笑いの国
私は小さな国に降り立った。
正確には一つの街である。
あるとき、この街の風変わりな市長が‘笑いの国“をうたったのだ。
私がこの駅の改札口を抜けた頃、構内スピーカーから街の宣伝文句が湯水の如く流れて来る。
笑え、笑え、ここは笑いの国。
笑え、笑え、大声で笑え。
苦しくても笑え。
悲しくても笑え。
思いっきり笑えば、苦しみも悲しみも飛んでいく。
ここは笑いの国、必要なのは笑いだけ。
アハハハ!
ふざけるようにおどけるように喋るそれは、うるさいなと思いつつもどこか滑稽で思わず笑みを浮かべる。
私がこの街に来たのは理由があってのことでは無い。
私の受け持つ仕事がようやく区切りがつき、休養をかねてあてのない旅に出たのだが”楽しそう”というだけで列車から降りたのだ。
そこまで大きな街ではないが、道は広く人通りもそこそこ多い。
とりあえず私は大きな交差点を渡ることにした。
道行く人は皆、笑みを浮かべている。
この街の風変わりなところは、笑顔であれば公共機関の利用や税金が安くなること。
逆に悲痛な表情を浮かべて道を歩けば罰金になるらしい。
「おじさん笑わないといけないよ」
道行く私にいきなり声がかかる。
見れば小学生に入ったばかりのような男の子に、円満の笑みでたしなめられたようだ。
隣には母親らしき人物もいる。
そしてその女性も笑顔で私に向かって言った。
「すいません。旅行者ですか?」
「ええ。しかし、何故?」
ラフな格好ではあるが、特別旅行者と言えるようなものは何も持っていない。
何故わかったのだろう?
「ここの国民は皆笑顔ですから」
女性はそう答え、子供も変わらず円満の笑みを浮かべていた。
私は呆気にとられていたが、しばらくすると笑いが込み上げて来そうになる。
そのとき………
ワッ! ワハハ!
アハハハ! フフフ。
突然、周りが笑い声に包まれる。
クスクス! ハハ!
男の人も女の人も。
サラリーマンも子供も。
お巡りさんでさえ。
交差点にいる皆が一斉に笑い出したのだ。
「アハハハ」
つられて私も笑ってしまう。
意味もわからずに私は笑っていた。
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
「フウ」
私はひとしきり笑ったあと、近くの男性に声をかけ疑問を口にする。
「ところで皆んな何で笑ったのですか?」
その男性はニコニコしながらこう答えた。
「そこの交差点で杖をついたお爺さんが転んで、自動車に◯◯れたのさ」
ある動画で、
「エスカレーターで日本は左側に立ち、右側は歩けるように空けるけど、エスカレーターは歩いたらダメなんです。だから私、この前右側でずっと立ってました。ヘヘッ」
と言うのを見て思いついた物語。




