第09話:農業の女神と魔王の肥料
「おーっほっほ! 皆様、よくお集まりくださいましたわ!」
これぞ、傲慢令嬢といわんばかりの高笑い。テンションも爆上がりですわ~ということで上機嫌のセレスティア。
学園の放課後、彼女は中庭に設けられた特設ステージ(という名の演台)の上に立っていた。
背後には、公爵家から運び込まれた、禍々しい紫色の光を放つ巨大な「カボチャ」や、もはや大木のように太い「アスパラガス」が並んでいる。
(今日こそ……今日こそは、私が『禁忌の力』に手を染めた邪悪な女であることを証明してみせるわ!)
セレスティアの作戦はこうだ。
幼少期に拾ってきた、魔王復活の触媒である『闇の芽』(物理)。
それをあえて捨てずに肥料として使い、異形の作物を育てていた事実を公表する。
すなわち「魔王の力に魂を売った女」――。これ以上のスキャンダルはない。流石に教会も王家も黙っていないはずだ。
「見なさいな! この不自然なまでに巨大な作物たちを! これは私が、かつて庭で見つけた『闇の芽』(物理)を育て上げたものですわ! 私は……私は、魔王の力をこの手にしているのです!」
セレスティアは渾身の「悪の首謀者」スマイルで叫んだ。
観衆の学生たちがザワザワと騒ぎ出す。
カイルも、エリオットも、そして聖女リリアーナも最前列でそれを見守っていた。
(よし、いいわよ。さあ、私を糾弾なさい! 異端審問でも追放でも、好きなだけ……)
「……信じられない。これは、奇跡です……」
沈黙を破ったのは、変態聖女……もとい今は清楚な聖女に見えるリリアーナだった。
彼女は震える手で、紫色の光を放つカボチャに歩み寄った。
「セレスティアたん……あなた、どれほど高潔な魂をお持ちなの!? 魔王の呪い、大地の毒そのものである『闇の芽』(物理)を、自らの魔力で『無害化』し、それどころか飢えに苦しむ人々を救う『超高栄養肥料』へと昇華させていたなんて……!」
うん、すぐにメッキははがれたようね。
何かうっとりした目でセレスティアを見上げて、『さすセレ』とか言ってるようね。
「……は?」
「わかります、わかりますわ! あえて『魔王の力』と称することで、自分に手柄を帰さず、周囲を警戒させることで利権争いを防ごうとしたのですね!? あああ……深い! 愛が深すぎて窒息しそうですわぁ!」
リリアーナが鼻血を出しながら崩れ落ちる。
だが、その意志を示すように片手でぐっと力強くサムズアップしてみせる。
続いて、カイルが眼鏡をクイッと押し上げた。
「……なるほど。分析の結果が出ました。この作物は、通常の十倍の栄養価を維持しつつ、魔力伝導率が極めて高い。これを騎士団の食料とすれば、軍事力は飛躍的に向上する。……セレスティア殿。貴女は『農業による国防』という、人類未踏の領域に到達したのですね」
「待って。国防? これ、ただの魔王の残滓なんですけど? というか、それ食べて大丈夫なの? 持ってきてなんだけど凄く分析の結果からして不安なんですけど?」
「謙遜は不要だ、セレスティア!」
エリオットが、アスパラガスを丸ごと一本素手でへし折り、そのまま口に運んでいく。
あの王子……毒見ぃぃぃ。というか、こんなんでも第一王子ですよ? 第七王子だけどどうしようとかじゃないんですよというセレスティアの内心の憂慮をまったく察することなく笑顔でバリバリと齧り食していく。
「力が……力が溢れてくるぞ! これは聖なる野菜だ! 君こそが、この国の食糧難を終わらせる『農業の女神』だ!」
「女神!? 私、今『魔王の力を利用している』って言いましたわよね!?」
「ええ、あえて悪の言葉を使い、人々の甘えを排そうとする厳格な女神。……素晴らしい」
周囲の学生たちが一斉にひざまずき、「農業の女神セレスティア様に栄光あれ!」と合唱を始めた。
「…………」
セレスティアは、巨大なカボチャの横で白目を剥いた。
嫌われるための「魔王利用宣言」が、どういうわけか「闇の浄化からの食糧革命」という風にすり替わっている。
(……おかしいわ。私はただ、領地でゴロゴロしたいだけなのに。なんで私が国の食卓を支えなきゃいけないの……?)
「お嬢、残念だったな。あんたの闇属性の力があまりにも強すぎて、闇の芽(物理)の悪い部分を吸い取ってしまったのかもしれないな。……っていうか、そのアスパラ、一本売ってくれない? 冒険者ギルドで高く売れそうなんだけど」
物陰からクリムローズが呑気に声をかける。
「もう嫌……もう、誰も信じない。……次は、次は夜会よ。あそこには、この国中の貴族が集まるわ。そこで、最高に『趣味の悪い派手なドレス』を着て、全方位に喧嘩を売ってやるんだから……!」
セレスティアの最後の希望は、いよいよクライマックスの「夜会」へと持ち越された。
だが、職人たちが「女神セレスティア様のための究極の一着」を目指して、すでに不眠不休で針を動かしていることを、彼女はまだ知らない。
ま、まだよ、まだ終わらないですわよ……ううっ、続きますことよ。




