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SYNCHRO-CITY  作者: 夏村千早
予報が外れた日
6/7

005



 私は、お前の、クローン。



「……え、えっ、と?」


 瑠璃は目の前の顔を呆然と見つめた。言っている意味が分からない。思考が、停止しそうになった。


「クローン――――

 一個の細胞あるいは個体から、無性生殖によって増えた細胞群、あるいは個体群。全く同一の遺伝子をもつ。

 ――――つまり、情報・数値・構造において、あんたと私は、全くの同一人物ってことだ」


 深い緑の瞳が射るように瑠璃を見ている。

 その中に先ほどまでの悪戯な光はない。一切ない。

 ―――― 冗談ではない。本気だ。


「まさか……そんなことって」


 もう一度リウを見つめる。


「嘘なんかつくかっての」


 息を呑む。よく聞けば少し低いだけで、声もそっくりだ。

 呼吸を整え頭を整理する。落ち着け。しっかりするんだ。


「公式のクローンを造るには家族と本人の了承がいるはずです。だいたい中央では禁止されていますし……そんな話、母からは一度も」

「公式なクローンは、な」


 淡々と、しかしはっきりリウは話す。おぼろげな光の中で見る表情からは、何も読み取れない。


「じゃあ……リウ、あなたは非公式のクローンだと?」

「そういうことになる。まあ厳密に言えば、クローンとF.Iは別物だけどな」



 ――――F.I。欠陥のない個体。


 それが一体何なのか。自分が今ここにいることと、何の関係があるのか。

 詳しいことは何一つ掴めないまま、ただ黙り込むことしかできない。


 ――――頭が、痛い。


 気が付けば瑠璃は両手で頭を抱えていた。痛みに鈍る意識の中、ぼんやりと思う。


 前にも……前にもこんなことがあった。確か誰かの……懐かしい誰かの声を聞きながら――――


 一瞬浮かびかけた断片的な映像はしかし、唐突に聞こえてきた透き通るような声によって掻き消された。


「……リウ、説明が雑だ。彼女が困ってるじゃないか」


 荷台の端から聞こえる声。瑠璃はゆっくりと顔を上げた。

 オフ……だ。一度も口を開かなかったので、彼は喋る気がないものと思い込んでいた。


「そっちはもういいのか?」

「問題ない。これ以上引っ掻き回すとこっちの足が着く」


 そうか、とリウが言い、オフはモニターを畳んだ。そのまま視線で瑠璃を捉えると、彼はリウの持つ明かりに近寄り、二人の近くに腰を下ろした。

 茶髪に、同色の澄んだ瞳――――


「あっ!」


 絡まっていた紐がほどけるように、瑠璃の頭の中から欠落していたものが戻ってきた。


「あなたたち……一昨日、海岸にいましたね?」


 リウとオフが顔を見合わせる。その沈黙を瑠璃は肯定と受け取った。

 相変わらず、リウは口の端を吊り上げるような笑みを浮かべている。

 そう、この笑み。唯と真湖が見たのはこの人に違いない。そして一緒にいた茶髪の青年。写真を見た限りでは、今目の前にいる彼と同一人物のように見える。


「だから中央をうろつくルートは避けたかったんだ」


 オフが言う。リウは怪訝そうに眉をひそめた。


「なぜそれをお前が知ってる」

「友達に聞いたんです。私と、見間違えたみたいで……」

「ふん、そうか」


 リウが納得したように頷く。そしてこの話はもう終わりだと言わんばかりに話を打ち切った。


「聞きたいことは? それだけか」

「あなたたちはそこで、一体何をしてたんです?」

「研究所の破壊と放火、それに特秘情報の持ち出し……って、言ったらどうする?」

「私は真面目に話を……!」

「全部本当なんだがな」

「えっ?」


 中央研究所への侵入と放火。立派な犯罪だ。


「なぜそんなことを」

「知りたいことを無計画に聞いても、話の大筋は掴めないぞ?」


 瑠璃の言葉を遮ったのはオフだった。


「それから、一つのことに拘っても全体が見通せなくなるだけだ。だったら一度、俺たちの話を聞いてみてくれないか?」


 突然の言葉に、瑠璃は戸惑った。

 オフは笑うと、リウに向き直り少し棘のある口調で言った。


「お前も時間ばっかりかけてないで、もっと効率よく説明しろ。相棒が困ってるだろ」

「誰が相棒だ。苦手なんだよこういうの」

「代われ。適材適所だ……瑠璃、聞く気になったかい?」


 ――――一体何なんだ。


 瑠璃は頷きながら息をつき……

 悪い夢なら早く覚めて、と今更ながら祈った。





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