表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/45

第41話 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだって言ったやつ出て来い!(3)

 みさきさんを殺したのは自分…そう告白した、てるみちゃんは悲し気に笑顔を見せた。


 ええーーーーーーーーーーーーーっ!

 そんなはずはない!

 そんなことがあるわけない。

 あるはずがないだろっ!


 だって、てるみちゃんはあのてるみちゃんだ。

 天使で、誰にも優しくて、かわいくて、笑顔で、一生懸命で、人のことばかり考えて、懐かしくて、たまにドジで、お茶目で、控えめで、よく気がついて、いやな顔ひとつしないで、我慢強くて、いつもおどおどキョロキョロしていて、おいしそうにお菓子を食べていて、時々寂しそうで、でも僕が見るとにっこり笑ってくれて…。

 そのてるみちゃんは今にも泣き出しそうで、今にも泣き出しそうで、今にも泣き出しそうで…。


 うそだー!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!


 そんなことはありえない!

 そんなはず絶対にない!

 だって、てるみちゃんはてるみちゃんだ。

 殺人?そんな言葉、てるみちゃんの存在する世界にはありえない!


「やっぱり聞き間違えたらしい。頭がおかしくなったのかな。殺伐とした話ばかりしていたからだね。ごめんね。きれいなパレードだね(←現実逃避中)」


 信じない!

 だってウソだから。

 これは夢だ。夢なんだ。

 夢の国に来ているからね。

 当然、夢のような出来事の1つや2つ普通に起こるよね。


 てるみちゃんは逆に驚いたように僕を見ていた。


「分かっていなかったの?犯人は矢崎さんに近づけて、みさきさんにも身近な女性。複雑なコンプレックスを持った女性。私のことじゃない。私が犯人だって分かっていたんでしょう?でも、優しい紫音にはそれが言えなかった」


 違う!違う!

 そんなことはありえない。

 てるみちゃんが犯人だなんてありえない。


「……。ジョークだよね。これはきっと冗談だ。ドッキリ?無理だよ。てるみちゃんが犯人だなんて笑えない」


 てるみちゃんは張り付いた笑顔のままで、静かに横に首を振った。


「だって、てるみちゃんが瀬戸みさきを殺すなんて。そんなはずがないよ。きっと勘違い。そうだ、てるみちゃんには、新宿で焼肉を食べていたというアリバイだってあるじゃないか」


「そのアリバイはもう崩れたって、たった今、紫音が教えてくれたよね」


 そうだった。

 殺されたのはあのアパートじゃない。

 新宿で矢崎にみさきが殺せるのなら、てるみちゃんにだって殺せる。

 ああ、僕のバカ。

 こんな完璧なアリバイを見破ってしまった僕のバカ!


 そうか、矢崎のアリバイを証明してくれたてるみちゃん。

 あれは矢崎のアリバイを証明すると同時に、自分のアリバイを示したことになるのか。

 だからわざわざ教えてくれた。


 違う!違う!

 どうしててるみちゃんが犯人という考えになってる?

 てるみちゃんに人を殺せるわけがないだろ!


「てるみちゃんが犯人だなんてありえない。だって、てるみちゃんには瀬戸みさきを殺す理由がない」


「ううん。矢崎は私に別れを告げて、私の元を去っていった。そのあとすぐにみさきさんと矢崎のうわさが私の耳に入った。勝手だよね。矢崎のことは別にそこまで好きでもなかった。好きでもなかったくせに、自分の元を離れる矢崎が許せなかった。どうかしていたのかな。私は誰であれ、私を裏切る人間を許せなくなっていた」


 淡々と自分の殺人を話すてるみちゃん。

 ちがーう!

 僕の知っているてるみちゃんに、人なんて殺せない!


 1つ1つ反論、告白されて追い詰められた僕。

 どうして?

 どうしてこんな結末になるんだ?


 他人のことばかりいつも心配していたてるみちゃん。

 そんなてるみちゃんが殺人?

 ありえない!

 うそだ!!

 何かの間違いだ!!!

 そう、間違いに違いない…。


「違う!それでも違う!だって、てるみちゃんに人なんて殺せない。僕の知っているてるみちゃんに人なんて殺せない」


 泣き声になっていた。

 最後の抵抗。

 論理のかけらもない感情論。

 目からはとめどなく涙が溢れ出して、ほとんど絶叫するように叫んでいた。


 てるみちゃんの表情が初めて崩れた。

 無理に作った笑顔がゆがんで、はっきりと泣いている顔に変わった。

 悲しい顔。

 見せたことのない表情。

 てるみちゃんはその場でしばらく泣いていた。


「きっともう、紫音の知っている私ではないんだ。あの頃の私ではないんだ」


 消え入るような小さな声。

 それでもてるみちゃんはもう一度僕の目を見て言った。


「それでも…それでももう一度紫音に会えてよかった。逮捕されるのが紫音でよかった」


 いやだ!

 そんなのいやだ!

 それでも何かの間違いだ。

 こんな結末、受け入れない。

 絶対に間違いにしてやる。

 だって、愛の力は絶対で永遠なんだから。


「てるみちゃんの勘違いだよ。きっと何か記憶が混乱しているんだね。てるみちゃんは殺人なんてしていない。あれは矢崎がやったんだよ」


 そうだ!そう思い込もう。

 これでみんなハッピー!

 誰も傷つかないよね。


 てるみちゃんは静かに首を振った。

 もう無理だよ。

 そう言っているようだった。


 どうしよう?

 考えろ!

 力ずくでもハッピーエンドに持ち込む方法を考えるんだ。


 そうだ。今こそ刑事の技術の見せ場だ。

 殴ってでもてるみちゃんの記憶を変えて見せるぞ。

 今回の殺人は矢崎の犯行。

 それでハッピーエンドになるんだ。


「いーや!それでもてるみちゃんの勘違いだ!そうだ!ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。僕が殴ってでも、てるみちゃんの記憶を変えてみせるから」


 笑ったような、困ったようなてるみちゃんの顔。

 僕はてるみちゃんを殴ろうとして…殴ろうとして…殴ろうとして、でも出来なかった。


 だめだ。

 僕にてるみちゃんを殴るなんて出来るはずない。


 どうしよう?

 どうすればいい?

 てるみちゃんと目が合った。

 てるみちゃんは静かに首を振った。


「無理だよ…。もう無理だよ、紫音。ごめんね。それからありがとう。お手数おかけしました。これでいいのかな。最後に刑事さんに逮捕される犯人の言葉…」


 てるみちゃんは無理におどけてみせた。

 最後の力で作り出した笑顔。


「もう一度言わせて。紫音に会えてよかった」


 終わった。

 どうして?

 どうしてこうなった?


 つらい。

 つらすぎる。

 刑事がこんなにもつらいお仕事だったなんて。


 誰だよ?

 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだとか言ったやつは?

 モテモテでウハウハどころか、目の前にいるたった1人の女の子すら幸せにできないじゃないか。

 僕はたった1人の女の子にだけ、モテモテでウハウハでいられたら、それでよかったのに。

 目の前にいるたった1人のてるみちゃんさえ幸せに出来れば、それでよかったのに。


「エリート刑事になったらモテモテでウハウハだとか言ったやつ出て来い!」


 思わず叫んでいた。


「えっ?」


 その言葉を聞いて、てるみちゃんが顔を上げた。驚いた表情。


「それ…私だ」


 少しうれしそうなてるみちゃんの声。


「覚えてくれてたんだ。エリート刑事になったらモテモテでウハウハだよ、って紫音に言ったの、私だよ」


 遠い記憶。

 思い出した。


 大学生の時のこと。

 決してきれいとはいえない部室の片隅。

 まだ化粧気ひとつない素朴なてるみちゃん。

 2人して座って話した将来。


「紫音みたいな人が刑事さんだったらいいなあって思うよ」


「本当に?でも、刑事ってモテるかなあ」


「大丈夫。きっとエリート刑事になったらモテモテでウハウハだよ」


 そうだ。

 てるみちゃんだ!

 あの時のてるみちゃんのせいで、僕は刑事を目指したんだ。

 それなのに…。

 それなのにてるみちゃんのせいで、僕の夢は消えようとしている。


「そうだ!てるみちゃんのせいだ。てるみちゃんの一言で僕は刑事になろうとして、公務員試験の勉強を始めて…」


 全部てるみちゃんのせいだ。

 てるみちゃんの一言で僕は刑事になったんだ。

 それなのになんでこんなことに…。


「全部てるみちゃんのせいだ。てるみちゃんがエリート刑事になったらモテモテでウハウハだよ、なんて言うから、刑事になった僕は毎日係長のボディーブローに悶絶し、頭から熱湯をかけられて、ナイフに追い回される日々を送る羽目になっているんだ」


「ん?ボディーブロー?熱湯?それ、刑事に関係あるの?」


 警視庁での過酷な僕の日常(?)は、てるみちゃんには伝わらないらしい。


「でもうれしい。こんなときに不謹慎かもしれないけれども、でもうれしい。紫音が私と話したことを覚えていてくれたのがうれしい」


 てるみちゃんの笑顔。

 その瞳からは次から次へとあふれ出る涙。


 そうだ。

 それだけじゃない。

 あの頃2人で話したこと。


 映画を見るなら恋愛映画。

 ゲームセンターのクレーンゲームの話。

 水族館、テーマパーク…。

 全部てるみちゃんと話したことだ。


 映画、ゲームセンター、水族館、テーマパーク。

 僕が女の子とデートで行きたかった場所。

 僕がてるみちゃんとデートで行きたかった場所。


「思い出したよ。映画もゲームセンターも水族館もテーマパークも…。全部あの頃てるみちゃんと話した話だ。あの頃てるみちゃんがしていた話だ」


「そうだよ。だからうれしかったんだ。紫音が私の話を覚えていたことが、なによりうれしかったんだよ。ううん、それだけじゃないよ。身長に血液型、誕生日。キャベツが好きなのにレタスは嫌い。ソフトクーリームは好きなんてことまで覚えていてくれて、本当にうれしかったんだよ」


 僕たちはあの頃のように今でもいつまででも話せる。

 ずっと一緒に話せる。

 そう思っていたのに。

 そう信じていたのに。


「ありがとう。紫音に会えてよかった。あ、また言っているね。でも、もうおしまい…」


 てるみちゃんが目を伏せた。

 おしまい?

 いやだー!

 いやだ!いやだ!

 やっと会えたのに。ようやくまた一緒に話せるようになったのに。


本物の(?)クライマックス突入中!

終わりは近い!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ