第12話 防犯
夏菜子「あの子が責任者かな、」
郁哉「そっすね、」
車窓越しに見える女性。可愛らしい服を身にまといながら、少し脅えるように早足で歩いているのが分かる。
千世霞「あ!あの人…」
千世霞が指をさした先にいるのは死刑者の朝倉颯来だ。
郁哉「タイミング…」
千世霞「ははは…」
図ったかのようなタイミングで、呆れ顔の郁哉と乾いた笑いを零す千世霞。郁哉は、千世霞のほうに《チラッ》と目線をやる。そしてまた、ため息をついた。
郁哉「このまま死刑者に尾行してもらってもいいっすか、」
夏菜子「っ、!うん。わかった、!」
等距離で歩く責任者と死刑者。緊迫した表情の責任者。
深く被った帽子から死刑者の口元だけが覗く。《クイッ》と帽子を上げる死刑者。死刑者の瞳に大きく映るのは責任者の後ろ姿だ。
《タッタッタッ》と早歩きで歩いていく責任者。そして、それに難なく合わせ、《ズッズッ》とついて行く死刑者。
2人が着いたのはとあるマンション。
責任者はその一室の扉を開ける。そして、周りを《キョロキョロ》と見渡した後、部屋の中に入っていった。
そして、責任者の入った部屋の隣の部屋へと死刑者は消えていった。
千世霞「え"っ…」
郁哉「そういうことか…」
千世霞「どういうこと…?」
郁哉はタブレットを開き、千世霞に渡す。そして、画面の1箇所を《トントンッ》と叩いた。
郁哉「ここ、305号室は逃亡者の自宅だ。それで、隣。306号室は…」
千世霞「死刑者の…部屋…」
郁哉「あぁ。」
千世霞はもう一度マンションに目をやった。
郁哉「多分、逃亡者は気付いてねぇな。」
千世霞「ぇ…、危ないよね、それ?」
郁哉「危ねぇな。でも、殺せば問題ねぇ」
千世霞「(いや、問題はあると思います…。
《午前5時49分__ 》
千世霞「このマンション、防犯カメラはあるけど…ロビーを通らなかったら普通に入れちゃうんだね。」
エレベーターに乗るにはロビーを通るしかない。エレベーター内とエレベーターの入口、そしてロビーの入口には防犯カメラが設置されている。
しかし、外付け階段には防犯カメラは設置されていない。外付け階段には格子がついていて、住人しか持っていない鍵を使わないと入れない仕組みらしい。
___が、その格子も乗り越えようとすれば乗り越えられる。
マンションの裏側の外付け階段前に立つ郁哉と千世霞。郁哉は格子を掴み、高さを確認する。
郁哉「170cmぐらいか…。行くぞ、」
千世霞「う、うん…。」
《ヒョイッ》と軽く柵を乗り越える郁哉。それに続くようにして、《ピョンッ》と柵を越える千世霞。
《ッ、ッ、ッ、》音とも言えない音が階段を駆け上がっていく。5階には踊り場がある。踊り場から住居スペースの廊下へ素早く移動する。
そして、千世霞がその先へ行こうとする。しかし、郁哉は千世霞の首元を《グイッ》と引っ張り、行く手を阻んだ。
千世霞「ツッ、!?」
《キーッ》と音がする。それと同時に、部屋から出てくる住人。
男1「ふぁ〜」
全身黒ずくめで、フードを被り、マスクをしたその男。
男1「なんで急に来るんだよ…」
そうボヤきながら、部屋から出てきた。しかしその後ろに人影が2人。
男2「いいだろ?裁判のせいで色々溜まってんだよ、」
男3「ホントだよなぁ?告発とかしやがって…」
男2「また見かけたら喰ってやろうぜ」
男1「辞めとけ辞めとけ。次バレたら俺ら牢屋にぶち込まれるぜ?」
男3「次は気の弱そうなやつにするかぁ」
男1「それが最善だろ」
ケタケタと笑いながら、《コツッコツッコツッ》とエレベーターへ向かっていく3人。
千世霞「(何の話だろうか…。)」
千世霞「郁哉くん、ありがとう…」
郁哉「気抜くなよ、」
千世霞「うん」
郁哉「行くぞ、」
千世霞「うんっ、」




