第2話 サバイバル
1年A組の扉の前に佇む咲夜。
それとは対照的に、教室内の教壇の下で拳銃を抱えながら身を隠している千世霞。
千世霞「ツッ……、」
千世霞「(動けないッ、いくら死なないって言っても…、ただのゲームだとしても、!なんでこんなに怖いんだ…。動かないと、死ぬでも、動いても死ぬ未来しか…)」
〈ガラガラガラ〉と大きな音を立てて開かれる扉。
千世霞は息を呑み、その場に固まった。
後ろの扉を開けて教室に入ってきた咲夜だが、あいにく千世霞は咲夜の死角に身を潜めている。
千世霞「ツッ!?」
千世霞「(バレた?これはもう詰んでる…いや、今ここで奇襲をするとか…)」
ゆっくり教壇へ近付いていく咲夜だが、足音は愚か、衣服の擦れる音すら聞こえない。
千世霞「(もしかしたら、僕でも…)」
千世霞「ツッ、!!!」
物思いに耽ていた千世霞の額に〈ヒヤッ〉と冷たい何かが当てられる。恐る恐る、視線をあげる千世霞。
咲夜は教壇に左肘をついて、手を皿のようにして顎を置く。右手で持った拳銃の先は、千世霞の額に当てられていた。
千世霞が自分の置かれた状況を理解するのはあまりにも容易いことだった。
千世霞「ッ、ぁッ…、、」
《死ぬことはないとわかっているのに、本当に殺されるかもしれないという恐怖》
咲夜「わかりやすっ、」
咲夜の口元には控えめに、そしてイタズラに笑みが浮かべられていた。
____〈パーンッ!!〉と校庭まで響く銃声。
不流「また派手なのが来たな…」
古都「そうだねぇ〜」
古都は悪戯げに笑った。
古都「楽しそうだね、」
不流「…俺の受け持つ生徒に変なのが多いのは何故だ…?」
古都「そういう体質なんでしょ?」
不流「誰がそういう体質だ。」
小馬鹿にするように笑う古都に、不流はジャケットから拳銃を抜き取り、古都の肩を狙って撃つ。
古都「いたーい!だから痛いよ!」
____体育館倉庫の扉が開かれる。それとほぼ同タイミングで〈パスンパスッ、!〉と発砲音が鳴る。
賢志「ツッ!?痛ってぇ!」
透人「なんだ、賢志か…」
賢志「なんだってなんだよ、!痛てぇよ!」
体育館倉庫で誰か人が来ることを狙い、扉横に立て掛けられたマットと壁の間に身を潜めていた透人。そしてまんまと透人の狙い通りに体育館倉庫に足を運んでしまった賢志。
透人の放ったインクビュレットは賢志の腹部に命中し、賢志の来ていたワイシャツの腹部は緑色に染められた。
そして、じどーっとした目で賢志を見つめる透人。
透人「…」
賢志「な、なんだよ…。言いたいことあるなら言えよ。その顔腹立つから…。」
透人「いや、痛いなんて当たり前なのになって。」
賢志「お前なんなんだよ!」
透人「ちょっと静かにして。バレちゃうから。」
賢志「ツッ〜〜!!!ほんっとにお前は、!」
賢志を放置して、スクッと立ち上がる透人。そして、体育館倉庫の扉を手にかけ、賢志に背を向ける。
透人「作戦勝ち、かな…」
賢志「…は?」
透人「もう、いちいちうるさい」
賢志「はぁ!?」
透人「だからうるさい!」
小競り合いもそこそこに、別館にある体育館から本校舎に戻る透人。
透人「(さっき聞こえた銃声…。賢志以外にも誰か1人やられてるはず…。)」
思考を回していた透人。〈バサッ、!〉と言う音が聞こえた時には、廊下に真っ白い粉が舞って、視界が遮られる。
透人「(罠かッ、!)」
片手で口を覆い、急いで拳銃を手に取るが、人がどこにいるかなんて分からない。
____家庭科準備室の棚を開ける響。
郁哉「こんだけありゃ…足りんだろ。」
袋に入った小麦粉を7袋ほど抱えて歩く郁哉。
1階にある家庭科室。すぐ近くの廊下に続く階段に身を潜める。
郁哉「(これで階段から襲われたら最悪だな…)」
袋を開いて小麦粉を蒔く準備をする。待つこと十数分。〈スッスッスッ〉と控えめな足音が向こうからやってくる。待っていたと言わんばかりに、郁哉は小麦粉の入った袋に手をかけた。
そして、透人の周りに真っ白な小麦粉が舞う。
透人「(見えなぃっ、!)」
〈ガチャンッ〉と物が落ちる音に透人は過敏に反応する。
透人「(なんだ、何を投げた?いや、音の鳴り方からして上から落とした、!?)」
透人は物が落とされたであろう箇所を推測し、そこに向かって、拳銃を向けるが、それも一瞬。次の瞬間には、透人は床に倒れていた。
透人「コホッコホッ…」
郁哉「…なんだ、お前か。」
透人「お前かって…」
宙に舞っていた粉たちが徐々に床に落ちていくが、未だに粉が空中に充満している。
透人「(全然気が付かなかった。)」
仰向けの透人の上に堂々と股がっている郁哉。
透人は詳しい状況把握のため、自分と郁哉の体、そして階段上に目をやった。
透人「(小麦粉…。袋の上にでも拳銃を置いて、小麦粉がある程度落ちた時には、袋の形状も変わって一緒に拳銃が滑り落ちるってことか。一瞬足音はしたけど、反応できなかった。)」
手すりから透人に向かって飛び降り、透人の服を掴んで床に押し倒す。それと同時に持っていたナイフで胸元を刺す。
透人の胸元には、斬りつけられたことがありありとわかるほど、青色のインクがベッタリと付着していた。
郁哉「お前そっくりのやつは?どうした」
透人「俺が負かした」
郁哉「へぇ〜…」
郁哉「(意外だな。こいつの方が弱そうなのに。…まぁ、今そんなことはいいか。)」
立ち上がり、制服にかかった粉を叩いて落とす郁哉。そして、郁哉は透人に手を差し出した。透人は少し驚いた表情を見せつつも、大人しく郁哉の手を取って立ち上がった。
透人「もう少し、綺麗にできなかったの。」
郁哉「充分綺麗だろ。」
透人「コホッ、こんな粉っぽくてどこが綺麗なの。」
郁哉「インクぶちまけるよか、マシだろ。」
透人「(言い返す気も起きない…)」
郁哉「(こいつはまぁいいとして、残りはおそらく…)」
神月 咲夜____
____校庭に出てきた咲夜。
古都「おぉ、勝ったのは響くんかな?」
不流「いや、待て…」
咲夜の制服は正に新品そのもので、汚れは全く見られない。咲夜は不流の前に立った後、何も言わずに不流に近付く。
不流「…おい、」
咲夜「隠れさせてもらいます。」
自由奔放な咲夜に怪訝そうに顔を歪める不流。
不流「お前はなんでいつも…」
ため息をつく不流と、それをケラケラと笑ってみている古都。苦笑いで見守る千世霞に、自分の拳銃をまじまじと観察している賢志、そして、素知らぬ顔をする透人。
不流「(事後報告なんだ。どうせ言っても無駄なんだろうが…)」
咲夜は自分より幾分も大きい不流に密着し、拳銃を構える。
不流「俺に当てるなよ。」
咲夜「当てるならあいつがせんせーに当てますね。私じゃない。」
不流「それもやめて欲しいけどな…」
およそ20分が経過しただろうか。咲夜は校舎に背を向けている不流を盾にしながら校舎の様子を伺っている。
《バンッ、!》
《ベチャッ》
校庭の砂を青いインクが汚した。
賢志「(まさか気付いたのか…?)」
賢志が咲夜に目線をやる。
1階教室の窓から校庭を見ている響。
郁哉「(目線が低いな。)」
持ち前の観察力で、郁哉は賢志の目線の先が不流の身長からすると低いところにあることに気がつく。
不流の足元に目をやると、不流の足と被っているが、違う人間の靴が覗く。
郁哉「(そういうことか…。ただここからだと狙撃できないな。)」
郁哉は1階のできるだけ端の教室へと移動する。
郁哉「(ここからなら…)」
不流の前側が見えるようになるが、咲夜はいない。
郁哉「いない、ッ、!?」
郁哉「(さっきまで確実に…)」
〈パシュンッ!!〉という銃声とインクが壁に当たる音。紫色のインクビュレットが響のすぐ側の窓枠に当たった。
郁哉「っ、!」




