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第39話 エリート刑事になったらモテモテでウハウハだって言ったやつ出て来い!(1)


 郊外のテーマパーク。

 日曜日だからか、たくさんの人で人でにぎわっていた。

 ファミリー、女の子同士、そしてカップル、カップル、カップル。


 いちゃいちゃしているカップルを見ると、拳銃などチラつかせて嫌がらせしたくなる(実際にしたこともあるような気がするのは気のせいだね。きっと、気のせい)僕だけど、今日は違うもんね。


 淡いベージュのコートに身を包んだてるみちゃんは、たくさんの人の中でもたった1人、別次元で輝いていた。

 かわいい。

 かわいすぎて言葉に出来ないほどに。


 混んでいて、乗り物は1時間待ちなど当たり前。

 でも、そんなことは全然苦にならなかった。

 僕にとってはその方が楽しかった。

 だって、並んでいる時間、僕たちはいろいろな話をした。いろいろな話が出来た。

 大学にいたあの頃の話、今の話、売店に売っているチュロスの種類と食べ方、テーマパークキャラクターの設定…。


 時間が文字通りにあっという間に過ぎていった。


「ねえ、どうして今日はデートにテーマパークを選んだの?」


「どうしてと言われても…。ただ、一緒に来たいと思ったから」


 一瞬、表情を変えて僕の目を見るてるみちゃん。


「映画。ゲームセンター。テーマパーク。水族館。ショッピングセンター…。女の子と一緒にデートで行きたかった場所。なぜだか分からないけど、ずっと前から行きたかった場所なんだよね」


 少し驚いたようにてるみちゃんは僕を見ていた。

 結構長い間、何も言わなかった。


「どうかした?何かおかしなことを言ったかな?」


「そんなことないよ。全然そんなことない」


 てるみちゃんは照れ隠しのように顔をそらした。

 でも、機嫌は悪くなさそうだった。


 だって、てるみちゃんはそのまま僕の手をとって、体を寄せるように歩き出しながらこう言ったのだから。


「ねえ、紫音」


「なに?」


「これからもずっと2人で、いろんなところに行けたらいいね」


 行けるよ。

 行こうよ。

 僕は毎週、いや毎日だって行けるよ。

 仕事?大丈夫、大丈夫。

 捜査二係には僕以外にも優秀な刑事さんがたくさんいるからね。


 あーあ、毎週デートに最適な場所で殺人事件が起こらないかな。

 僕はそんなことを考えていた。




 人気の絶叫マシン。

 当然のようにたくさんの人、人、人。


「やっぱり混んでいるね」


 僕の手を離さないままてるみちゃんが言う。


「そうだね。でも、全然気にならない。てるみちゃんと話していると、時間がたつのがあっという間だし」


 本音で答える僕。


「私も。そうだ、人混みのテーマパークで楽しくデートできるカップルは長く続くらしいよ」


「それ知ってる。待ち時間が長くて、それでも会話が続くのは相性がいいっていうことらしい」


「そうだね。だったら私たちも相性いいのかな」


 うん、うん。

 相性バッチリ。

 僕たちはどうして、もっと早くに出会わなかったんだろう?

 いや、出会っていたのに、どうして付き合っていなかったんだろう?


 係長と2人なら地獄のようなすさんだ時間が流れる、いや流れもしないでその場に延々ととどまるのに、てるみちゃんと2人なら、まるでタイムスリップでもしたみたいに時間が一気に飛んでいく。


 気がついたらもう夕方。

 本当に僕たちは、朝から一緒にいたんだろうか。


 雑談のネタには「し・た・し・き・な・か・に」。

 そんなこと一瞬たりとも思い出さなかったぞ。


 それでも話は尽きなかったし、退屈しない。

 やっぱりあの重い空気。

 悪いのは係長のほうだったんだな。

 少なくとも僕のせいじゃないよね。


「何を考えているの?」


 てるみちゃんが僕の顔を覗き込む。


「係長と一緒だと地獄のような重い空気で押しつぶされそうになるのに、どうしててるみちゃんとならこんなに楽しく時間がすごせるんだろうって?」


 素直に答える僕。


「仕事と一緒にしちゃだめだよ。でも、あの係長もいい人そうだけれどな」


「てるみちゃんは分かってないんだ。あの人はメデューサの生まれ変わりで、危うく僕は石にされて、窒息死しかけたんだから」


 係長と2人きりの車内。

 僕が話題に事欠いて「キリン」の話をしようとして、ガムテープで口をふさがれた話をすると、てるみちゃんは声を出して笑ってくれた。


「いやいや、笑い事じゃないんだから。もしもあのとき死んでいたら、あんな本を書いた作者を呪い殺してやるって誓ったね」


「そんな特殊な状況のせいで呪い殺されたら、作者も浮かばれないよ。そういえば事件はもう全部終わったの?」


「うーん。終わったような、終わっていないような…」


「なに?あいまいな答えだね。関係者はすべて逮捕されたんじゃないの?」


「覚せい剤に関わっていた暴力団とその関係者はすべて逮捕された。そうそう。その関係者に情報を流していたのは安藤だったよ」


「安藤って、バイト先にいた、か細い安藤君のこと?」


「そう。安藤が暴力団の手先で、矢崎やその他の情報を全部伝えていたんだ。だから矢崎もタイミングよく殺された」


「そうか…。恐いね。人は見かけによらないんだね」


 さすがに表情が暗く沈んだ様子のてるみちゃん。

 そこで僕は思い出した。

 てるみちゃんに聞いておかなければいけないこと。


「そうだ。てるみちゃんは矢崎から何か預かったりしていたものはないかな。キーホルダーか何かそのようなものだと思うんだけれど」


 少し考えてから、てるみちゃんは財布から、小さなメモリを取り出した。

 USBメモリ。

 金属製の頑丈そうなケースに入っている。


「やっぱり…」


 少しいじっていると、端子が出てきた。

 やはり矢崎は例のデータをてるみちゃんに渡していたのだ。


「矢崎がこれを預けたのはいつごろ?」


「うーん。2ヶ月ほど前。そのあとすぐに、彼は私に別れを切り出した…」


 思ったとおりだ。

 矢崎はやはり、てるみちゃんに例の顧客リストを預けていた。

 そして、てるみちゃんに別れを切り出し、組織からも抜けようとした。


 今なら僕には理由も分かる。

 矢崎の考えたことが全部分かる。


「それは何?事件に関係があるの?」


 まっすぐ目を見て聞いてくるてるみちゃん。

 全部話すべきかな?

 でも、話しても誰も得はしないよな。


 少なくとも、僕にとってはいいことはない。

 やっぱりやめておこう。

 大事なのは今。

 今この瞬間だよね。

 過去のことなんてきれいに忘れるほうが人間いいんだよ。


「事件の重要な資料なんだ。これ、預かってもいいかな」


 最低限の僕の答えに、無言で頷くてるみちゃん。

 これでいいよね。

 この件はこれでおしまい。


 辺りがだいぶ暗くなって、園内がライトアップされ始めていた。


「きれい…」


 つぶやいたてるみちゃんの言葉。

 僕も同じように光のショーに見とれていた。

 日常なんて、事件のことなんて、忘れてしまうような幻想的な世界。


「それでも事件が終わったような終わっていないような…というのはどうして?」


 てるみちゃんは、まだ事件の話を続けようとした。

 僕としてはこの雰囲気を利用して、もっと2人の距離を縮めるあまーい会話したいんだけれどな。


「覚せい剤組織と暴力団、それにまつわる事件はすべて解決したよ。路上で三上という男が殺された事件、矢崎が殺された事件。こっちはすべて解決した」


「こっちは…?ああ、それならみさきさんが殺された事件は?」


 そう。

 その事件がまだ僕の頭に残ったままだったのだ。


「みさきさんが殺された事件は、犯人がまだわかっていないのね」


「そう。暴力団もすべて知らないと言っている。安藤も知らないらしい」


「死んだ人を悪く言うのはいけないことだけれど。でも、矢崎さんが殺したということではないの?」


「うーん。そう考えるのが一番分かりやすいんだけれども…」


 確かに矢崎は殺人に使われたのと同じナイフとロープ、鉄アレイを持っていた。

 みさきは覚せい剤を求めて、矢崎に付きまとっていた。

 でも、それだけで矢崎が人を殺すとは思えない。


 危険を犯してまで、組織から足を洗おうとしていた矢崎。

 その時の彼が、殺人なんて犯すとは、僕にはとても思えない。


「それに矢崎さんにはアリバイがあったんだっけ。矢崎さんは事件の夜、私と新宿の焼肉屋さんにいたのよね」


「それだったら大丈夫。矢崎のアリバイに関しては、もう崩れているんだ。矢崎にみさきを殺すことは可能だった」


「えっ?」


 驚いたように、てるみちゃんが僕を見ていた。


あと6~7話程度で終わります(たぶん)。


もう少しだけ、お付き合いくださいませ。

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