐に燃える瞳が夕日に照され、赤く輝いていた。
「アタシが忘れさせたのさ。その色と一緒にね」
赤い少女は愛のペンダントを指差す。
「アタシはその色と、その色に関する記憶をこの世界から消し去ったのさ」
少女は愛に近づきながら続ける。
「いや。消し去った筈だった」
少女は愛の一メートルほど手前で止まる。
「どうしてその色を持っている?」
鋭い眼光に気圧された愛が一歩下がるのと同時に少女が間合いを詰める。
「ソイツを渡せ」
少女がペンダントに向かってゆっくりと手を伸ばす。
しかしその手がペンダントに触れる直前、愛が身を引く事によって少女の手は空を切った。
「どういうつもりだ?」
少女が伸ばした手を引っ込める。
「この色を見ていると……忘れた事を思い出せる気がする……」
愛がペンダントをつかみながら呟く。
「忘れろ。どうせアタシがソレを消せば記憶も消える。渡せ」
少女が再び手を伸ばすが、今度はその手を払いのけた。
少女の瞳の中の炎がより激しさを増す。
「あと数秒でその違和感が消えるんだ。全て忘れて、何も考えずに生活できる。さっさと渡した方が得だぜ?」
「この記憶……何かとても大切な気がする……。忘れたら自分が自分で無くなるような……。悪いけど……これは渡せない」
愛はペンダントを握りしめながら答える。
「そっか……」
少女は残念そうに後ろにさがる。
「じゃあ……、力ずくでも奪い取る!」
少女は担いでいた竹刀袋から日本刀を抜き、愛に切りかかった。