観光
☆☆☆
アロが頭目の弟に矢を放ち、完全にその息の根を止めてから暫くたったころ、スイートピーの方角から誰かが何かを引きずりながらこちらに向かって来ているのが見えた。
「お~い。無事か?」
「隊長!隊長こそ無事でしたか」
「当たり前だろ、適当にボコってきたわ」
そう言う隊長には傷一つなく、また、引きずっている盗賊の頭目にも切り傷などは一切なかった。
本当に拳のみで相手をしたのだろう。
「た、隊長‼」
私が隊長に駆け寄ろうとすると、それとほぼ同時に誰かが隊長の名を呼んだ。
振り返るとそこには罪悪感を抱いたような表情をするモブスさんがいた。
「俺、あんたのこと勘違いしてやした」
「どうしたんだ?急に」
「この作戦をするに当たって五人で集まった際に隊長の身の上をショコラから聞きました。」
「…そか」
「俺より大変な身の上なのに、俺は、俺は………。
すいませんでした。」
そう言ってモブスさんは深く、深く、頭を下げる。
隊長はそれを見て静かに黙っている。
その間もモブスさんは深く頭を下げる。
「……それは、上官に対しての態度の悪さを自覚して頭を下げているのか?
それとも、人として自分の振る舞いが良くなかったから頭を下げているのか?」
「それは………。
人としての振る舞いです。」
モブスさんがそう言うと隊長は『ブハッ』と噴き出す。
「そこはお前、両方ですって言う所だろう?」
「いえ、上官だと分かって俺はあの態度を取っていました。
それなのにそんなことを言ってしまえば嘘になります。」
「……お前、馬鹿だろう?」
「それは……。」
「ま、いいさ。一応言っておくと多分俺だけだぞ?笑って許してくれる上官は……。」
その後に、「他の隊長相手だったら厳罰じゃすまなかったかもな」と言っていた。
隊長も意地の悪い。
仮にモブスさんが両方なんて答えてたら、絶対許してなかっただろうに。
まあ、隊長にはやり返す権利があるのかもしれないけど。
そう考えればモブスさんは運が良かった。
いや、モブスさんの元々の気質が彼自身を救ったのかもしれない。
「取り敢えず、スイートピーに帰るぞ。こいつも牢にぶち込まなきゃだしな」
盗賊の頭目を指さしながら隊長が告げる。
にしても、余裕で生け捕りとは、多少、血を継いでいるだけの人間と、正当ではないかもしれないけど、現聖騎士の息子の差、だろうか?
「はあ、スイートピー郷にも報告しなけりゃいけないことが多いし、帰ってからも牛車駄目にした始末書書かなきゃだな。」
「隊長。私も手伝いますよ。
始末書」
私はそう言いながら隊長の隣を歩く。
他の騎士の人たちが馬に乗るかと聞いてくれたが、断った。
隊長も断っていたし、私も隊長の隣を歩きたい気分だったからだ。
別に自分よりも強い敵が相手だったから、暫くは気の許せる人の近くに居たくなったわけじゃないです。
じゃない、ないのだ。
ただ、まあ、こういう道を歩くのも良いかなと思っただけで…。
「隊長。」
「なんだ?」
「観光、絶対付き合ってくださいね?」
「あ…、はあ、スイートピー郷への報告とかもあるんだがなぁ」
私と隊長とついでに騎士の人たちはゆっくりとスイートピーに向けて歩いて行った。
☆☆☆
あれから、数日が経った。
隊長はスイートピー郷との話合いが終わり、ようやくの休暇だ。
王都に戻ったらまだまだやることはあるだろうけど、それでも一応、休暇だ。
「隊長、行きましょうか」
「ああ、そうだな」
因みに私も隊長も王国騎士団の制服だ。
勿論、鎧は脱いでいるし、剣も置いてきている。
ただ、お洒落をしているわけではない。
お洒落をして出かける間柄でもないし、このくらいの距離感が丁度いい。
「それで、何か欲しいものとかあるか?」
「欲しいものですか?」
「ああ、折角、王都から離れて違う街に来てるんだ。
何かあるだろ?」
「……そうですね。珍しい武器。もしくは防具。薬草や包帯、もしくは携帯食でしょうか?」
「いや、そう言うんじゃなくてだな。服とか、あ~、アクセサリーとかだよ。」
「えっ?王都で良くないですか?」
「いや、珍しいものとか、あるだろ?この地域由来の服とか」
「ああ、まあ、そうですね。あるかもですね。」
「何で全然興味ないんだよ」
お洒落をする暇がないからじゃないだろうか?
女性として見て欲しい人間もいないし、ただまあ、偶にはそう言うのも良いのだろうか?
時には女の子らしくしても……
「折角ですし、見たい、かもです。」
「うん?」
「服です!服」
「お、そうか?じゃあ見に行くか」
そう言うと、待ち合わせの噴水のある大きな広間から隊長は歩き出す。
一応、同じ宿にいるため待ち合わせなどはしなくても良いのだが、何となくプライベートを二人で過ごしている所を見られたくないため、待ち合わせをしてもらったのだ。
うん、隊長のことが好きとか思われたら困る。
だから、仕方ない。
私がそんなことを考えている間も隊長は歩き続けており、私も置いて行かれないようについて行く。
ただ、歩いているだけでもこの街は様々なものが目に入る。
例えば、新鮮な魚であったり、貝殻のアクセサリーであったり、中には三又の槍もあった。
きっと、ここの住民は賊などをあの槍で突き殺すのだろう。
ただ、刃の部分が少々心もとない気がする。
いや、あんなものなのだろうか?
それと何故、釣りの道具が一緒に置かれているのだろうか?
いや、あれもきっと武器だろう釣り竿に見せかけた暗器といった所か…。
「お~い、着いたぞ?」
「え、ああ、そうですか。ありがとうございます。」
「いや、これから服を選ぶ所だろう?まだ、例を言うのは早いんじゃないか?」
「そ、そうでした。」
隊長はそれだけ言うと先に店に入る。
店の中は意外にもしっかりとした作りをしており、中には試着室も完備していた。
ただ、これだけ服が多いと何にすればいいか。
「お、これなんかショコラに良いんじゃないか?」
「え?」
隊長が持ってきたのは白いワンピースと麦わら帽子だった。
何というか、ザ・女の子といった装いだが、私に似合うだろうか?
「そうですかね?」
「おう、まあ、お前が納得しなきゃ意味ないからな。取り敢えず来てみたらどうだ?」
「はい」
私はワンピースを着て麦わら帽子を被る。
…思った以上に女の子っぽい格好だ。
やっぱり似合わないだろう。
「お~い。どうだった」
「え、えっと…」
隊長に声を掛けられてしまい。
私は反射的に試着室を開ける。
本当は見せずに脱ぐつもりだったのだが…
「おお、いいじゃん!いいじゃん!完全に淑女だよ。深窓の令嬢だよ‼」
「そ、そうですか?そんなこともないと思いますけど。」
「いえいえ、お客様非常に似合ってますよ。可愛らしい!」
隊長が思った以上に褒めてくれたけど、まあ?
隊長の言うことだし?
そこまで参考にはならないだろうけど、
店の人までここまで言ってくれるなら買っても良いですかね?
「あ、あの、これ、下さい」
「かしこまりました。五千フェアリになります」
「あ、これでお願いします。」
「いや、俺が出すよ。」
そういうと隊長は金貨を一枚出す。
因みに鉄貨が一枚一フェアリであり、銅貨が百フェアリ、銀貨が千フェアリ、金貨が二万フェアリとなっている。
因みにこれらとは別に貿易用の金貨、銀貨、銅貨というものが存在している。
今あげたのは日常生活で使う分の貨幣の価値である。
「あら、金貨なんて珍しい。ありがとうございます。
では、こちら、銀貨十五枚、一万五千フェアリとなります。
間違いはありませんか?」
「ああ、問題ない。ありがとう。」
「あ、あの隊長。良いんですか?その…」
「良いんだよ。それより、他の服も見ようぜ?」
隊長はこれからの為にお金を貯めているのに私の為に使っていいのか、その言葉が喉から出かかったが、それを飲み干す。
折角だし、お言葉に甘えよう。
「ありがとうございます。隊長。」
「ん、ああ、それよりこれなんてどうだ?」
「どれですか?」
それからは着せ替え人形のように色々着せられた。
Tシャツと長めのプリーツスカートとカーディガンの組み合わせや、Tシャツとオーバーホールの組み合わせ?
とか色々だ。
ただ、それらを隊長が買ってくれたから私の支出はゼロだ。
☆☆☆
あの後店を出ると丁度お昼時になっていたのでご飯を食べることになった。
因みにお昼はパスタとピッツァらしい。
この街ではこの二つが特に美味しいと服屋の人に勧められたのだ。
「いや~、にしても買ったな。」
「はい、でも良かったんですか本当に。」
「うん?まあな、折角の観光だし、思いっきり楽しんで貰いたいだろ?
隊長としてな」
「そういうものですか?」
「ああ、そう言うもんだ。」
かなりの大金だったと思うけど、隊長はあっけらかんとそう言ってのけた。
私に出来ることなら何かしてあげたいけど…。
「隊長、何か困ってることとか無いですか?
自分に出来ることなら手伝いますけど。」
「ん~?
もしかして気ぃ~使ってるのか?」
「え、ええ。まあ…」
「良いんだよ。
そう言うのは。
お前はまだまだ甘えたい盛りの年頃だろう?
俺のが年長って訳じゃないけど。存分に甘えろよ。
お前も俺からすれば妹みたいなもんだしな。」
「い、いえ、私はもう立派な一騎士です。」
「……だからこそだよ。」
「え?」
「俺からすれば、お前みたいなちんちくりんなガキが命かけてんのがありえねぇんだよ。
ただ、だからって俺がお前を普通の女の子として育てることも出来ねぇ。
だから、こんな時くらい甘えてくれよ」
私と隊長は同い年の筈なのにそう言う隊長は凄い大人びていて、何だか胸と目頭が熱くなる。
今まで溜まってたものがボロボロと出ていく。
しかも、鼻水も止まらない。
最悪だ。
ただでさえ、騎士なんて他の女の子とは違うことをしているのに、もっと女の子からかけ離れてしまう。
私の知ってる女の子は綺麗な服を着て、上品に笑って、剣なんて持たなくて、すっごい柔らかくてフワフワしている。
…私と全然違う生き物。
「す、すびません。鼻水も止まらなくて、何か目も変で、ゴミは入ったかもです。」
「馬鹿が、良いんだよ。
言い訳なんてしなくて。
お前はもっと他人に甘えろ。他人を頼れ。
俺はお前の隊長で協力者だ。
お前が困ってたら絶対、力になる。
約束だ。」
「…は、はい、はい」
ずびずびと鼻をすする私に隊長はハンカチをくれる。
私はそれを受け取ると『ズビビ』と鼻をかむ。
隊長はその様子にやや苦笑気味に「ハンカチで鼻をかむ文化はまだ慣れねぇな」
と言っていた。
そう言えば隊長は鼻水は出来れば紙でかみたいとか言っていたことがあったっけ?
高価な紙で鼻をかみたいなんて何でそんな発想が出てくるのだろうか?
「どうだ?大分マシになったか?」
「はい、ありがとうございます。」
「ま、俺からすればお前も何だかんだ妹みたいなもんだしな。
辛くなったら言えよ?」
「私も、隊長がお兄ちゃんが良かったです。」
「ば~か、なら俺はお前の兄ちゃんになるよ。孤児院育ちなめんな。
血なんて繋がってなくても、兄妹にはなれんだよ」
隊長の言葉に私は目を白黒させてしまう。今までそんな考え方はしたことがなかった。
家族とは血の繋がりの有無で後継者とはその中でも長男がなるもの、家族とはそう言った一種のしがらみのようなものではなかったのだろうか?
もっと自由で良いのだろうか?
「お、お兄、ちゃん。」
「あん、どうした?」
「…お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「やめい、こっぱずかしい。一回で聞こえてる」
「……もう、後悔しても遅いですよ。お兄ちゃん」
「絶対後悔なんてしねぇよ」
何だか胸がポカポカする。
不思議と顔も熱くなる。お兄ちゃん。
お兄様たちには一度たりとも読んだことがない私の特別。
私が暫くの間『にやにや』と顔が緩むのを両手で抑えているとウェイターの方が料理を運んでくる。
「お待たせしました。海老とトマトクリームのスパゲッティと粉チーズとホワイトソースのパスタ、三種のチーズとベーコンを使ったトマトピッツァです。…あ、それと、店長から小さなカップルへのサービスとなっています。」
ウェイターはそう言うとケーキを二皿置いていく。
とても美味しそうだけど…
「俺らってカップルに見えるのかね」
「……そんな筈ありません。それに隊長が彼氏とかあり得ません。
……だって、お兄ちゃん、ですから」
私は小さな声でそう呟く。
ただ、小さな声ではあったが、隊長には聞こえたのか、隊長は頬を右手の人差し指で書いた後に左手で頭をポンポンと撫でてくれた。
☆☆☆
レストランでピッツァとパスタ、それと店長さんがサービスしてくれたケーキを食べた私たちは意味もなく街を散策していた。
何となく見晴らしの良さそうな高台の上に行ったり、野良猫について行って路地裏などに入り込んだり、その際に路地裏にいたチンピラに絡まれて逆に返り討ちにして衛兵につきだしたりもした。
あ、それと、話は戻るが、海老とトマトクリームのスパゲッティと三種のチーズとベーコンのトマトピッツァ。
それと店長さんがサービスしてくれたケーキはすっごく美味しかった。
まず、海老とトマトクリームのスパゲッティはトマトの酸味と海老の旨味が濃厚なクリームソースの中で一つになっており、もちもちな麺に絡みついて、いくらでも食べれるくらい美味しかった。
チーズとベーコンのピッツァは海老とトマトクリームと比べるとベーコンとチーズが乗っているのもあってか、かなり油っこい料理になっていたのだけど、それをトマトの酸味と、バジルソースが良い感じに打ち消してくれて、ベーコンとかの油っこさの後にバジルとトマトが口の中をさっぱりさせてくれたのが良かった。
ケーキは凄く甘くてふわふわしてて美味しかった。
「また、食べにいきたいですね。」
「おう、そうだな」
三時の時間になり、小腹が空いてきてしまいつい口からそんな言葉がこぼれる。
私と隊長はいつの間にか待ち合わせをしていた広間に戻って海を見ていた。
色々と見て回り、最後は最初に会った場所に戻ってくる。
ここら辺が区切りが良いのかもしれない
「隊長、今日は……」
「あ、あのッ‼」
「ん?」
私が隊長に話しかけようとした時、私より低く、隊長よりも高い、アルト寄りの声が私たちの耳に届く。
声の主の方に顔を向けるとそこには腰に木剣を携えた少年がいた。
しかも、一人じゃない、恐らく私たちに話しかけただろう少年の後ろにおよそ四人の少年がこちらを見ていた。
「どうかしたか?」
隊長は首を傾げながら私たちに話しかけたであろう少年に問う。
少年は隊長の言葉に体を『ビクッと』させるとちらちらと隊長と私を見る。
一体、どうしたのだろうか、私と隊長の格好は一応、騎士の制服で身
分として怪しいものではないと分かると思うのだが……
「えっと、おま、いや、あなた達は騎士様なのか、じゃなくてなんですか?」
私と隊長はお互いに顔を見合わせる。
良く分からないが、騎士であることがどうかしたのだろうか?
……少年のご家族に衛兵の方がおり、「騎士ってのは態度だけでかいくせして、な~にもしねぇ」とか言っているのだろうか?
それで騎士に反骨精神を持っているとか。
いや、流石にないか、ない、よな。
「あ、ああ、それがどうかしたか?」
「え、えっと、俺達、騎士に憧れてて、どうやったらなれますか?」
何と少年たちは騎士になりたくて私たちに話しかけているらしい。
私から言わせれば騎士なんて半端なエリート意識と、他人への嫉妬で割とドロドロしている部分が多くて楽しくないと思うのだが……。
私が、モブスさんと隊長のやり取りや聖騎士とお父様のやり取りをよく見ていたからそう感じるだけなのだろうか?
絵物語で出てくる騎士ってなんだか清廉潔白でキラキラしてるし……。
「そうだな~。まあ、まず強い事かな?
後は誰かを守りたいって強く思うことも大事だな。
それがなけりゃ、傭兵と変わらん」
「じゃあ、おま、あなたも強いんですか?」
「まあな、俺、こう見えて将来有望視されてるからな」
「つまり、おま、あなたを倒せれば俺も騎士になれますか?」
「おっ、大きく出たなぁ。まあ、間違ってはいないが、後、喋りづらいなら普段通りでいいぞ?」
「わかり、わかった。なら勝負だ」
少年は腰に携えた剣を引き抜き隊長に勝負を挑む。
少年は推測ではあるが、隊長や私と同い年か、一つ二つ低いくらいだろうから、隊長相手でも勝てると踏んでいるのだろう。
その人一応うちの隊で一番強い人なのだけれど
「お~い、取り敢えず、後ろにいる君ら、俺にも木剣貸してくれないか?」
「ん、いいぞ」
「やっちまえ、ブレイ」
「頑張れ、ブレイ」
隊長は隊長に勝負を挑んだ少年のブレイ君?の後ろにいる子供たちに木剣を貸してもらっていた。
隊長なら素手でも完封できるけど、一応は対等な勝負ということにしたいのだろうか?
私がそう考察している間に勝負は始まり、ブレイ君は剣を隊長に向けて振り下ろす。
はっきり言ってしまえば、その剣筋はお世辞には良いものではなかった。
何というか、初めて会った頃の隊長が超人的な力をもってなかったらこんな感じなんじゃないかなっていう剣だ。
うん、つまり、全然大したことない。
素人の剣ってこと。
隊長はそんな少年の剣を丁寧に防いでいく。
隊長なら力任せに押し切ることも、最小の動きで少年の剣を受け流し、そのまま手首に当てて武装解除させることもできるだろうに、相変わらずの面倒見の良さだ。
その後、十何合か打ち合った所で少年の剣に繊細さが掛けてくる。
隊長はそのタイミングで少年の手首を軽く木剣で叩き武装解除させる。
「あっ」
「勝負あり、ってことでいいか?」
「う、嘘だろ。ブレイが負けちまった」
「あの、負け知らずのブレイが…」
「あいつ、なんて野郎だ」
少年たちは隊長が勝ったことに驚いている様子だ。
もしかしたら、隊長のことを将来有望なだけの子供だと思っていたのかもしれない。
それだったら、まあ、隊長が負けたことに驚いても仕方がないか。
「なあ、もし良かったら、剣、俺が教えようか?」
茫然自失の少年とそのお友達に隊長はそう問いかける。
いつもの隊長のお節介だろう。
私は遠巻きに両手を顎に乗せた状態で広場のベンチに座りながら隊長たちを『ぼおっと』見る。
さて、彼らは一体どうこたえるのだろう
「ど、どうしよう。折角だし、習ってみようかな?」
「お、俺も、そうだな。今より強くなれるなら」
「うん」
「みんながそう言うなら…」
「俺は受けない。」
ブレイ君が屹然とそう呟く。
受けた方が力になると思うのだが、私は首を傾げながら彼らのやり取りを見る。
「お前は俺のライバルだからな。ライバルの教えは乞わねぇ」
「成程、なら、ショコラ!」
「はい?何ですか。隊長」
「こいつらを代わりに見てやってくれ。」
「え、何でですか?」
普通に隊長の方が強いし、隊長が見てあげた方が良いんじゃないだろうか?
まあ、確かに剣術だけなら私の方が上だろうけど。
「おい、女じゃないか?何で教えを乞わなきゃいけないんだよ。」
「剣術は俺より上手いからだよ。こいつ。」
「な、お前よりか?」
「ああ、俺より、きっと将来は王国一の騎士になる」
「……」
隊長がそう言うとブレイ君は黙り込んでしまう。
まあ、女性が騎士をしている事例の方が少ないし、そういう偏見も多少はあるのだろう。
こちらとしては断ってくれた方が嬉しいのだが、さて、どう答える。
「わかった。ただ勝負しろ。お前が俺やあいつより強いって証明しろ」
「それは……どうやって?」
「勝負すればわかる。剣を取れ」
ブレイ君はそう言うと自分の剣を私に投げ渡し、友人から木剣を借りていた。
私はと言うと隊長に視線を向けると頷かれてしまう。
どういう意味かは分かりたくないけど、恐らくは「任せた」とかそんな感じなのだろう。
私はため息を吐きながら剣を構える。
すると、隊長が「始め!」と開始の合図を告げる。
ブレイ君は隊長の言葉と共にこちらに向けて剣を振り下ろしてくる。
私はそれを受け流し、手首に剣を当てブレイ君の武装を解除させて、首筋に剣を当てる。
「えっ?」
「そこまで、勝負あり‼」
勝利の宣言がされたため、私は剣を納める。
ブレイ君は今も茫然自失としているようだった。
「それで、次は隊長と勝負になるんですかね?」
「それはブレイが決めることだろう」
「え、えっと、いや、良い。俺に剣を教えてくれ、ください」
私はその言葉に応じ、ブレイ君たちに剣術を教えて行った。
「ああ、そこはもっとギュッとした感じで」
「いえ、そこはふわっとで良いです。」
「そうですね。基本ふわっとでここぞって時にギュッとしてください」
私の教えに少年たちは時折頭にはてなマークを浮かべたかのようにしていたが、隊長も間に入ってくれたので何とか基礎中の基礎の知識を教えてあげることが出来た。
隊長にも「お前感覚派だったのか」と驚かれたけど、記憶の覚束ない時から剣を握っていたのだから仕方がないだろう。
歩き方や息の仕方を教えることが出来ないのと一緒だ。
それでも、少年たちは私に対し、お礼を言ってくれた。
「今日は教えられたけど、いつかショコラより強くなって守るから、そのだから……
またな。」
「ショコラちゃんは俺が守る」
「いや、俺だね。これはブレイにも譲れない」
「ぼ、僕も」
「俺も俺も」
……何というかこういうのも悪くないですね。
横では隊長が「俺も教えてたんだけどなぁ」って言っているのを聞いて少し吹き出してしまった。
次か次の次くらいには「かつて幼馴染だった騎士様」の時間軸に飛ぶ予定です。
かつて幼馴染だった騎士様
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読まなくても話しはわかるようにしていますが、興味があれば是非読んでみてください。
誤字脱字報告や感想お待ちしてます。