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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第08話:眼鏡の宰相子息、理解する(迷走)




「……カイル・ランドルフ、報告いたします」


 王城の執務室。眼鏡の奥に理知的な光を宿したカイルは、第一王子エリオット、そして自分の父である現宰相を前に、一束の分厚い報告書を机に置いた。

 その表題には『公爵令嬢セレスティア・ヴァインベルクによる特命任務:聖女の精神安定及び王室威信の防衛に関する中間報告』と記されている。


「カイルよ。セレスティアが何か不祥事でも起こしたのか?」


 エリオットが、トレーニング用の重りを手首に巻いたまま(彼は常に鍛えている、筋肉、筋肉、筋肉ぅぅぅ!)尋ねた。

 カイルは一度、眼鏡を外し、眉間を揉んだ。その動作は「あまりにも高潔な真実を目の当たりにした者の苦悩」に見えた。まあ見えるだけなんですが……。


「いえ……。殿下、我々は彼女を誤解していました。彼女が学園で聖女リリアーナを椅子代わりにし、罵詈雑言を浴びせ、冷徹に踏みつけているという噂……。あれはすべて、国家を救うための『自己犠牲』です」


「……椅子?」


 エリオットが首を傾げる。カイルは淀みなく続けた。


「聖女リリアーナは、その強大すぎる聖なる力の影響か、精神が……その、非常に特殊な方向に『開花』しております。具体的には、セレスティア殿に罵倒され、物理的に圧をかけられることでしか精神の均衡を保てない状態にあるのです」


 カイルの脳裏には、セレスティアの足元で「もっと……もっと蔑みのこもった声で『このゴミ虫』って言ってぇえ!」と悶絶する聖女の姿が焼き付いていた。


「もしセレスティア殿が彼女を突き放せば、聖女は暴走し、全裸で王都を駆け回りながら彼女の美徳を叫び散らすでしょう。それは聖女とされた彼女の評価のみならず任命した神殿、ひいては王国の権威すら失墜することを意味します。セレスティア殿は、自らが『悪女』という泥を被ることで、聖女の狂気を一箇所に繋ぎ止め、飼い慣らしているのです!」


 聖女の狂気という矛盾を孕んだ言い様だが、カイルの顔はごく真面目なものだ。


「な、なんだと……! セレスティア、そこまで……!」


 エリオットは拳を握りしめ、感涙した。


「彼女は自分と手合わせした時も、あえて喉元に剣を突きつけてきた。あれも私の慢心を戒めるための、彼女なりの愛の鞭だった。うむ我が婚約者の慈悲深さ、海よりも深い」


「どうやらそのようで……己の不明を恥じ入るばかりです」


 最後のストッパーカイル、どうやらドアストッパーくらいにしかならない模様。


 それくらいおかしなやりとりを二人はしていた。

 ちなみに横で聞いていた宰相様は、こめかみに指を当てながら、懸念の表情を見せていたが王子の手前何も言わず、深く溜息を吐いた。



 一方その頃、学園の女子寮。

 セレスティアは、ベッドに突っ伏してシーツを噛んでいた。


「……おかしいわ。おかしいわよ。なんでカイル様まであんな目で私を見るの? 『貴女の苦悩は私が一番理解しています』って、肩に手を置いて去っていったけど、私の苦悩は『婚約破棄されないこと』一点張りなんですけど!」


 セレスティアは、カイルが「理解」という名の「強烈な捏造」を行ったことに気づいていなかった。

 カイルの報告書により、セレスティアは公式に『聖女専用の特殊調教師(国益担当)』としての裏の肩書きを(勝手に)与えられようとしていたのだ。


「お嬢、諦めなよ。あの眼鏡の兄ちゃん、あんたの『ゴミを見るような目』を、精神医学的アプローチに基づいた高度なセラピーだと思ってやがるよ」


 窓際で干し肉を齧るクリムローズが、同情の混じった声をかける。

 どうして学園の女子寮に冒険者が居るのかとか気になるだろうが、突っ込み役不在だと何処までも混沌の底へ沈んでいくので、そういうものだと寛大な心で許して欲しい。


「セラピー!? 私が!? ただ本気で『うわ、この娘(聖女)キモい……』って思って見てるだけなのに!?」


「それがいいんだろ。本物の嫌悪感こそが、あの変態聖女には最高級の香辛料なんだよ」


 セレスティアは、自分の「本物の悪意」が、ある者には「愛」に、ある者には「聖域」に、そしてある者には「医療行為」に変換されるこの世界のバグに絶望した。


「絶望した!!」って大コマで叫んだほうがいいかしら、本当に。


(……こうなったら、もっと決定的な『政治的スキャンダル』を起こすしかないわ。そうだ、公爵家の庭園……。あそこに隠している『例のブツ』を世間に公表すれば、流石に『危険思想の持ち主』として追放されるはず!)


 彼女がかつて肥料に変えた「闇の芽」(物理)。

 その副産物が、今や国を揺るがす「奇跡の作物」として成長していることを、彼女はまだ、悪い意味で知らない。


「見てなさい……! 明日こそ、全校生徒の前で『私は魔王の力を利用しているのよ! 王子の婚約者としてふさわしくないでしょう』って高笑いしてやるんだから!」


「お嬢……それ、多分『魔王の力を浄化して再利用するエコロジーの先駆者』って言われるだけだと思うよ……」


 クリムローズの不吉な予言は、翌日、より滑稽な形で現実となるのである。


「というかさ、『闇の芽』っていうか種みたいだから植えてみましょうっていったころからお嬢も十分ぶっとんでるからな……」


 そういって窓際で空を見上げる。多くの悩みに反して抜けるような青空がそこには広がっていた。



 将来の禍根ということで、芽を摘むということがございますが、『闇の芽』はいわば魔王の欠片みたいなものですわ。なので……そのぉ、ちょっと好奇心で植えたというか、ねえ……続きますわよ。

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