第二話 通るわけではない
あらすじ:旅する男は噂の広がる街を歩いていた。
「止まれ! 貴様何者だ!」
一人の門番が「その人」を大きな木で造られた門の前で食い止める。城全体が見渡せないくらい下にあるこの門は、雑用の者が通るにふさわしいほど汚れていた。他にも門があるのだが、街中から来た者にはこの門しか訪れることができなかった。門番の持つ槍の先で首を狙われた「その人」は門番の質問に答えた。
「見ての通り、旅のものですよ。そうとしかあなた方には言いようのないことでしょう?」
「旅のものがここに何の用だ!」
「私の場合は旅に「目的」を同伴させないのでね。要するに用はないですよ」
門番の男は槍を構えたこの姿勢が苦しかったのか、槍を右側に引き寄せ「コホンッ」と咳をすると、質問を続けた。
「ではなぜここに来た!」
「ふっ、面白いことを聞く人だ。あなたはここに何年勤めている?」
「は? 貴様! 話をたぶらかそうとしているな!」
門番はもう一度槍を構えようとした。だが、「その人」の方がいち早く左手の平で止める姿勢をとっていた。
「違いますよ。真実が足りないだけです。今この場で反論するならば私には真実が少なすぎる。さぁ答えていただきたい」
「む、むぅ。た、たぶん六年ほどだ」
「ならば、あなたはこの道がこの門に続くことぐらい分かるであろう。それを見てみぬふりをし続けてきたならば、あなたはしっかりとこの道からやってきた人を見ていないことになる。違いますかな?」
「む、む・・・」
門番の男は口を開けなくなってしまった。自分の勤めているこの仕事がどれだけ下僕のすることであろうと、誇りはあった。今回のことも誇りあるがために質問しただけのこと。しかし、ここまで反論されてしまい、なおかつ、仕事の真面目さまで注意されてしまっては矛盾が生じてきてしまう。
「しかし・・・」
一人悩んでいた門番に更なる言葉が飛び掛ろうとしていた。門番は「次に反論及び注意が来たらこの仕事をやめてやろう」と思っていた。そこまで仕事に誇りを持っていた。だが、あせりは人を愚かにさせた。
「あなたも門番としてのこと。別に悪いわけではないですよ。第一、屁理屈のようなことを言ったのは私のほうですから」
「は、はぁ・・・」
「では、私はこの城を通りたいわけではございませんので」
「へ?」
門番は呆れ顔で「その人」の顔を見つめた。
「この門を通っていいか。それを見極めるのがあなたのお役目。私は城を訪れるわけではないので・・・」
そういうと、「その人」は呆然と立ち尽くす門番の横をすんなりと通っていき、同じように門も通った。
「その人」は門を通った後、右の城壁に沿って歩き、城壁の隅にある扉から外へ出た。城の周りの長い迂回路を通って城を通らずに道を進んでいこうとした。
心配事が一つあった。それはここがこの城の領地であること。すなわち、この城の領地に勝手に踏み入っていることである。たとえ、門番が許したとはいえ、そこが城主にとって大事な場所ならば最低なことと同じになる。嫌なことは的中した。
「貴様何者だ!」
ぽつぽつと雨が降り始め暗くなる中で、「その人」は城の周りにある森林の中で、見回りをしていた兵士に見つかった。