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rain1-1 玉木恵美

冬の季節が終わり、冬から春へと移り変わる狭間。

虫や植物が命を吹き返し、生まれ変わる。

空から降る命の源を吸い、命の炎を燃やし始める。

『雨』という名のそれは絶えず天から生命の袋を持って地上に降り、地中に身を隠す。

やがて、仕事を終えるとそれはまた再び天へと帰っていく。

そうしてまた、生命の袋を持って地上に降りる。


新しい命が育まれる季節。


三月。




「聡!」

聡とは僕の名前だ。これでも自分で自分の名前を気に入っている。

なにより呼びやすいらしく友達から知人に至るまでみんな名前で呼んでくれる。

僕にも当然、栗谷という苗字があるのだが、みんな名前で呼ぶ。

だから実はそんな自分の名前が気に入っている。

「聞いてんの?聡?」

さっきから僕の名前を呼ぶのは玉木恵美。僕らはいま大学生だが高校生の時からの友達だ。

恵美はほんとに人間なのかというくらい可愛い子で、芯もしっかりしているとてもいい子だ。とても友達思いで、なにをやるのもめんどくさがったりしない。何に対しても一生懸命でどんな小さなことにでも全力でやる。


僕はそんな彼女に恋心を抱いていた。けどこんないい子が僕を好きであるはずがないことは分かっていた。でも彼女と一緒にいればいるほど好きになる。

「聡?無視?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してて」

「考え事?珍しいわね。聡が考え事なんて」

「いやいや、僕も考え事くらいするから」

僕は自分の顔が少し赤くなっていることに気が付き、それを必死に隠すように話していた。

「まぁいいや。あのね、今度みんなでキャンプに行くんだけど聡もどうかなって思って」

「みんな?」

「うん、涼子に仁美に健二と信哉」

いま恵美があげたのはみんな仲のいい僕の友達だ。

僕と恵美を含めたこの六人はよく一緒に行動している。遊びに行ったり、飲みにいったりするのもたいていこのメンバーが多い。

「え?いつの間に計画してたんだ?そんなこと・・・」

「えへへ、聡を驚かせようとして、あたしがみんなに黙っておいてって頼んだの」

恵美は善悪のない無邪気な笑顔で話す。

「それで行く?・・・よね?」

「ああ、もちろんいいよ」

「ほんと!?やったね!」

いつも思うが恵美は笑顔が素敵だ。まさに名は体を現す。恵美は笑みの達人だ。

きっと人生を本気で楽しんでいるんだろうなと思う。恵美がすてきだから恵美の周りにはいつも人が集まって自然に笑顔が溢れている。



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