〚1〛(I Can’t Get No) Satisfaction
「あーーー、もうやってらんねぇよ!」
乱暴にベースを投げ置いたシュウが言った。
「ケンジさん、また勝手にソロ弾き始めて!」
ケンジはギターの弦を拭いていて振り向きもしない。
「なんか途中で勝手にアレンジもしてたしな」
吸っているタバコでケンジを指しながらドラムのサトルが言った。
「あのアレンジは急に閃いたんだ。絶対あっちの方がかっこよくなるってな」
今度はボディを拭き始めたケンジがやはり振り向かずに言った。
「かっこいい悪いの問題じゃなくてな、俺達はお前の伴奏係じゃねーんだわ」
「その突然のアレンジやギターソロに巻き込まれる俺達の身にもなってくださいよ!求められてることプロ級ですよ!?」
茶色いハードケースにギターをしまったケンジは面倒くさそうに2人の方を向き、苛立ちを隠さずに言い放った。
「じゃあどうするんだ?俺はただ自分が良いと思った音楽をやるんだ。自分を、客を満足させるために。それがそんなに嫌ならやめればいい」
空気が一気に張り詰めるのが分かった。
しばしの沈黙。
そして。
「悪りぃな、これまでだわ」
タバコをくゆらせながら手を振りサトルが出ていく。
「お疲れ様でした。ケンジさん、あんた、バンドに向いてないっすよ」
追いかけるようにシュウも出ていく。
楽屋は静けさに包まれ、サトルのタバコの残り香が、いつまでもケンジに後味の悪さを思い出させていた。




