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第40話 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだって言ったやつ出て来い!(2)


 そう、僕はすでに矢崎のアリバイについては、答えを見つけていたのだ。


「実はこの殺人。おかしなところが多かったんだよね。いや、おかしなところばかりと言っていい。瀬戸みさきは鉄アレイで殴り殺され、さらにロープで首を絞められて、ナイフで刺された。どうしてこんなに殺しつくす必要があったのか?さらには死亡推定時刻の午前1時。アパートでは皿投げ合戦が繰り広げられて、派手に物音を響かせていた。どうしてこんな目立つことをしたのか?普通の殺人なら、犯人は他人の注目を集めないように、こっそり殺人をしたいんじゃないかと思うんだ。それでも犯人はこんなに目立つ方法で殺人を行った。なぜ?だから、考えてみたんだ。犯人はどうしてこんなことをしたんだろうって?その理由があるんじゃないだろうかって?」


「そうしたら、思い当たった。みさきが殺された部屋には鉄アレイが転がり、使ったナイフもロープもそこにある。じゅうたんには、流れ出した血がべったり。殴られたときに頭をぶつけたと見られるテーブルまでもが、そこにあった。これを見たら、当然、殺人はこの場所で行われたと思うよね。みさきさんは、まさにこの部屋にて、鉄アレイで頭を殴られた。倒れるときに、そこにあったテーブルで頭をぶつける。さらにはロープで念入りに首を絞められ、とどめにナイフで刺されて血が流れ出たと」


「違うの?」


「今回の場合は、そう思わせることが犯人の狙い。そうなんじゃないだろうかと思ったんだ。つまり、犯人はここで、このアパートで殺人が行われたことを強調したかった。さらには皿投げ合戦までして派手な音を立てて、注目を集めた。犯人の狙いは、確かにこの場所、この時間に殺人が行われたと、思わせることにあったんじゃないだろうかと」


「もしもそうだとしたら、なぜ犯人がそんなことをしたのか?もちろん、犯行の場所と時間をごまかすためだね。つまり、実際の殺人はあのアパートで行われたわけじゃない。死亡推定時刻もあるから、犯行時間は午前1時で間違いないだろうけど、でも犯行場所はあのアパートじゃない。どこかほかの場所で殺してから、あそこに運び込まれたんだ」


「そう、鉄アレイ、ロープ、ナイフはもちろん、じゅうたんもテーブルもすべて持ち運べるものだよ。どこか別の場所でみさきを鉄アレイで殴り、ロープで首を絞めて、ナイフで刺す。それからその部屋のものすべてを、そのままみさきのアパートへと運べばいい。そういえば午前2時という少し非常識な時間、みさきが殺されたアパートの前にトラックが止まっていたという証言もあったね。あれは、みさきの死体を部屋にあったものと一緒に運んだトラックだったんだ。だから、ガラスの破片はじゅうたんの下にまで散らばっていた。当然だよね。派手に皿を投げつけたあとの部屋に、じゅうたんを敷き、みさきの死体や鉄アレイ、テーブルを部屋へと置いたんだからね」


「さらには午前1時の派手な皿投げ合戦。もちろん、これも確かにあの場所、あの時間に犯行が行われたと思わせるためのものだ。実際にはみさきは部屋にはいなかった。午前1時、みさきはどこかほかの場所で殺されていた最中だったからね。そう考えると、矢崎のアリバイは崩れるんだ。だって、みさきはあのアパートで殺されたんじゃない。矢崎は午前1時にあのアパートでみさきを殺せなくても、どこか別の場所で、例えば新宿でみさきを殺せる。そして、殺してからゆっくりあのアパートへと、みさきの死体とその他犯行に関するものを運び込めばいいんだから」


 てるみちゃんは大きな目を見開いて、驚いたように僕を見ていた。


「やっぱり紫音はすごいんだね。頭いいんだね」


 感心するてるみちゃん。

 でも、その顔色は少し青くて、元気をなくしたように見えた。


「ごめん、ごめんよ。こんな場所で殺伐とした話。うん、やめた、やめた。もっとエロエロな…ちがーう。あまーいロマンチックな話にしよう」


 あわてて話題を変えようとする僕。


 そうそう。

 今大事なのは、何よりも2人の距離を縮めることだからね。


「ううん、大丈夫。大丈夫だから続けて。矢崎さんにみさきさんが殺せた。つまり、アリバイはなくなった。それでも、矢崎さんが犯人ではないの?」


「うーん。どうしても僕には矢崎が犯人だとは思えないんだよね。やっぱり、矢崎にはみさきを殺す理由がない。動機がない。覚せい剤売買すら足を洗おうとしていた矢崎。彼がそんなときに殺人なんて犯すとは思えない」


「それにこの殺人には、もっと心の闇というのか、嫉妬とかねたみとかドロドロしたどす黒い感情を感じるんだ。矢崎のように単純な人間の殺人には思えない」


「でも、矢崎さんは殺人に使われたものと同じ鉄アレイもロープもナイフも持っていた。それは偶然なの?実際に殺人に使われたものとは違うものなの?」


「いや、そんな偶然はありえない。だから、きっと殺人に使われたのは矢崎が買った鉄アレイやナイフ、ロープなんだろうと思う」


「それでも矢崎さんが犯人ではない…?」


「そう。だから犯人は矢崎と顔見知り、それもかなり親しい人物なんだと思う。買った鉄アレイやナイフやロープをなくしたと言っていた矢崎の言葉。それが正しいのだとしたら、犯人がそれを持ち去って殺人に使ったんだ。それに犯人はきっと瀬戸みさきとも顔見知りだね。みさきは後ろから後頭部を鉄アレイで殴り殺されていた。見知らぬ人間に背を見せるというのは考えにくい。親しい間柄だと思っていい」


 そんなことを話してふと思った。

 矢崎とも瀬戸みさきとも顔見知り。

 そうしたら、犯人は僕も知っている人物なんだろうか?

 よっぽど犯人らしく見えないような人物なんだろうか?


「そう、犯人は矢崎の家から凶器を持ち出せる人物。みさきさんに恨み…いや、どちらかといえばコンプレックスやねたみのようなものを抱いていた人物…。そうすると当然顔見知りで、身近な人物で、さらにこの複雑な感情は、おそらく女だろうと思うね。きっと女だ」


 自分の考えをまとめるように独り言。

 いけない、いけない。

 てるみちゃんと最高にロマンチックなデート中に、僕はいったい何の話をしているんだ?


 夜のパレードが始まって、てるみちゃんの顔が幻想的な光に照らされる。

 しばらくの沈黙。


 てるみちゃんは、なんともいえない不思議な顔をしていた。

 泣いているような、笑っているような…。

 泣きたいのに、無理に笑顔を作っている。

 そんな表情だった。


「どうしたの?てるみちゃん…」


 僕の声も聞こえない様子で、うわのそら。


「てるみちゃん。てるみちゃーん!」


「もういいよ。うん、もう…いい」


 消え入るような小さな声で、ポツリとてるみちゃんが答えた。


 どうしたんだろう?

 あまりに事件の殺伐とした話ばかりしているから、怒っちゃったのかな。


「やっぱり紫音はすごいんだね。でも、もういいよ。紫音、紫音は優しいから、昔からずっと優しすぎたから、それ以上言えないんだよね」


 何の話?

 あれ、てるみちゃんの瞳から涙があふれているような…?


「全部分かってるんだよね。だから、もういいよ。気を使ってくれなくてもいいから」


 気を使う?

 何の話だろう?

 事件の話ばかりで、てるみちゃんを気にしていないってこと?

 そんなことないよ。

 僕はてるみちゃんしか見ていないよ。


 言葉を捜してそう言おうとした僕より先に、てるみちゃんが言った。


「そう、私なんだ。瀬戸みさきさんを殺したのは私なんだ…」


 え?瀬戸みさきを殺したのは私?

 私って誰だ???


 思考停止。

 頭の中の時間が止まって、いや、世界中の時間が止まって、てるみちゃんの言葉が頭の中を何度も何度も駆け巡る。


 瀬戸みさきを殺した私。

 てるみちゃんはきれい。

 てるみちゃんはかわいい。

 頬を伝う涙。

 泣き出しそうな笑顔。


 なんだ?

 何が起きているんだ?

 考えることに拒絶反応を起こして、言葉がつながらない。


 あれ?どうしたんだろう?

 僕の視界まで涙でにじんできたぞ。

 瀬戸みさきを殺したのは私?

 瀬戸みさきを殺したのがてるみちゃん?


 え?ええー?

 なんだ?

 何の間違いだ。

 うん、聞き違いだ。

 そんなこと、あるわけないもんね。

 だって、てるみちゃんと僕は愛の力で結ばれているからね。

 愛の力は絶対なんだよね。


「え?ごめん。何か聞き違えたみたいだ。もう一度言って」


「気を使ってくれてありがとう。でも、もういいよ。紫音には全部分かっているんだよね。そう、瀬戸みさきさんを殺したのは私。私がみさきさんを殺しました」



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