表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドリー他、日常に棲む奇譚集  作者: うみたたん
学園の追憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

レイブン学園の魔女 ー8時45分の日課

僕は少し融通が利かないところがあった。


例えば、文房具や本はいつも同じ位置に置かないと落ち着かないし、同じ手順でする作業はその通り実行しないと気が済まない。


もちろんそれは人には強要はしない。これは自分自身の問題だからだ。


学級代表は職員室に出席簿を届ける仕事があった。毎朝8時45分に教室を出て、同じルートで戻ってくるのが僕の日課だった。


ロボットみたいで怖いと、ニールにからかわれたこともあった。そう言われても仕方ない。変えることは簡単にはできない。


そして、8時50分に職員室を出て、同じルートで教室に戻る。その行き帰りはあまり人が使わない奥の階段を使っていた。それが一番行きやすいし、人に会う煩わしさがなかった。


いつからだろう……。

僕が階段を下りて一階の職員室に行くと、用務員さんが廊下の掃除をしていたり、花の手入れをしていることに気づいた。


(鉢植えなんて廊下に置いてあったかな?)


最初は一週間のうち、2、3回見かけた。それが最近では毎日見かけるようになった。

僕は毎回「おはようございます」と挨拶をして素早く通り過ぎていた。


「おはよう」と、用務員さんも優しく言ってくれる。いつも背中越しで顔はよく見えなかった。だけど用務員さんというものは、僕のお父さんくらいの人だろうと思っていた。


ある日、いつものように階段を下りようとすると、階段の途中の踊り場に用務員さんがこちらを向いて立っていた。


僕はハッとした。用務員さんは僕が思っていたよりだいぶ若かった。そして僕の顔をじっと見つめて笑っていた。その顔はなんとも不気味だった。


「おはよう、ジャンユ」


えっ?


すれ違う瞬間、僕の名を呼びこっちに手を伸ばしてきた。階段は狭いので避けることもできない。手首を掴まれそうになる。


「やめて!」


用務員は僕の袖を掴んでいた。僕は激しく手を振り払って、慌てて階段を駆け下りた。


扉をノックをするのも忘れ、勢いよく職員室に飛び込んだ。近くの教師に怪訝な顔で見られる。


どうして? なんで名前を知ってる?

なんで急に触ってきた? 心臓がありえないほどうるさく波打つ。


先生たちに聞けば、生徒の名前なんてすぐわかるだろうし、怪しいことはない。

男同士だし、洋服の袖を掴まれることくらいどうってことない……。


(いや、やっぱりおかしい)


さすがに帰りは、中央の階段を上がって教室に戻った。広い階段は数名の生徒が出席簿を持って行き来していた。


「どうしたの? ジャンユ」


「……なんでもない」


「なんでもないわけがない。汗がすごい」


ニールが僕の額に手を当てる。僕は袖で汗を拭こうとした。

そのとき、袖についているブレザーのボタンが無いことに気づいた。


(袖を掴まれたときに取れたんだ)


大袈裟に咳払いをして、ニールが話し出した。


「いつも後ろの階段から職員室に行って、後ろの扉から教室に戻ってくるジャンユがなぜか……前の扉から顔面蒼白で戻ってきた。しかもいつもより一分遅い。なぜかな?」


ニールのやつ、探偵にでもなるつもりか?


「ニール、よく見てるな……」


問題児のルシアが話に割り込んできた。


「メガネの学級代表さん、みんな知ってるぜ。毎朝お前は同じ動きをしてるからな」


ルシアまで……。


用務員のことを言ったら笑われるだろうか? 先生に相談しようなんて真面目に返してくるか。それとも……。


ルシアがいるのが気になったので、全ては言わなかった。


僕は用務員さんに名前を覚えられて怖かったこと、そのせいで中央の階段から戻ってきたことを簡潔に話した。


「あの若い用務員? 俺の家の近所に住んでるやつだよ」


「ルシアの?」


「ああ。今もそこにいるのかは知らないけど。上の兄貴と同い年なんだ。この前、俺が話しかけたら無視したけどな」


ルシアは顔をしかめ、細い目をさらに細めた。


「ちょっと……変わった奴だったぜ。上手く説明できないけど」


「そうなんだ。ルシアと知り合いなら、少し安心したよ。今度は話しかけてみようかな」


「やめろよ!」


ニールが声を荒げて、僕を睨む。


「ルシアの知り合いなら、余計に心配だろ」


ニールは半分本気のような冗談を言った。そして僕の肩をそっと叩いた。怒鳴ってごめんという意味だとすぐにわかった。


そのとき、始業のチャイムが鳴った。僕たちは話を切り上げて席に座った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ