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第13話 扉


《午前4時53分__ 》


《ッ、ッ、ッ、》と503号室の前を通る足。504号室の前で止まるその2人分の足。

郁哉と千世霞は目を合わせる。郁哉は千世霞に向かって《クイッ》と顎を上げた。そして、千世霞の手元に目を移した。

千世霞の手には黒い皮の手袋がはめられ、手提げ袋をぶら下げている。《グッ》と1度顔を顰めた千世霞。

しかし、空いた方の片手で手提げ袋を取ると、中からタッパーの入った紙袋が。そしてそれを504号室の扉の横に置いた。


《スッ…》と郁哉は踵を返し、踊り場へ行き、千世霞も慌ててそれに着いていく。

郁哉はパーカーのポケットから時計を取りだした。《シャラッ》と時計に繋がった鎖がなる。時計は4時55分を指している。


郁哉「急ぐぞ、」

千世霞「うん、」


郁哉と千世霞は階段を降りていく。郁哉と千世霞はまた、柵を越える。

マンションの裏側の向こう側の通路に見える黒い車。それを目指し、通路を《スタスタ》歩く2人。

振り返ろうとする素振りを見せる千世霞だが、《グイッ》と郁哉が千世霞の胸元を掴む。そして、振り返ることが出来ないまま、ほぼ無理やり車に入れさせる。

千世霞が車に乗ったことを確認し、郁哉も車の後部座席に乗る。夏菜子は2人にタブレットを手渡した。


夏菜子「お疲れ様です、」

千世霞「…ありがとうございます、」

郁哉「…」


郁哉は受け取ったタブレットを操作する。


夏菜子「車出しても大丈夫ですか?」

郁哉「お願いします、」


《ブゥォォ》とエンジン音がなる。ゆっくり発進した車。郁哉の開いたタブレットを千世霞は覗き込む。


千世霞「これは…?」

郁哉「頼んでおいた、」

夏菜子「九重(ここのえ)さんが今ビデオ通話で繋いでくださってるんです、!」

千世霞「九重さん…?」

夏菜子「えーっと、九重潮(ここのえしお)さん、私と同じ補佐の方なんだけど…、教師としても働いてるみたいだよ、?」

千世霞「教師…」

郁哉「九重さんは、2回生の担当。」

千世霞「ぇ、そうなんだ…。」





3人とは離れた地点に別の車を停めている潮。マンションの裏口側に車を停めた3人に対し、潮はマンションの正面側に車を停めていた。

そんな車の中からタブレットをかざしている九重潮。タブレットの向こうには504号室が。


《キーッ》と音がして、504号室の扉が開く。扉を開けた死刑者。


朝倉「ん…?」


死刑者は扉を閉じて廊下に出た。扉の横に置かれた紙袋を不思議そうに見つめる。そして、ゆっくりとそれを持ち上げる。

中からタッパーを取り出す。そのタッパーの中には一人前のカレーが。そして、タッパーには付箋が。


《作り過ぎてしまったので良ければ食べてください。》


朝倉「琴乃の字…」


死刑者は付箋の指で《ソーッ》となぞった。ニタリッと微笑む死刑者。

ゆっくり目線を上げ、505号室を見つめた。それから、タッパーをガサゴソと紙袋にしまった。

扉を開け、《キーッ》《バタンッ》とそそくさと部屋に戻った。


扉に背を預け、紙袋を抱きしめる死刑者。


朝倉「琴乃…、琴乃…っ、」


心底嬉しそうに、薄気味悪く笑う死刑者。狂気的な愛をそのまま形にしたような人間だ。

《バサッガサガサッ》と音を立てながら、紙袋からタッパーを取り出す死刑者。死刑者は付箋をタッパーから剥がした後、リビングのローテーブルへ。

ローテーブルの上には額縁に入れられた責任者の写真が。そして、その写真の前に付箋を貼り付けた。


朝倉「琴乃…、愛してるよ、」


死刑者は口角を大きくあげ、不自然なほどの笑みを浮かべた。


《パカッ》とタッパーを開く。そして、手をそのままタッパーに突っ込む。《ピシャッ》《ビヂャッ》と手でそのままカレーを口に何度も何度も運ぶ。

《ムシャムシャ》と咀嚼音と《カチッカチッ》と時計の針の音が響く部屋。


《チッチッチッ》と郁哉の持つ時計の針が時間を刻む。


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