〚3〛Playing With Fire
目を開けた。
起き上がり周りを見渡す。
真っ白な世界が広がっていた。
ビルも人も車も、体の傷や痛みさえ何もかもがなくなっていた。
天国、頭の中をそんな言葉がよぎる。
やれやれ、間違いなく俺は地獄行きだと思ったが、最後のアレが効いたな。
そう思いながら立ち上がる。
立っているのに浮いているような不思議な感覚。
「誰かー、いないのかー?」
「おーい、天使ー」
「お客様だぞー」
続けざま放った言葉はしばらく反響してむなしく消え去った。
右も左も分からないまましばらく歩いていると、ただでさえまぶしい真っ白な世界にひときわ輝く光を見つけた。
少し足早になり光の元へ行くと、1人の男が立っていた。
肩まで伸びた金髪、サイケデリックな柄のシャツにピチピチのレザーパンツ。
およそこの場所に似つかわしくない、イギー・ポップのようなその男はこちらに気づくとフランクに話しかけてきた。
「やぁ人間、ずいぶん派手に死んだみたいだね」
こんにちは、いい天気ですね、みたいにサラッと言うな。
「そうか、俺は死んだのか。てことはやっぱりここは天国で、あんたは、そのー」
「神だ」
ケンジの言葉を待たずに神は言う。
「自分を犠牲にして知らない子どもを助けるなんてなかなか出来ることじゃないよ、すごいことだ、ありがとう」
「ありがとう?さすが神様だな、関係ない人間が関係ない子どもを助けただけなのに感謝の意をご表明くださるとは」
ケンジが皮肉を込めてそう言うと、神はあからさまに焦った素振りをしはじめた。
「いや、関係ないって言うかー、そのー...」
「なんだよ」
「あれ、俺の息子なんだ」
「は?」
頭についたハテナマークを取るために、ケンジは最後の瞬間を思い出していた。
あの時の男の子の言葉が頭を巡る。
『おじさん!どうして僕を助けたの!?僕は死なないのに!』
『僕は死なないのに!』
あー、そういうことか。なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「久しぶりに下界に降りてさ、ワクワクしながら下界ライフを楽しんでたら、いつのまにかあいつがいなくなっちゃって。おとなしく待ってろって言ったのに。おいエリック!」
神の横にまた眩しい光がパッとして、あの時の男の子が現れた。元気そうで何よりだ。
「ほら、お前からもきちんとお礼を言いなさい!」
神に言われた男の子はシブシブとめんどくさそうに言った。
「おじさんありがとう。ムダジニだけどありがとう」
おい神様、まずこの子の教育をしっかりしろ。
「こらエリック!このおじさんは別に無駄死になんかじゃないぞ!むしろ運命を感じたんだ、神なのに。運命を作る側の神なのに。なぁ、ソウルジャムのケンジ」
用件が済むとエリックと呼ばれた男の子は、そそくさとまた光の中へと消えていった。
「運命?それに俺の事知ってるのか?まぁ神様だから当たり前、なのか?」
また頭にハテナマークがつきそうだ。
「いや、さっきお前たちのライブを観てたんだよ、下界で」
シュウ、サトル。俺達はついに神様に認知されたらしいぞ。
「そりゃ光栄だな、で、神様的にはどうだった?」
「スリリングだったさ!最後のギターソロなんかファズがゴリゴリしてて最高だった。初めてパープル・ヘイズを聴いたときみたいに震えたよ」
「だろ?なかなか話がわかるじゃないか」
「演奏技術も佇まいも完璧だった、ただ...あー、まぁいい、とにかく運命を感じたんだよ、今日観たあのライブハウスの男がココに来ると聞いた時に」
ケンジは『ただ...』の続きが少し気になりながらもポケットからタバコを取り出すと
「天国は禁煙かい?吸ってもいいよな。で、さっきから言うその運命ってのはなんなんだ?」
と口に咥えて火をつける。なかなか火がつかない。
「...つまりお前のギターはすごい力を秘めていると思ったんだ」
ケンジはまだカチカチと火をつけている。
「世界を変えるような力がさ、だから...」
少し間を置いて神は言った。
「転生して世界を救ってほしい」
火が、今ついた。
イギー・ポップ:60年代アメリカで結成されたザ・ストゥージズのフロントマン。過激なパフォーマンスが有名なかっこいい変態(褒め言葉)。多分、今のキラキラしたミュージックシーンがメインの若い子たちが観たら卒倒するレベルだと思います。個人的にデビュー曲のI Wanna Be Your Dogがおすすめです。
パープル・ヘイズ:アメリカ出身のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスが60年代に作った曲。この曲を知らなくてもイントロは聴いた事あるって人は多いんじゃないかと思います。とにかくかっこいいです。必聴です。ジミ・ヘンドリックスはギターの可能性を広げた人だと思っています。ちなみに、日本のマーケットが作ったいわゆる世界3大ギタリストには彼はカウントされていませんが、その3大ギタリストがジミ・ヘンドリックスをベタ褒めしているのは有名な話です。




