表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

エピソード8

塔の最上階。

夜風が窓を叩く音だけが、規則的に続いていた。

部屋の中央に、ひとつの水盤がある。銀の縁に刻まれた紋様が淡く光り、水面の上には、城の庭の映像が静かに浮かんでいた。

そこには―満開の薔薇。

光は消えていたが、花そのものは残っている。

宰相(さいしょう)ロウェンは無言のまま、その光景を見つめていた。

顔は感情を欠いていて、まるで人形のようだ。

ただ、その瞳の奥で、青い光が一定のリズムで(またた)いていた。


リズムが速まっていく。

彼は右手を掲げ、水面の上に複雑な図形を描く。

音もなく、その軌跡が空気に浮かび上がる。

円、線、符。

それらがひとつに組み合わさり、まるで呼吸するように脈打った。

「―対象、識別。コードネーム:E-01」

ロウェンの声に抑揚(よくよう)はない。

淡々とまるで機械が数値を読み上げるように。

「魔力反応、覚醒レベル0.52……前回比+0.15。共鳴波形―外部由来。異質」

部屋の奥、厚いカーテンの向こうから声が響く。

「外部由来とは?」

低く重い声。

この国の王の声。


ロウェンは顔を上げないまま、淡々と答える。

「王都外から流入した共鳴体の可能性。形状、人型。魔力値―未測定です」

「旅人…か」

「その可能性が高いです。ただし、単なる人間であれば、反応は起きないはず」

静かな空間の中で風の音だけが、窓を震わせている。


王は静かに口を開いた。

「観察を続けろ。ただし、介入はするな。まだその時ではない」

「承知」

ロウェンは水面に視線を戻す。

一枚の花びらが風に舞っていた。

月の光に透けて、まるで誰かの名前を呼ぶように。


その光景を見た瞬間、ロウェンの目の奥に宿る青がかすかに揺らいだが、次の瞬間にはもうすでに元の冷たい光に戻っていた。

「観測データを封印。記録―完了」

手を下ろすと同時に、水盤の光が消え、部屋には再び闇が満ちた。


だが―その闇の奥、ほんの一瞬。

青い残光がまるで脈を打つように点滅した。

そして、彼の唇が微かに動いた。

「……あれが幸福か」

誰に聞かせるでもなく呟いた声は、闇に吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ