第8話 水没
咲夜は池に沈む死刑者を見つめた後、《クルッ》と踵を返し、《ズッズッズッ》と歩いていく。
そして、後ろから現れた郁哉と千世霞。千世霞は後ろをちょこちょこと振り返っている。
池は《ゴポッ》《ゴポポポポッ》と音を立て、池自身が呼吸をしているかのように泡を吹いている。
千世霞「し、死んで…」
咲夜「まだ生きてる。」
郁哉「まだ意識もあるかもな、」
ポケットからストップウォッチを取り出す郁哉。ストップウォッチには《2:39.57》と刻まれている。
郁哉「溺れてから意識を失うまでの時間は3分程度。っしょ、」
郁哉は池の近くの大きな木に登り、幹から見下ろす。《シュサッ》と咲夜も身軽に郁哉の隣まで登る。
千世霞「よいっ、しょ、、!」
千世霞は2人の登った幹よりも少し低いところに。
郁哉「うるせぇよ、」
千世霞「ご、ごめん…」
呆れたように言う郁哉と、それに少ししょぼくれる千世霞。郁哉は大きくため息をつき、話を再開させた。
郁哉「話の続きだ。意識を失った後、呼吸が停止する。そこから心停止まで、早くて1分から2分。でも、実際は呼吸をしてないから、心停止までの明確な時間は分からないって言われてる。でもまぁ、一般に言われてるのは、呼吸停止から約10分経過で50%が死亡。心停止から約3分経過で50%が死亡。」
そして郁哉はもう一度、手元のストップウォッチに目を落とした。
《8:42.67》
郁哉「そんで今、咲夜が死刑者を落としてから9分近く経過した訳だが…」
郁哉が掲げたストップウォッチに目をやる咲夜と千世霞。そして、郁哉は流れるように池に目をやる。
それに釣られるように池に目をやった咲夜と千世霞。
千世霞「なんか、静か…」
咲夜「呼吸停止。」
千世霞「ぇ…」
フードから覗く、咲夜の顔を見る千世霞。
咲夜「さっきの泡みたいなの無くなったでしょ。」
千世霞「あ、あれって…」
咲夜「衣服に含まれてた空気と、死刑者の呼吸。」
冷たく言い放つ咲夜に、《ゾワァ》と身の毛がよだつ千世霞。
咲夜「大目に見て、13分。変化がなければ死亡確認って感じ、でしょ、?」
隣の郁哉に目をやる咲夜。
郁哉「あぁ。」
咲夜の目を見て答える郁哉。
千世霞「もう1人の警察_ 」
郁哉「不法人」
千世霞「ふ、不法人は…」
またため息を着く郁哉。
咲夜「補助員が見てる。変化あれば連絡するよう頼んであるから、何も無いってことは、変化ないんじゃない。」
千世霞「そ、そっか…」
ほっと胸を撫で下ろす千世霞。
《チラッ》と目線を池から手元に移す郁哉。手元のストップウォッチは《13:27.06》を表示する。
郁哉「もういいんじゃないか、あの怪我だ。」
咲夜「…右肺が機能しないんじゃ、13分持てばいい方だしね。」
千世霞「…?」
郁哉はスマホをさっさと操作した。
郁哉「戻るぞ、」
咲夜「ん、」
千世霞「うん…」




