図書館へ
三題噺もどき―ろっぴゃくはちじゅうご。
頭上には明るい空が広がっている。
心地のいい晴れ空である。
太陽が沈みかけてはいるが、その温かさはどこまでも届く。
「……ふぁ」
噛み殺しきれなかったあくびが口から洩れる。
少々寝不足気味な上に、いつも以上に早く起きたから眠たい。
まだ人々が歩いているこの時間は基本的には寝ているのだ。私が起きるのはもう少し遅い。人間が帰路につき始めるくらいの時間だ。
「……」
部屋に戻ればまだ蝙蝠が鳥籠の中で眠っている事だろう。
案外起きているかもしれないが、アイツは大抵決まった時間に起きるからな。
昨日のうちに、今日は早めに起きて出ると言っているので、問題はない。
帰ったら風呂に入って朝食を食べたい気持ちはあるが、それはまぁアイツ次第。
「……」
忙しそうに歩いていく人々を横切りながら、私も歩を進める。
目的地は以前も言ったことがある、この辺りでは唯一の図書館だ。
資料やら何やらと必要になったので、こうして早起きして閉館ギリギリにならないように向かっている。
そこまで距離があるわけではないので、急ぐ必要もないが……そうでなくても足はそれなりに早いので間に合うのだけど、あまりまぁ、人混みは好きではないから。
「……」
私の性格的なものもあるが、人混みというのは隠れるには持ってこいだろう。
人と人の間から、何かをされてはたまらないからなぁ。後ろから刺されたり、毒薬を振りかけられたり、人の目には見えぬ速さで何かをされるかもしれない。
そういうことはめったにないのだけど、今はまぁ、色々と溜まっているから分からないのだ。
人間を介して、なんてこともあるから油断ならない。
「……」
まぁ、今日はそんな心配も無駄に終わり。
無事に図書館に到着した。
「……」
自動ドアをくぐると、中からヒヤリとした空気が飛び出してきた。
時期的なものなのか、常になのかはわからないが、ここは冷たい。
それが案外心地いいのだから、不思議に思う。本の保存とかに関係しているんだろうか。ここはまぁ、それなりに古い本もいくつかあるようだし……それでも重要なものはここにはないだろう。
「……」
カウンターには、一人いるだけで、他に人は見えない。奥で作業でもしているのだろうか。さすがに職員一人ではないだろう。
利用客はもちろんいるが、皆一様に端の方で本を開いている。
時間を忘れて没頭できるのも、この図書館という空間の不思議なところだ。
「……」
更にここには、学習スペースもあるので、学生が並んで座っている部屋もある。
机の上に紙を広げたり、教科書を広げたり、本を広げたり。
それぞれがそれぞれに学習に集中している。
一人、赤ペンの入ったものを広げながら教科書とにらめっこしている子がいた。試験や模試というやつだろうか……今年受験生なのかな。そういう子ばかりではないだろうが、こういう場所を利用するのはそういう子が多いだろう。
「……」
まぁ、それはさておき。
目的の本棚はすでに分かっているので、迷わずにそちらに足を向ける。
途中すれ違った椅子に座る老人に、ぎょっとした目で見られたが、気にしない。そんなに身長が高いわけでもないだろうに、なんでそんなに見るのだろうな。
「……」
本棚にたどり着き、目だけでタイトルを探していく。
この辺りにあるはずなのだが……。
あぁ、あった。
「……」
数冊、同じような本を手に取り、カウンターへと向かう。
他に借りたい本というもそれなりにあるが、一応上限があるからな。
あまり借りても返却期間までに読み終えるかわからないし、買えるものは買ってしまうからな。
「こんばんわぁ」
なんともまぁ、のんびりとした口調の職員さんに、図書カードと本を手渡す。
バーコードスキャンをしたのち、持ってきた鞄に本を入れていく。
「〇月×日までに返却してくださいねぇ」
「ありがとう」
返却日の記載された紙を受け取り、出口に向かう。
今日はこれで仕事ができる。
「おかえりなさい」
「あぁ、ただいま、起きたんだな」
「えぇ、シャワー浴びますか」
「ん、そうする」
お題:毒薬・図書館・模試