第14話 カレー
時は遡り___
千世霞『えっと、つまり…毒殺ってこと、?』
郁哉『あぁ。相手はストーカー。逃亡者からのお裾分けと称してカレーを渡す。』
千世霞『カレーかぁ…。でも、今から作って間に合うかな?』
郁哉『あ"?…それはもう任せてある。』
千世霞『え、そうなの!?』
郁哉『当たり前だろ。…俺、料理できねぇし…。』
千世霞「(そうなんだ…。郁哉くんに出来ないことがあるなんて新鮮かも。)」
郁哉はタッパーに入ったカレーを持ってくる。
郁哉『このカレーにこれを入れる。』
千世霞に見せるように小さな小瓶を掲げる郁哉。郁哉の手にはゴム手袋が付けられていた。
千世霞『それは…?』
郁哉『インランドタイパンの毒だ。』
千世霞『インランド…タイ、なんて?』
郁哉『…。』
呆れた顔で千世霞を見る郁哉。
千世霞「(僕って郁哉くんを呆れさせてばかりじゃ…?)」
郁哉『インランドタイパン。オーストラリアの内陸部に生息する蛇。』
《シャーーッ》と鳴きながら、長い長い体の蛇が体をうねらせて丸くなる。横目でこちらに視線を寄こすが、目は茶色く、赤く、キラッと光る。
《シャーーッ、シャーーーッ》と泣きながら、噛み付いてくる。
郁哉『青酸カリの400倍の毒を持ってる。』
千世霞『400ッ…』
郁哉はタッパーを開けた。
郁哉『世界中の蛇の中でも、最も毒が強い毒蛇。』
郁哉『一般的にみんながイメージするような攻撃的な性格でしられてる。』
郁哉は保護メガネとマスクをつけた。《クルクルッ》と小瓶の蓋を開ける郁哉。そして、蓋を机に《コトッ》と置いた。
郁哉『触んなよ。死ぬぞ』
千世霞『ぁ、うん…』
《ピシャリ》と言い放つ郁哉に身動きすら取れない千世霞。
郁哉『少し離れとけ。』
千世霞は指示通り、何歩分か後ろに下がった。
《コッコッコッ》と郁哉は小瓶の中のインランドタイパンの毒をタッパーのカレーに入れる。
千世霞「(いくら小瓶と言えど、青酸カリの400倍の毒性を持つなら、あの量は一溜りもないと思うけど…。)」
そして、それらをスプーンで慎重に混ぜていく。
《カコッコツッ》と郁哉はスプーンをカレーから抜き取った。
郁哉『…これ、舐めてみるか?』
そう言って、意地悪く微笑む郁哉。
千世霞『だ、大丈夫、です!』
郁哉『あっそ、』
残念そうに言いながらも、少し楽しそうな郁哉。郁哉はスプーンを近くにあった黒いボックスに入れた。そして、タッパーの蓋を閉めて紙袋にしまう。
郁哉『千世霞、付箋』
千世霞『ぁ、うん…』
千世霞はポケットにしまっていた付箋を取り出した。そして、郁哉に渡そうとする。
郁哉『渡すな。手袋に毒ついてたらどうすんだ。』
千世霞『ぁ、そ、そっか…』
郁哉『ったく…。近くの机に貼っとけ。自分でとるから。』
無愛想に言いつつも、千世霞を気遣っている郁哉に微笑みが漏れる千世霞。
郁哉『何笑ってんだ、気持ちわりぃ』
千世霞『ひ、酷いよ、!』
千世霞は言われた通り、綺麗であろう机に付箋を軽く置いた。郁哉はその付箋を取り、タッパーに貼り付けた。
千世霞『でもこれ、バレないかな…』
郁哉『大丈夫だろ。』
千世霞が付箋に字を書いている。
千世霞「(人の真似事は昔から得意だった。でも字を真似て、ストーカーを黙せるほどかと言われると、正直自信はない)」
郁哉『早く準備しろ。置いてくぞ。』
千世霞『ぁ、うん!』
いつの間にか、郁哉は保護メガネもマスクも、手袋も外していて、革製の手袋に付け替えていた。手提げ袋を持って調薬室から出ていった郁哉を追うように、千世霞も部屋を出た。
時は戻り、任務遂行日___
時計は5時15分を指している。
《チッチッチッ》と音を立てながら時を刻む、郁哉の時計。
タブレットを覗き込む郁哉と千世霞。郁哉と千世霞は車から降り、学校に戻ってきていた。食堂にいる2人はその大きな食堂の中で肩が触れ合うほどの距離で机上に立てられたタブレットを覗いていた。
千世霞「これ、いつ設置したの、?」
郁哉「一昨日」
《2日前 午後1時20分__ 》
黒ずくめの人影が504号室の前に佇む。
手袋を纏った手に握られているのはピッキング道具。ピッキング道具が鍵穴に差し込まれる。《キッギギッ》という音が鳴る。《カチッ》とピッキング道具が抜き取られる。手がドアノブに掛ると、《キーッ》とドアノブが回り、簡単に解錠できてしまった。
扉を開き中へ入っていくその人影。扉を閉じ、扉に背を預ける。そして、ポケットに手を突っ込み、ガサゴソと音を立てながら、ポケットをいじる。
そんなポケットから出てきたのは黒い小さなカメラ。《タッタッタッ》と部屋を歩く足。
本棚に飾られている写真。そんな本棚の前で立ち止まる足。おもむろに伸ばされた手はその写真を取った。
ピンで写真にそれは小さな穴を開ける。そして、その穴の後ろにカメラを仕掛けた。そして、写真を額縁に戻し、棚に写真を、正確に戻した。




