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カタツムリの支配下で

 ◇水車11


 深夜さんが逮捕され、2か月が経過した。僕はもう彼女に会うことはないだろうと思っていた。だから12月になって、彼女がみずぐるまに姿を見せたとき、僕はかなり驚いた。

「釈放されたの。もうお肉は一生食べないわ。食べたくもない」と深夜さんは言った。

「でもマスターの料理はまた食べたかったの。だから、恥を忍んで来ました。またあなたの料理を食べさせてもらってもいいかしら」

「もちろんです」と僕は答えた。

 僕は初めから、彼女を犯罪者とは思っていない。肉食をやめる決心をし、釈放されたのは本当によかった、と心から思った。彼女は少し痩せて、やつれていた。この2か月間、彼女の身に何が起こったのか、僕は知らない。カタツムリに何かされたのか聞いてみたい気もしたが、それは今でなくていい。

 今は深夜さんに美味しい料理を食べてもらいたい。

 再び彼女が来てくれて、とてもうれしかった。僕は野菜の天ぷらときのこの炊き込みご飯を彼女のテーブルに運んだ。

 美味しそうに食べてくれた。

 風鈴が不機嫌そうに深夜さんを見ていた。

「お兄ちゃん、あの人は前科者だよ」と風鈴が僕にささやいた。

 僕は妹の頭をこつんと叩いた。

「バカ」と僕は言った。

 深夜さんは犯罪者としてテレビで顔をさらされた。今、ものすごく生きづらい思いをしているかもしれない。さっきも、恥を忍んで、なんて言っていた。かわいそうだ、と思った。

 肉食が罪となったのはカタツムリがそうせよと指示したからだ。深夜さんはカタツムリの侵略の被害者だと捉えることもできる。

 僕は以前と同じように彼女と接しようと思う。


 ◇深夜11


 私は大きな罪を犯した。

 人々から冷たい視線を浴びせられる。

 だからみずぐるまに来るのは相当な勇気が必要だったが、思い切って来てみてよかった。

 マスターは笑顔で私を迎えてくれた。ほっとした。

 今では私は、肉なんて食べたいとは思わない。肉を食べることを想像するだけで、怖ろしくなる。肉食は野蛮で無慈悲な行為だ。私は穀物と野菜と果物だけを食べて生きていく。

 マスターの作る料理は相変わらず美味しかった。逮捕されて以来、初めて食事を楽しむことができた。みずぐるまは私にとって大切な場所だとあらためて感じた。

 カタツムリの宇宙船は地球の空に浮かび続けている。

 あれが善であるのか悪であるのか、私にはよくわからない。でもとにかく絶対的な支配者として、あれは人類の上に存在している。私たちは好むと好まざるとにかかわらず、その支配下で生きていくしかない。

 マスターが食後にコーヒーを出してくれた。

「頼んでないけど」

「サービスです」

 マスターが微笑んだ。

 またみずぐるまに通おう、と私は思った。まだデートに行く気はあるか、マスターに聞いてみよう。

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