第1章 電池の起源と課題
前書き
この章では、乾電池からガラケー用リチウムイオン電池までの進化と、その課題について見ていきます。紹介する内容は、書籍や資料、事故報告などさまざまな情報をもとにまとめましたが、筆者自身の考えや感じたことも少し混ざっています。そのため、すべてを完全な事実として読むのではなく、「こんな見方もあるのだな」と軽く受け止めていただければと思います。事実との照合や最新情報の確認をしながら読むと、より楽しめると思います。
電池の歴史は、人類がエネルギーを「携帯可能な形」に変換する挑戦の歴史でもある。最初の乾電池が登場した19世紀後半、電池はまだ大型で重く、限られた用途にしか使えなかった。しかし円筒形という形状は、自然と安全性の基盤を作っていた。圧力分散に優れ、多少の落下や衝撃にも耐えることができ、短絡や液漏れによる発火事故はほとんど報告されていない。ユーザーは自由に電池を取り替え、必要なときに交換して使用する――その単純な行為が、電池技術の安全性を支えていた。
乾電池の設計と安全性
乾電池は、円筒形の金属ケースの中に正極・負極・電解質を収めるという単純な構造をしている。この形状は、内部の圧力が均等に分散されるため、衝撃による内部破損のリスクを最小限に抑えることができる。また、電解質は液状ではなくペースト状であり、漏れにくく、誤った扱いによる火災の危険性は低かった。さらに容量も小さく、短絡や過熱による暴走が起きても、爆発や大火災に至ることはまれであった。
この単純かつ安全な設計思想は、後にリチウム電池やスマホ用バッテリーにおいても参照されることになる。しかし、乾電池が提供した「自由に交換できる安全性」は、薄型化・高出力化の波が押し寄せる未来には通用しなくなる。
ガラケー時代のリチウムイオン電池
1990年代後半から2000年代初頭、携帯電話はガラケーと呼ばれる形で普及した。リチウムイオン電池が採用され、交換可能で封印はされていなかったが、発火事故はほとんど聞かれなかった。その理由は複数ある。
まず、容量と出力が低かったことが挙げられる。ガラケーのバッテリーは数百mAhから最大1000mAh程度で、現在のスマートフォンやEVの数千mAhに比べれば小容量である。短絡や過熱が起きても、内部に蓄えられたエネルギーは小さく、発火や爆発に至る可能性は低かった。
次に、電池の厚みや構造も安全性に寄与していた。ガラケー電池は比較的厚みがあり、円筒形や角形の小型セルが多かったが、薄型化の進む現代のスマホのパウチ型ほど局所的な膨張や熱暴走を誘発しにくい設計だった。加えて、放電や充電負荷も穏やかで、CPUや高輝度ディスプレイによる急激な消費電力がほとんどなかったため、セルへのストレスは低かった。
さらに設計マージンが安全寄りであったことも重要である。厚い電極、絶縁材、耐熱シートなどの保護層が組み込まれ、多少の落下や衝撃にも対応できる構造になっていた。これらの条件が重なり、封印なしでも事故は稀であり、ユーザーは自由に交換可能な状態で安全に使えた。
高出力化と薄型化の波
しかし、スマートフォンの普及に伴い、電池には薄型化・高容量・高出力化が求められるようになった。限られた筐体スペースに最大限のエネルギーを詰め込むため、パウチ型や角形セルが採用されるようになった。これにより、圧力分散は不十分になり、衝撃や膨張による局所的な熱暴走のリスクが顕在化した。
さらに、軽量化の要求は外装の耐衝撃性を低下させ、内部セルを保護する余裕を減らした。これが、現代のスマートフォンやEVバッテリーにおける「角形セルの脆弱性」の起点となったのである。