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 あー、びっくりしたあ。

 まさかホテルでクラスの女の子に会うなんて。

 お誕生日のお祝いで、お父さんお母さんに連れられたホテルのバイキング。豪華メニューに感激して舌鼓を打っていたら、ひと組のカップルが目に入った。

 どう見てもまだ高校生。

 いいなあ、ステキなカレシとこんなところでランチできたら。と思いながら、そのカップルを何となく見ていると。


 あれ?

 男の子に見覚えがあった。

 そうだ。媛高の二年生男子。いつもクラスの女の子と一緒に登校してくるイケメンさんだ。あの人、彼女いたんだ。しかも、あんなきれいな女の子、どこで見つけてきたんだろ。媛高にはいないよね、あんな子。いたら、学校じゅうの男子、大騒ぎだよ。ていうか、あそこまできれいな子、今まで見たことない。

 うっわ、あの女の子、イケメンさんがフォークで刺したケーキ、横から食べちゃった。すっごく嬉しそうに笑ってる。

 今度はイケメンさんの口もとに指伸ばして、なにやってるの?

 えー、拭ってる?

 え? え? その指、舐めた?

 幼な子相手にしたお母さんじゃあるまいし。信じらんない。こんなとこで、なに見せつけてるの?

 ?

 あの女の子がこっちを見てる?

 だけじゃない。笑みを浮かべて手まで振ってきた。

 やっばあ、じっと見てたの、ばれたんだ。あわてて下を向いた。

「凛? どうかした?」

 お母さんが声をかけてくれた。

「なんでもない」


 しばらくして、食べ物がなくなったので、席を立った。

 鶏肉のトマト煮を取っていると、いきなり「こんにちは」と声をかけられた。

 びっくりして、後ろを振り返ると、そこにいたのはさっきの女の子。ウエーブのかかった長い髪をポニーテールにしている。瓜実顔にきらきらした黒い瞳。きめ細やかなお肌。いたずらっ子のような表情。

 あれ? この子、もしかして。

「そとちゃん?」

「うん」

 びっくりだった。

 木梨衣通子ちゃん。

 この子、こんなきれいなお顔してたんだ。整った顔してるとは思ってたけど、ここまでだったとは。いつも太い黒縁のメガネをかけて、ロングヘアのセーラー服姿しか見てなかったから。


 お誕生日まで一緒だと聞かされて、またまた驚いた。

 生年月日で決める占いなんて、もう絶対に信じない。

 なんなの、この差は?

 ルックスだけじゃない。そとちゃんはお勉強だってクラス一番で、二年生になれば宮入り間違いなし。実はマラソンも速くてという話も聞いたことがある。明るくて、自信に満ちた姿は、おどおどしたあたしとは正反対。

「いいなあ、そとちゃんは。ステキなカレシにお誕生日祝ってもらえて」

 感じたままを口にすると、ぴしゃりと言われた。

「前にも言ったでしょ、カレシじゃないって」

 そうだった。あのイケメンさんは、お兄さんだって聞かされていた。

 はー、なんてステキなお兄さんなんだろ。高校生にもなって、妹の誕生日をちゃんと祝ってくれるお兄さん。


 あーあ、あたしにもあんなお兄さんがいればなあ。

 席に戻っても、別テーブルにいる兄妹の姿が気になって仕方なかった。妹は笑顔が弾け、それをお兄さんが穏やかに見守っている。 やがて、ふたりは席を立った。衣通子ちゃんがこっちに手を振ってくれた。連れ立って出て行く姿は、どう見てもラブラブのカップル。

 いいなあ。

 せっかくお父さんお母さんに、こんなところに連れてきてもらったのに。お祝いしてもらってるのに。ご馳走を堪能してるのに。

 なんだろう。とっても悲しくなってきた。


 家に戻って、自室のベッドでうつ伏せになった。

「りん」

「なあに、お兄ちゃん」

「お誕生日、おめでとう」

「それだけ?」

「なにかほしいのか?」

「・・・」

 うーん、違うなあ。


「りん」

「なあに、お兄ちゃん」

「出かけるぞ」

「どこ行くの?」

「いいから、黙ってついてこい」

 ・・・いやいや、ちょっと強引すぎるよね。。。


「りん」

「なあに、お兄ちゃん」

「今日は誕生日だよな」

「そうだよ」

「どこか行きたいとこある?」

「どこか連れていってくれるの?」

「ああ」

「じゃあ、おいしいもの食べたい」

 ・・・これ、お父さんに言ったことと同じじゃない?


 ホテルのバイキングにお兄ちゃんとふたり。

「りん」

「なあに」

「おまえ、なに食べる?」

「あたしは、鳥のトマト煮と・・・」

「じゃあ取ってきてやる」

「・・・」

 いやいや、ここは一緒に取りにいくのが普通だよね。。


 そとちゃんの指が、そとちゃんのお兄さんの口もとを拭っているシーンを思い出した。

「お兄ちゃん、ケーキついてるよ」

「え? どこ?」

「しょうがないなあ、取ってあげる」

 あたしの指が口もとをなぞる。

 きゃー。

 ムリムリムリムリ。

 こんなの、お兄ちゃんじゃないよー。


 あれこれ妄想しながら、自分の世界に浸っていると、階下からお母さんの声がした。

「りんー! シロの散歩、まだよー」

 あー、はいはいはいはい。


「大きな邪が今晩現れる」

 犬を連れて、しばらくすると、そんな声が聞こえた。

 あたしの前に、見慣れた男の子が立っていた。

「幾人が犠牲に?」

 あたしが、声を出していた。

「さあな、少なくとも現世では、その母となった者たちの命が奪われた」

「現世では? 過去にも出たというの?」

「もう何度目になるのか数えきれないほどだ」

「そんな邪、ここしばらく出たことあったかしら。伊予ばかり見ていたわけではないけれど」

「前に出でてからなら、もう七百年ほどになる」

「七百年。そんなに」

「前回はくに神が封じた。村衆にも集まってもらって碑も立てた」

「封じたのに、また出たというの」

「そうだ。だから、根は深い」

 この一連の会話に、あたしの意思はなかった。

 瀬戸のうみ神と呼ばれる神が降臨してからというもの、ときどき神々の会話があたしの口を通して行われる。もっとも、あたしが話す相手は決まってふたりだけなんだけど。

 きっと、今、対峙する男の子も、何かの神が降臨して、本人の意思とは別に口を開いているのだろう。そう言えば、いしづちと言ってたっけ。いしづちとは四国の最高峰、石鎚山のはず。


 それにしても。

 いったい何の話をしているんだろう。よこしま? よこしまって、いったい。

「邪は遺恨を現世に残し、無間地獄に墜ちた魂のこと」

 え?

「邪は生まれ来る人に取り憑く。邪に取り憑かれた者は、邪の意思に己の人生を支配され、時として関わる他者の命さえ奪う」

 目の前の男の子が言った。

 あたしのために、ご親切に解説してくれたのでしょうけど、よくわからない。

 あたしには神が降臨したんでしょ?

 今、あたしは神の意思にこの体をコントロールされてると言えない?

 とすれば、取り憑く邪と、なにがどう違うって言うの?

「神は個人に関わることなどしない。降臨した者の人生に口出ししない。邪は違う。邪は取り憑いた者になり変わる」

 じゃあ、取り憑かれた人はどうなるの?

「邪の生まれ変わりとして生きてゆくことになる」

 それは大変。取り憑かれなくする方法はあるの?

「ない」

 じゃあ、騒いだって仕方ないじゃない。

「そのとおり」

 え?

 あたしの頭の中に声が響いた。

「騒いでも邪が消えるわけではない。人間がこの世に生を受けて、己の人生を全うすれば邪など残らない。けれど、それは人の問題。神の関与することではない」

 男の子が言った。

「次に遺恨を残さぬようにしなければならない。魂がいつまでも彷徨うことのないよう、遺恨を取り除いてやる。それがくにを安定させると考えたのは伊予のくに神」

 反論?

 あたしの中の神さまは、それ以上、なにも言わなかった。


 ワンワンワン。

 シロが吠えた。我に返った。

 目の前にいたはずの男の子がいない。

 周りを見回すと、向こうに走ってゆく姿が見えた。

 トレーニングしているんだろう。子どもの頃から、走る姿をよく見ていた。黙々と取り組む姿勢はいつも褒められていた。


 犬に引っ張られながら、住宅街を歩いた。池のほとりに出た。夕陽が射している。

 神社の前のベンチに腰掛け、シロの紐を放した。

 シロが自由に駆ける。気ままに駆けられるから、この神社がシロは好きだ。

 ?

 巫女さんの姿が見えたような気がした。

 お社に誰かいる?

 おかしいな。この神社、宮司とかいないのに。

 シロが駆け戻ってきた。お社を覗いてみた。人の姿など見えない。

 気のせいだったんだろう。あたしはシロを連れて、家に戻った。

 なんだか変な誕生日だった。

 主役のはずだったのに、他の主役の幸せを見せつけられて、ばかみたい。

 帰ってきたら帰ってきたで、あたしにはなんの関係もない話に参加させられる。

 今日は疲れた。


 お夕飯を軽く済まして、お風呂に浸かった。

 体を洗っていると、鏡に映る華奢な身体が目に入った。

 なんだか直線的だなあ。肉感のない腕、貧弱な胸。

 それに引き換え。衣通子ちゃんのふっくらした曲線的な身体。

 もうやだ。

 あの子のいいところばかりが目につく。あたしには劣等感しかない。


 毎朝、肩を並べて登校してくるひと組の男女。背の高いイケメンさんに寄り添う黒縁メガネをかけた地味な女の子。

 初めて見たのはいつだったか。白いカッターと白い半袖のセーラー服。同じクラスの地味な女の子があんなイケメンさんとつきあってるんだと思った。高校ってすごいなあと単純に感心して、あたしにもああいう素敵なカレシができるんだろうかと思ったっけ。

 それから、なんとなくあの子のことが気になって、でも席が離れてることもあって、話しかけることもできずにいた。

 二人は毎日毎日揃って登校してきた。そこにはなんの緊張感もなかった。恋の駆け引きをしてるようにも、背伸びして自分を良く見せようとしてるようにも見えなかった。どころか、教室の中でも見せない笑顔や、隙だらけの表情を、あの子はイケメンさんに向けていた。あれがあの子の素顔なんだ。それをこれまた素直に受けるイケメンさん。

 そんな二人の世界に、同じクラスの女の子が割って入ることがある。普段からあの子と親しいグループの女の子。イケメンさんに気があるのは間違いない。そんなとき、あの子は迷惑そうなかおをしない。揺るがない二人の世界に絶対の信頼と自信を持ってる。

 同じことはイケメンさんにも。二年生のお友だちが二人に乱入しても、ごく自然に受け流している。まるで二人が一体となって周囲と対しているかのよう。


「ちょっとそのままにしてて。動かないでよ」

 上靴に履き替えているとき、聞き覚えのある声がした。そちらを向くと、あの子がイケメンさんの左隣にしゃがんで、針と糸を取り出していた。制服のズボンのどこかが裂けたのか、立たせたまま縫っている。その真剣な眼差しと、所在無げにじっとしてる男の子の無垢な表情。あの子は最後に糸を歯で切った。

「はい、できた。もういいよ」

 あの子は立ち上がると、何事もなかったかのように一人その場を後にした。イケメンさんもまたすぐに立ち去った。そばにいた男子生徒何人かが羨ましそうな表情を見せてたっけ。


 登校するのは一緒なのに、下校時には一人でさっさと帰るあの子。それも不思議だった。部活もせず、何を急いでどこに行く? 塾? それはない。だって天下の媛高は課題をこなすだけでも半端じゃないから。朝はいつもペアで登校する二人が下校時にはバラバラ。学校でも二人が一緒にいることはほとんどない。暇さえあればベタベタくっついているありふれたカップルよりも、よっぽど深い絆で繋がっているんだと感じていた。


 兄妹だったから

 と聞いて、納得はした。あんなに自然なのも、小さい頃から毎日毎日寝起きを共にしていれば、当然のことなんだろう。

 でも。

 兄妹って、みんなあんなに自然で仲がいいのかな。一人っ子のあたしにはよくわからない。

 お友だちの中には、「あのバカ」扱いで兄を罵倒する妹はざらにいたし、中には「変態」と毛嫌いする妹もいた。家族や兄妹にもいろいろあるってことなんだろう。

 びっくりしたのは、あの子が家事を一手にしてるってこと。

「いつも帰るの早いよね、習い事でもしてるの?」

「ううん、お夕飯の準備あるから」

「お夕飯? え? そとちゃんってお夕飯作ってるの?」

「うん、うち、お母さんいないから」

 そうなんだ。

「お弁当も作ってるの?」

「うん、二人分」

 二人分?

「お兄ちゃんのも、ね」

 あのイケメンさん、毎日、この子にお弁当作ってもらってるんだ。

「タッパーに二合ぐらいご飯詰めてるんだよ」

「二合? すごいね。お兄さん、そんな食べるんだ」

「食べるっていうか、食べさせられてるの、部活で」

「部活? お兄さんって、水泳部だったっけ?」

「そ、身体作るのに食べさせてくださいって、顧問の先生に言われて」

「水泳部の?」

「うん、一昨年の四月だったかな」

「一昨年?」

「うん、水泳部の保護者会があって、そのとき言われたの」

「保護者会? そとちゃん、保護者会に出たの?」

「そだよ」

「だって、まだ中学生だったでしょ」

「そうなのよ。わたし一人だけ子どもでね、もう場違いもいいとこ。お父さんが忙しくて、代わりに出てくれって言うもんだから。まあ、高校の下見にはちょうど良かったんだけどね」

 あの子はそう言ってころころと笑った。

 お弁当を見せてもらうと、おかずが何種類も入っていて、手が込んでいる。

「昨日の残りがほとんどだから」

 なんて言ってたけど、つまりはお夕飯の中身が充実してるってこと。だから、早く帰るんだ。栄誉バランスとかも考えているんだろうな、きっと。


 こんなことも言ってた。

「前にね、お兄ちゃん一人で家に三日ほどいたことがあったんだけど、その間、なに食べてたと思う?」

「なに食べてた? ご飯と・・・」

「ご飯なんて炊かない炊かない」

 もう、わたし、びっくりしちゃった。スーパーでパン買ってきて、ジャムつけて食べてたって言うのよ。

「え? 三食とも?」

 そう、夜はカップ麺も食べてたって言ってたけど。

「じゃあ、お肉とか野菜とか足りないよね」

「そう、そうでしよ!」

 炭水化物ばっか。たんぱく質もビタミンもあったもんじゃない。せめて野菜ジュースぐらい飲んでよねって思うでしょ?

「食べるほうだけじゃないのよ。洗濯物は溜まっちゃってるし、それも聞いたら、洗濯機の使い方がわからなかったとか言うし。でも、掃除機は使えるからって、部屋はきれいなの。笑っちゃうでしょう」

 もう、わたしがいなかったら、あなた、生きていけるのって言ったの。そしたら、なんとかなるだろって。なるわけないじゃないよね、そんなの。

 ごはん作って食べさせたら、「うまい、うまい」言って、うはうは食べてるの。

「そりゃ、ジャムパンと比べりゃ、なんだっておいしいわよね。もう、わたし、ため息つきまくりだったんだから」


 話を聞きながら、暖かい眼差しを向けているそとちゃんの姿が目に浮かぶようだった。こんなできた妹なら、あのイケメンさんが優しいのも当然だと思った。

 でも、あの子を一生懸命にさせるお兄さんは、やっぱりステキな人なんだろう。でなきゃ、あの子だってそこまで力を入れることはないはず。


 羨ましいな、そとちゃん。

 結局、あの子のいいとこばかり増えるだけで、ため息しか出ない。

 はーあ。もう寝よ。

 お風呂から上がると、髪をブォーブォー乾かして、パジャマを着た。ミルクをひと口飲んで、部屋に戻ると、そのままベッドにもぐりこんだ。

「ほんと、きれいだったなあ」

 ホテルで見たそとちゃんの姿が目に浮かんだ。あんなきれいで、品があって、知性を感じさせるのに、包みこむような笑顔。あのとき、レストランにいた多くの人が、ちらちらとあの子を見ていた。

 二人がレストランを後にするとき、そとちゃんがあたしに手を振ったのを、お母さんが目ざとく見ていた。

「お友だち?」

「クラスの子」

「きれいな子ね」

「いつもは地味なんだけど」

 ハッとある記憶がよみがえった。

「スクール水着にしろって言うんだよ」

 以前、放課後に二人でいたときのことだった。お兄さんの水泳部の話が出た流れで、泳ぎ教えてもらったりするの? と聞いた。小学生の頃から一緒にプールに行って、ひと通り教えてもらったと、そとちゃんは答えた。だから、バタフライも背泳ぎもできるらしい。

「いいお兄さんだね」

 それはいいんだけどね、と言って出てきたのが、スクール水着の話だった。

「せっかくプール行くんだから、かわいい水着くらい着たいじゃない。そしたら、そんな下着みたいな格好で練習なんかできないって言うのよ。わたし水泳部じゃないんだから、練習のためにプールに行くわけじゃないのに」

 あのとき、そとちゃんの話を笑って聞き流していた。でも、今日のあの子を見てわかった。お兄さんは妹にそんな格好をさせたら、余計な騒動が起こると思ったんだ。

「信じらんないでしょう? せっかく買ってきた水着、どこにも着ていけないから、夏休み、お兄ちゃんが一日中ずっと家にいるとき、わたしその水着姿でいてやったんだ」


 夢を見た。

 衣通子ちゃんが出てきた。船に乗っている。それも恐ろしく小さな木造船。

 船は嵐に荒れる海で激しく揺れている。容赦なく叩きつける雨と波。

 あの子はずぶ濡れになって、へたり込んでいた。何度ももどしたのか吐瀉物にまみれている。

 やがて海は平穏になったが、衣通子ちゃんは真っ赤な顔をして息も絶え絶えになっていた。

 船が湊に着いた。衣通子ちゃんが船から降ろされる。

 粗末な小屋に担ぎ込まれた。その頬はげっそりとこけ、見るかげもなかった。

「もうこれ以上は無理です」

 周囲が制するのに、衣通子ちゃんは「わたしは行かなければならないの」とよろよろ立ち上がった。

 そして再び船に乗った。

 今度は日照り。じりじり照りつけるのに、水が乏しい。

 朦朧となって揺れる船に突っ伏している。

 もう、ぼろぼろ。

 だめだよ、助けてあげなきゃ。


 そこで目が覚めた。

 大きなため息が出た。

 あたし、なんて夢見てんだろ。

 衣通子ちゃんのことが羨ましすぎて、やっかみがこんな夢を見させたのかな。

 ああ、あたしって、最低な人間だ。人の幸せな姿を受け容れられないなんて。

 ?

 窓の外、カーテン越しに光が流れたように感じた。

 なんだろう。

  ベッドから立ち上がって、カーテンをそっと少しずらした。光が見える。神社の方だ。

 ?

 違和感を覚えて、目覚まし時計を見た。針が止まっている。世界から音が消えていた。

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