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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第11話:夜会、断罪の……はずが?




 王城の夜会会場は、異様な熱気に包まれていた。

 今夜、この場所で第一王子エリオットと、公爵令嬢セレスティアの今後が語られる――その噂は、王都中の貴族を呼び寄せるに十分な引力を持っていた。


(……来たわ。ここが私の、終着駅ラスト・ステーションよ!)


 なんだかんだとテンション爆上がりですわ~。

 婚約破棄から平穏な生活を望むはずが終着駅になっているあたりもうかなり頭もやられているとか言わないで下さいまし。


「……」


 ガチャリッ。

 重厚な扉が開くと同時に、セレスティアは一歩を踏み出した。

 職人たちが血と涙を注ぎ込み、意図せず「覇道の女王」のごとき威厳を纏ってしまった紫と金のドレス。

 彼女が歩くたびに、計算され尽くした宝石の配置が光を乱反射させ、まるで背後に後光が差しているかのような錯覚を周囲に与える。

 それはそう……まるでセットの女王サチコのように……ってラスボス!? ちょ、ちょっとお待ちになってくださいまし。


「……あれが、農業の女神」

「……聖女を鎮圧し、魔王の力を浄化した救国の令嬢……」

「なんて神々しいんだ……」


 周囲の賞賛。


「……ふふっ」


 ばさりと扇を広げ、内心の動揺を隠し平然を装う。

 何とか内心で、賞賛の声をセレスティアは「ふん、派手すぎて目が潰れるでしょう!」という嘲笑として脳内変換した。

(ところで聖女を鎮圧って何? いやまあ大分暴走してましたが……さぞかし名のある変態でしょうが、そのようにあらぶるのか、なんて言ってませんし)


「エリオット殿下!」


 会場の中央、壇上に立つ王子の前に辿り着くと、セレスティアは扇をバサリと閉じ、不敵な笑みを浮かべた。

 その隣には、純白のドレスに身を包んだ聖女リリアーナが、なぜか鼻血を堪えながらセレスティアを凝視している。

(あ、駄目はこの娘、はやくなんとかしないと……では済みそうにないわね)


「あら、リリアーナ。そんな安い生地のドレスで、よくも私の前に立てましたわね。身の程をわきまえなさいな。貴女のような小娘、この私の一瞥いちべつで塵になるのがお似合いですわ!」


 これだ。完璧な身分差別。完璧な悪役。

 セレスティアはさらに続けた。


「殿下! 私はもう、貴方のような暑苦しい方には愛想が尽きましたわ! 私の高潔な……いえ、我儘な振る舞いについてこれないのなら、今すぐ婚約を白紙に戻すべきです! さあ、言いなさい! 私のような悪女は王妃に相応しくないと!」


 会場が静まり返る。

 そしてざわつく。

 公爵令嬢から話を切り出す。しかも王太子殿下の言葉も待たずに、挨拶もせずにということだろう。


 セレスティアは心の中で快哉を叫んだ。

(やった! 流石に今の暴言はフォロー不可避! さあ、絶望の婚約破棄をちょうだい!)


 だが、エリオット王子はゆっくりと階段を降り、セレスティアの前に膝をついた。

 それに対して会場のざわつきが大きくなる。

 一部では黄色い声が上がっている。どういうことなのだろうか。


「……セレスティア。やはり君は、私を試していたのだな」


「……は?」


 脳みそまで筋肉ですかこの野郎と口まで出かかったが、あきれ果てて先に大きく口が開いた。

 慌てて口を押さえる。さすがに少々はしたない。


「今の言葉、しかと受け取った。君はあえて悪役を演じ、聖女を公衆の面前で『小娘』と呼ぶことで、彼女を政治的な政争から守ろうとしている……。そして私には『王としての重責に耐えうる覚悟があるか』と問うているのだろう! わかっている。自分一人の振る舞いすら咎めるような筋肉の硬さでは剣を持つことすら叶わぬと」


 膝をついて騎士の誓いのように手を差し出していた体勢から立ち上がり何故かラットスプレッドのポーズを取り口を開ききらりと歯を光らせて笑う。


 筋肉は総てを解決する、ではございませんことよ。

 頭痛が痛みますことよ。


「違います。ただの性格の悪い女のセリフですわ」


「いいや、わかるぞ! 君のその燃えるような紫の瞳は、未来の王妃として、私と共に茨の道を歩む決意に満ちている!」


「いや、ちょっ……殿下……」


「私は……私は情けない! 君にこれほどまでの泥を被らせていた己の不甲斐なさが、今、筋肉と共に震えている!」


 エリオットが感極まって叫ぶ。

 そして、ポーズをダブルバイセップスへと変えて、また笑う。


 ほんとやだ、この筋肉。


 会場の貴族たちから「おおおおお!」と地鳴りのような拍手が沸き起こった。


「セレスティア殿! 貴女の深い慈愛、感服いたしました!」

「農業の女神にして、聖女の守護者! なんと尊い!」

「U! S! A! U! S! A!」


「待って。慈愛? どこに!? 今、私、聖女に塵になれって言いましたわよね!? あと映画のクライマックスシーンみたいな掛け声してる方もいらして?」


 セレスティアがパニックに陥る中、隣でプルプルと震えていたリリアーナが口を開いた。


「……ああ、セレスティアたん。今の『塵になれ』……最高でしたわ。私の不浄な魂が、そのお言葉で本当に浄化されていくのを感じました……! このドレスも、『あえて安い生地を選ばせることで、セレスティア様の輝きを際立たせるための引き立て役』という私の役目を一瞬で見抜くなんて……! 好き! 抱いて!!」


「聖女様、落ち着いてください、ハウス、ハウス……どうどう」


 正装(女性用騎士礼服)に身を包んだクリムローズが、リリアーナの襟首を掴んで引き戻した。

 クリムローズは舞台袖で、絶望に顔を歪めるセレスティアと目が合うと、そっと首を横に振って「……お嬢、もう詰みだよ」と口の形だけで伝えた。


「セレスティア・ヴァインベルク!」


 エリオットが彼女の手を取り、力強く立ち上がった。


「君こそが、この王国の光だ。君の厳しさは愛であり、君の毒舌は福音だ! 私は誓おう! 生涯君を愛し、君が守ろうとしたこの国を、共により良き場所へ変えていくことを!」


「「「「セレスティア様、万歳!!」」」」


 王都中の貴族たちが一斉に唱和し、花吹雪が舞った。

 セレスティアは、眩い光の中で立ち尽くしていた。

 婚約破棄されるはずの「夜会」は、いつの間にか、彼女を「建国の女神」として崇める「事実上の戴冠式」へと変貌していた。


(……おかしい。私の計算では、今頃は領地行きの馬車の中で、好きな本を読んでいたはずなのに……。なんで、隣の王子の筋肉が、勝利のポーズでピクピク動いているの……?)


「……殺して。いっそ、今からでもいいから誰か私を誘拐して……」


「おっと、誘拐なんてさせないぜ、お嬢。あんた、今やこの国の最重要防衛対象だからな」


 クリムローズの、男前で、それでいて非情な囁きがセレスティアの耳に届いた。

 セレスティアの生存戦略は、ついに「逃げ場のないハッピーエンド」という名の、最大の破滅(?)を迎えたのである。



 もうやだこの乙女ゲー世界、クーリングオフですわ~……ああ、リセットボタンはどこですの、もう少し続きますの? もう勘弁してくださいまし……。


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