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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第12話:リリアーナの告白と真実




 夜会の狂乱が一段落し、セレスティアは逃げるようにバルコニーへ足を向けた。

 それに付き従うようにすっと自然に変態が寄り添ってくる。

 少し息が荒い。


「……ああ、セレスティアたんと同じ空気……ああ、空気の味~!」


 自分と関わらないところでは凄く真面目な聖女であるようだが……とてもこの姿では信じられない。

 そんなセレスティアの視線に興奮したのか頬を上気させる聖女リリアーナ。


「……ここは今貸切だよ」


 バルコニーへ続くテラスドアの前には、誰も通さないとばかりにクリムローズが仁王立ちして立ち塞がっている。

 室内の音すら跳ね返すようなその鋭い視線は、まさに鉄壁の門番だった。

(フラグが立つ前には通さないゲームキャラみたいですわね……。もしやグリッチで抜けてくる変態はいないですわよね……)


「……さて。リリアーナさん。いい加減、説明してくださらないかしら」


 セレスティアは、夜風に髪をなびかせながら、冷徹な仮面を被り直した。

(もう婚約破棄は絶望的かもしれないけれど、せめてこの『変態聖女』の正体だけは暴いておかないと、私の命(精神的な意味で)が危ないわ! ……まあ正直、出会いの時点から解っていましたが……それでも)


「あなた、私のことを『セレスティアたん』と呼び、あまつさえゲームがどうのと言っていましたわね。……あなたも、私と同じ『こちら側』の人間なのですか?」


 セレスティアの問いに、リリアーナは一瞬だけ表情を消した。

 だが、次の瞬間、彼女は崩れ落ちるようにバルコニーの床に膝をついた。


「……気づいていらしたのですね、セレスティア様。はい、そうです。私は、この世界が『乙女ゲーム』であったことを知る転生者です」


 リリアーナの声から、いつもの変態的な熱狂が消え、真剣な響きが混じる。


「私は……前世で、重い病気で入院していたんです。その時の唯一の救いが、あのゲームでした。特に、悪役令嬢であるセレスティア・ヴァインベルク……。不器用で、孤独で、それでもプライドを捨てずに破滅へと突き進む貴女の姿に、私はどれほど勇気づけられたか!」


「……は?」


 悪役令嬢に思いいれのあるというのはあるあるなのだが……少なくともセレスティアの中で彼女のような解釈は沸きあがらなかった。


 破滅への暴走特急が勇気を与えてくれるってどゆこと?

 ナイフなんか捨ててかかってこいよ! とかいう挑発にやすやす乗っちゃうタイプの悪役が好きってことですの?


 別のゲームをしていたのだろうか? と思うくらいだが、どうやら本気のようだ。


「だから、この世界に転生したと気づいた時、私は誓ったんです。今度は私が、貴女が救われるルートをこの手で作ってみせるって! 聖女の力に目覚めたのも、すべては貴女の隣に立つためのパスポートにするためだったんです!」


 リリアーナは、セレスティアの手をギュッと握りしめた。


「でも、驚きました。私が何もしなくても、貴女は学園に入学したときにはすでに『最強』だったんですもの! 母君を救い、父君の闇落ちを止め、あまつさえ闇の芽(物理)を引っこ抜いて庭の肥やしにするなんて……。私が何かするまでもなくシナリオは完膚なきまでに崩壊しました。私の知る『悲劇の悪役』としてのイベントは、全部消えてしまいました! ああ、セレスティアたん……素晴らしすぎて……ああっ」

「聖女、ハウス、ハウス」


 クリムローズさんが止めに入る。

 その隙に私は彼女の手を振り払った。正直、リリアーナの瞳の中に完オチ発情のハートマークが見えるくらいの情熱が湧きあがっていて後ずさりするとこでしたので助かりましたわ。


「はぁはぁ……ああ、空気の味~。……コホン。失礼しました」


 一瞬で「慈愛の聖女」のアルカイックスマイルに戻るリリアーナ。

 だが、その瞳の奥には隠しきれないピンク色の濁流が渦巻いている。どんなに取り繕っても身体は正直だなぁ……とか言いたくない。


 普通の乙女ゲーのヒロイン転生ものなら、予定を狂わされて逆上し、策謀を仕掛けてきてもおかしくない。

 けれど、この「恨み」の成分が1ミリも混じっていない、純度100パーセントの偏愛は、それはそれで生物として本能的な恐怖を感じる。

(……正直、闇の芽を物理で引っこ抜いた時より、今の方がよっぽど生命の危機を感じますわ)


「……キリッとした顔つきだけど、そのもじもじとしながら股間を押さえるのは止めなさい。ナニをしているのか……顔もまたうっとりとした表情で涎が垂れそうな勢いですわ」


「ち、違うんですセレスティアたん……こ、これは……そのビタミン剤……ではなくて、そのチンポジを直しているだけで」


「あなた、仮にも聖女で女ですわよね! 何で……お、おチンポジ直しなど」


「ち、違うんです……ああ、でもセレスティアたんがはじらいながらおチンポって口にするのぞくぞくします……じゅるり、ごちそうさまです、んんっ」


 やや前かがみになってまた悶えモードに入りそうになる聖女リリアーナ。


「はいはい……お嬢も聖女も落ち着いて、ハウス、ハウス、どうどう」


 話が進まないままカオスになる事態を引き戻してくれるクリムローズさん。

 この物語の良心ですわ……でも私もはぁはぁ言っている変態聖女と同列扱いされるのは心外ですわ。


「こほん……やっぱり、あなたの仕業だったのね? 私が何をしても嫌われないのは!」


「いいえ! それは違います! 貴女が好かれているのは、貴女がセレスティアたん……いえ『セレスティア様』だからです!」


 リリアーナが熱弁を振るう。涎をこぼしながらなのが正直引くが、熱意は本物すぎて太陽である。


「考えてもみてください。本来の貴女なら、学園でヒロインを平手打ちして虐め街道まっしぐらになるはずでした。なのに貴女は、私を『椅子』として受け入れてくださった! あえて蔑むことで私の暴走を抑え込み、カイル様に『特殊任務』だと思わせるほどの高度な立ち振る舞い……。もう、原作以上の神展開です! 私は、そんな貴女が大好きなんです!」


「?」


 精神が宇宙に飛びそうになった。鏡がこの場にあるならば、私の顔はきっとあの宇宙ネコのようなぽかんと目を丸くしたものとなっているに違いない。


 本来の聖女なら『椅子』になることを希望したりすることはないし、シナリオ上でもこんな聖女の暴走は1ミリも想定されていないはずだ。

 というか、乙女ゲーの定番を初手から粉砕して、いきなり「はぁはぁ」と湿り気全開で突っ込んできたのは彼女の方なのだから、因果関係が完全に逆転している。


(……待って。この子、自分が暴走したせいで私が対応に困り果てた結果を、『計算された神展開』だと信じ込んでいますわ……! 無敵ですわ、この無敵の人(変態)を止めるロジックがこの世界には存在しませんわ!)


「……リリアーナ。一つだけ確認させて。その、あなたが私の『椅子』になったのは、私の高度な立ち振る舞いの結果ではなく、単にあなたが……その、変態だから……ではないのかしら?」


「いいえ! 貴女という至高の存在を前にして、跪かない人間などこの世界には存在しません! 私が変態なのではなく、世界がセレスティアたんという劇薬に酔いしれているだけなのです! さあ、もっと蔑んで、その……おチンポジの心配をしてくださってもいいんですよ!?」


 そういいながらまたそのドレスの下腹部あたりを押さえてもじもじし始めるリリアーナ。


「ハウス!!」


 気合の入った声でクリムローズさんの鋭いツッコミ(物理的なチョップ)が変態聖女の脳天に突き刺さった。


「……取り乱し失礼しました」


 また咳払いして立て直す聖女。叩いて直るあたり、昭和のテレビか何かなのでしょうか、この変態。

 ……本当に病院ではかない命を嘆いていた前世、あったのでしょうか。


「だから、私は嫌われたいの! 静かに隠居したいのよ!」


「無理ですわ! これだけ徳を積んで、国を救って、王子を筋トレ依存症にするほど惚れさせておいて、何を仰るんですか!」


 リリアーナは力強くセレスティアの肩を掴んだ。

 目は発情してない。本気とかいて『マジ』と呼ぶ状態だった。


「いいですか、セレスティア様。貴女が『悪役』を演じようとすればするほど、それはこの世界の住人には『高潔な厳格さ』として変換されます。それは貴女自身の魂が、根っからの善人だからですわ!」


「……善人? 私が? 闇の芽(物理)を肥料にするような女が?」


「そうです! 普通なら怯えるはずの闇を、効率よく再利用しようなんて、合理的で逞しい……それこそが王妃に必要な資質ではありませんか! おめでとうございます、セレスティアたん様。貴女は今日、正式に『推し』から『本物の女神』へと昇格されました!」


「……おめでとうございますじゃないわよ……」


 セレスティアは頭を抱えた。

 協力者だと思っていた聖女は、自分を破滅から救うどころか、より高い「崇拝の壇上」へと押し上げようとする熱狂的な信者(転生者)だったのだ。


「……お嬢。諦めなよ。この娘の目、本気だぜ」


 クリムローズさんが、遠い目をして告げてくる。


「あんたがこの先、どんな悪行を働こうとしたって、この聖女様と眼鏡の兄ちゃん、それに筋肉王子が全力で『神解釈』して守り抜いちまう。……お嬢の負けだ。あんた、一生この国に縛り付けられる運命なんだよ」


「そんなの……そんなの、破滅エンドよりひどいですわぁあああ!!」


 バルコニーに、セレスティアの魂の叫びが響き渡った。

 だが、その叫びさえも、眼下の会場からは「女神の雄叫び」「建国の決意」として拍手喝采で迎えられるのであった。


「……よし、セレスティアたん様ぁ。次は挙式の準備です。私が全力で『世界一過酷な、でも尊い披露宴』をプロデュースして差し上げますわね!」


「帰れ! 今すぐ教会に帰ってちょうだい!!」


 セレスティアの生存戦略は、ついに「逃げ場のない幸福」という名の迷宮へと、完全に迷い込んだのであった。

(ところで世界一過酷な、でも尊い披露宴って何? 披露宴ってそんなサバイバルな戦場でしたっけ?)



 ……疑問は残りますが、後一話続きますわよ。


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