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『悪役令嬢の私が「嫌われよう」と頑張るほど、聖女は崇め、王子は鍛え、知者の眼鏡が曇り――なぜか国が平和に爆進していく』  作者: 踊りまんぼう


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第10話:運命の夜会・前夜




「おーっほっほ! 見てちょうだい、クリムローズさん! これこそ、私の破滅を飾るにふさわしい、最低最悪のドレスの生地ですわ!(個人の感想です)」


 公爵邸の衣装部屋。セレスティアは、目の前に広げられた鮮やかな「紫」と「金」の生地を指差し、勝ち誇ったように笑った。

 その生地は、あまりにも派手で、あまりにも主張が激しく、控えめな美徳を重んじる貴族社会においては「成金の極み」あるいは「趣味の壊滅的な悪女」と指を差されること間違いなしのシロモノであった(セレスティア調べ)。


(ふふふ、これよ! これをふんだんに使ったドレスを着て夜会に乗り込み、あえて下品に振る舞えば、あの筋肉殿下も『こんな女が王妃なんて冗談じゃない!』と叫ぶに決まっていますわ!)


 セレスティアの計画は完璧だった(本人談、なお今までの失態、失敗については目をつぶるものとする)。

 清楚な(ただしセレスティアの前以外)聖女リリアーナの隣で、目が潰れるほど眩しく、かつ悪趣味な格好で傲慢に立ち振る舞う。

 それは、彼女が五歳の時から温めてきた「嫌われ令嬢」の集大成ともいえる作戦だ(温めすぎて腐敗している気がするが)。


「……お嬢。一応聞くけど、それ本気だよな?」


 窓際でリンゴを齧りながら、クリムローズが冷ややかな視線を送る。

 感覚のズレ方が横滑りしすぎて、ドリフトで峠が攻めれそうなくらいのお嬢様に対して女冒険者は懐疑的というか、どうせ失敗する程度の受け取り方しかしなかった。


「当然ですわ! 職人には言っておきましたの。この派手で下品な生地を使った上で『とにかく派手に、品位など欠片もなくて結構! 私が歩くたびにジャラジャラと音がするほど宝石を盛りなさい!』とね!」


 完璧な注文とばかりにどやぁという顔で胸をそらす。

 美人なだけに、妙に可愛らしい動作である。


「……あーあ。お嬢が職人たちにそう言った時、あいつらがどんな顔してたか見てなかっただろ」


「いえ、見てましたわよ。私のあまりの我儘っぷりに、呆れて震えていましたわ!」


 セレスティアは満足げに頷いた。

 だが、事実は全く異なっていた。


 その時、衣装部屋の奥から、充血した眼に異様な熱気を宿した仕立屋の親方が現れた。

 彼の背後には、不眠不休で針を動かし続けた十数人の職人たちが、まるで聖遺物を運ぶ巡礼者のような足取りで続いている。


「……セレスティア様。完成いたしました。我ら職人の魂、そして貴女様のご意志……しかと形にいたしましたぞ」


 親方が震える手でベールを剥ぎ取った。

 そこに現れたのは、セレスティアが注文したはずの「下品なドレス」ではなかった。


「…………な、何ですの、これ」


 セレスティアの口から、困惑の声が漏れた。 そこに鎮座していたのは、紫の深遠な輝きと、金糸による繊細かつ大胆な刺繍が施された、圧倒的な「威厳」を放つドレスだった。


「ジャラジャラと盛れ」と命じた宝石は、歩くたびに不快な音を立てるどころか、光の屈折を完璧に計算された配置によって、彼女が動くたびに「後光」が差すかのように設計されていた。


「これぞ……これぞ、悪を制し、民を導く『覇道の女王』の装束! 貴女様が仰った『品位など不要』というお言葉……それは、既存のちっぽけな貴族の枠組みなど超越し、自らが新たな基準ルールとなるという宣言だと理解いたしました!」


 親方が号泣しながら床に伏した。


「宝石の重みは、貴女様が背負う民の命の重み! 派手な色彩は、闇夜を照らす希望の灯火! ああ……これほどまでに攻撃的で、かつ神聖なドレスを仕立てることができた我が人生、一片の悔いもなし!」


「「「「異議なし!!」」」」


 職人たちが一斉に唱和した。


「ちょっ、待ちなさい! 私、もっと『安っぽくて成金っぽい感じ』って言ったはずですわよ!? これ、どう見ても建国記念祭で初代女王が着てた伝説の礼服より格調高いじゃない!」


「お嬢。あんた、注文の仕方が悪すぎるんだよ」


 クリムローズが耳をほじりながら告げる。


「『私が歩くたびに音がするように』って注文、あいつら『周囲の雑音(不満)をかき消す、威風堂々たる凱旋の音を響かせろ』って変換しやがったぞ」


「そんなの、もはや翻訳じゃなくて捏造ですわぁああ!」


 セレスティアの絶叫も虚しく、ドレスは完璧なサイズで彼女の体に吸い付くように着せられた。

 鏡に映る自分を見て、セレスティアは更なる絶望に襲われた。

 そこには、当初の目的であった「悪趣味な女」ではなく、今にも他国を宣戦布告一つで従えそうな、圧倒的な美しさを湛えた「魔王を屠る女」が立っていた。


「……完璧だわ。あまりにも完璧すぎて、夜会で嫌われる隙が、物理的に存在しないじゃないの……」


 自身の攻撃力の高さが憎らしい。

 凄みがあって近づきがたいというのは壁の花になるには良いかもしれないが、この程度ではあの筋肉や変態聖女は怖気づくことはないだろうし、目的の達成には程遠い。


「お嬢、むしろこれ着て夜会行ったら、殿下がその場で『今すぐ挙式だ!』って言い出しかねないね」

「……それは多分言わないわね」


 クリムローズさんのからかいを即否定する。


「へぇ? よく殿下のことを良く理解しているってか?」

「まあ、そうなりますでしょうか……不本意ですが」


 多分、その強さ確かめさせてもらうとかいいそうですわ。

 ……夜とかベッドとかの色気のある強さ……ではないでしょう。


「だったらお似合いだろう?」

「いいえ、あんな筋肉、お断りですわ。あ、そうだわ! 夜会に、クリムローズ、あなたも来なさい! こうなったら『野蛮な用心棒を連れてきた不作法な令嬢』として振る舞うのよ!」


「……悪いけど、お嬢。あたしはすでにカイル様から『聖女鎮圧任務の補助官』として、王室騎士団の特別顧問の辞令もらっちゃったよ。正装で参加予定だ」


「裏切り者ぉおおお!! しかも野蛮でもなさそうですわぁぁぁぁ」


「お嬢、あたしだって……そのさ、言いたかないけどお嬢みたいな……いやお嬢みたいなのはいないが、ともかく立派な貴族様との交流だってあるんだから、付け焼刃程度だがマナーも学んでいるさ。……ああ、人のを呼びつけておいて猿だの魔物だの、臭いがどうのと難癖付けてくる白塗りの化け物相手にしてたら意地でも見返したくなるものだからな……」


「そ、そうですの……はぁ……大変ですのね」


 実感あるクリムローズの言葉に一歩引いてしまう。


 セレスティアの周囲から、着実に「逃げ道」が塞がれていく。

 運命の夜会まで、あと少し。

 彼女は「今度こそ、絶対に嫌われてみせる」という、誰にも信じてもらえない不退転の決意を胸に、戦場(夜会)へと足を踏み入れるのであった。


「……で聖女鎮圧任務の補助官って……何? いや、わからなくもないけど頭が理解を拒むわ」


 セレスティアは凄く嫌な予感を抱えながら運命の夜会を迎えようとしていた。



 ま、負けませんことよ、そして投げ出すつもりも逃げ出すこともなく、わたくしはわたくしを信じぬきますわ……それが一番大事、って駄目になりそうなときではございませんわ。……続きますことよ。


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