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ランドリー他、日常に棲む奇譚集  作者: うみたたん
学園の追憶

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12/14

レイブン学園の魔女 ー17時の夕焼け


次の日から、出席簿を届ける仕事はニールの担当になった。ニールが僕を行かせてくれなかったのだ。


念の為、ニールは中央の階段で下りてもらうことにした。僕はニールに頼むのは本当に嫌だった。


「ねぇ、ニール。二人で職員室に行ったらどうかな?」


「ダメだ。ボクが一人で行くから」


自分の日課が変わってしまったのは戸惑いがあった。そして何より、ニールに危害が及んだらと……待ってる身としてはもどかしい時間になった。


一週間が経過した。


「ニール、あの用務員に会った?」


「いや、会ってないよ。奥の廊下を使ってみようかな。それで文句を言ってやるよ」


「ダメだよ。ニールは小さいし、かわいいから……何かあったら困る。用務員が君に抱きついてきたりとか」


「ハッ、まさか! まぁ、そんなことしてきたら、ぶん殴ってやるからさ」


「ニール、そこまでしなくていい」


本当に殴りそうで怖いな。



◇ ◇ ◇



しかし危害は、全く予想しない展開をみせた。


若い用務員が獣道で殺されていたからだ。その殺され方は酷いものだった。


裏庭の奥を進むと獣道があり、山に続いていく。若い用務員がたまにその獣道に入っていくのを、何人かの生徒が目撃していた。


全寮制の学校なのだし、そこに入る生徒はもちろん一人もいなかった。


僕たちは運動場や庭園など、屋外に出ることをしばらく禁じられた。


「用務員さん、八つ裂きだって」

「狼の仕業だってさ。引きずられた跡もあったみたい」


「熊じゃないよね?」

「熊がそこまで来てたらまずいだろ? 僕らも帰省しなくちゃ」


「でも生徒じゃなくてよかったんじゃない?」


生徒たちは言いたいことを各々言って盛り上がっていた。知り合いだと話していたルシアは職員室に呼ばれた。


戻ってきたルシアに僕は尋ねた。


「ルシア、大丈夫だった?」


「あぁ、別に。彼のことや家族について聞かれたよ。……なぁ、先生たちが話してたのを聞いたんだけど、人間の仕業とは思えないってさ。手足が引きちぎられてたし、顔も判別するのがやっとー」


ニールが僕たちの目の前に立っていた。いつの間に?


僕は話すのをやめた。

ニールは無表情で何を考えているかはわからなかった。少し怖いと思った。


「おう、ニール……なんだかおかしなことになったな」


「なぁ……ルシア、先生に話した? 用務員が最近ジャンユに声をかけてきたこと」


「いや、話してないけど。ほとんど家族のことを聞かれただけだし」


「ならよかった。面倒なことになるから、言わなくていいから」


「ああ、そうだな。言わないよ」


「……ルシア、僕からもお願いするよ」


僕もそう思っていたところだった。ニールは黙って僕たちから離れた。



それからまた数日が経ち、いつの間にか、変な噂が立ち始めた。ルシアがだいぶ話を盛っている気もした。


「あの用務員さ、生徒を獣道に連れて行こうとしたらしいよ」


「小さい一年が引っ張られたんだって」


「綺麗な男の子が好きらしい」


「うわっ〜本当に? 怖いなぁ」


そして誰かが言い出したーー


「ねぇ、レイブン学園に伝わる(おきて)あったじゃん? 魔女伝説みたいなの」


「なんだっけ?」


「魔女に『魔女ですか?』って尋ねると、バラバラにされて食べられるってやつ」


「あぁ……そんなのあったな。忘れてたけど。確か……食われたような痕があったみたいだぞ」


「殺したのって魔女だったりして」


「怖っ! じゃあ誰が魔女なんだ?」


盛り上がっている生徒たち。本当か嘘か。話は尾ひれがついて広がっていった。決して自分たちが被害に合うとは考えてないようだ。


「魔女伝説……」


僕はその会話を聞いて、無意識に呟いていた。



◇ ◇ ◇



真夜中の相談室。

一人月明かりでノートを見ていた。そのノートは日記帳にしていて、学園での出来事が書いてある。


最近書いているのは、主に用務員の若い男が八つ裂きにされて殺されたことについて。


それに関係しているかわからないが、不思議なことがあった。僕のブレザーの袖のボタンが発見された。


それはなぜか僕のブレザーのポケットに入っていた。


ボタンをどこかで落としたと思ったら、ここに最初からあった……そう思わせるためだろう。そんなことをする人物は一人しかいない。


ニール……。


『あの日、袖にボタンがないと気づいたとき、目の前にニールがいた。

僕の不審な動きで、ボタンがないと気にしているのが、ニールならわかったはずだ』


ノートを読み返し間違いないと思った。

用務員から名前を呼ばれて、袖を掴まれた恐怖。あの日、ニールは何か決意したのかもしれない。


なぜならニールは僕のことが好きだからだ。


じゃあ、どこでそのボタンを見つけたのか。それを考えるとどうしたって、恐ろしい考えが浮かんでしまう。


ニヤついて話しかけてきた用務員の顔が頭をよぎった。


ボタンはあの用務員が持っていたのではないか。それにニールも気づいていた。だからニールは取り返しに行った……。


背後で扉がゆっくり開く音が聞こえた。


「うわっ!」


ニールの小さな叫び声。


「なんだよ……ジャンか。びっくりした」


「こっちの台詞だよ」


僕のために……。

ニール、ありがとう。僕も君が好きだよ。君が想うよりもね。


どんなことがあっても君の味方だし、君を永遠に忘れないから。


僕は窓枠に置いていた眼鏡をかける。


「残念……眼鏡を外したジャンユをもっと見たかったのに」


ニール、たとえ君が残酷な人間……もしくは人間じゃなくても、僕は全く構わないんだ。



◇ ◇ ◇




「おじいちゃん? また聞いてないや……ジャンユおじいちゃん、泣いてるの?」


祖父は椅子に腰かけ、涙を流していた。なにか思い出しているのだろうか?


「そこにある古いノートを取ってくれるかい?」


「ノート? あぁ、これか」


僕は、テーブルにある古びたノートを祖父に手渡した。ついでにタオルで涙も拭き取った。


「なにが書かれているの?」


見ると中は白紙だった。表紙は色褪せて汚れているのに、中はそれと合わないくらい白かった。


パラパラと祖父がめくっているが、どのページも何も書いていない。やっぱりボケてきているのかな?


「大事な思い出なんだよ」


「……へぇ。そうなんだね。ねぇ、もう日が暮れるよ。おじいちゃん、夕焼けを見ようか。綺麗だよ」


僕は祖父の手を取って、ベランダに出た。養護施設の目の前の山が真っ赤に染まっていた。


「綺麗だね」


「本当だな……ニール」


祖父は僕の名前を、誰かと間違えて呼んだ。


けれどそれはとても心地よかった。





読んでくれてありがとうございます。ジャンユサイドはどうでしたか?

元の話は「磨いた成果を試すとき」という長編です。同じく男子寮が舞台ですが、そこから派生した別の話です。

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