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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第03話:筋肉王子とサバイバル・ステップ




 筋肉、筋肉、筋肉ぅぅぅ。そんな謎のリズムに乗ったフレーズが脳内で再生されるセレスティア。

 その理由は……。


「セレスティア! あの日から、私も鍛えた……ぜひとも見てもらいたい!」


 公爵邸の訓練場に、野太く、そしてキラキラと輝く期待に満ちた声が響き渡った。

 さわやかな王子スマーイルを浮かべるものの、どう考えてもボディービルダーのそれにしか思えない。

 乙女ゲーの美麗スチルのイメージは額縁に入れられて上で、あさっての方向にぶん投げられたようである。


 一応説明しておくと、この国の第一王子であり、セレスティアの婚約者――エリオット・アルカディアである。

 本来のゲームシナリオでの彼は、クールで知性的な「正統派王子」だったはずだ……はずなのだが。


 しかし、目の前にいる男は、再会するなり上着を脱ぎ捨てそうな勢いで大胸筋をピクつかせている。

 というかやや斜めに構えてのサイドチェストは本気と書いてまじでやめてほしい。


(……おかしい。私の記憶が確かなら、彼はもっと『氷の王子』的なキャラだったはず。どうしてこんな、プロレスの試合直前みたいなコンディションになっているの?)

 元気ですかー! と転生前の記憶のあの人が大声を脳内に響かせる程度にまで目の前の王子は筋肉いきいき生活を漂わせている。


「殿下。そもそも私は『闇属性』の魔道師です。剣術の手合わせなど、本来はお門違いですわ」


 セレスティアは、鏡の前で特訓した「極悪令嬢の蔑み」を込めて、冷ややかに言い放った。扇をバサリと広げ、鼻で笑う。

 王子かつ婚約者に対する態度では到底ありえない不遜な態度。


 自分の振る舞いに内心拳を握って、これこれ、これですわよーとはしゃぐくらいには決まった。まさしくヒール……ってプロレスに引っ張られてはいけませんわ。

 そういえば、プロレスのヒールの方も、実は悪役という役を演じておられるだけで実は凄く優しい方が多いという話ですが……んんっ、話がそれてしまいますわ。


 そういう内心を表に出さぬようにきっと目つき鋭く表情厳しく振舞う。

 これだ。これで「傲慢な女だ」と呆れられれば、婚約破棄への距離がぐっと縮まる。


 だが、エリオットの瞳はさらに熱を帯びた。


「ふっ、相変わらずの不敵な笑み……! あの日、私を投げ飛ばした君の体術、忘れたことはない!」


 どうやらご褒美になったようだ。


(……だから! あれは石につまずいて倒れそうになって殿下を掴んだら……偶然投げ飛ばしただけで……)


 仮に石につまずいて体勢を崩してよろめいたところで、偶然投げ飛ばすことは一般人には到底出来ない。

 逸般人ならともかく、である。……セレスティアはどちらに分類されるかというと(※これ以降の書き込みは謎の介入によって削除されました)


 そんなセレスティアの内心の呟きからしてすでにずれているのだが、それはさておき。


 セレスティアは内心で叫んだ。

 しかし、当時のエリオットは、その「転倒」をセレスティアによる鮮やかな一本背負いだと誤解した。

 それ以来、彼は「彼女に相応しい強き夫のための喝」と解釈したようで(乙女ゲーの超エキサイティンな修正力ぅ)あさっての方向に修行を積んでしまったのだ。


「いいだろう、魔術は使わずとも良い。剣での手合わせだ……いや、素手の手合わせでも構わないぞ!」


「……」


 いやだから……魔道師でそんな駄目だ、ってるだろう。なのにどうして魔術は使わずとも良いとかになるわけ? 脳みそまで筋肉で出来てるのかこの王子様。

 それは置いとくとしても(置かないで)、女性相手に殴り合いを所望する王子が何処にいるというのだろう。


 うん、ここにいるね。ごめんなさい。


「……はぁ。理解しましたわ。一撃だけですわよ」


 セレスティアは溜息をつき、訓練用の木剣を手に取った。素手でこの筋肉だるまと渡り合うつもりはない。


「……ああ」


 そう言ってエリオットも訓練用の木剣を手に取る。


 彼女とて、ただ遊んでいたわけではない。

 母の病気を治すための冒険できるように鍛えてくれた協力者の女冒険者クリムローズさんから「死にたくなかったら動けるようになれ」と叩き込まれた、超実戦型の身体強化術がある。

 彼女の目的はあくまで「生存」。つまり、敵の攻撃を一切受け付けず、最短距離で逃げるための「回避」と「速度」に特化した技術だ。


「行くぞ!」


 エリオットが鋭い踏み込みと共に木剣を振り下ろす。

 その一撃は重く、速い。普通の令嬢なら悲鳴を上げて腰を抜かすレベルだ。


 あ? 誰だ、普通の令嬢はこんなことはしないって言った奴。

 後で体育館裏に来い。


 だが、セレスティアにとっては「遅い」と感じられた。

 クリムローズとの特訓で、空腹の狼の集団から逃げ回っていた日々に比べれば、王子の剣筋はあまりにも「正当」で読みやすい。


(……ここでわざと受けて、か弱く吹っ飛ばされるべき? ……いや、変に当たって骨折でもしたら隠居生活に障るわ。ここは全力で避ける!)


 全力といいつつセレスティアは澄ました顔でその真っ直ぐな剣筋から逃れるべく動き出す。

 淑女の歩みを崩さぬまま、スッと半歩横にずれる。


 チリッと髪先を木剣が掠めていく。

 達人の見切りの動きでエリオットの剣をかわす。


 結果、彼の木剣は空を切ってしまう。


「ふっ……」


 次の瞬間、セレスティアは彼の懐に潜り込み、木剣を彼の喉元に当てていた。

 ごくりと喉を鳴らすと王子。

 当ててんのよ、ってこんな木剣当てられても困るでしょうけどね。


 それは「最速回避サバイバル・ステップ」から転じた、生存のための迎撃。


「……私の勝ちですわね、殿下」


 セレスティアは、冷徹な悪女そのものの顔で言い放った。

(よし! これで『化け物め!』と罵られ、婚約破棄に――)


「…………素晴らしい」


 エリオットの声は震えていた。

 彼は喉元の木剣も気にせず、感極まった表情でセレスティアを見つめている。


「今の脚さばき、そして一切の迷いがない冷徹な攻撃……! セレスティア、君はやはり、私と共に戦場を駆ける戦女神ヴァルキリーだったのだな!」


「……は?」


「あの日から君がどれほどの血を流し、私の努力に勝るとも劣らない研鑽を積んできたか……その覚悟、しかと受け取った! 君こそが、このエリオットの生涯唯一の伴侶だ!」


「……いや、血は一滴も流してま……(いやあれとかそれとかどれ? とか……なかったことにしようか)せんし、研鑽は逃げるためですし、筋肉をしまってください。その上で話を聞いてください」


 背後では、公爵家の騎士たちが「お嬢様の神速の剣、しかと見届けた!」と感涙にむせび、拍手喝采を送っている。

 相手はこの国の第一王子やぞ、少しはそっちとの関係とか身体とかプライドとか心配せえよ……嬉しいけどさ。


「……殿下。私は、殿下のような暑苦しい方は嫌いですの。殿下にはそのもっと、こう……弱々しくて守りがいのある女性がお似合いではなくて? たとえば今噂の聖女様とか……」


 セレスティアは最後の抵抗として、最大限の嫌味をぶつけた。

 しかし、王子は満足げに笑った。


「ふふっ、やはり取り繕ったような表情より、今の顔の方が良い。君のその毒のある言葉さえ、私には心地よい響きだ。さあ、次は私が君の懐に飛び込んでみせよう!」


 やはりご褒美になっているようだ。


「……二度と近寄らないでいただけます?」


 セレスティアの生存戦略、第3段階。

「武力を見せつけてドン引きさせる作戦」は、王子の「戦闘狂バトルマニアな恋心」に火をつけるという、最悪の結果を招いた。


「……私、いったい何と戦ってるのかしら」


「……お嬢、それはもう『運命』っていう最強の魔物じゃないっすかね」


 通りがかったクリムローズが何となく察してそれっぽいツッコミを入れてくる。


「そんなのあんまりですわー」


 お嬢様の抗議の言葉は青空に響いていった。



 ……王子にはうんざりしておりますが、まだまだ続きますわよ、よろしくって……。


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