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第43話 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだって言ったやつ出て来い!(5)


 戸惑って立ちつくすてるみちゃん。

 そんなてるみちゃんに、僕は断言した。


「だから、愛されていたんだよ。てるみちゃんは、矢崎に本気で愛されていた。矢崎だけじゃない。今も昔も、みんなてるみちゃんが大好きだった。てるみちゃんは確かに、誰からも愛されていたんだよ」


 少し冷たい風が吹き抜けて、チラチラと白い雪が空から落ちてきた。

 3月の雪。

 あのときと同じ雪。


 遠い記憶。

 チラチラと雪の降る夜を、1人でポツリと何時間も立ちつくしていた。

 てるみちゃんを待ち続けて、1人きりでずっとずっと立ちつくした夜。

 結局てるみちゃんは現れなかった。


 あの時言えなかった言葉。

 今なら言える。

 今こそ、伝えなければいけない。


 てるみちゃんが好きだったのは、サークルのみんなや矢崎だけじゃない。

 僕も大好きだ。

 誰にも負けない。

 僕こそ、誰よりもてるみちゃんのことが大好きなんだ。


「雪。あのときと同じ雪…」


 てるみちゃんがつぶやいた。

 まるで僕の考えていたことを読み取ったかのように。


「全部、紫音のせいだ。あの時、私はずっと待っていた。ずっと待っていたのに。でも、紫音は現れなかった」


 不意につぶやいた、てるみちゃんの意味深な言葉。


 え?何の話?

 ずっと待っていたのは僕の方。


「寒い夜だった。こんな風にゆっくりと雪が降っていた。フェアウェルパーティーとかいう最後の飲み会の後。あの日、私は紫音のことをずっと待っていたんだよ。最後だから気持ちを伝えようと思って、紫音のことをずっとずっと待っていた」


 ウソだ。

 だって、あの日、僕はずっとてるみちゃんのことを待っていたんだから。

 てるみちゃんがいつも帰っていく正門の前で、ずっと待っていたんだから。


「でも、紫音は現れなかった。悪い言い方だけれども、私から逃げたんだと思った。私に会いたくないんだと思った。そのせいかもしれない…なんてね」


 冗談めかしたけれど、悲しい目をしたてるみちゃんの本音。


「違う!違うよ!あの日、ずっと待っていたのは僕の方。あの飲み会の後、てるみちゃんがいつも帰っていく正門の前でずっと待っていたのは僕の方だよ。こんな風に雪が降っていた。1人で立ちつくして、終電がなくなるまで、いや、終電がなくなってからも僕は1人でてるみちゃんをずっとずっと待っていたんだよ」


「えっ?ウソだよ。だって、私はあの日、ちゃんと気持ちを伝えようと思って、紫音をずっと待っていたんだから。いつも紫音が帰っていく裏門の前で、ずっと紫音を待ち続けた…」


 本当に驚いた顔をしているてるみちゃん。

 多分、僕もこんな顔をしているんだと思った。


 あの日、僕はてるみちゃんがいつも帰っていく正門の前で待ち続けて…。

 てるみちゃんは、僕がいつも帰っている裏門で待ち続けて…。


 えっ?正門と裏門?

 もしかして2人は行き違った?


 顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出した。


「おかげでその後、僕は3日間も風邪で寝込んだんだよ」

「私なんて、1週間は寝込んでいたんだから。インフルエンザだった」


 なんだよ?

 僕たちは2人して何をしていたんだろう?

 あれから3年。僕たちは何をしていたんだろう?


「そうだ。全部てるみちゃんのせいだ。その日から僕はちょっとでもいいなと思ったら、誰にでも告白するようになったんだからね。もう2度と後悔したくなかったから。こんな中途半端なままもう2度と終わらせたくなかったから。おかげで今の職場は針のむしろになっちゃったけれどね」


 てるみちゃんは笑っていた。

 泣き笑い。

 楽しそうで、悲しそうで…。


「私だって、それからは自分から男の人の気をひくようになって。そのうちみんなを独占しなければ気がすまなくなって…」


 てるみちゃんはまた泣き出した。


「どうして?私たちは何をしていたんだろう?どうしてこうなっちゃったんだろう?」


 僕にはかける言葉が見つからない。

 ちょっとしたボタンの掛け違い。

 そんなものですまない。

 僕たちにとっては、核ミサイルのボタンを間違えて押してしまったくらいの取り返しのつかない間違い。


 寒い夜。

 僕は何も言わずにてるみちゃんをそっと抱きしめた。

 てるみちゃんの体は思ったより冷たかった。


「おしまい。これでおしまいだね。でも、ありがとう。紫音に会えてよかった」


 ずっとてるみちゃんは、そう言っているような気がした。


 イヤだ。

 イヤだ、イヤだ。

 こんなんで終わらない。

 終わりになんて出来ない。


 恋愛は最後はハッピーエンドで終わるものなんだから。

 どんなことをしてでも2人には幸せなエンディングが待っているんだ。

 だって、愛の力は絶対なんだから。


 少しかがんで、てるみちゃんと視線を合わせた。

 伝えなければならないこと。


「無理をしなくていいよ。てるみちゃんはみんなに愛されていたんだ。そのままで、てるみちゃんは誰からも愛されていたんだ」


 自信を持って言える。

 みんなこんな女の子を好きにならないはずがない。


「でも負けない。これだけは誰にも負けない。てるみちゃんのことは、僕が1番好きなんだ。最初から最後まで、僕はありえないくらい、ずっとずっとてるみちゃんのことが好きだった。いや、今でも大好きです」


 感覚が研ぎ澄まされて、あたりの雑音が聞こえなくなる。

 見えるものは目の前のてるみちゃんだけ。

 きれいなその顔だけ。


「ありがとう。それで十分。私は幸せだった。生まれてから今までで、1番幸せ。最高に幸せ」


 十分じゃない。

 これで終わりなんかじゃない。

 僕は十分じゃない。

 僕にとってはこれで終わりなんかじゃない。

 これが始まりなんだから。


 覚悟は出来ていた。

 どう考えてもこれ以外の答えが見つからなかった。


 だからてるみちゃんの目を見つめたまま、続けた。


「僕の人生は、そばにてるみちゃんがいた方が楽しい。数十倍、数百倍…断然楽しい。ううん、てるみちゃんのいない人生なんて、考えられない」


 あのときからずっと心にあった言葉。

 ずっと言えずにいたけれども、出会ったときからずっと思っていた僕の本音。


「だから、ずっと一緒にいてくれませんか?この先の人生は、ずっとてるみちゃんと一緒にいたい。いや、なんと言われても一緒にいる」


 まっすぐに目を見て宣言した。

 もう絶対離れない。


 てるみちゃんは今までで1番驚いた顔をしていた。

 長い間、時間が止まったように、2人とも動かなかった。


「無理だよ…。もう遅いよ…」


 ようやくポツリとてるみちゃんがつぶやいた言葉。


「無理なんてない。恋に無理なんてないよ。だって、愛の力は絶対なんだから。僕は何年後だって、ずっとてるみちゃんを好きでいる。自信がある」


 だって、てるみちゃんに会えなかった、この3年間もずっと好きだったから。


 ちらついている白い雪。

 その景色に浮かぶてるみちゃんの泣き笑いが、まるで写真のようににじんできれいだった。


「もうイヤなんだ。あの時から、てるみちゃんと会えなくなったあの時から、僕の時間は止まったままだった。比喩じゃないよ。てるみちゃんに会えた瞬間から、やっと楽しい時間が始まった。だから、もう戻りたくない。どんなに時間がかかっても、最後はてるみちゃんと一緒にいる」


 僕の中で決めたこと。


 思えば初めててるみちゃんと出会ったあの日。大学の部室。

 あの時から、僕の人生の時間は動き始めたんだ。


 大学には格好いいやつがたくさんいて、居場所もない僕はどうしたらいいのかも分からなくて。

 そんな時、隅っこで目立たないようにせっせとお菓子を取り分け、みんなに気を配り、片づけをしているてるみちゃんを見ていた。


 ただ自由に生きていた僕とは、正反対の生き方。

 目立たないけれど、それはひっそりと咲くけなげなカスミソウで、その時の僕にとってはまぶしいくらいに咲き誇るヒマワリで、誰よりもきれいなバラの花だったんだ。


「おつかれさま」


 てるみちゃんのコップに飲み物を注ぎながら、この人は本当にすごいと思った。

 大げさだけれども、僕にもこんな生き方なら出来るんだろうかと、横に座って一緒に片づけをしてみた。

 目立たないけど、さりげなく人の役に立つ生き方。


 誰かが落ち込んでいるときに、無理に明るく励ましているてるみちゃん。

 何かが足りないときに真っ先に買いに出かけるてるみちゃん。

 その後を追いかけて、少しづつ自信を持ち始めて、そうしたら僕の周りに人が集まり始めて、いつの間にかいじられ役も板についてきて。


 だから僕の大学生活は楽しかったんだ。

 てるみちゃんのおかげで、楽しかったんだ。


 だから、もうイヤだ。

 こんなすれ違いは、これ以上イヤだ。


「ごめんよ。今の僕はまだ刑事になったばかりで、何の力もない。僕には大好きなてるみちゃん1人守れない」


 驚いた表情で、てるみちゃんが僕を見ていた。


「でも、きっとなんとかしてみせる。きっと、なんとかなる。エリート刑事になって、えらくなって、ルールごと変えてやる。てるみちゃんが罪になんて問われないルールを作ってやる」


「無理だよ…」


「いーや、絶対出来る。今すぐには無理でも、何年かかっても、何十年かかっても、てるみちゃんを助け出す。だって、愛の力は絶対なんだから。恋愛はハッピーエンドで終わるものなんだから。それに、エリート刑事になったらモテモテでウハウハだよって言ったのは、てるみちゃんの方だからね。だったら、責任取れよな。僕はたった1人の大切な人にモテモテでウハウハになりたい。たった1人大切なてるみちゃんにモテモテでウハウハな生活を送りたい」


「だから、自首してくれないかな。僕にてるみちゃんを逮捕するなんて出来ない。出来るはずがない。だから…だから、自首してくれないかな」


 考えて、考えて、それでもこんな結末しか思い浮かばなかった。

 僕はダメな刑事で、それ以上にダメダメな人間で。だから大好きなてるみちゃん1人守れない。

 でも…それでも…。


「たとえいつになっても、いつまでかかってもてるみちゃんを待ってるからね。ずっと好きでいる。たとえ何年後でも、てるみちゃんを迎えにいく。だから、ちゃんと待っていろよ」


 僕が決めたこと。

 誰にも、たとえてるみちゃんにも文句は言わせない。


 刑事と殺人犯?

 それがどうした?

 愛の力は絶対なんだ。

 いつになるかは分からないけれど、2人はいちゃいちゃしながら幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。って最後はハッピーエンドになるんだから。


「ひどいよ…」


 てるみちゃんの表情が崩れた。

 無理に笑おうとしていたてるみちゃんの泣き顔。

 泣いているのに、なぜだか幸せそうに見えた。


「ひどいよ、紫音。紫音はいつも自分で決めてばかり。勝手に決めてばかり…」


 あの時と同じ、白い雪。

 すれ違い続けた2人の気持ち。

 やっとつながった気持ち。

 あの時と同じくらい寒くて冷たい日だけれど、あの時と一緒じゃない。

 もう同じことは繰り返さない。


「今までも、これからも、僕はずっとてるみちゃんが好きだ。大好きだ。ずっとずっと変わらない」


 ちいさなてるみちゃんの体を抱きしめる手に力をこめた。

 最後になるなら…いや、最後になんてしない。

 必ずいつか迎えに行くんだ。2人で幸せになるんだ。


 ロミオとジュリエットになんかしない。

 ラブストーリーは最高のハッピーエンドで終わるのが鉄則だからね。


 よし、バリバリ仕事して、エリート刑事になるぞー!

 で、てるみちゃんの刑を少しでも軽く出来るようなシステムを作ってやるぞー!


 本気だよ。

 無理だって?

 そんなことはないね。

 だって、愛の力は絶対なんだからね。


「信じてる」


 小さくてるみちゃんがつぶやいたような気がしたのは気のせいだろうか。


 光のパレードは最高潮。

 きっとこの日を僕はいつまでもいつまでも忘れない。



ラストへのカウントダウン!

のこり1~2話で本当におしまい!


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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