第5章 太陽光発電での売電とバッテリーの役割
前書き
本章では、太陽光発電における「売電」と「バッテリー」の役割について整理します。PCSの基本的な動作や、バッテリーの有無によってどのように仕組みが変わるのかを説明しつつ、家庭用からメガソーラーまでの違い、そして社会的なコストや負担にまで目を向けていきます。
ここで取り上げる内容は、専門書や制度解説書のように厳密に体系立てたものではなく、筆者がAIとの対話や調査を通じて感じた疑問や気づきを含んでいます。そのため、必ずしも「正解」や「唯一の見方」ではなく、一つの整理や考察として読んでいただければ幸いです。
売電は一見シンプルな仕組みのように見えますが、実際には「なぜバッテリーなしでも成立するのか」「電力会社がどのように負担を引き受けているのか」という、直感的には矛盾にも思える点が含まれています。そうした違和感を手がかりにしながら、「売電とバッテリーの役割」を少し広い視野から考えていくのが、この章の目的です。
1. PCSの役割
太陽光発電で得られる電気は「直流(DC)」である。しかし、家庭のコンセントや電力系統は「交流(AC)」で動作する。この変換を担うのが PCS(Power Conditioning System:パワーコンディショナ) である。
PCSは単に直流を交流に変えるだけではなく、以下のような制御も行う。
●系統の周波数(50Hz/60Hz)に同期させる
●電圧が規定範囲に収まるよう調整する
●停電時には系統へ逆流しないように遮断する(逆潮流防止)
つまり、PCSは「売電システムの心臓部」であり、電力会社と安全に電気をやりとりするために欠かせない装置である。
2. 売電はバッテリーなしでも成立する
一般家庭に普及している太陽光発電システムは、基本的にバッテリーを必要としない。昼間に発電した電力は、まず家庭で消費され、余剰分が自動的にPCSを通じて電力会社に送られる。この仕組みはシンプルで、余計なコストをかけずに「発電=売電」を成立させることができる。
3. バッテリーが必要とされる場面
では、なぜ蓄電池が追加されるのか。その理由は以下のとおりである。
●自家消費率の向上
発電した電気をできるだけ自宅で使うため、昼間の余剰分を夜間に回す。
●出力抑制への対応
太陽光発電が大量に導入される地域では、系統の安定のため発電を制限されることがある。バッテリーがあれば、その余剰を蓄えて無駄を減らせる。
●停電対策
停電時でもバッテリーがあれば照明や冷蔵庫を稼働できる。ただし「PCSが自立運転モードに対応していること」が前提となる。
4. 家庭用とメガソーラーの比較
家庭用では「自家消費+余剰売電」が主目的だが、メガソーラー(大規模太陽光発電所)は「売電専用」である。
しかしここで問題が生じる。家庭では多少の変動があっても電力会社が吸収できるが、メガソーラー規模になると出力の変動は地域の系統全体に影響を及ぼす。
本来なら蓄電池を併設し、系統への負担を平準化すべきだが、コスト面から十分には普及していない。
5. 社会的コストと再エネ賦課金
日本では「再エネ賦課金」という制度で、太陽光発電からの買い取りコストが電気料金に上乗せされている。つまり、太陽光の拡大による系統負担や買い取りコストは、電力会社ではなく最終的に国民全体が負担しているのである。
一方で、バッテリー未併設の売電は「利益は発電事業者に、負担は社会全体に」という構図になりやすい。
6. 売電の矛盾
こうした状況は「売電の矛盾」と呼べる。
●発電事業者は売電収益を得る
●電力会社は系統安定のため余計な調整コストを負担する
●消費者は再エネ賦課金という形でそのコストを支払う
バッテリーは安全面やコスト面から十分に導入されない
結果として、利益・リスク・負担が三者でアンバランスに分配されることになる。太陽光発電は「環境に優しい」とされるが、その裏側では社会的コストや安全上のリスクが押し付け合いになっているのが現実である。
あとがき
本章を通じて、売電の仕組みやバッテリーの役割について整理してきた。
その過程でAIとの対話から得られた、ひとつの驚きがある。
――太陽光発電による売電は、必ずしもバッテリーを必要としていない。
直 感的には「電圧や出力が不安定なら、蓄電で安定させるはずだ」と考えがちだ。しかし現実には、PCSが瞬間的な制御を行い、余剰電力は発電側で「捨てる」形で調整されている。つまり、電力会社が需給バランスを背後で担保しているのである。
ここに矛盾が生じる。
太陽光の不安定さは結局、電力会社に大きな負担を強いている。その調整コストは「再エネ賦課金」などを通じて社会全体に転嫁されており、真に持続可能な仕組みなのかという疑問が残る。加えて、突発的な雷雨や天候急変による出力変動は、電力会社に一瞬たりとも休まることを許さない。
この「売電の矛盾」は本書でさらに深掘りしていくべき重要な論点である。次章では、こうした不安定さにどのように対処しているのか、PCSやバッテリーによる電圧・電流制御、安全設計の仕組みを具体的に見ていくことにしよう。