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1.マシュマロ戦争

ぼくのすきなもの。ポケットに忍ばせた甘いお菓子。あの子のえがお。それだけで、ぼくのお腹は満たされるのだ。


いつも元気に駆け回る赤いアンテナを張り巡らせている少年が恋に落ちた相手は、雪の結晶を髪の毛にそっと乗せたまま佇む春の妖精でした。





最近、わたしの周りに頻繁に出現する男の子がいる。廊下の曲がり角で、階段の踊り場で、学校の下駄箱で、中庭にある花壇で、満員の食堂で、隣のクラスの奈良くんは、まるで瞬間移動をしたみたいにわたしがいる場所に現れるのだ。ご自慢の真っ赤な髪の毛を揺らして、人気者の眩しい笑顔をきらきらと振りまきながら。



「ガム、いる?」



そして、いつも自分の持っているお菓子を分けてくれる。甘いにおいがしたら、99%近くに奈良くんがいると確信していい。

始業式が終わった渡り廊下、今日はいちご味のガムをくれた。プクーと器用にガムをふくらませながら、奈良くんはいつもみたいにニコニコ笑いながらどこかソワソワ落ち着きがない様子である。



「なあ、いちご好き?」

「うん、好き」

「!、そっかあ〜〜!俺も、好きだ!」

「でも、奈良くんはなんでも好きそうだよね」



精一杯のぎこちない笑顔を返しながら答えると、奈良くんの風船ガムがぺちんと割れた。口の周りについたいちご味をペロリと犬みたいに舐める奈良くんは、「えー」と不服そうに目を垂れさせた。



「名前で呼んでくれねえの?」

「え?で、でも…」

「俺の名前、菊太って言うの。知ってるだろ?教えたもんな?なっ!?」

「う、うん。でもね奈良くん…」

「…んー」

「わ、わたし…男の子のこと名前で呼ぶのあんまり慣れてないから」



その瞬間、赤いアンテナがピコンと立ったような気がした。



「そうなのか?」

「う、うん。ごめんね?」

「じゃー、俺で慣れればいいじゃん」

「えっ」

「だから、俺の名前たくさん呼んで?な、約束!」



無理矢理小指を絡ませられて、大袈裟なくらいにぶんぶんと腕を上下に揺すられる。「ゆびきったー!」と小指を離した奈良くんの、いつも見せる笑顔の中にちょっとだけ意地悪が見え隠れしているようにみえて、なんだか恥ずかしくなった。

楽しそうな背中をボケッとした間抜け面のまま見送っていたら、隣にいた友達にニヤニヤされて肩を突かれた。




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