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笑いの国

作者: 天海波平
掲載日:2021/12/25

 私は小さな国に降り立った。


 正確には一つの街である。


 あるとき、この街の風変わりな市長が‘笑いの国“をうたったのだ。


 私がこの駅の改札口を抜けた頃、構内スピーカーから街の宣伝文句が湯水の如く流れて来る。


 笑え、笑え、ここは笑いの国。


 笑え、笑え、大声で笑え。


 苦しくても笑え。


 悲しくても笑え。


 思いっきり笑えば、苦しみも悲しみも飛んでいく。


 ここは笑いの国、必要なのは笑いだけ。


 アハハハ!


 ふざけるようにおどけるように喋るそれは、うるさいなと思いつつもどこか滑稽で思わず笑みを浮かべる。


 私がこの街に来たのは理由があってのことでは無い。

 私の受け持つ仕事がようやく区切りがつき、休養をかねてあてのない旅に出たのだが”楽しそう”というだけで列車から降りたのだ。


 そこまで大きな街ではないが、道は広く人通りもそこそこ多い。

 とりあえず私は大きな交差点を渡ることにした。


 道行く人は皆、笑みを浮かべている。

 この街の風変わりなところは、笑顔であれば公共機関の利用や税金が安くなること。

 逆に悲痛な表情を浮かべて道を歩けば罰金になるらしい。


「おじさん笑わないといけないよ」


 道行く私にいきなり声がかかる。

 見れば小学生に入ったばかりのような男の子に、円満の笑みでたしなめられたようだ。

 隣には母親らしき人物もいる。

 そしてその女性も笑顔で私に向かって言った。


「すいません。旅行者ですか?」


「ええ。しかし、何故?」


 ラフな格好ではあるが、特別旅行者と言えるようなものは何も持っていない。

 何故わかったのだろう?


「ここの国民は皆笑顔ですから」


 女性はそう答え、子供も変わらず円満の笑みを浮かべていた。

 私は呆気にとられていたが、しばらくすると笑いが込み上げて来そうになる。

 そのとき………


 ワッ! ワハハ!

 アハハハ! フフフ。


 突然、周りが笑い声に包まれる。


 クスクス! ハハ!


 男の人も女の人も。

 サラリーマンも子供も。

 お巡りさんでさえ。

 交差点にいる皆が一斉に笑い出したのだ。


「アハハハ」


 つられて私も笑ってしまう。

 意味もわからずに私は笑っていた。

 こんなに笑ったのはいつぶりだろう。


「フウ」


 私はひとしきり笑ったあと、近くの男性に声をかけ疑問を口にする。


「ところで皆んな何で笑ったのですか?」


 その男性はニコニコしながらこう答えた。


「そこの交差点で杖をついたお爺さんが転んで、自動車に◯◯れたのさ」


ある動画で、

「エスカレーターで日本は左側に立ち、右側は歩けるように空けるけど、エスカレーターは歩いたらダメなんです。だから私、この前右側でずっと立ってました。ヘヘッ」

と言うのを見て思いついた物語。


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなでずっと笑っていたら、狂気ですよね。 そんな国かぁ。なんか映画とかになりそうです。 怖い。
[一言] 笑顔は大事。 だけど、これは……。 本当に大事なのは、「自然に笑顔が出るような世界」にすることだよね。 エスカレーターは微妙な問題。 あれがマナーというふうに広まったけれど、本来、エスカ…
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