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第1夜・旅館 喜怒哀楽

のらりくらりと生きてきた。色々巻き込まれたり、巻き込んだり。

全国を旅して色々な人達に会った。

色々経験した私が行き着いた答えは・・・・・。

平穏に暮らしたい!

そんな私、柄望(えもう) (うた)が行きついた先が【旅館 喜怒哀楽】


【旅館 喜怒哀楽】で仲居として住み込みで働き始めて早1か月。

「詩はもう慣れた?」

3階の廊下、団体のお客様の夕食のお膳を大量に抱えている所で薊先輩が話しかけてくる。

「お給料を1回貰えればそこそこには」

「すごいね~!私は慣れるのに1年かかったよ!」

それは掛かり過ぎなのでは?

という言葉は飲み込んで。

「私は・・・まぁ色々やってきましたから」

「お!武勇伝持ち?聞かせてよ~」

「早く運ばないと怒られますよ」

「そこ。お喋りしない。まだお客様いるから。」

お膳を運ぶ私達の後ろから3階の女将・哀花が声をかけてくる。

「は、はい!すみません!」

秒で謝る薊先輩。

「すみません」

凛とした立ち振る舞いに切れ長の目、綺麗な長髪。

落ち着いていて、表情を余り表に出さない。

美人という言葉が似合い過ぎるくらいの人。

「うん。失礼のないように。・・・・それと気を付けて。」

そう言って哀花女将は私達と反対の方へ足音無く歩いて行った。


「はぁ~気を付けろだって~!気を付けなきゃ!」

「ソレは意味的に・・・・」

「?」

あの気を付けろは私達が怪我をしないようにって意味に聞こえたけど。

「いえ何でも」

「でも今日のシフト3階で良かったよ。これが4階だったら死んでたね!」

「そんなにですか?」

「そうだよ~!だって・・・おっとこの先は詩の武勇伝と交換だ!」

「じゃいいです」

「え~聞いてよ~!話していよ~!」

揺らすな。お膳が落ちる。

「分かりました。じゃ後で」

「やったー!じゃあ早く終わらせよー!」

そう言うと薊先輩はとんでもない速さで消えていった。

あのスピードをいつも出せれば評価も良いだろうに。

薊先輩はお喋り過ぎて他先輩方から少し目を付けられている。

「3階の女将ねぇ・・・・」

この旅館は6階建てになっていて、主に使うのが6階〜3階。

その各階に女将がいて各階を仕切っている。

かなり広い敷地を持つ旅館でお客様の数も、、、どのくらいだ?1日4ケタがデフォか。

前に先輩が「お客様の数半端ないって〜!」と泣いていた。

私の様な下っ端仲居は日によって各階に振り分けられて働いている。

(お客様の数に比例して従業員の数も半端なくいるから全然覚えられない)

今日は3階。

さっき薊先輩が言った様に3階は比較的緩やかだ。

女将によってルール、雰囲気が違う。

まだ4階は行った事ないな。

そうこうしてる内に夕飯の時間が終わり、後片付け、お客様達も部屋に戻り、やっと従業員も解放される。

「あ〜今日も馬車馬の様に働いた」

私は1階奥の大浴場に向かう。

この時間は掃除点検と称して従業員が使える時間。

まぁ時間短いから早めに入らないといけないけど。あくまでお客様ファースト。

大浴場に着く。

従業員でごった返してる。

これでも全員じゃないから恐ろしい。(全員で休んだらその間誰がお客様の相手するんだって話)

そりゃあ時間指定あるだもん、こうなるよな。

救いはかなりの広さがあるって事かな。

端の方で服を脱ぎ、端にあるシャワーを使い身体を洗う。

そしてメインの湯船の端の方でゆっくり浸かる。

「ふぅー・・・・・」

本当は一人で入りたいけど、贅沢は言うまい。

そんな事が出来るのは女将以上だけ。

「あ~気持ちいい~」

「ほぉ・・・どこが、気持ちいいんだ?」

「!」

隣を見る。

白い髪、白髪ではない。銀に近い。

キリッとしたツリ目。整った顔立ち。

全てを分かっているような笑み。

一瞬分からなかったが、コイツ・・・・男だ!

「なっ!」

「おおと、ワシは貴様の様な貧相な身体には様はない」

唇に人差し指を当ててくる。何故か喋れない。

貧相で悪かったな!私は胸はない方が良い派なんだよ。

「と言うか叫んでも無駄じゃ。他の者にワシは見えん」

は!??

そう言うと男は大胆に大浴場の真ん中に向かい歩き出した。

真ん中に着き大手を広げる。

誰も気づかない!

「ホラの!」

「・・・・!」

「ワシは貴様を助けたんじゃぞ。イキナリ奇声を上げる新人仲居なぞイジメられるぞw」

いやお前がいなければ叫ばんわ。

男は私の目の前に戻ってきた。

「貸しが出来たな。という事で」

また唇に指を付けてきた。

「ワシは温泉の精カンジョウ。ワシの手伝いをしろ」

温泉の・・・精~~~!?


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