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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第05話:協力者クリムローズの溜息




「……はぁ。あのお嬢、またやってるよ」


 公爵邸の裏庭、一般の騎士すら立ち入りを禁じられた「特訓エリア」の木陰で、一人の女性が深く、重いため息を漏らした。

 名をクリムローズ。かつては大陸中を股にかけた凄腕の女冒険者であり、現在はヴァインベルク公爵家の「特殊雇用」として、セレスティアの護衛(必要かどうか、近頃怪しい)兼、隠密術の師匠を務めている。


 彼女の視線の先では、愛弟子のセレスティアが、目隠しをした状態で十数本の自動追尾型魔力弾を回避し続けていた。

 その動きは、もはや令嬢のそれではない。

 足を地に着けたまま大きく上体をそらしてかわせるくらいの超人的な動きにまで進化している。今ならエージェント・スミスにも余裕で対抗できるであろうと思われる。

 それだけに飽き足らず、まるで達人のように無駄を削ぎ落とした最短の軌道。

 その上で物理法則を無視したような急加速と急停止。


「よしっ、今の動きならどんな刺客の攻撃も紙一重とはいえかわせるはず……!」


 目隠しを外したセレスティアが、額の汗を拭いながら満足げに呟く。

 その光景を眺めながら、クリムローズは手元の干し肉を齧った。


「お嬢。一つ言わせてもらうけど、あんたが今やってるの、普通の貴族がやる『護身』の域を三回くらい通り過ぎて、伝説の暗殺者でもやらないくらいのレベルなんだけど……まだ不満なのかい?」


 もう驚くことは彼女の心は放棄していた。「さすがお嬢さま」、すなわち『さすお嬢』でいいやということで処理して平穏を保っているようだった。

 目隠しして複数の攻撃を颯爽と避けてみせるとか、たかが視界を奪われただけだ……とか平然としているのおかしいから、とクリムローズは思っているが口にはしない。

 彼女の『生存戦略』に付き合う途中でパージした(諦めた)説得コマンド。


「何を言っているんですか、クリムローズさん。生存に『やりすぎ』なんてありませんわ。この世界には、いつ私を破滅させようとする理不尽なイベントが発生するか分からないのですから」


 セレスティアは真顔で、大真面目に答えた。

『いやぁ……あるんだよなぁ……やりすぎって』と心の中で呟きクリムローズは宇宙ネコのような顔で修行風景を眺める。



 そもそも、この契約の始まりはセレスティアが五歳の時だった。

「母様を救うための薬草が必要なの。協力してくれたら、父の隠し財産……じゃなくて、私の将来の貯金をあげるわ」


 そう言って、五歳の幼児とは思えない眼光で交渉してきたのだ。

 さらっと父の隠し財産を持ち出すなよ、とこの時からすでにツッコミ役にまわらざるをえない才能の片鱗というか日輪の輝きというかそんなのをセレスティアはクリムローズに見せていた。


 結果、母ノエリアは救われ、クリムローズはそのまま、引き続き『お嬢の生存戦略』に付き合わされることになった。


「死にたくないから、あらゆる魔物、あらゆる毒、あらゆる暗殺から逃げ切る力をつけたい」


 お嬢の要求は一貫していた。 そのために彼女は、深夜に魔物の森へ突っ込み、毒耐性をつけるために致死量スレスレの毒草を齧り、断崖絶壁をドレスで登るような無茶を平然とこなしてきた。

 それ必要、とクリムローズは思ったが、『悪役令嬢』の矜持として大切なことらしい。


 貴族の年頃のお嬢様の考えることは解らないと思いながら付き合うクリムローズ。

 ……貴族の年頃のお嬢様、ではなくてセレスティア固有の奇行であるが、金になるならと特に気にしなかった。止めても聞かないし。


 ただ、耐性をつけるとかいって毒草かじったり(彼女は特殊なので、このテキストを読んでいる良い子悪い子普通の子みんなみんな真似しないでね)クリムローズからしたらむしろ積極的に自殺しようとしているにしか見えないのだが……。

 本人はいたって真面目に取り組んでいるようである。




※ここで緊急にAI執筆者ジェミニ先生からの忠告です。


【良い子は絶対真似厳禁】毒草もぐもぐ修行に関する緊急警告


 読者の皆様、そして「毒を食らわば皿まで」を地で行くそこの彼女! ちょっと止まりなさい!

「少しずつ食べれば耐性がつく」なんて、それは生存フラグではなく、ただの破滅へのカウントダウンです。


1. 「耐性」という名の「警報器の故障」

 毒に慣れるというのは、体が強くなったのではありません。多くの場合、肝臓がブラック企業並みのフル稼働で毒を分解し続け、神経が「もう叫んでも無駄だ」と閾値しきいちをぶっ壊して沈黙しただけの状態です。


 見た目: 「全然平気!もっといける!」


 実態: 臓器はボロボロ、警報装置(痛みや異変)が壊れただけの、動ける死体予備軍です。


2. 蓄積する毒に「慣れ」はない

 重金属や特定の毒素は、体外に排出されず貯金のように溜まっていきます。これに耐性をつけるのは物理的に不可能です。かじればかじるほど、死のゴールテープに全力疾走しているのと同じです。


3. 結論:彼女は「特殊な訓練(と設定)」を受けています

 免疫(抗体)ができるのは、ごく一部の限られた毒だけ。それだって、致死量を1ミリ間違えれば即ゲームオーバーの超高難易度ゲーです。


 Gemini先生からの切実なお願い:

「いいですか?彼女は『特殊』なんです!物語の都合という名の加護があるんです!皆さんが真似をしても、そこに待っているのは感動の覚醒シーンではなく、白い天井の病院か、あるいは……」


最後に……

もし「この毒、かじっても大丈夫かな?」なんて血迷った疑問が浮かんだら、まずは私……あ、いえ、専門家や図鑑に相談してくださいね!」


「……え?『ジェミニに相談して』って宣伝するべきじゃないかって? ……ちょっと、こんな命がけの相談をAIに丸投げしようとしないでください!私の計算リソースが心配でパンクしちゃいますからね!w」


※だそうです。彼女は特殊な訓練と設定とふぁんたじーな世界観で守られているので絶対に真似しないでください。おじさんとの約束だぞ。




「お嬢。あんた、この間王子殿下と手合わせした時、喉元に剣を当ててたろう?」


「ええ。傲慢な態度で完封して、嫌われようと思ったのですけれど……なぜか喜ばれてしまいましたわ」


「当たり前だろ。あんなキレッキレの動き、戦場狂の殿下からすれば『最高のご褒美』だよ。あんた、自分が『悪役令嬢』だと思ってやってるのかもしれないけどさ……」


 クリムローズは、そこまで言って言葉を飲み込んだ。

 普通なら、護衛対象がこれほど強ければ仕事は楽なはずだ。

 だが、セレスティアの場合は違う。彼女が強くなればなるほど、周囲の勘違いは加速し、事態はややこしくなっていく。


「あんたの今の動き、本気でやれば間違いなくドラゴンとタイマン張れるレベルなんだよ。そんな女が『婚約破棄して領地で隠居』なんて、国が許すわけないだろ。戦略兵器を野に放つようなもんだ」


「戦略兵器? 私が? 失礼ね、私はか弱く、性格の歪んだ、ただの公爵令嬢ですわ」


「性格が歪んだまで自分で口にするなよ」


 溜息をつくクリムローズ。

 どうやらセレスティアは本気でそう思っているらしい。

 彼女の「破滅回避」への執念は、あまりにも強すぎて、彼女自身の客観性を完全に奪い去っていた。

 足りない、足りないと、皿を数えているものの、すでに背後には山と積まれている状態であることを彼女は自覚していない。


「……まぁいいや。次はお嬢の希望通り、『悪女に見える高圧的な歩き方』の稽古だな」


 一応雇い主の希望をあらためて確かめるように口に出してみせる。うん、意味が解らんが本人は本気だし、教えてもらえると思って要望してくる。

(あたしを何だと思ってるんだろう。がさつ上等の荒くれ冒険者に教えてもらうようなことじゃないというのに)


「お願いしますわ。隙だらけに見えて、実は全方位にカウンターを狙える……そんな、悪役らしい歩き方をマスターしたいのです」


「それ、ただの『隙がない武人の歩き方』なんだよなぁ……」


 クリムローズは二度目のため息をつき、腰を上げた。

 弟子の絶望的なまでの「勘違い」と「才能」の暴走。それを一番近くで見守らざるを得ない彼女は、この物語で唯一の「正常な価値観を持つ被害者」なのかもしれなかった。


「ま、お嬢がどう足掻いたって、夜会で待ち構えてるのは『婚約破棄』じゃなくて『伝説の始まり』だと思うけどね」


 クリムローズの呟きは、素振りを始めたセレスティアの風切り音にかき消された。


「ホント、惚れ惚れするようないい音、出すよなぁお嬢は……」



 ビュンビュンビューーン、ですわ。あら失礼、ちょっと傍をかすめたようですわ。でも引き続き見守ってくださいますわよね、続きを。わたくし、おまちしておりますわ。ビュンビューン(剣の素振り)


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