表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/45

第42話 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだって言ったやつ出て来い!(4)


「ごめんね。多分、私は弱かったんだ。ずっと自分に自信がなかったんだ」


 てるみちゃんのか細い声が、冷たい空気に響いた。


 どうして?

 そんなにかわいくて、性格が良くて、気がきくのにどうして?


「自分は誰からも愛されない。誰にも気にとめられていないってずっと思っていた。自分は脇役。ずっと脇役」


 そんなことない!

 てるみちゃんはみんなに愛されていたんだよ。

 ずっと主役だったんだよ。


「だからあのとき。部室の隅で手持ち無沙汰にちょこんと座っていた私に、初めて紫音が話しかけてくれたとき、うれしかったんだよ」


 覚えている。

 ウェルカムパーティーとかいうおしゃれな言葉ではイメージできない、汚い部室でのただの飲み会。

 かわいらしく座っていたてるみちゃんは、そのときからお菓子を取り分けたり、紙コップを配ったりとせっせと人のために働いていた。


「だから、ごめんね。こんな結果になってごめんね。でも、幸せだったんだ。最後に紫音と過ごせた日々が最高に幸せだったんだ。だから、ありがとう。もういいよ。思い残すことなんて…ない…」


 消え入るように小さくなるてるみちゃんの声。


 幸せだった?

 どうして過去形なの?

 僕はまだまだ思い残すことばかりだぞ。

 まだまだてるみちゃんと行きたい場所なんて、いっぱいある。

 てるみちゃんとやりたいことも、たくさんある。

 てるみちゃんと一緒にいたい。

 ずっと一緒にいたい。


 考えろ。

 どうにかしててるみちゃんとの幸せが続く方法を考えるんだ。

 何かある。

 絶対にある。

 だって、愛の力は絶対なんだから。


 時空を捻じ曲げてでも、2人は幸せになるんだ。

 それが恋愛の鉄則なんだから。


 長い時間。

 ずいぶんと考えた。

 必死で方法を考えた。

 それでも、出てこない。

 ハッピーエンドはやってこない。

 どうして?

 なんて無力な自分…。


 でも、僕にはひとつだけ、確実にてるみちゃんに言えることがあった。


「てるみちゃんはずっとみんなに愛されていたんだよ。誰からも愛されていたんだよ」


 のどの奥から声を絞り出した。


 自信を持って言えること。

 あの頃だって今だって、てるみちゃんは愛されていた。

 みんなから愛されていた。

 誰からも愛されていた。


「あの頃、大学時代のサークルにはさわやかで格好いい男や、華やかできれいな女の子はたくさんいて。彼ら、彼女らのまわりはひときわにぎやかだった。でも、それがすべてじゃないんだよ。僕みたいに気後れして、隅にひとりでちょこんと座っている男もいっぱいいたんだ。そんな僕らもてるみちゃんはいつも気にかけてくれた」


「だから、僕のまわりではてるみちゃんは大人気。僕も含めててるみちゃんファンしかいなかったよ。確かにサークルの中心にいるメンバーではなかったかもしれない。でも、てるみちゃんは確かに僕らに愛されていたんだよ」


 サークルのマドンナ的存在。

 そんな華やかさはない。

 でも地味でも、地味だからこそ愛される存在。


「それから矢崎。矢崎は確かに覚せい剤の売買に関わっていた。でも、彼はその組織を抜けようとしていたんだんだ。文字通り、命を懸けてまで、足を洗おうとしていた。なぜだろう?彼は本気でまじめに生きたいと願ったんだ」


 言わずにいるつもりだった矢崎の気持ち。

 でも、今は伝えずにはいられない。

 言わないほうがいい?

 いや、今ならもう覚悟が出来ている。


「おそらく、いや間違いなく、てるみちゃんが大切だったからだよ。矢崎はてるみちゃんと付き合って、本当に好きだった。だから、真人間になってまじめに暮らしたいと思った。それで組織から抜けることを決めたんだ」


「もちろん、そんなに簡単にいくはずがない。危険だ。最悪、殺されることもありうる。それは矢崎にも分かっていた。だからまずてるみちゃんに別れを告げて、遠ざけた。てるみちゃんを危険に巻き込むわけにはいかないから。そのうえで、組織と取引をして足を洗おうとしたんだね。結局は殺されてしまったわけだけれども」


「てるみちゃんに預けたUSBメモリ。あれは覚せい剤売買の顧客データなんだ。矢崎はそれをネタに組織と取引をしようとした。簡単に言えば、組織を脅した。そして、自分が足を洗うことを要求したんだ。もちろん、危険極まりないことだよ。命さえ落としかねない危ない賭けで、実際に殺されてしまった。でも、彼はそこまで危険なことをしてでも、本気でまじめに生きたいと願ったんだ。てるみちゃんと一緒に、まじめに生きたいと願ったんだ」


「矢崎が預けたUSBメモリ。大事な顧客データの入ったUSB。それを矢崎は一番大事な人に、てるみちゃんに預けた。もちろん、そんな大事なものを預けっぱなしにするはずがない。だから、矢崎はすべてが終わったら、再びてるみちゃんの元へと取りに行くつもりだったんだろうね。組織を抜け、すべて片付いたら、一緒にまじめに生きていきたいと思っていたんだと思うね」


「結局、矢崎は捕まって、拷問されたうえで殺された。それでもUSBメモリのありかは言わなかった。どれだけ拷問されても、てるみちゃんに渡したUSBメモリのことは白状しなかった。好きだったから。それだけてるみちゃんを守りたかったから…」


 矢崎の気持ち。

 そこまでの危険を冒してでも、組織を抜けようとした理由。

 今なら僕には分かる。


「そんな…」


 そう言ったきり、てるみちゃんはその場に立ち尽くしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ