表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星渡人

作者: 天霜 莉都

砂が、風によって巻き上がる。

巻き上がった砂が、服に当たりさらさらと地面に落ちる。

女性の彫刻が飾られた広場で佇む、一人の女。

「貴女が築き上げたモノは、今日も皆元気ですよ」

女は、そう女性の彫刻に語り掛けた。

遠くから広場いる女を目指して、少女が近づいてくる。

少女は、女性の彫刻に一礼してから女のもとにきた。

「アルフィオラさま、こんにちは。今日はやる事すべて終わらせてきましたから、女神さまのお話を聞かせてください」

アルフィオラと呼ばれた女は、少女の頭を優しく撫で微笑んだ。

「彼女は、きっと女神と呼ばれる事を嫌うでしょう。ですが、彼女が行った事はあなた達にとって、創造の女神である事には変わりはありませんね」

アルフィオラと少女は、近くにあるベンチ腰かける。

「私が語れるすべては、あなた達が学んでいる教科書にすべて書いてありますよ」

アルフィオラの答えに、少女は足をぶらぶらと動かしながら満面の笑みで答える。

「歴史は知っているよ。でも、それは歴史としてで、アルフィオラさまが女神さまと共に歩んだお話じゃないから」

アルフィオラは、少し困った顔する。

「彼女との話は、決して良いものではありませんよ。それでも、あなたは聞きたいのですね」

アルフィオラの問いに少女は、眩い笑顔で首を縦に振り答える。

「分かりました。すべてを話すと、長くなるので重要な所だけを話すとしましょう。そうですね、あれは・・・・・・


あれは、私が船団から先行して、この星に降り調査をしていた。

程なくして、すべての調査工程を終了した私は、そのデータを船団に送信を行った。

データ送信から1時間後、船団が時空間航行を終えこの星の軌道上に現れた。

しかし、船団は5隻で構築されて筈だが、現れた船団の船は1隻だけだった。

私は調査船に戻り、現れた船団の船にアクセスをした。すると、恐ろしい事実を知る事となった。

それは、時空間航行の失敗。

船団の船に残されたログを確認すると、船団5隻は何の問題もなく時空間航行に突入した。しかし、私から送られた調査データを受け取った後、時空間航行を終えるタイミングで5隻共に不具合が生じた。冷凍睡眠から起こされた船団クルー達は、生じた不具合に対応するも、それは解消されなかった。船団の船5隻は、時空間に取り残された。そして、更なる不具合が発生した。船団の5隻中4隻がエンジン停止。それにより、時空間航行時に船に張られていたフィールドが停止。フィールドを失った船団の4隻は、時空間にて爆散。残りの1隻は、4隻の爆発で出来た時空間の亀裂を使い時空間を脱出に成功。脱出には成功したがこの1隻も船の3分の1を損傷するという痛手を受けた。損傷個所は、冷凍睡眠が行われている管理地区と二つあるエンジンの一つと艦橋。

ログを見た私は、絶望した。

ログが示しているのは、船団員全員死亡という事実。

「うそ・・・・・・」

これでは、私が行った調査も無意味。移民計画が、船団員全員死亡で終わってしまった。

私は、その場で膝をつき天を仰いだ。

そんな、時だった。

調査船に、アラート音が響き渡った。私は我に返り、アラート音の原因を調べた。するとこそには、軌道上の船団の船から脱出ポットが射出されたのを感知したものだった。

「でも、このアラート音は別の原因?」

私は、落ちてくる脱出ポットの軌道を調べてみる。

「待って、このままだと脱出ポットは勢いそのままに地面に激突する」

私は急いで、調査船を離陸させ脱出ポットに向かった。

「このままだと、ギリギリ間に合わない」

調査船に残されているエネルギーは、軌道上の船に戻る分だけ。

「人が乗っているか分からないけど、私はこの脱出ポットに望みをかけたい」

調査船のエネルギーを、更なる加速へまわす。調査船と脱出ポットの距離は、みるみるうちに近づく。

「よし、追いついた」

私は素早く、脱出ポットの下に調査船を潜り込ませる。そして、調査船に搭載されているアームで脱出ポットを捕まえる。

「脱出ポットの固定確認、よし。後は、全力で勢いをそげば」

現状、調査船脱出ポット共に地面に激突する軌道。急激な減速は重力がかかり体に悪い影響を及ぼす。

「船首を上げつつ、体に負担がかからないギリギリのラインで減速」

調査船に、アラート音を響き渡る。

「うるさい。ヤバい状態なのは、私が一番分かってる」

船首を急激に上げれば、調査船がバラバラになりかねない。その為、ゆっくりと上げる必要がある。息つく暇なく、激しく揺れる調査船を制御する。

何とか地面に激突する角度から脱したけれど、未だに勢いは衰えない。

私は、不時着に適している場所を探した。すると、偶然にも調査船の進路に湖があった。

かたい地面より、生存率の高い方を私は選んだ。

調査船は、湖に着水する。調査船は、勢いをそげきれていない為、水しぶきを上げながら湖を進んでいく。

「減速は出来てるけど、こっちがもつか」

調査船が、悲鳴を上げながら湖を進んでいる。

そして、強い衝撃と共に調査船は止まった。調査船は、ギリギリ湖で止まる事が出来た。

私は調査船のコントロールパネルを操作して、脱出ポットを丁寧に地面に下し船外に出た。

脱出ポットに、目立った損傷はみられない。後は、降下時にかかる重力と着水時の衝撃の影響が出ているか。

私は、脱出ポットのコントロールパネルを操作する。

「よし、システムに異常なし」

問題は、ここから。コントロールパネルを操作して脱出ポット内をスキャンさせる。

『スキャンが完了しました』

電子音声が、スキャン完了を教えてくれた。

私は、恐る恐るスキャン結果を見た。

脱出ポットには、一人乗り込んでいて推定年齢18歳の女性だった。スキャン結果では、体に異常はみられない。これでひとまず安心。

私は、脱出ポットに搭載されている機能を使い辺りをスキャンする。あいにく、調査船にはその機能は無い為、脱出ポットの機能を頼るしかない。

『環境のスキャンを完了しました。外敵の確認なし、友好生命の確認なし。ポット使用者は未覚醒の為、呼吸補助の為マスクを着用します』

調査で分かっていたけれど、この星には植物や水は存在するけれど知的生命体の確認は出来なかった。

安全は確保出来ているけれど、現状で彼女を覚醒させるのは得策ではない。理由としては衣食住の3つの内、食に関しては調査船に蓄えてある非常食でも1週間が限界。衣服は贅沢を言わなければ、調査船にフリーサイズの作業着が圧縮された状態で10着以上ある。住居に関して言えば、現状で使えるのは調査船に一通り搭載してあるので問題はない。あるとしたら、着水時の衝撃で壊れていなければという点。

『搭乗者の覚醒を、確認しました』

脱出ポットから、聞こえる電子音声。

思ったより、早い覚醒。私は、手早く調査船の確認をする。船体に傷があるだけで、調査船すべての機能は正常に機能し使える事を確認できた。

「はぁ、クソ最悪」

私の背後から、聞き覚えない声が聞こえる。

「はぁ、時空間航行失敗するとは、ありえない。各艦の担当は、どういう計算してるのか?うちの艦の担当も、対外。覚醒が遅かったら、うち含めて全滅だった。念の為に修正し直してから、脱出ポットに乗って正解だった」

どうやら彼女は、独り言が口に出るタイプみたい。

「思いの外、早いお目覚めのようですね」

振り返ると、脱出ポットに乗っていた女性がいた。

「ん?あぁ、調査内容を確認したいから・・・・・・。その前にあなたの腕を修理するのが先かな」

私の腕?

気にしていなかったけれど、いつもより作業効率が悪いと思っていた。いつだろう?右腕が動かなくなったのは・・・・・・。そうだ、不時着時に損傷した。

「君達はメインコアさえ無事なら、パーツを変えれば良いだけの話かもしれない。でも、体は大切に扱ってほしいかな」

そう、私は機械。心があるかは、分からない。

私は、武骨なロボットと言うより、人に近い形で作られたアンドロイド。

「君は、この状況をどのくらい理解しているのかな?うちは強制的に覚醒しているから、船団が壊滅状態なのは分かっているけど」

私は、彼女に腕を修理されながら、この星の調査を終了した事と船団に関してはこれから調査を進めないといけない事、調査船のエネルギーがほぼ切れかけという事を話した。

「はい、修理完了。調査船に積んでいる、君のスペアパーツ使わなくてよかったよ。これからハードになりそうだから、温存出来るものは温存しないと」

彼女は、そう言うと少し寂しそうに笑った。

「情報不足は否めないけど、とりあえずは、お互いが呼ぶ名前を教えないと呼びにくいよね。うちは、ミィ・ステラ・ライナー。ミィで、いいよ」

ミィはそう言うと、手を差し出す。

「私は、Yゼロ型8番4号調査仕様です」

ミィは、ムッと顔を歪めながら、私の手を取り握手をする。

「Y型の試作機を使いまわしたうえ、調査仕様にしてるのに名付けをしてないって、最悪するぎ」

ミィは、私の手を握ったまま考え込んでいる。

「Yゼロ型・・・・・・。あ、うちがミィだから君はユーだ。あ、文字にしないと分からないやつか」

ミィは、電子メモパットに<Me>と<You>と書いた。

「ちゃんとした名前はいつかちゃんと付けてあげるから、今はこれで我慢してね」

ミィは、眩い笑顔で私を見つめる。


・・・・・・。ミィとの出会いは、孤独な私にとってはとても眩しいものだった」

アルフィオラは、少女の頭を優しく撫でる。

「女神さまって、面白い人。私(Me)とあなた(You)って」

少女の言葉に、アルフィオラは微笑む。

「私の名前を考えるより、やらないといけない事があの時はたくさんありましたから、しようがないのですよ。でも、ミィは約束をきちんと守って、アルフィオラと名をきちんと付けてくれました」

アルフィオラは、胸に手を当ててその時の事を深く噛みしめている。

「わたしの名前、女神さまの名前からあやかってステラって言うんだ」

ステラと名乗った少女は、そう言い胸を張る。

「良い名を、与えて貰いましたね。それでは、話を続けるとしましょうか」

アルフィオラがそう言うとステラは、ベンチから立ち上がりアルフィオラの膝の上に座った。

膝の上に座ったステラの頭を優しく撫で、アルフィオラは話し始める。

「エネルギーの問題や、食料などの生活基準が無事に整ったある時の話。これは今ここで暮らす人々にとって、とても大切な出来事。そうあれは・・・・・・。


そうあれは、一年近くの歳月かけて生活水準を上げていたある日の事。

「調査船だよりの生活を脱したし。そろそろ、宇宙に上がろうか」

唐突に、ミィがそう言い出した。

「ミィ、船に戻る気ですか?あそこに、生き残りはいないのですよ」

ミィは、ニコリと笑う。

「確かにユーの言う通りだけど、あの船は、ブロック毎に分割を出来るように開発したから、うちらが生きていくのに必要なブロックを、この星に降下させる」

ミィはポケットからホログラム発生器を取り出し、今現状の船を映し出す。

「地上から確認出来る範囲の船は、コールドスリープの管理地区と二つあるエンジンの一つ、それと艦橋が失われている状況」

私がそう言うと、ミィは頷く。

「その通り。船は停止しているけど、最悪の事態に備えての重要なブロックは無事」

私の知らない情報を、ミィは知っているようだ。

「それはどういう事です?」

私の問いに、ミィは得意げに話し始める。

「ユーは直接あの船に関りが無かったから、知らないのは無理もないけど、船団の5隻すべて、いざという時の為にクローニングが可能な設備が設けてある。誰か一人でも生き残りさえすれば、船団員すべてのクローンを作る事が出来る様に」

私に、ふと疑問が浮かぶ。

「それは、分かりました。ですが、船にエネルギーが供給されているか分からないのではないのでしょうか?」

ミィは、ない胸を張る。

「うちの頭には、あの船のすべて入ってる。あの船のエネルギーは、縮退炉が生み出している。その縮退炉は、クローニングの設備区画内の中央にある。最悪の状況陥った場合、人のいる区画とクローニングの設備区画にのみ、エネルギーを送るように設定されている。つまり、今の状況ではクローニングの設備区画にだけ、エネルギーを供給している状況」

縮退炉。それは、莫大なエネルギーを生む代物。

「それに、うちに残されている時間はユーより短い。クローニングは、とても課題が多い。うちの生涯をかけても、間に合うか分からない。だから、1秒でも多くの時間がうちには必要なの」

クローニングによって生み出されたクローン人間は、テロメアが極端に短い事や病原菌などに弱くなる特性を持っている為、この星で生き続ける事の出来る人間を作る必要があるという事。

「分かりました。船外活動などは私がやりますので、ミィは調査船内で行える作業をお願いします」

調査船に二人で乗り込み、星の衛星軌道上に漂う船に向かい発進した。

調査船のエネルギーは、満タンの状態。調査船に負荷がかからない様にゆっくりと大気圏を通過し、無事に船にたどり着くことが出来た。

約束通り、ミィは調査船内で船へのアクセスをする。

私は宇宙空間へと出て、磁力を使い調査船伝いで船に乗り移る。

『ユー、聞こえる?やっぱりクローニングの設備区画以外、エネルギーが来てないから、船に開いている穴から船内に入って』

私が立っている所は、船の中腹。一番近い穴がある場所は、コールドスリープの管理地区。私は、足早に穴がある管理地区に向かう。

「・・・・・・」

『分かっていたけど、これほどひどいとは』

私の視覚情報は、調査船のミィも見られるようになっている。

私達の目にしたのは、管理地区をえぐる形で空いた大穴だった。船にはアクセスが出来ない状況だった為、船の損傷具合を確認する事が出来なかったが、今目視でその悲惨さを確認する事が出来た。

想うところはあるけれど、それは後回しにして私は重いドアはこじ開け船内に入る。ミィが私に聞こえない様に配慮して、何かを呟いているのが聞こえた。それはおそらく、ミィの友人達の名前だろう。

「船内に、入れました。ミィ、指示を」

私は、冷たいのかもしれない。

『OK。うちの案内通りに行けば、目的地に難なくたどり着けるから』

泣いていたのだろう、ミィの声は少し上擦っていた。でも、それをミィは私に悟られない様に隠そうとしていた。

ミィの指示通りに、私は無重力の船内を移動する。

エネルギーが供給されていない為、各ブロックの隔壁やドアを手動で開ける形にはなったけれど、程なくして私はクローニングの設備区画のドアまでたどり着いた。

『クローニングの設備区画は、エネルギーが供給されているからパスコード入力すれば開く筈』

ミィの言う通り、クローニングの設備区画のドアにはエネルギー供給がされていた。ドア横のタッチパネルにミィから教えてもらったパスコード入力する。

『よし、難なく解除』

ロックされていたドアを開錠し、私は管理区画内に入る。

クローニングの設備区画はとても広く、中央にコントロールパネルらしき物が確認できた。

『うん、この区画はとりあえず正常可動してるね』

私は辺りを見回しながら、区画の中央に向かう。

『表面上何もない区画だから無駄に広く感じるけど、ここは足元に色々な物が内蔵されてるから、稼働させない限り広めな広場でしかないんだけどね』

私は、区画の中央にあるコントロールパネルまでたどり着いた。

『ここからは、うちの仕事。ユーには、悪いけど体を貸してもらうね』

この区画の管理者権限は船団員にのみ与えられている。その為、私では操作することすら許されていない。

「気にする事ではありませんよ、ミィ。You have control. 」

私は、私の体のコントロールをミィに託す。

『I have control. 』

私の体のコントロールが、調査船にいるミィに託された。

勝手に動く私の体。

ミィの動かす私の体は、すごい速さでコントロールパネルを操作していく。

『わたし、星渡船団長ミィ・ステラ・ライナーの権限において全機能を開放します』

驚いた。

ミィは乗組員ではなく、この船団を取りまとめる船団長だった。

『はぁ、権限の開放の為とは言えなれない言葉は使いたくないんだよね、うちは』

ミィは、ため息交じりにそう呟いた。

コントロールパネルは、すべての機能を開放されていた。

『ユー、もう少しだけ体貸してね』

ミィはそう言うと、再びコントロールパネルを操作し始めた。

私に指示だしをするより、ミィが私の体を操作した方が作業効率は何倍も速い。

『破損区画の切り離し、OK。調査船のアームにて、破損区画同士の連結を確認』

ミィは私の体を使いながら、調査船も操り必要な区画と不要な区画を分けている。

ミィは、調査船から複数の物事を素早く終わらせていく。

『よし、コールドスリープの管理区画の切り離し完了。あと、必要そうな区画を見繕って、大気圏再突入用の装甲を再形成し直して装着。エネルギーを、見繕った区画と装甲に供給。最後に調査船とドッキングして、コントロールを調査船にすべて移動して終わり』

ミィがそう言うと、私の体のコントロールが私に戻ってきた。

『お待たせ、全行程終了したから調査船まで戻ってきて。もちろん、艦内を通って戻ってこれるから』

艦内はエネルギーが供給され、重力を制御されていた為、体が宙に浮くことなく、私は歩いて調査船へと戻る事が出来た。

「おかえり、権限の為とは言えユーの体使わせてもらってごめんね」

ミィは申し訳なさそうにしつつも、すこしおどけて見せた。

「いえ、特に気にする事ではありません。それより、ミィが船団長なのは驚きました」

私がそう言うと、ミィは少し気まずそうにしている。

「あれね・・・・・・。名ばかりの船団長だから」

私が調査船のシートに腰かけると、ミィは調査船を星へと降下させる。

「うちはやりたい事が出来れば良かっただけ、プロパガンダ的にうちが船団長だと色々とまとめやすかっただけで、うちは何もしてない」

ミィはそう話しながら的確に調査船を操縦して調査船とドッキングした区画を大気圏に突入させる。

「不安定だった縮退炉を偶然制御できるようにしたり、時空間航行理論を証明したりしただけ。うちの知らない所で船が作られて壊れかけの母星を捨てた」

大気圏に突入している調査船を操縦しながら、ミィは淡々としゃべり続ける。

「そして、この大惨事。滑稽で愚か。でも、うちは生き延びてしまったから、その運命を受け入れて生きていかないと」

私は、ミィがとても強く感じた。

それは、彼女が望んでいない数々の出来事であったにもかかわらず、前向きである事。

「ミィは強いのですね」

私の言葉に、ミィは少し照れくさそうにする。

「強いというか、能天気なだけかもね。うちは、起こってしまった事をしっかりと受け止めて、これからどうするか考えるだけだから」

そう言いながらミィは、宙に浮かぶ船を指さす。

必要な区画が外された船は、ゆっくりと動き始める。

「あの船には、小さいけどサブエンジンが4つ付いてる。それを使ってあの船の最後の仕事」

破損した船は、少しずつ速度を上げていく。

「ミィ、何をしたのですか?」

私の問いに、ミィは調査船の操縦桿を強く握りしめる。

「あの船はみんなの居場所だから、時空間に戻す」

ミィの目には、涙が溢れていた。

「非科学的なのは分かってる。でも、みんなの魂がたどり着ける場所が必要だから」

どうやら、ミィは強がっていたみたいだ。

「ミィ、私は最後まであなたの傍にいますから」

大気圏を突破した調査船から、時空間に消えていく船を二人で見つめる。

「みんなの魂が、安らかに眠れますように」

ミィは、そう言って涙を拭った。


・・・・・・。私にとってミィの感情が唯一読めなかった時でした」

アルフィオラは、ステラの頭をなで続ける。

「わたしね、女神さまはアルフィオラさまが居たから頑張れたんだと思ったよ」

ステラは、女神の彫刻を見ながらそう答えた。

「そうなのでしょうか?それでは、話を続けましょうか。調査船は・・・・・・


調査船は無事に星に降り立つことが出来、船は時空間へと消えた。

その日から、ミィのクローニング研究が始まった。

乗組員のデータには限りがある為、ミィは自分データを使い多くのクローンを生み出してはその最後を看取ってきた。

ミィは膨大な時間を使い、自らのクローンで実験を重ねすべての課題をクリアする頃には50年の月日が経っていた。

「決して悪くわない、この星の環境。しかしながら、クローニング自体の問題の解決に時間を費やし過ぎたね。でも、うちが生きている間に解決出来て本当によかったよ」

この50年近く、ミィはこのクローニングの設備区画からあまり出ず研究に集中してきた。

数多くのミィのクローン達は、ミィの直向さに心を打たれ短い人生をすべてつぎ込みミィをサポートした。

「名もない我が子達、あなた達のお陰でようやくたどり着くことが出来ましたよ」

クローニングの研究を始めたての頃、初めて誕生したミィのクローンは培養液から出る事が出来ずその生涯を終えた。しかし、彼女の想いはこの星を包み込んでいる。

『お母さんはきっと悲しむと思います。ですから、わたしが死んだらこの地を豊かに出来る様にバイオエネルギーにしてほしいのです。きっと、お母さんは優しいから、出来ないと思うのでユーにお願いしたいのです』

初めてのミィのクローンは、とても賢かった。彼女の願いを聞き、亡くなったその日のうちに彼女の亡骸を、私はバイオエネルギー変換炉に入れた。当初、ミィにはとても責められた。

でも、それすらも見越していた彼女は、ミィ宛に自分が亡くなった次の日にメッセージ動画届くように設定していた。その動画を見たミィは、号泣していた。それ以降、ミィが泣くことはなくなった。

「本当にありがとう」

ミィの目から、涙が流れ落ちる。

「貴女との約束もこれで果たせたね。うちの初めての子」

この時、私は初めて動画がどの様なものだったのか理解できた。

ミィの初めてのクローンは、自らの運命を知りながらもミィを鼓舞したのだろう。

色々な問題をクリア出来た為、ミィはさらに10年以上かけて乗組員すべてのクローンを作り出す事に成功した。

「ユー、うちは成し遂げる事が出来たんだよね」

ミィは、覚束ない足取りで人々の溢れている街を歩く。

「はい」

ミィは、満足そうに笑顔を見せる。

「そっか。じゃあ、もう休んでもいいんだよね」

ミィは、少し疲れた顔を見せる。

「まだ、駄目です。私はミィを連れて行きたい所があります」

ミィは、少し困り顔をする。

「ユーは、年寄りに優しくないね」

ミィは、呆れた顔をしている。

私はミィの手を引き、街を抜け、小高い丘にやってきた。

「着きましたよ。私がミィに見せたかったのは、この景色です」

小高い丘から見える景色は、この星にたどり着いた時の荒れ果てた大地ではなく、草木に覆われた豊かな大地。

「そっか。これが、あの子達が豊かにした大地」

ミィの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「はい。ミィのクローン達が望んだ、もう一つの願いです」

ミィは、その場に座り込む。

「ありがとう、名もない我が子達」

ミィは、大地に寝転ぶ。

「そういえば、ずっと先送りになっていた、ユーの名前決めないとだね」

ミィは、大地に寝転びながら考え始める。

「私は、ユーでいいです」

「ダメ」

即答で、ミィから答えが返ってくる。

「よし決めた、アルフィオラ。特に名前に意味は無いけど。ユーは、今日からアルフィオラと名乗りなさい」

そう言いながら、ミィは状態を起こす。

「アルフィオラ・・・。私の名前」

ミィは、満面の笑みを私に向ける。

「気に入った?」

ミィの笑顔は、私に仮の名前を付けてくれた、あの時と変わらず眩いくらいの笑顔だった。

「うち、やりたい事が出来たから、今日はここでお別れ。じゃあね、アルフィオラ」

ミィは、歳の割には軽快な足取りで、街へと戻っていった。

その数日後、ミィは亡くなった。


・・・・・・。寂しがり屋で涙もろくて、頑固で料理は下手だったけど、とても良い人だった。それが、みんなが女神と呼んでいる人」

アルフィオラが話し終えると、ステラはアルフィオラの膝の上から降り、アルフィオラを見つめる。

「アルフィオラさまにとって、女神さまはどんな存在だったの?」

ステラの質問に、アルフィオラは少し考える。

「そうですね。私にとってミィは、友人でありバディであり、家族みたいなものですね」

その答えを聞き、ステラは笑顔になる。

「アルフィオラさまの、大切な人だったんだね」

アルフィオラは、ベンチから立ち上がると再びステラの頭をなでる。

「昔話をして思い出しましたが、ミィの遺伝子を継ぐ人達は、ミィのお気に入りのミドルネームの<ステラ>を、ラストネームにしてあるのですよ」

それを聞き、ステラは飛び跳ねる。

「アルフィオラさま、本当ですか?」

アルフィオラは、ステラの目線に合わせる為に屈んだ。

「少しぐらい特別でもいいじゃない。と、ミィが言っていましたから」

アルフィオラの答えに、ステラは喜びを抑えきれない。

「あのね、わたしね。ステラ・ステラって、言うの。みんな変だって言ったけど、わたし女神さまの子孫なんだね」

アルフィオラは、興奮しているステラを宥める。

「そうなります。でも、これは秘密にしておかなければいけません。ステラ達家族が特別と知ったら、みんなが羨ましがります。それに、ミィにとっては全員が自分の子供のようなものですから、みんな同じラストネームになってしまいますね」

アルフィオラの言葉に、ステラは落ち込む。

「そっか、そうなったら女神さま悲しむかな」

ステラは上目遣いで、アルフィオラに尋ねる。

「そうですね、とても困るでしょうね」

ステラは、口をモゴモゴとさせている。

「秘密にしておく」

ステラの答えを聞き、アルフィオラはステラの頭をなでる。

「そういえば、アルフィオラさま。もう一人のアンドロイドのラナーさま、出てこなかったけど?」

アルフィオラは、ステラの問いに笑顔で答える。

「そうですね、彼女は気付いたら既にいましたね」

アルフィオラの答えに、ステラは難しい顔になる。

「え?この星に二人しかいないアンドロイドなのに、変なの」

アルフィオラは、笑いを押し殺して話す。

「ステラ、そろそろ家へ帰る時間ですよ」

アルフィオラに言われ、ステラは空を眺める。

「あ、もう夕方。お母さんに怒られるから、もう帰るね。アルフィオラさま、お話してくれてありがとう」

アルフィオラは、ステラに手を振り別れた。

「最初からいたのなら、自分で語ったらよかったのではないですか?」

ベンチの影からひょっこりと姿現した、もう一人のアンドロイドのラナー。

「語り部は、うちには向いてないんだよね」

アルフィオラは、呆れた顔でラナーを見つめる。

「よく言いますよ。自分の事なのですから、語ってもらわないと困ります。それが役目という物でしょ、ミィ。いえ、今はラナーでしたね」

ラナーは、恥ずかしそうにする。

「思い付きで、ユーじゃなくてアルフィオラの予備パーツで、全身サイボーグ化した女神ってどうよ。恥ずかしいでしょ」

アルフィオラは、呆れている。

「誰にも言わないで、数日後には全身サイボーグ化していたら、誰でも絶句するでしょ。実際、あの時の街の人達、絶句していたでしょ」

アルフィオラの返しに、うまく返答が出来ないラナー。

「ステラみたいに勘のいい子は、あなたの正体を見破ってしまいますから対策しておかないといけませんね」

深くため息をつく、アルフィオラ。それとは対照に、自慢そうに胸を張る、ラナー。

「流石、うちの子孫」

「色んな意味でばらされたいのですか、あなたは」

「それは、勘弁」

そう言うとラナーは、その場で土下座をした。

「本当にあなたといると暇がありませんね、ミィ」

「うちは、割と暇だけど。ユー」

ラナーことミィはそう言うと、その場から逃げる様に走り出す。

「あなたと言う人は」

それを追いかける、アルフィオラことユー。

「そうそう。うち、やりたい事があるんだよね」

ラナーは走りながら、アルフィオラに話しかける。

「私は知らないので、1人でやってください」

アルフィオラはラナーを追うのをやめて、暗くなる空を見上げる。

「アルフィオラは、うちの大切なバディでしょ。昔も今も、これからも」

ラナーはそう言って、アルフィオラに抱き着く。

「面倒事だったら、協力はしませんから」

「流石アルフィオラ、話が分かるね」


これからのアルフィオラ(ユー)とラナー(ミィ)のお話は、また別の話。

これにて、唯一1人だけ生き残った女性と、アンドロイドのお話はおしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ